質問主意書

第142回国会(常会)

質問主意書


質問第一二号

大韓航空機事件の真相究明の過程で明らかになった諸問題に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十年五月十四日

瀬谷 英行   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   大韓航空機事件の真相究明の過程で明らかになった諸問題に関する再質問主意書

 私は一九八三年九月一日(日本時間)に発生した大韓航空〇〇七便事件に関し、日本国とアメリカ合衆国(以下においては「米国」という)間の情報交換のあり方に象徴される両国の関係について、当時の政府中枢にあって、直接見聞した経験に基づく反省を表明された後藤田内閣官房長官(当時)、夏目防衛事務次官(当時)、佐々防衛庁官房長(当時)らの発言を重く受けとめる必要を痛感し、平成十年三月十三日に提出した「大韓航空機事件の真相究明の過程で明らかになった諸問題に関する質問主意書」(以下においては「本件質問書」という)において、それらの反省がその後の日本国の国政上どのように活かされているのかを確認する趣旨で、橋本首相に一国を代表する政治家としての答弁を求めたのであったが、これに対する答弁書(以下においては「本件答弁書」という)の内容は不明確である。「本件質問書」において指摘した通り、大韓航空〇〇七便は、事件直後にマスコミの多くが報じた「パイロットの操縦ミスで誤ってソ連領空に迷い込んだもの」では決してなく、某国情報機関の指揮の下に、特定の目的を持って故意にソ連領空を侵犯したものである。国連の一機関であるICAO(国際民間航空機関)は、断固として、民間航空機を軍事目的に使用することを禁じた国際法の立場に立って公正な判定をなすべき責務を有しているにもかかわらず、誤った見解を表明し、終始、大韓航空〇〇七便の意図的航路逸脱と特定国の犯罪行為をおおい隠す役割を果たしてきた。そもそも大韓航空〇〇七便は、「無警告で撃墜される」旨、米国国防総省の発行した地図上にも「飛行禁止区域」と明示された空域に侵入し撃墜されたものである。こうした行為は決して容認できるものではなく、私はこの国の主権者である国民から負託された国会議員の責任に基づき、ここに再質問する。仮にこれに対する橋本内閣の答弁書が、「本件答弁書」のように無責任かつ無内容であった場合においては、重ねて質問書を提出せざるを得ないので、今国会の会期との関係上、この再質問に対する答弁は、質問主意書を受け取った日から、遅くとも十四日以内に本院議長に送付することを求める。

一、(1)国連、(2)ICAOに対し、米国、英国、フランス、中国、ソ連(ソ連崩壊後はロシア)、日本、ドイツ(統一前は西独)、イタリア、カナダ、韓国の各国がそれぞれ、一九八三年より一九九七年の間、毎年いくらの分担金の割当を受け、各会計年度の分担金支払期日内に、各々いくらの分担金を支払っているかを明らかにされたい。特に米国が現在(一九九七年会計年度末またはこれにかわる直近の日付現在)国連に対して有する累積未払い分担金その他未払い債務の内訳と金額を明らかにされたい。また、右各国の国籍を有する者が右(1)(2)の国際機関に右各会計年度において、それぞれ何名、職員として在職したかを明らかにされたい。

二、その時、米側要員がいかなる部隊に属していたか、あるいはその時、何をしていたかといった点は一切問題にしない。一九八三年九月一日に自衛隊稚内基地内に米国人が何人いたかだけを明らかにされたい。

三、法制局長官および内閣の統一見解として、米軍将兵が、日本国の領土、領空、領海内において米軍の組織の一員として公務上おこなう行為で、日本国の国内法の規制を受けるケースがあれば、その主なものを三例明らかにされたい。

四、一九九七年十二月末現在、世界中の国々の中で東京のように、一国の首都内に外国軍隊の基地を提供しているケースがあればその提供国の国名と、基地の提供を受けている国名、提供している基地の面積、駐留している外国軍隊の人数を全て明らかにされたい。

五、一九九三年ICAO報告書について

1、日本政府はICAOに対し、一九九二年(平成四年)度の義務的分担金として、五億八〇〇四五万円もの大金を支払い、かつ、一九九三年の最終報告書作成の為の任意による提供資金として五百十六万円(四万米ドル)もの金を支払いながら、なぜICAOに対し、日本語による最終報告書の交付を請求しなかったのか、その理由を明らかにされたい。
2、一九九三年のICAO報告書(CIWP9781)に関しては外務省がわずか二頁の部分訳を「広報」資料として記者用に発表したのみである。外務省、運輸省、防衛庁、内閣官房において、右一九九三年のICAO報告書の「仮訳」を作成した事実の有無を明らかにされたい。また部内において日本語の「仮訳」一つも作成せず、一九八三年の国会決議に対し、何らの調査報告もしないことに対し、右関係省庁において誰が、いつ、いかなる形で責任を負うのか、省庁別に明らかにされたい。
3、一九九三年のICAO報告書は、大韓航空〇〇七便が「二四五、四度のヘディング・モード飛行を続けた」と断定しているが、これは左記イ乃至ニの理由から、疑わしい「結論」であり、仮にICAOの解析作業に不正がないとするならば大韓航空〇〇七便のDFDRにはソ連(当時)による強制着陸命令に備えて、何らかの「操作」が予め加えられていた疑惑が強いのである。

イ、一九八三年のICAO報告書でもICAOは「二四六度のヘディング・モード飛行」説に立ったシュミレーションを公表しているが、これによるとモネロン島付近の実際の墜落地点よりも、大韓航空〇〇七便は一五〇乃至一八〇キロメートル南に到達する事実を図示している。
ロ、ところが、一九九三年のICAP報告書が主張する「二四五、四度のヘディング・モード飛行」説だと、前記「二四六度」のケースよりも、さらに南に到達することになり、大韓航空〇〇七便は「北海道北東付近」に到達していなければならないことになる。
ハ、また公表されている米国のケナイとキング・サーモンにあるレーダーの航跡記録によれば〇〇七便は一番目の通過点であるカイルン山で六マイル北に、二番目の位置通報点ベセルで十二マイル北に逸脱した地点で通過していることが明らかであるが、「二四五、四度のヘディング・モード」では右の位置より、相当南を通過していることになり、実際の米レーダー記録と全く一致しない。
ニ、また「二四五、四度のヘディング・モード」では公表されているソ連レーダーの航跡とも自衛隊レーダーの航跡とも一致しないのである。
 右イ乃至ニで示したとおり、ICAOの結論と現実の航跡との不一致は明らかなのであるがICAOによるDFDR解析の「いかがわしさ」を示す実例としては
ホ、一九八三年の報告書では四十二系統九十一種のデータが記録されるとしていたのにもかかわらず、一九九三年の報告書では「なぜか」十七系統三十種のデータしか公表していない。
ヘ、しかも、とりわけ重要なGMT(グリニッジ標準時)の時刻が「なぜか」記録されていなかったとしている。
ト、さらに一九八三年の報告書では「記録される」としていた自動操縦装置の航法モードセレクト・スイッチのデータも「なぜか」記録されていなかったとしている。このことはINSモード、ヘディング・モードなどの切り替えの事実やその切り替えられた時刻の記録が全て「消された」疑惑を生んでいる。
 DFDR原本を所持する韓国政府等の協力を得て、事件の洗い直しをおこなうことが何らの罪なくして生命を奪われた多数の尊い犠牲者に対する供養であると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。