質問主意書

第141回国会(臨時会)

答弁書


第百四十一回国会答弁書第一五号

内閣参質一四一第一五号

  平成十年二月十七日

内閣総理大臣 橋本 龍太郎   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員清水澄子君提出プルトニウム燃料加工の海外委託に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員清水澄子君提出プルトニウム燃料加工の海外委託に関する質問に対する答弁書

一の1について

 本件における「平和的利用等の保証」の具体的内容は、我が国から移転される核物質等についての平和的非爆発目的利用の確保及び第三国への再移転等の規制並びに当該核物質に対する保障措置及び防護措置の適用である。

一の2について

 東京電力株式会社(以下「東電」という。)における軽水炉による混合酸化物燃料(以下「MOX燃料」という。)の利用については、「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(平成六年六月二十四日原子力委員会決定)、「当面の核燃料サイクルの推進について」(平成九年二月四日閣議了解)及び「今後の原子燃料サイクルの推進について」(平成九年二月二十一日電気事業連合会発表)に従い、計画的かつ継続的に進めているものと認識している。

一の3について

 政府は、我が国とベルギー王国との間において予定された原子力の平和的利用における協力が限定的かつ短期的であること等を勘案し、平和的利用等の保証を得るために、包括的かつ長期的な枠組みである原子力協定を締結するのではなく、個別の取極を締結することが適切であると判断した。このような考え方に基づき、政府と欧州共同体委員会との間の書簡の交換による取極(以下「日・欧州共同体委員会取極」という。)及び政府とベルギー王国政府との間の書簡の交換による取極(以下「日・ベルギー取極」という。)を締結したものである。

一の4について

 日・欧州共同体委員会取極及び日・ベルギー取極は、我が国がグレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国、カナダ、オーストラリア、中華人民共和国、アメリカ合衆国及びフランス共和国との間においてそれぞれ締結している原子力の平和的利用に関する協力のための協定(以下「現行原子力協定」という。)と同様、法的拘束力を有する国際約束であり、効力に相違はない。

一の5について

 手続に関しては、現行原子力協定においては、相手国から移転される核物質等についての平和的利用等をお互いに約束することとなっており、我が国については当該約束を履行するために関連の国内法令を維持する必要があるので、国会の承認を得てきている。日・欧州共同体委員会取極及び日・ベルギー取極は、今回のMOX燃料加工のために我が国からベルギー王国に移転される核物質についてのベルギー王国における平和的利用等を欧州共同体委員会及びベルギー王国政府が政府に対して約束するものであって、政府は欧州共同体委員会及びベルギー王国政府に対して特段の義務を負うものではない。したがって、国会の承認を得ることなく、行政府内の手続により締結したものである。
 効力に関しては、一の4についてで答弁したとおりであり、また、義務に関しては、前記のとおり、現行原子力協定では基本的に双務的であるが、日・欧州共同体委員会取極及び日・ベルギー取極では片務的である。

一の6について

 我が国から移転される核物質等の移転先国等における平和的利用等の保証については、政府は、原則として、我が国と移転先国等との間において予定される原子力の平和的利用における協力が包括的かつ長期的なものである場合には原子力協定によることとし、そのような協力が限定的かつ短期的なものである場合には個別の取極等によることとしている。

一の7について

 現在、政府が我が国から移転される核物質に対する平和的利用等の保証を書簡の交換による取極により得ている例は、日・欧州共同体委員会取極及び日・ベルギー取極のみである。

二の1について

 今回のMOX燃料加工のために我が国からベルギー王国に移転される核物質の平和的利用等の保証については、その具体的内容により、欧州共同体委員会の権限に属するものとベルギー王国政府の権限に属するものとがあるため、二つの取極に分けて当該平和的利用等の保証を得たものである。

二の2について

 欧州原子力共同体加盟国における核物質防護措置の適用に関しては、当該欧州原子力共同体加盟国の権限に属するものと承知している。欧州原子力共同体を設立する条約の適用される地域における非軍事用核物質に対する保障措置の適用に関しては、同条約の規定により欧州共同体委員会の権限に属するものと承知している。

