質問主意書

第142回国会(常会)

質問主意書


質問第二八号

内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)問題等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十年六月十八日

加藤 修一   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)問題等に関する質問主意書

 昨年三月二十四日、参議院本会議において、私がコルボーン女史の「奪われし未来」に言及し、国会で初めて環境ホルモン問題の危険性に警鐘を発して以来、環境ホルモンという用語は市民権を獲得し、社会問題にまで発展した感がある。ここまで至ったのには、多くの専門家、市民運動家、NGO、マスコミ関係者、さらには行政担当者等の尽力によるものであることはいうまでもないが、しかし今後、具体的な対策を打ち出していくに際しては、いくつかの重要な課題が残されている。
 第一に、行政そのものに対しての不信感の蔓延である。
 環境ホルモン問題に対して現在の段階で可能な対策を講じようとする政府の姿勢は、これまでの公害問題の苦い経験を鑑みるに貴重な第一歩であると評価できる。しかし、昨年五月ブリュッセルで行われた地球環境国際議員連盟(GLOBE)第十二回総会の「内分泌撹乱化学物質(EDCs)に関する議会勧告」では、「十万種類もの商用合成化学物質に加えて、毎年市場に登場する一千もの新製品を適切に検査することは、不可能に近いことであると認識する」とされており、化学物質の管理については不確実性を大きく認めることが世界の潮流となっていることを示している。その意味で環境ホルモン問題の対策のためにはリスクマネージメントの手法が確立され、「予防原則」に則った施策がなされる必要があって、この度の平成十年度における一連の施策がその趣旨に沿ったものとなり、二十一世紀までの残りの数年間で、環境行政における予防原則の姿勢が確立されることを期待したい。
 それにもかかわらず、このように環境ホルモン問題について質問主意書を提出せざるを得ないのは、これまで国民との信頼関係を破壊してきた行政、なかんずく環境行政、厚生行政、通産行政に対して、私が必ずしも全幅の信頼を置くことが出来ないことによるものであり、非常に残念なことといわざるを得ない。
 第二に、対策に係るグランドデザインの構築である。
 橋本総理は本年二月二十日の参議院本会議において、ダイオキシン類の排出抑制、いわゆる環境ホルモン問題への対応など、人の健康と自然環境を脅かす新たな問題に精力的に取り組む旨答弁しており、総理自ら環境ホルモン問題等についての緊急な対策の必要性を認識していることを示された。しかし、設けられた予算措置が現実に実効性のあるものになるかどうかはこれからの政府の運用にかかっている。社会問題として発展しつつある環境ホルモン問題についての現段階の対策とは、課題を洗い出し、対策に係るグランドデザインを描くことにあるといえる。
 第三に、行政担当者のさらなる意識改革である。
 先日、ダイオキシン濃度測定にかかる報告に不正があったとの報道がなされたが、この事件は、行政を司るものもやはり人間であり、現場担当者の意識の高低によって同じ制度の下にあっても大きく対応が異なることを国民の眼前に示して見せたと言える。環境ホルモン問題対策の担当者が本件の重大性をどこまで認識しているかが非常に問題となるため、多くの行政担当者の意識変革が必要である。この点を踏まえると、制度の充実が必要なのは論を待たないが、現実に対策を講じる現場担当者に焦点をあて、その認識を更に深め、行動を促すことがこれまでにもまして必要である。
 以上のような観点から質問する。

一、予防原則の徹底

 本年一月二十三日に出された「エンドクリン問題等に関する質問に対する答弁書」(以下「エンドクリン答弁書」)において、「内分泌かく乱化学物質による人の健康や生態系への影響を未然に防止する観点から、必要な情報提供を含め、適切に対処」することを表明している。振り返ってこれまでの日本の公害行政は、原因物質と健康被害との因果関係が明らかにならない限り対策を講じないという、あたかも原因企業を擁護するかのような姿勢に終始してきた。翻って今日環境ホルモン問題は、これまでの公害問題と異なり、特定地域の住民のみが被害を被るというものではなく、生活全般にわたって浸透している化学物質の使用がもたらすものであり、かつ、その影響が世代を超えるといわれているため、被害が生じてからではその回復は非常に困難なものであることは明白である。以下、この観点から環境ホルモン対策に係る「予防原則」について質問する。

