質問主意書

第141回国会(臨時会)

答弁書


第百四十一回国会答弁書第一四号

内閣参質一四一第一四号

  平成十年一月二十三日

内閣総理大臣 橋本 龍太郎   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員加藤修一君提出エンドクリン問題等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員加藤修一君提出エンドクリン問題等に関する質問に対する答弁書

一の1について

 御指摘の二省のうち、労働省においては主として職場環境における労働者の保護の観点から、農林水産省においては主として農薬使用の観点から、今後ともエンドクリン問題(化学物質が生物の体内に取り込まれて正常な内分泌を阻害し、生殖や発育等に影響を及ぼす可能性に関する問題をいう。以下同じ。)に関する内外の関連情報の収集に努めることとしているほか、農林水産省においては、新たに農薬における作用メカニズム等に関する調査研究を行うための予算を平成十年度政府原案に計上しているところである。
 環境庁、厚生省及び通商産業省においては、ゴミ焼却処分に伴うダイオキシン類の発生防止対策等に関する質問に対する答弁書(平成九年九月九日内閣参質一四〇第一六号)の四の3の(2)についてで述べたとおり、それぞれ従来から予算措置を講じてエンドクリン問題に関する調査研究を行っており、平成十年度政府原案においても新たな調査研究に係る予算を計上しているところである。
 これらの五省庁においては、エンドクリン問題に関する情報交換を行っているほか、平成十年度においては、エンドクリン問題について関係省庁の国立研究機関等が連携しつつ調査研究を行うことを検討しており、今後とも関係省庁の連携を図ってまいりたい。

一の2について

 千九百九十二年六月の国連環境開発会議において採択されたアジェンダ21に対応した施策については、平成五年に地球環境保全に関する関係閣僚会議において決定された「「アジェンダ21」行動計画」に基づき、関係省庁においてその推進を図っているところである。
 御指摘のアジェンダ21第十九章に掲げられた六つのプログラム分野に関連する施策を推進するため、環境庁、厚生省、農林水産省、通商産業省、労働省等において、平成五年度から平成九年度までの間に約二百三十億円の予算措置を講じ、国際機関における化学物質のリスク評価活動への参加、化学物質に関する国際的情報交換の推進、国内における化学物質のリスク管理の強化及び開発途上国における化学物質管理に対する支援等を実施してきている。
 具体的には、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(昭和四十八年法律第百十七号)その他の法律に基づく化学物質のリスク管理の推進のほか、環境庁、厚生省、通商産業省及び労働省による経済協力開発機構(以下「OECD」という。)高生産量化学物質安全性点検プログラムへの参加、環境庁における化学物質環境安全性総点検調査等調査研究費による化学物質の環境モニタリング等の実施等、厚生省における地球規模化学物質情報ネットワーク推進事業費による国際的な化学物質の情報交換体制の整備等、農林水産省における植物防疫対策補助金による農薬の適正使用の推進等、通商産業省における化学物質安全管理基盤整備費による化学物質の安全性確保に関する知的基盤の整備等及び労働省における国際基準に基づく化学物質危険有害表示制度推進費による化学物質の危険有害表示の推進等を行ってきている。

一の3について

 御指摘の会合の正式名称は、OECD試験ガイドライン計画に関する国別コーディネーター会合(以下「試験ガイドライン会合」という。)の第九回会合である。
 OECDにおいては、化学物質による環境及び健康への影響を防止し、リスク管理を効果的に進めるため、環境政策委員会の下に設置されている化学品グループと管理委員会との合同会議(以下「合同会議」という。)が設置され、試験ガイドライン会合は合同会議の活動分野の一つとして、化学物質の統一的な試験方法を開発するために千九百九十年一月から約八か月に一度開催されている。
 第九回試験ガイドライン会合では、これまでの試験ガイドライン作成に関する報告、鳥類の生殖毒性試験、内分泌かく乱化学物質に係るスクリーニング及び試験等について議論が行われ、今後の行動計画が決定された。
 鳥類の生殖毒性試験ガイドラインに関する協議では、参加国に対して今後OECD事務局が示すガイドライン案に対する意見の提出が求められたところである。これに対し我が国としては、提示される案を慎重に吟味し、適切な試験ガイドラインの作成に向けて我が国の知見を活かした意見を提出する等積極的な貢献をしていく考えである。
 また、内分泌かく乱化学物質に係るスクリーニング及び試験に関する協議では、その試験と評価に関する作業部会を早急に設置することが決定され、我が国としてもエンドクリン問題の重要性にかんがみ、今後設置される予定の作業部会に参画する意思を表明した。
 第九回会合には、我が国から、経済協力開発機構日本政府代表部の担当官、厚生省国立医薬品食品衛生研究所の職員及び通商産業省化学品審議会の専門委員のほか、財団法人食品薬品安全センター、財団法人残留農薬研究所等に所属の専門家が出席した。

二について

 御指摘の報告書は、通商産業省の委託により、社団法人日本化学工業協会が学識経験者に依頼して、国内外の公表された科学研究文献について評価を行ったものである。通商産業省としては、当該報告書を施策立案のための資料の一つとして認識しており、他の文献等も合わせ、総合的に施策立案を行っている。御指摘の記述は、既存の科学的知見及び調査研究に基づく評価を述べたものであるが、同報告書には、今後の研究及び検討の課題も併せて指摘されていると認識している。
 このような認識の下、通商産業省としては、エンドクリン問題に対して緊急に対処するため、国際的な枠組みの中で産学官の連携により、科学的知見の収集に努めるとともに、ホルモン類似の作用をする化学物質の効果的なスクリーニングを行う試験法の開発等に今後とも鋭意取り組む考えである。

