質問主意書

第142回国会(常会)

質問主意書


質問第一九号

浜岡原子力発電所等の耐震安全性に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十年六月一日

山口 哲夫   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   浜岡原子力発電所等の耐震安全性に関する質問主意書

 阪神・淡路大震災後、原子力発電所の耐震安全性は国民にとって最大の関心事であり、その安全性は絶対的に保障されなければならない。特に、浜岡原子力発電所四基は、切迫しているといわれる想定東海地震の真ん中に位置し、最も憂慮される。原子力発電所の耐震設計審査指針はほとんど一九七八年に作成されたままであるが、日進月歩の科学技術によって、地震学の分野においてもさまざまな新しい知見が明らかになっている。最新の地震学の知見によって一刻も早く耐震設計審査指針の見直しを行い、それによって既存の原子力発電所の耐震安全性を再点検し、最善の措置を取らなければ、原発震災を未然に防ぐことはできないと確信し、以下の質問をする。

一 多重震源について

 想定東海地震は複雑なプレート境界型の巨大地震であり、多重震源地震となる。浜岡原子力発電所にとっては直下の浅発逆断層地震となり、強い短周期強振動を受ける。だが、地下の断層面の構造は未だ不明であり、原子力発電所のような剛構造に与える短周期振動による共振動を予測することは非常に難しい。また、想定東海地震は震源断層面が非常に広大なので振動の継続時間が長い。原子力発電所で進行性破壊が起これば、長周期地震動の影響も大きくなる。浜岡原子力発電所はそのような地震動を評価した耐震設計がなされておらず、想定東海地震によって破壊する恐れがあると考えるがどうか。

二 覆瓦断層(枝分かれ断層)について

 想定東海地震のようなプレート境界主断層面の深部から始まった巨大地震の震源破壊は、付加体中のやや陸寄りの覆瓦断層(枝分かれ断層)に抜けていき、海側から陸側に重なった覆瓦断層が何枚もずれたり、トラフ軸に平行な方向に雁行しているものがジグザグにずれたりすることが、これまでの研究でわかっている。また、巨大地震の震源破壊の一部としてずれ動くほかに、覆瓦断層だけが単独で大余震を起こすことも予測される。
 浜岡原子力発電所敷地内には、四本のH断層系が存在しているが、それらが覆瓦断層として活動する可能性についてはまったく評価されていない。駿河湾西岸から遠州灘沿岸の陸地も比較的最近の地質時代の付加体であり、想定東海地震が起これば、沿岸の海陸で覆瓦断層が活動し、浜岡周辺にとっては激しい直下地震となり、局地的にはプレート境界主断層面よりも激しい地震動や地盤の隆起をもたらして、浜岡原子力発電所が破壊する恐れがあると考えるがどうか。

三 津波について津波について

 平成九年五月三〇日付内閣参質一四〇第三号(以下「答弁書第三号」という。)により、「浜岡原子力発電所においては、過去に敷地に影響を及ぼしたと考えられる津波に関し、地震の大きさ、震源の場所に関する文献調査結果等を基に津波の断層モデルを設定し、文献調査及び事業者の調査結果に基づく海底地形をモデル化するとともに、地形等を勘案した適切な境界条件を設定した上でシミュレーションを行い、津波の高さを評価している。したがって、浜岡原子力発電所の敷地における津波に対する安全性は十分確保されている」との答弁があった。しかし、過去四回の四国沖南海地震や北海道南西沖地震等の津波のデータは、津波の高さを事前に予測し評価することは不可能であることを示している。浜岡原子力発電所が津波に対して「地盤高さ六メートルで大丈夫」(科学技術庁)かどうかは、実際に津波が起きてみないと分からないと考えるがどうか。