1、環境ホルモン問題に係る対応については、政府は「疑わしきは対処する」という「予防原則」を貫くことを再度確認するとともに、政府内でこの原則が徹底されるべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
2、関係各省庁において、「予防原則」「未然防止の観点」を具体的にどのような形で政策に反映させていくのか、環境庁、厚生省、通産省、農水省、建設省、科学技術庁、労働省等について、明確に示されたい。
3、昨年七月に公表した「外因性内分泌撹乱化学物質問題に関する研究班中間報告」(以下「環境庁中間報告」)において、これまでの内外の文献レビューにより内分泌撹乱作用を持つと疑われる物質六十七をリストアップし、さらに今後の研究の進展によりこうした疑惑物質は追加されていくものとしている。
 「未然防止の観点」といい「予防原則」といっても、現実の政策に反映されなければ絵に描いた餅にすぎず、行政がこの原則に基づいて対応しているのか否かは、主観的な判断に委ねられることとなってしまう。
 「予防原則」の実践として、環境庁が自らの掲げる「六十七物質」について、疑惑の段階から何らかの具体的対処をすることが、政府の「予防原則」徹底の姿勢を表明することとなる。少なくとも環境庁だけでも疑惑物質の減量プログラムを作成すべきであると思うが、政府の見解を示されたい。
 例えば、環境ホルモンと疑われている物質について、疑惑の段階であるが、「予防原則」の観点から、購入、使用を可能な限り差し控え、代替品を用いるべきである。とりわけ疑惑物質のリストを公表した環境庁が自らの所管する庁舎、地方事務所、さらには国立公園・国定公園等において、率先して「クリーン調達(環境ホルモン疑惑物質に汚染されていない物品の購入・使用)」を行うべきである。政府の積極的な答弁を求める。
4、厚生省は、遺伝子組み換え食品に係る表示について、消費者の選択にまかせるとの主旨から表示の義務づけの方向で厚生大臣が自ら指示を出していると聞く。遺伝子組み換え食品に関しても、人体への影響は確定されておらず、この段階で表示の義務づけの方向性を打ち出したことは、消費者に目を向けた政策として評価されるものである。
 ついては、人の健康に直接影響のある食生活の面において、環境ホルモン疑惑物質が含まれるかどうかについての表示を義務づけ、消費者の選択にまかせることが、自衛努力を補助するものとなり、結果的に「予防原則」に基づいた政策となるであろう。食品と容器包装に係る環境ホルモン疑惑物質含有の表示義務化を早急に検討し、積極的な対応をとるべきと考える。厚生省として表示の義務化を検討する予定はあるか、あるとしたらそのスケジュール、検討会名、検討会の構成メンバー、検討会の公開・非公開の別、議事録の公開の可能性を示されたい。また、検討する考えがないのであれば、その理由を示されたい。
5、欧米諸国が産業界に対して何らかの対応をするよう求めているが、我が国においてもこのような政治的決断が行われるべきである。政府として産業界に通達を出す等何らかの対応を求める予定があるか。なければ総理大臣以下、閣僚の政治的決断も踏まえて対応することが必要だと思われるが、政府の見解を示されたい。

