質問主意書

第142回国会(常会)

質問主意書


質問第五号

変額保険による被害救済に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十年四月三日

上田 耕一郎   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   変額保険による被害救済に関する質問主意書

 変額保険による被害の救済問題は、二十数回の国会質問、質問主意書でとりあげられてきた。政府は被害救済、苦情・トラブルの早急な解決を行うべきである。
 変額保険は、都市銀行と生命保険会社が連携した日本独特の「銀行ローン付の一時払い終身型変額保険」である。バブル経済の時期に、相続税対策として、都市部で自分の土地・建物を所有している人、収入はないが土地を持っている人など、高齢者、年金生活者をターゲットにして、一銭の元手もなくても相続税対策が行える、と称し販売を行ったものである。しかも、大蔵省は、一九八八年五月二十五日に「一時払養老保険の保険料ローンに代表されるような財テクを勧める等、保険本来の趣旨を逸脱した提携は行わない」との口頭指導を出しながら、販売を容認し続けてきた。このことが、変額保険の被害を大きくしたのである。変額保険の契約の急増期は、この口頭指導後の八九年から九一年であった。
 このバブル期に契約した「銀行ローン付の一時払い終身型変額保険」の銀行ローンが十年の一括返済の時期をむかえ、相続税を支払えるどころか、少なくない被害者が利子を含めて元本の二倍にのぼる返済を銀行から迫られている。高齢の契約者などは、長生きをすれば元金と利子が複利で増え続けていく状態となり、銀行の借金がこれ以上膨らまないようにするには、自らの「命」の保険金で銀行のローンを返済するしかないという深刻な状況に追い込まれている。
 政府は、三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券など相次ぐ金融機関の破綻に際して、不良債権のディスクロージャーは不可欠であるとしている。変額保険の融資は実質不良債権となっており、五百件以上に及ぶ裁判が起こされていることからしても、隠された実態をただちに解明し、早期解決をはかることが求められている。このような深刻な事態をふまえて以下質問する。

一、日本型変額保険の本質について

 変額保険による被害の深刻さは、何よりも銀行と生命保険会社が提携して「銀行ローン付の一時払い終身型変額保険」を販売したことにある。
 変額保険を開発したアメリカでは、投資的な性格に着目して証券と定義され、「証券類似商品」として保険法と同時に証券関係諸法の規制を受け、変額保険に融資することは行われなかった。
 日本の変額保険は、外資系生命保険会社のアリコジャパンの元社員が母体となり、八九年一月に設立した青山ファイナンシャルステーション等が、相続税対策として大口の保険に加入させ、一時払の保険料を銀行が融資するプランを三菱銀行(現東京三菱銀行)に持ち込んだことからはじまったと言われている。銀行が直接保険の募集にあたることは「保険募集の取締に関する法律」で禁止されていたにもかかわらず、実際の変額保険の商品の説明は銀行員が行い、保険会社の社員は契約時にあらわれるだけという事例など、保険の募集が事実上銀行主導で行われていたことは明確である。変額保険被害者の会のアンケートで三菱銀行と明治生命との提携の案件が二百件を超えている実態からしても、銀行主導で実施されたのが日本型変額保険の本質であると言える。

1 アメリカでは変額保険のトラブルがほとんど起きていない。九七年三月十日の参議院予算委員会で福田大蔵省保険部長は、アメリカのタイプは「配当による保険買い増しの考え方で構成されている」と答弁している。「銀行ローン付の一時払い終身型変額保険」という事実上投資信託に近い日本独特のタイプが、多くのトラブルと被害を生み出したのではないか。
2 アメリカにおいて、日本では保険商品としている変額保険を証券関係諸法の規制対象とした根拠を承知しているか。
3 九六年七月五日付の佐々木陸海衆議院議員への答弁書で、変額保険の証券的位置づけについて導入時に検討されたと答えているが、保険審議会の討議において、証券規制の必要性をめぐりどのような論議がなされたのか、主な論点を明らかにされたい。
4 証券投資の長期資金融資は認められていないが、なぜ、投機的な性格を有している変額保険の加入資金について、十年、二十年の長期融資を認めたのか。
5 融資付き変額保険が「相続税対策」として販売されているが、早期に死亡した場合には該当するものの、契約後八年以上のものは相続税対策としては効果がない。被保険者が長生きをすればするほど、契約者の損失が増加するケースがあることを認識しているか。