四 破綻した金井式について金井式について

 答弁書第三号により、「金井式は、地震工学の分野において一般にその妥当性が十分認められており、今日においてもなお広く使用されている経験式である」との答弁があった。しかし、過去の主な被害地震のデータは震源の深さとマグニチュードの関係(飯田の式)がまったくなく、地震の揺れも震源距離に相関していない。金井式には科学的な根拠がなく、同式によって耐震設計された浜岡原子力発電所の耐震安全性は保証されないことになると考えるがどうか。

五 松田の式について

 浜岡原子力発電所で行った活断層の評価は、松田の式によっている。しかし、実際の地震では断層の長さとマグニチュードの関係は非常に大きくばらついており、一つの数式で表すことは不可能であることを示している。したがって、松田の式によって耐震設計された浜岡原子力発電所の耐震安全性は保証されないことになると考えるがどうか。

六 想定直下地震をマグニチュード六・五とすることについて

 活断層がないと断定することの困難性について、答弁書第三号により、「浜岡原子力発電所においては、詳細に文献を調査した上で空中写真判読によるリニアメント調査、ボーリング調査及び試掘坑調査等を行ったが活断層を示唆する痕跡が何ら認められないことから、その敷地直下には、原子力発電所の安全性に影響を与えるような内陸型の活断層はないものと認識している」との答弁があった。しかし、地震とは地下深くに存在する震源断層面に沿うズレ破壊であり、そのズレが地表に現れた場合に地表地震断層が出来る。繰り返して地表地震断層が現れ、浸食されないで累積していったものは活断層と判断できるが、震源断層面のズレ破壊が地表に現れない場合や、現れても浸食されて消えていくなどして、累積しなかった場合には、地表の調査だけでは活断層があるかどうか分からない。浜岡原子力発電所で行ったボーリング調査は、最深で一・二号炉で二五メートル、三・四号炉で三〇〇メートルに過ぎない。一九九三年の釧路沖地震のようなスラブ内巨大地震が直下地震として地上に被害を及ぼすことは、これまでまったく想定されておらず、地下の数十キロから数百キロもの深さに存在するスラブ内巨大地震の震源断層を調査することも不可能である。
 また、「浜岡原子力発電所についても、発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針に基づき、マグニチュード六・五の直下地震を考慮した耐震設計を行って万全を期している」との答弁があったが、政府の地震調査研究推進本部地震調査委員会委員であり、日本の活断層研究の第一人者である松田時彦氏は「原子力発電所の直下地震の想定をマグニチュード六・五にした科学的な根拠はない。完璧を期すならマグニチュード七・一にすべきだ」と指摘しており(朝日新聞一月十六日)、加えて活断層が確認されていないところでマグニチュード七・三の北丹後地震が起きていることを考慮すると、マグニチュード七・一と想定することも危険である。原子力発電所の安全性確保のためには、少なくともマグニチュード七・三を想定すべきである。
 以上によってもなお、浜岡原子力発電所の直下地震をマグニチュード六・五でよいとするならば、その科学的な根拠をデータに基づいて明らかにされたい。

七 震央域外縁距離内の地震動を一定とする(カットする)ことについて

 原子力発電所の耐震設計で、解放基盤表面での最大地震動について、科学技術庁は「震央域外縁距離内の地震動を一定とする(カットする)」としている。この方法は原子力発電所に与える最大地震動を過小評価することになり耐震安全性にとって非常に危険である。科学技術庁が「カットする」根拠としている「ガイドライン」には、著者の名前がなく、付録とだけ書かれており、「カットしてもよい」としか書かれていない。「カットする」ことは耐震設計審査指針にも引用されておらず、個々の原子力発電所の安全審査で「カットする」ことの妥当性が検討された形跡もない。また、兵庫県南部地震を踏まえた原子力耐震安全検討会でも検討された形跡はなく、原子力発電所の耐震安全性を根底から覆す「震央域外縁距離の地震動を一定とする(カットする)」ことの科学的な根拠を明らかにされたい。また、浜岡原子力発電所四基については、どのような計算過程でカットし最大地震動を決めたのか明らかにされたい。