二、子ども基準の採用

 昨年五月、米国マイアミで行われた先進八カ国環境サミットにおいて採択された「子どもの環境保健に関する八カ国の環境リーダーの宣言書(一九九七)」には、「我々は研究活動の国際的なインベントリーの取りまとめの絶え間ない努力、科学的な知見の状況についての国際的な評価の伸展(中略)、必要な研究の取りまとめの協力や協調の機構の発展を鼓舞する」とある。この宣言について政府として「どのように受けとめ、具体的にはどのようなかたちで政策に反映していくのか」との私の質問に対し、「政府全体としても、内分泌かく乱化学物質による人の健康や生態系への影響を未然に防止する観点から、必要な情報提供を含め、適切に対処」する旨答弁している(エンドクリン答弁書)。この議論をふまえて更に環境ホルモンの子ども基準について以下の三点を質問する。

1、同宣言では、環境ホルモンの子どもの健康への差し迫った脅威についてのさまざまな取り組みについて、国際政府間フォーラム(IFCS)や、国連環境計画(UNEP)等の機関を通じたフォーラムにおいて議論を進めるべきである、としている。ついてはダイオキシンも含めた環境ホルモンの乳幼児用の基準値に関する国際動向について、本主意書提出日現在で政府の把握している情報を示されたい。また、それ以降に把握した情報はあるか。併せて示されたい。
2、本年五月十九日に発表された公明の「ダイオキシン汚染対策に関する緊急提言」において、耐容一日摂取量について成人のみに限らず、乳幼児についても基準を設定する、ことを提言しているが、この点についての政府の見解を示されたい。
3、農薬として使用されている化学物質のなかに、環境ホルモンと疑われている物質があり、健康で安全な食生活を望む多くの消費者から、問い合わせの声が各地の自治体、厚生省等に集まっていると聞く。とりわけ、国の未来を担う児童たちの給食に関しては、可能な限りの対策を講じてしかるべきである。
 学校給食の食材に関しては、各自治体の対応に任されており、国としては食品衛生法の範囲内であればどのような食材を選ぶべきかなどの指針は出していない。そのため、各自治体では独自の「学校給食物資取扱要綱」を制定し、登録業者、見積合せ、契約、注文及び納品、請求、衛生管理、立入検査、罰則等についての規定を有している。
 その中でも当方独自の調査によれば、給食に係る食材の納品時に「学校給食物資納入規格カード」を提出させ、物資の流通経路や産地を特定できるようにする対応をしている自治体がある。当該自治体によれば、これはO-一五七による食中毒事件の際、原因となった物資の産地を特定しやすくするための対策であったとのことであるが、環境ホルモン問題に限らず、食品の安全性を確保するためには大変に示唆に富む制度である。
 即ち、学校給食に係る食材の流通経路を完全に把握し、その食材が生産から流通過程を経て児童の給食として配膳されるまで、環境ホルモン疑惑物質にどのように暴露されているかが追跡できるシステム、「食糧版マニフェスト制度」ともいうべきものを構築していく必要がある。ここにおいて、いつ、どこで、だれが、どのようにその食材を生産し、加工したか、顔の見える給食制度を確立することが、児童生徒の健康で安全な食生活を保障し、環境ホルモンに関する新しい情報に柔軟かつ的確に対応することができることとなる。
 このような「顔の見える給食」制度を確立することに関しての政府の見解を示されたい。このような生産、流通制度の確立を検討する予定はあるか。予定があるならばそのスケジュールを示されたい。
4、学校給食の食材に関し、「未然防止の観点」「予防原則」に則って対応をとるならば、有機栽培・低農薬野菜等の供給システムの整備をすべきと思われるが、政府の対応を示されたい。学校給食の食材は各自治体が責任を持って選択すべきことではあるが、せめて疑惑物質リストに掲載されている農薬を使用した食材は好ましくない旨の指導をすべきである。政府の見解を示されたい。併せてこの点についての今後の予定を示されたい。