二、銀行と保険会社との提携について

1 前記佐々木陸海衆議院議員への答弁書では、「銀行と保険会社の間での提携が行われていたとは承知していない」、「昭和六十三年の『口頭指導』に反するような保険募集が行われていたとは承知していない」としている。ところが、大蔵省の鏡味保険部長は「トラブルの一番大きい案件は、銀行が保険料を貸し付けている組合せ保険」(九三年五月十九日 衆議院大蔵委員会)、「財テクを勧める等保険本来の趣旨を逸脱した保険料ローンの提携自粛を要請」(九三年三月六日 衆議院予算委員会)と提携を認めている。また、九五年五月二十五日の参議院大蔵委員会では「その後変額保険とローンを組み合わせたものが問題となり通達を出した」と答弁している。銀行、保険会社の本店間の提携契約の有無は別として、実態として、事実上の提携関係があったことを大蔵省は認識していたのではないか。
2 明治生命の「RITプランの仕組み」では、明治生命と三菱銀行との提携を明確に示している。国会質問で取り上げられた案件、変額保険被害者の会が指摘している案件、現在裁判で取り上げられている案件等について、大蔵省は、銀行と保険会社との提携について調査したことがあるのか。

三、変額保険の被害の実態について

 大蔵省が、保険料ローン付き契約に対し再三の行政指導を実施したにもかかわらず、自粛どころか契約の拡大を容認してきたことが、被害者を増大させた。融資付き変額保険の実態を明らかにすることが、被害を解決するために必要である。

1 銀行が変額保険の保険料のために融資した件数及び融資金額(利息分を含む)について、八六年から今日までの銀行及び支店毎の件数、融資額、保証料として支払われた金額、返済期限、担保の有無を明らかにしていただきたい。
2 1の融資資金の金利はいくらか。利率の推移を含めて示されたい。
3 融資付き変額保険に対する融資案件のうち、利払いが延滞しているものの件数及び融資金額、そのうち保証会社により代位弁済を受けたものの件数及び金額について、金融機関別、年度別に示されたい。
4 三塚大蔵大臣は、九七年三月十日の参議院予算委員会、四月五日の衆議院大蔵委員会等で、係争中でない案件については「その業務運営について一層適切に指導してまいりたいと考えています」と答弁しているが、大蔵省に寄せられている苦情は何件か。
5 変額保険及びその変額保険にかかわる融資に関して、保険会社、銀行及び銀行協会、保険協会が受け付けた苦情・トラブルについて、保険会社別、銀行別の件数(処理済、処理中に分けて)及び苦情内容について示されたい。

四、銀行の貸手責任について

1 変額保険被害者の会の九七年秋のアンケート調査(会員対象、回答数二百十二件)では、未返済残高は二百六十四億円にのぼっている。銀行が、ローンの貸付に当たり、その使途など問わずに、土地などの担保で年収の三十倍から三百倍もの融資を実施しており、銀行の貸手責任が問われている。大蔵省は、このような過剰融資の実態を把握しているのか。
2 変額保険被害者の会のアンケートでは、銀行ローンの契約書が交付されていない案件が七十六件あるが、契約書を交付しないことは許されるのか。
3 年収の三十倍から三百倍も融資していることは、銀行の公共性に照らし、好ましい行為と言えないのではないか。
4 保険料ローンの借入と同時に、十年分の利息の貸付けが実施され、利息分の貸付けを強制的に預金させていることは、歩積・両建預金であり、独占禁止法の優越的地位利用に該当し、八九年六月十六日の大蔵省の行政指導に違反しているのではないか。
5 保険料ローンの借入と同時に、担保物件の極度額まで利息返済のカードローンが締結されている。元金と、その利息が複利で運用されることになり、貸付け金利が利息制限法の制限利率を超える契約は、独禁法の不公正な取引方法に該当するのではないか。

  右質問する。