八 浜岡原子力発電所一・二号炉の耐震安全性のデータの公表について

 耐震設計審査指針策定前に設置許可を受けた浜岡原子力発電所一・一号炉の耐震安全性については、答弁書第三号により、「指針策定前の原子力発電所の耐震安全性」の報告書にあるとおり、浜岡原子力発電所三・四号炉と同じ設計用基準地震動S1、S2を用いて評価を行っても耐震安全性が確保されていることを確認したとの答弁があった。
 浜岡原子力発電所一・二号炉の耐震安全性について、どのような科学的根拠とデータによって、いつ、だれが、どのような過程で、三・四号炉と同じ耐震安全性が確保されていることを確認したのか、すべて明らかにされたい。

九 地震地体構造論について

 原子力発電所の耐震設計審査指針において、考慮すべき項目の一つとして地震地体構造がある。しかし、この理論そのものが地震科学の研究課題であって、原子力発電所の耐震安全性確保のための客観的根拠として使えるものではないと批判されている。審査指針で採用されている地震地体構造論は、一九八〇年の表俊一郎氏らのものであるが、一九九〇年の松田時彦氏のものと比較すると大変異なっており、浜岡はマグニチュード八となっているが、松田氏のものでは八・五であり、科学的根拠がないとする批判について、政府の見解を示されたい。

十 衝撃破壊について

 兵庫県南部地震では衝撃波による衝撃破壊が数多く発生している。現在、衝撃破壊に対する耐震設計の方法はないが、衝撃破壊は、コンクリートと鉄で造られている原子力発電所には致命的である、という指摘についてどのように考えているか。

十一 コンピュータ解析・振動実験について

 計算や模型実験では、実際の原子力発電所の耐震性を実証することはできず、単なるデモンストレーションにしかならない、という批判は間違いないか。

十二 浜岡原子力発電所の地震防災対策について

 一九九七年六月、防災基本計画にはじめて原子力防災対策が盛り込まれたが、具体的な防災対策の中身は各自治体の責任とされている。原子力発電所のない兵庫県が阪神・淡路大震災の反省から、隣接県の原子力発電所に対する防災計画の策定を進めており、科学技術庁の原子力防災検討会は、関係省庁が原子力施設の事故に備えた原子力レスキュー隊の設立を積極的に行うことを求めている。しかし、静岡県は浜岡原子力発電所の地震防災対策をまったく行っていない。想定東海地震に備えた具体的な防災体制の確立を図ることは、静岡県のみならず全国民にとって急務の課題である。政府が把握している浜岡原子力発電所の具体的な地震防災対策について、すべてを明らかにされたい。

十三 原子力発電所の建設地点の選定について

 原子力発電所の建設地点の選定に当たっては、事前に歴史地震、地震地体構造などのデータのある地域を選定し、大丈夫かどうか確認して選んでいる、というのが原子力安全委員会の見解であるが、中部電力が浜岡町を選定した際の経緯は、一九六三年、中部電力は最初に三重県芦浜を設置地点に選定したが、漁民らの強固な反対(現在も続く)もあり、赤字財政に悩み、開発願望の強かった浜岡町に打診、一九六七年、町議会が誘致決定をした後にボーリング調査や用地買収を始めたといわれており、地震について考慮して選定したとは考えられない。原子力安全委員会の見解は間違いではないか。

十四 浜岡原子力発電所周辺の動植物の異常について

 静岡県浜岡町町民より、一〇年以上の調査によって、浜岡原子力発電所と同心円上に植物の奇形が見つかっている、浜岡原子力発電所の温排水口の付近の海底から目のない魚などが釣れる、同じく取水路内から取れたムラサキ貝が土壌改良剤として茶畑に大量に使われており、そのサンプルからセシウム137などの人工放射能が検出された、という報告を受けた。早急に事実関係や原因の調査をしなければならないのではないか。

  右質問する。