三、専門機関の設置

 エンドクリン答弁書においては「これらの五省庁においては、エンドクリン問題に関する情報交換を行っているほか、平成十年度においては、エンドクリン問題について関係省庁の国立研究機関等が連携しつつ調査研究を行うことを検討しており、今後とも関係省庁の連携を図ってまいりたい。」としているが、各省庁の連携を強化することのみでは、計上された予算の効率的な使用が可能とは思われない。総理自らも本年三月二十六日の予算委員会での審議の席上、環境ホルモン問題対策に関して「それぞれの切り口からの今の行政組織の中で(中略)どこかに集めてという仕組みに残念ながら研究機関におきましても、大学の研究体制にいたしましてもなっておりません。そして、プロジェクト方式をとるにしてもどこをメーンにするか必ずしも明らかではない部分もあります」とその課題を認めている。以下、この点に関し質問する。

1、環境ホルモンの審議はこれまで幾たびかなされてきたが、その度に各省庁は「知見の集積に努めていく」という答弁を繰り返している。また、関係省庁で情報交換をしているというが、例えばある省庁の担当者が当該分野における最新論文をインターネット等で見つけた際、その論文の出所、内容、当該論文の意義などについてタイムリーに議論し、情報交換する場・機会はあるのか。もしくはお互いに常時連絡を取り合っているという状況はあるのか。また、検討会メンバーなどに一様に情報を伝えることはあるのか。
2、環境ホルモン問題に関しては世論の盛り上がりがあり、この一年間でかなりの国内対応が進んでいると認識している。しかしその反面、問題が生じ関連する報道がある度に各省庁の担当者に問い合わせが殺到し、現場レベルで機能不全が生じているとも聞く。環境ホルモンの総合窓口として、「環境ホルモン問題対策本部」を内閣に設置するのは如何か。将来的には専門機関にまで発展させることを視野に入れながら、当面は情報収集、情報発信のセンターとして機能させ、情報担当専門官を付け、自治体対応、プレス対応、市民対応、インターネットへの情報発信等を行うこととするのはどうか。行政においては人材と情報が財産であり、いかにしたら効率的に機能するか、真摯に対策をとるべきである。政府の積極的な答弁を求める。
3、環境ホルモン問題の対策については、専門機関を設置して統合的に施策を講じる必要がある。各省庁の連携強化がいかなる制度的担保の下にあるのか。政府の認識を問う。
4、環境庁は「外因性内分泌撹乱化学物質問題への環境庁の対応方針について-環境ホルモン戦略計画SPEED-」を作成し、環境ホルモン問題に対する今後の「対応方針」を明らかにしている。この内容は網羅的かつ先駆的であり、当問題に対する環境庁の今後の方向性が明確に示されているため、本件に関する予算計上がいかに体系的措置の一貫として行われたものであるかが示されるものとなっている。翻って環境ホルモン問題の対策はひとり環境庁のみでなく、関係各省庁にまたがった対応が必要とされる分野であり、各省庁は平成十年度の当初予算、補正予算でかなりの関連費用を計上しているが、決して場当たり的対応におちいることなく、実効性のある対策を着実に進めるものでなくてはならない。この際、各省庁においても今後の対応方針を明確にすべく、各省庁版SPEEDを作成してはどうか。国民の間に広がる環境ホルモン問題の影響を考えると、各省庁の対応に任されるべきものではなく、各省庁が対応方針を作成することを政府全体の意思とすべきである。更にその対応方針は、今後の調査・研究の進展等によって新たな知見が得られた場合には、随時必要な見直しがなされる性格のものとすべきである。
 政府は今後このような対応方針を各省庁毎に作成する予定はあるか。あるとすれば作成期限はいつまでか。対応方針が作成された際には、必要な見直しを適宜速やかに行うことを打ち出す予定はあるか政府の積極的な答弁を求める。