二の3及び4について

 仮定の御質問に対する答弁は差し控えたい。

二の5について

 欧州原子力共同体を設立する条約の規定により、欧州原子力共同体は、その権限及び管轄の範囲内において国際約束による義務を負うが、当該国際約束は、欧州共同体委員会が外国等と交渉し、締結することとされていると承知している。したがって、欧州原子力共同体の権限及び管轄の範囲内において欧州共同体委員会が我が国と原子力協定等の国際約束を締結することとなるが、その場合、欧州原子力共同体が当該国際約束による義務を負うこととなると承知している。

三の1の(1)について

 仮定の御質問に対する答弁は差し控えたい。

三の1の(2)について

 日・ベルギー取極によって政府がベルギー王国に対してプルトニウム及びウランをそれぞれ千九百九十七年九月以前及び千九百九十八年七月以前に移転する義務を負うものではない。

三の2について

 日・ベルギー取極附属書Aの「2 核物質の使用」における「当該MOX燃料は、フランス共和国を経由して日本国に返還され、」との記述は、我が国とベルギー王国との間に原子力協定がないこととは関係ない。かかる記述は、関係する事業者間の当該MOX燃料加工に係る委託契約の内容に沿ったものである。

三の3の(1)について

 御指摘の通告は、欧州共同体委員会が政府に対して行う。

三の3の(2)について

 御質問の核物質のフランス共和国からベルギー王国への移転及びベルギー王国内の移転については、欧州共同体委員会又は関係国政府から政府に対して連絡が行われることとはなっていない。

三の4について

 書簡の交換は、国際約束を形成する形式の一つとして国際社会において広く用いられているものである。
 また、日・欧州共同体委員会取極及び日・ベルギー取極は、今回のMOX燃料加工のために我が国からベルギー王国に移転される核物質についてのベルギー王国における平和的利用等を欧州共同体委員会及びベルギー王国政府が政府に対して約束するものであって、政府は欧州共同体委員会及びベルギー王国政府に対して特段の義務を負うものではないことから、国会の承認を要する国際約束に該当せず、行政府内の手続により締結したものである。
 以上のとおり、これらの取極の締結には、何ら問題はないものと考えている。

四の1について

 御質問の同意は、平成九年二月十日に政府からフランス共和国政府に与えた。

四の2について

 政府は、東電から、フランス共和国からベルギー王国へのプルトニウムの輸送が平成九年五月に完了したと聞いているが、日時については承知していない。

四の3について

 御質問のフランス共和国からベルギー王国へのプルトニウムの輸送に当たり、政府にはアメリカ合衆国政府の承認を求める義務がないため、同政府の承認は必要でない。

四の4から6までについて

 政府は、フランス共和国からベルギー王国へのプルトニウムの輸送手段について承知していない。また、当該プルトニウムの輸送の際の具体的な防護体制については承知していないが、フランス共和国及びベルギー王国が、関連の国際約束等に基づき、当該プルトニウムの輸送に係る適切な防護の水準を確保することとなっている。

四の7について

 政府は、フランス共和国政府に対し、ベルギー王国におけるMOX燃料の加工のために使用されることを前提として、フランス共和国にある我が国事業者所有のプルトニウムのベルギー王国への移転に同意したものである。

五について

 政府は、ベルギー王国におけるMOX燃料加工に係る契約に関し、契約の締結の前後に随時東電から話を聞いている。当該契約は、平成七年四月二十八日に東電と株式会社東芝(以下「東芝」という。)との間で二百体程度のMOX燃料加工を内容として締結されたものであり、東芝がフランス共和国の事業者コモックス社にベルギー王国内において当該MOX燃料加工を行わせるものであると承知している。

六の1について

 政府は、御質問のMOX燃料の設計書及び仕様を入手していない。

六の2について

 MOX燃料の安全面を含む技術基準については、発電用核燃料物質に関する技術基準を定める省令(昭和四十年通商産業省令第六十三号)において規定されている。

六の3について

 政府は、東電がフランス共和国の事業者から御質問のMOX燃料の加工のための劣化ウランを購入したか否かについては承知していない。

六の4について

 政府は、加工契約に関し、その締結の前後に随時東電から話を聞いており、その中でMOX燃料の富化度について説明を受けたものである。

六の5について

 政府は、東電が平成十一年から福島第一原子力発電所三号機において、また、平成十二年から柏崎刈羽原子力発電所三号機において、それぞれMOX燃料の利用を開始する計画を平成九年三月六日に表明したと承知している。