質問主意書

第142回国会(常会)

質問主意書


質問第二六号

市民的及び政治的権利に関する国際規約第四十条一項(b)に基づく日本国政府第四回報告書における在日韓国・朝鮮人問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十年六月十七日

竹村 泰子   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   市民的及び政治的権利に関する国際規約第四十条一項(b)に基づく日本国政府第四回報告書における在日韓国・朝鮮人問題に関する質問主意書

 日本国政府が昨年六月、国際連合に提出した市民的及び政治的権利に関する国際規約 (昭和五十四年条約第七号、以下「規約」という)第四十条一項(b)に基づく第四回報告書は、規約第二十八条に基づき設置された規約人権委員会(Human Rights Committee)の第六十四会期(本年十月十九日~十一月六日)で審議される予定である。
 規約人権委員会は一九九二年の第四十四会期一一二三会合で、各締約国政府の報告書審議の終了後、委員会全体の意見を反映した「意見」(Comment)を採択することを決定し(UN Doc. CCPR/C/79)、締約国に対し、次回報告書においてこれら意見に関してとった措置について報告するよう求めている。
 また規約人権委員会は「規約が定める諸権利を保障する締約国義務の実施」や「各条項の内容や適用に関する問題」についての委員会の意見を示すため、一九八一年以来、人民の自決権、生命に対する権利、非差別、思想、良心及び宗教の自由など、二十五にのぼる一般的意見(General Comments)を採択してきた。「政府報告書の形式と内容に関するガイドライン」(UN doc. A/36/40ANNEX VI)は、国連に提出する政府報告書は一般的意見を考慮に入れて作成するよう求めている。
 しかしながら、日本国政府の第四回報告書には、規約人権委員会が日本国政府第三回報告書の審議を終え
た後の一九九三年十一月四日に採択した意見(Comments, UN doc. CCPR/C/79/Add. 28)に関してとった措置や、これまで同委員会が採択してきた一般的意見に照らした記述が十分になされていない。以下、特に在日韓国・朝鮮人問題について質問する。

一、日本国政府は一九八一年の第一回報告書審議の際、在日韓国・朝鮮人は「外国人であって、日本国籍を有するものではない」から「第二十七条にいうマイノリティの範疇に入らないと思われる」と表明し(CCPR/C/SR. 324)、その後も同条の権利対象と認めてこなかった。これに対し、規約人権委員会は前述の意見(Comments, UNdoc. CCPR/C/79/Add. 28)の中で「主要な懸念事項」として「日本国政府によるマイノリティの概念が、在日韓国・朝鮮人を排除していることについて懸念を抱いている。規約はマイノリティの概念を当該国の国籍所有者に限定してはおらず、この点は規約上正当化されるものではない」と明記した。同委員会はさらに一九九四年四月六日に採択した一般的意見二十三(General Comment 23, UN doc. CCPR/C/21/Rev. 1/Add. 5)で、第二十七条のマイノリティは、「保護の対象となる個人は当該国家の市民である必要はない」こと、「国民、市民であることを必要とされないように、永住者であることも必要とされない」ことを明記している。
 今回の日本国政府第四回報告書は、この規約人権委員会の意見や一般的意見二十三について何も言及していない。したがって日本国政府は追加報告書を書くか、或は第四回報告書の審議の際にこの問題に関する意見を表明しなければならないと思うが、その際、この問題についてどのような認識を持って審議に臨まれるのか、明らかにされたい。

二、日本国政府は第四回報告書の中で、日本国籍を持たない在日韓国・朝鮮人の状況について、第二条の下で「外国人問題」のひとつとして報告しているが、帰化または父母の一方が日本国籍者であることから日本国籍もしくは二重国籍を持つに至っている推定四十万人以上の韓・朝鮮民族や、これらの人々と日本民族との間に出生した子どもについては、何の言及もされていない。日本国政府は、これらの人々は第二十七条にいうマイノリティには当たらないと考えているのか、明らかにされたい。

三、日本国政府は一九九四年三月二十九日の内閣参質一二九第二号で、「B規約は、すべての者に思想、良心、宗教の自由及び表現の自由を認めているが、B規約第二十七条は、特に、種族的、宗教的又は言語的少数民族に属する者が、自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を有していることを確認的に規定したものと解される」とし、また「同条における締約国の義務は、同条にいう権利を否定しないことであって、同条は、少数民族に対する積極的な諸施策を講ずることまで義務付けているものではない」としている。
 しかし一般的意見二十三は、前者については「同条はマイノリティ集団に属する個人に付与される権利であり、すでに規約によりすべての者に共通に個人として享受することが認められている他のいかなる権利とも区別され、またこれらに付加された権利を確立し認めるものである」、規約第二十七条の権利は「それ自体として保護され、規約にもとづいてすべての者が享受する他の個人的権利と混同すべきではない」とし、後者については「締約国は当該権利の存在と行使を、その否定と侵害から保護することを確保する義務を負う」、「立法、司法または行政当局を通じた締約国自身の行為から保護するのみならず、締約国内にある他の人々の行為からも保護するための積極的手段を講じることを要求される」、「マイノリティのアイデンティティを保護し、またその構成員が、その集団の他の構成員とともに、自己の文化や言語を享受しかつ発展させ、自己の宗教を実践する権利を保護するための締約国による積極的措置も必要である」とするなど異なる見解を示している。日本国政府は一般的意見二十三に鑑み、現在はどのような見解を有しているか明らかにされたい。

四、規約人権委員会は前述の意見(Comments, UN doc. CCPR/C/79/Add. 28)の「主要な懸念事項」の中で、「旧日本軍に従軍した韓国・朝鮮及び台湾出身者で、もはや日本国籍を有していない者が年金において差別されている」ことを指摘した。この規約人権委員会からの課題についても、日本国政府第四回報告書は何も答えていない。この点についても、追加報告するか、或は審議の中で説明しなければならないと考えるが、どのように報告されるのか。

五、日本国政府は第四回報告書の中で、人権擁護機関による人権保障について報告しているが、外国人に対する差別・人権侵害に関する通報、調査、救済はどの程度有効に働いているのか、法務省人権擁護局、外国人人権相談所、地方法務局、人権擁護委員などの人権擁護機関が扱った外国人事例について最近五ヶ年の件数を示すとともに、これらの機関において今後どのように施策を推進されるのか明らかにされたい。また日本国政府は民間ボランティアである人権擁護委員に、在日韓国・朝鮮人をはじめとする在日外国人を採用することを禁止しているが、これは規約第二条が禁じる法の下の平等に反しないのか、日本国政府の考えを明らかにされたい。

六、一般的意見二十五(一九九六年七月十二日採択)は、規約第二十五条について「締約国の報告には、第二十五条により保障された権利に関わる市民を定義する法律上の規定の概要が示されるべきである」、「永住者など、何らかの集団が、地方選挙権を有し、又は特定の公務員の職につく権利を有しているなど、限定的な形でこれらの権利を享受しているかどうかを示すべきである」と記している。日本国政府第四回報告書はこの点を全く記していない。現在、日本の地方公共団体で全職員何人中、外国籍職員が何人いるのか、実数を示すとともに、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。