四、環境ホルモン対策に関する情報の原則公開について

 環境ホルモンに関連して、様々な方と意見交換する機会をもつが、とりわけ民間企業の方は情報公開に関して極めてセンシティブな感覚を抱いている。というのは公開した情報を元に市民が過剰反応し、企業が大きな影響を被るのを心配してのことである。しかし、市民が「情報を見る眼」を養い、客観的・科学的分析に冷静に耳を傾けながら、自らの行動を判断していくという、成熟した社会に移行する過程において、市民に情報のシャワーを浴びせることも必要となると思われる。
 このような、一人ひとりの市民が個々の情報に過敏になりすぎることなく行動する市民社会を目指すためにも、様々な社会的経験を経るべく、環境ホルモン問題に関しては行政が主導となって情報開示の姿勢を断固として貫くべきである。このような観点から以下質問する。

1、環境ホルモン問題の対応は高度に専門的な科学的論議が必要とされるが、そうであればこそ議論は市民に公開されなければならない。科学的議論のみが一人歩きし、目的である人間を忘れるに至った痛ましい歴史を、わが国は公害問題の悲劇として十分に経験してきたはずである。
 その意味からも環境ホルモンに関する検討会、審議会、研究班等は原則公開にすべきである(これについて参考になるのが、食品衛生調査会での審議である。議論を公開にすることにより委員の自由な発言が制限され、公正かつ中立な審議に著しい支障を及ぼす恐れのある場合には、委員長が会議を非公開とする決定が出来るという例外はあるものの、原則的には全面公開であり、委員の氏名、職業、会議の議事録、会議提出資料、報告書などが公開されている)。
 もう一面の見方をするならば、国民の税金を元に開かれた会議に関して、国民に公開されるのはごく当たり前のことであるとも言える。
 これらの点に鑑み、今後環境ホルモンに係る検討会等については、食品衛生調査会等を範として、原則公開の下に行うことが必要である。今後、検討会等の審議について、公開の原則を採用する予定があるか、ないか、もしぐは検討中であるかを示されたい。また、検討中であるならば、その検討はどこで行われているのか、検討メンバーの氏名、肩書き、予定される公開の範囲、検討結果が出される予定のスケジュールを示されたい。
2、環境ホルモン問題に係る対策は各省庁にまたがる総合的なものであり、縦割りの行政構造になじみにくい問題であることは明らかである。この点に関し、省庁間での情報の共有が円滑に行くように、関係閣僚の名で、各自の所有(所管)情報を出し渋らない旨の「申し合わせ」を行うべきである。環境ホルモン問題のような総合的な対策が必要とされる際に、関係各省庁が一 つの方針に基づき協力体制を構築することが出来れば、日本の行政史上大きなターニングポイントとなることが出来よう。総理のイニシアティブを期待したい。政府の決意を示されたい。
3、PRTR(環境汚染物質排出・移動登録)制度の検討が通産省、環境庁の両省庁で独自に行われているようであるが、営利を主たる目的とした民間企業の自主的な情報公開を待つことなく、政府が一丸となって企業の情報公開を推し進めるべく、環境整備を行うことが必要である。政府の長期的展望に立った賢明な対応を望む。両省庁の取り組みについて、検討会メンバーの氏名、職業、これまでの検討会の開催日時、毎回の検討項目、検討会の議事録の公開・非公開の別、次回の検討会の開催予定及び検討項目をそれぞれ示されたい。

五、ポリカーボネート(PC)製食器の使用についてPCについて

 地方自治体で独自の対応がなされている。例えば東京都三鷹市では市立保育園で使用していたPC製食器を五月中に強化陶磁器に切り替えており、また神奈川県相模原市では、PC製食器を全てポリプロピレン(PP)製のものなどに切り替えている。将来世代にわたる影響が懸念されている環境ホルモン問題の対策については、「疑わしきは対処する」という「予防原則」を採用すべきであり、PC製食器についても、安全性が確認されるまでは使用を自粛すべきである。この観点から質問する。

1、人の健康に直接関係する国立病院、公立病院、大学病院、とりわけ産婦人科、小児科を持つ病院の給食器の材質について至急実態調査し、調査に基づき順次適切な措置をとるべきである。また、調査の結果は早急に全面公開すべきであり、「『国民の生命と健康的な生活を守る』という観点から、必要かつ適切」に開示するとしたエンドクリン答弁書の実効性が問われている。政府は実態調査を行う予定があるか。あるとすればいつ、どのような調査項目で行う予定であるか、また、対象となるのはどのような機関であるか、調査結果は全面公開する予定があるか、調査の方法はどのようなものかを明らかにされたい。
2、現在、厚生省管轄の庁舎(合同庁舎三号)、寮、地方事務所などの施設におけるPC製食器の使用状況を把握しているか。また、把握していなければ、速やかに実態調査を行い、適切な対応をとるべきである。政府の見解を示されたい。

六、能勢町のダイオキシン濃度の不正測定事件について

1、この度豊能郡美化センター周辺土壌等から、高濃度のダイオキシンが測定され、土壌の汚染が報告された。原因は何であると考えるか。政府の見解を示されたい。また、見解が出せないとしたら、その合理的な理由も示されたい。
2、昨年六月十七日提出の「ゴミ焼却処分に伴うダイオキシン類の発生防止対策等に関する質問主意書」(以下「ダイオキシン質問主意書」)において平成八年七月に行われた「ダイオキシン類の排出実態等の総点検」における不正測定について政府の認識を質したが、不正の事実が判明した場合「都道府県を通じて事実関係を確認するとともに、当該市町村に対して再度測定を求める等適切な措置を講じてきたところである」との答弁を行っている。この答弁によれば、この度の能勢町のダイオキシン濃度不正計測は、厚生省の通達が徹底していないということを示すものである。政府の責任があらためて問われることとなる。政府の見解を示されたい。
3、この度の事件が示しているように、測定の精度を確保するために何らかの手だてを講ずる必要があり、厚生省としては、ダイオキシンそのものを測定するほかに、燃焼温度を連続測定したデータ等を参考にすることで補完出来ると聞いている。このような手だてとして、焼却炉等の施設に対し複数の検査機関が当該焼却炉等の検査を同時に行うクロスチェックの方法により、検査の精度を向上させ、検査費用を適正な水準に保つことが可能となる。全ての検査をクロスチェックするのは不可能としても、代表的な施設、もしくはランダムに抽出したサンプルについて、クロスチェックを実行すべきである。政府の見解を示されたい。

七、ダイオキシンに係る新利根町周辺住民の血液検査について

1、当問題に対して厚生省の見解を質した際、厚生省としては六月十一日の時点で見解が出せないとの回答を受けた。国民の健康が害されているかもしれないという情報に対して、政府として責任ある見解を表明すべきではないのか。本質問主意書を提出した時点で、厚生省は当計測結果について何らかの見解を示すことが出来るのか。当計測結果の原因は何であるか、周辺住民の健康への差し迫った影響はあるのか、当該焼却炉は何らかの改修を行うべきではないのかについて政府としての見解を示されたい。示すことが出来なければいつの時点までに見解を示すことが可能であるのか、タイムスケジュールを示すとともに、なぜそれだけの期間が必要であるのか合理的な説明をされたい。また、見解を示すことが出来ないのであれば、その合理的な理由を説明されたい。
2、血液中のダイオキシン濃度の測定方法は確立されていないと聞いているが、早急に測定方法を確立し、ガイドラインとした後、公表すべきである。血液中のダイオキシン濃度測定方法確立についての予算措置はあるか、その予算の名称、額、概要、研究機関名、研究結果の報告方法などを示されたい。とりわけ研究結果については、フルレポートを完全公開すべきである。政府の見解を示されたい。
3、当問題は特定地域の調査結果ではあるが、全国にある焼却炉の周辺住民は当問題の報道以来、非常に不安を抱いている。一方で焼却炉周辺住民の血液中のダイオキシン濃度に関することは、厚生省というよりは地方自治体独自の問題であるとの見解も聞いている。しかし、ごみ処理において焼却処理を推進してきた厚生省としても一定の責任が問われるところであり、厚生省の指導の下に全国調査をするべきである。厚生省の責任ある見解を示されたい。
4、昨年十一月十九日の環境特別委員会での審議において、血液や髪の毛などの疫学調査を総合的に行うよう指摘がなされている。改めて政府の見解を質したい。

八、コプラナーPCBの調査について

 ダイオキシン類にコプラナーPCBを含めて計測し、対策を講ずるべきだというのが公明の一貫した主張であった。例えば、ダイオキシン質問主意書においてもダイオキシン類としてコプラナーPCBを含めて扱っており、本年五月二十八日発表の「環境ホルモン対策に関する緊急提言」においても「コプラナーPCB、臭素系ダイオキシンの規制強化」を謳っている。
 これに対して昨年五月に提出された環境庁の「ダイオキシンリスク評価検討会報告書」では、コプラナーPCB等の環境濃度等のデータが不足していることなどを理由に、調査対象となるダイオキシン類には含めないとしてきた。
 ところが本年五月末日に開催された「WHO/IPCSによるダイオキシン類の健康リスク評価及び耐容一日摂取量(TDI)の見直しに関する専門家会議」においてTDIの評価対象となるダイオキシン類にコプラナーPCBも含めることが明らかになった。これに関して質問する。

1、私も本年三月二十六日の予算委員会での審議において、一刻も早くコプラナーPCBをダイオキシン類の計測対象にすることを要求しており、厚生省の対応が遅かったのではないかと疑問が残る。TDIに含めるかどうかの議論を待たねばならなかったとしても、せめてコプラナーPCBの計測だけは行っておくべきではなかったかと思うが、政府の見解を示されたい。
2、WHO等のTDIに関する対応の変化に応じて、政府はどのように対応したのか。対応の変化があったなら、WHOの決定を受けてこれまでの方針を変えたのか。方針を変えた理由について、その判断根拠とした科学的知見の概要を示し、経過を明確に説明されたい。

九、臭素系ダイオキシンにかかる実態調査について

1、現在ダイオキシン類といえば一般的に塩素系ダイオキシン類を指す。しかし、学術的観点からすると臭素系ダイオキシン類もダイオキシンと同様の評価を行ってしかるべきと考えられる。今になってコプラナーPCBに関するデータの蓄積がなく、早急な対応がとれずにいる現状に鑑み、臭素系ダイオキシンについても、WHO等の国際機関の対応を待たずにダイオキシン類に含めて考え、対策を講ずるべき対象物質に含めるべきである。それが生命を守る厚生省、環境を守る環境庁の責任であり、総じては政府の責任である。国際比較が可能なように、臭素系ダイオキシン類を含めた数値と、含めない数値を同時に採集するなど、柔軟に対応していくべきである。政府の積極的な答弁を求める。
2、臭素系ダイオキシンに関しては本年三月二十六日の予算委員会においてもドイツの規制の状況を指摘し、情報の公表、開示を求めている。さらに四月七日の経済・産業委員会における通産大臣の答弁には臭素系ダイオキシンに関して「今科学的知見の収集というものに努めている」としている。
 政府は臭素系ダイオキシン対策についての海外の状況をどの程度把握しているのか。把握しているものがあるとしたら、その情報はどこに開示しているのか。検討会資料として使用しているか、その検討会資料は公開されているのか。もしくは、ホームページに載せているのか。その他これ以外に開示しているのであれば、その方法と内容を示されたい。
3、四月七日の審議において、臭素系ダイオキシンの調査について通産省は「関係省庁とも十分連携をしながら今後検討してまいりたい」としているが、平成十年度当初予算及び補正予算においては臭素系ダイオキシン調査についてどれだけの対策費を計上しているのか。予算の名称、額、概要、調査機関・研究機関などを示されたい。また、予算の額は昨年度に比較していかほど増加しているか。さらに、臭素系ダイオキシン発生に係るハロゲン系原材料の生産量、主に使用される製品などを物質の種類毎に示されたい。

十、農薬の残留分析調査の徹底

 食品に残留する農薬の実態については、東京都衛生研究所が行った調査の結果、残留基準を超える量の農薬が残留していることが報告されている(東京都衛生研究所「野菜・果実類中の残留農薬実態調査」一九八八年)。この調査に関しては、さまざまな評価があるがとりわけ残留農薬中にヘキサクロロベンゼン、エンドスルファン、マラチオン、ビンクロゾリンなどの環境ホルモン疑惑物質が含まれており、現状について懸念される。
 さらに、ポストハーベスト(収穫後の作物に使用する化学物質)の問題も指摘されて久しいが、アメリカなどでポストハーベストとして使用されている化学物質の中に環境ホルモン疑惑物質のメトキシクロールが含まれていることにも非常な危機感を覚える。
 これらの点について、以下質問する。

1、残留農薬に関する実態調査を農水省は行っているのか。行っているとすれば、その時期、調査実施機関、サンプル対象食品名、調査対象農薬の種類、その結果、結果を踏まえて講じた措置等について示されたい。また、行っていないとすれば、今後行う予定はあるか。予定される内容を上記と同様の項目について示されたい。
2、農薬の最大無作用量、ADI、登録留保基準、その他農薬の使用に係る安全基準についてそれぞれどの機関、部局がどのような手続きによって設定しているのか。
3、この度の環境ホルモン問題を受けて、農薬の毒性評価の見直しを行っているか、もしくは行う予定があるか。見直しを行う機関名、構成メンバー氏名、肩書き、対象農薬物質名、見直しを検討する際の議論に係る公開・非公開の別等をそれぞれ示されたい。また、見直しを行う予定がないとすると、環境ホルモン問題の社会的広がりを考えるならば至急検討すべきである。政府の積極的な答弁を求める。
4、ポストハーベストの残留基準について、現在何らかの検討がなされているのか。なされているならば、その検討機関、構成メンバー氏名、肩書き、検討内容、検討会の開催日時、対象となる化学物質の種類等について示されたい。
5、残留農薬に係る基準について、環境ホルモンの観点から早急に見直しを行い、それを超えるものは登録留保の措置や輸入対象農産品から除外するなどの措置を講じ、国民の健康で安全な食生活を保証すべく対応すべきである。政府の見解を示されたい。

十一、環境ホルモンに係る有機食品の影響について

 農水省はこれまで、有機食品に関する基準が曖昧であったため、有機食品そのものを評価してこなかった経緯がある。しかし、消費者のニーズに押されるかたちで有機農業に関する検討を始め、アンケート調査の実施、有機農業対策室・検討会等の設置などを行ってきた。
 この点をふまえて以下質問する。

1、有機農業に関し、政府の認識を示されたい。とりわけ「有機農業」「有機栽培」の定義について、検討過程での議論の推移を含めて示されたい。
2、この度の環境ホルモン問題を受けて、無農薬食品、低農薬食品、有機食品等について何らかの検討がなされているか。検討を行う機関名、構成メンバー氏名、肩書き、対象食品名、検討する際の議論に係る公開・非公開の別等をそれぞれ示されたい。また、検討する予定がないとすると、環境ホルモン問題の社会的広がりを考えるならば至急検討すべきである。政府の積極的な答弁を求める。
3、有機食品を食べている人とそうでない人との精子数に、有為な差が認められるとの報告がある。政府は有機食品に係る調査で、これに類する調査結果を持っているか。持っているのであればそれを示されたい。また持っていなければ、実態調査を行いデータを公表すべきと思われるが如何か。

  右質問する。