三の1及び3について

 御指摘のプラスチックの可塑剤、合成洗剤の材料等食品に用いられる合成樹脂製の器具又は容器包装(以下「食品用合成樹脂製器具等」という。)から溶出する化学物質及び野菜若しくは果実又は飲食器の洗浄の用に供される洗浄剤の原料として用いられる化学物質の内分泌かく乱作用による人の健康への影響については、その有無、種類、程度等が未解明であるため、現在、調査研究を行っているところであり、今後ともその拡充を図っていく所存である。また、これらの調査研究の結果や国際的な動向を踏まえ、食品衛生調査会の意見も聴きつつ、必要に応じて、食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)第十条第一項又は第二十九条第二項の規定に基づく規格基準の改正等適切な措置を講ずることとしている。これらの製品の安全性の確保は、一般に、第一義的には製造、輸入等を行う営業者が自らの責任において行うものであるが、現段階においては、化学物質の内分泌かく乱作用により人の健康に重大な影響が生じるという科学的又は技術的な知見は得られていないことから、政府としては、前述のとおり、調査研究を進めてまいりたい。

三の2について

 御指摘の検査項目の必要性については、三の1及び3についてで述べたとおり、調査研究を行っているところであるが、食品用合成樹脂製器具等については、厚生省において、食品衛生調査会の意見を聴いた上で、食品衛生法第十条第一項の規定に基づき、公衆衛生の見地から必要な場合には規格基準を定めることとしているところであり、御指摘のように業界団体に対する指導を行うことは必要ではないと考えている。

三の4について

 御指摘の表示は、東京都消費生活条例(平成六年東京都条例第百十号)第十六条第四項の規定に基づいて事業者に義務付けられた、同条第一項の規定に基づく「東京都消費生活条例の規定に基づく品質表示に関する表示事項等の指定」(昭和五十一年東京都告示第千二十七号)において定められた内容のものと承知している。したがって、当該表示の変更については、東京都において判断されるべきものであるが、厚生省としては、当該表示が食品衛生法の関係規定と相矛盾するものではないと考える。また、食品用合成樹脂製器具等については、同法第十条第一項の規定に基づき、公衆衛生の見地から、溶出する化学物質に関し必要な規格基準を定めており、当該規格基準に適合している場合には人の健康確保に支障を生じるおそれはないと考えている。

四について

 御指摘の日本母性保護産婦人科医会等による新生児等に係る基礎データの収集は、厚生省心身障害研究として、全国二百以上の医療機関の協力を得て、毎年、十万人余りを対象に外表奇形児の発生状況等を継続的に調査しているものである。
 また、厚生省においては、平成九年度から厚生科学研究として、健常男子の精子の数、運動能等についての基礎的調査に、環境庁においては、平成九年度に設置した研究班において死亡者の精巣を用いた精子形成と化学物質との関係等に関する調査にそれぞれ着手したところである。
 エンドクリン問題に関し今後行うべき具体的な調査の項目、方法等については、エンドクリン問題に未解明の部分が多いこと等から、専門家等の意見を踏まえて、検討していく考えである。

五の1について

 農薬取締法(昭和二十三年法律第八十二号)においては、農業生産の安定、国民の健康の保護及び生活環境の保全を図る観点から、農薬の販売及び使用について登録制度を設けるとともに使用の規制等の措置を講ずることとされている。御指摘の農薬の毒性検査に係る基準については、農林水産大臣が、農薬を登録するに当たり、同法第三条第一項に規定する登録の保留等を行う場合に該当するかどうかを同項第一号から第十号までに掲げる基準に基づいて確認することとされている。その際、農作物等及び土壌への残留性、野生のものを含む水産動植物に対する毒性等については、国民の健康の保護及び生活環境の保全の観点から同条第二項の規定に基づき環境庁長官が定める基準によることとされている。同条第一項の規定及び環境庁長官が定める基準については、これまでも新たな科学的知見に基づき、必要と認められた場合には、見直しを行っているところである。御指摘の野生生物に対する農薬の健康影響については、水産動植物以外のものを含め、今後とも、関係省庁が連携して調査研究等を実施し、新たな科学的知見の集積を図る考えである。

五の2について

 御指摘の経口避妊薬(ピル)による女性の健康被害については、当該医薬品の薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号)第十四条第一項(同法第二十三条において準用する場合を含む。)に基づく承認の可否について、健康被害に関連する副作用に関する調査又は報告も含め、現在、中央薬事審議会で審議中であり、政府としての見解を述べることは差し控えたい。
 また、河川水の女性ホルモンによる汚染については、環境庁が平成九年七月にとりまとめた「外因性内分泌撹乱化学物質問題に関する研究班中間報告書」の中に、経口避妊薬(ピル)に含まれる合成女性ホルモンの汚水処理施設を通じた河川への流入の可能性について言及した英国の論文を引用している。我が国における河川水の合成女性ホルモン汚染に関する調査結果や報告については承知していないが、環境中の合成女性ホルモンの存在状況の調査等を含め、今後さらに知見の収集を図る必要があると考える。

六の1について

 通商産業省は、化学物質製造業界等が、その自主的な研究を通じて知り得た国民の安全に係る重大な研究結果を適切かつ積極的に提供又は公開することは、一般に製造業者等の社会的責任であると認識している。環境庁としても、人の健康を保護する観点から同様の認識をしている。
 また、通商産業省としては、製造業者が自らの製品に関し、故意の情報隠ぺいや虚偽の情報の提供を行うことにより当該製品に起因した人的被害が発生した場合においては、製造業者に一義的に責任があり、指導官庁については一般的には直接の責任はないものと認識している。
 通商産業省においては、監督官庁の一つとして、その責任の一端を果たすべく、自らエンドクリン問題に関する情報収集や研究を進めるとともに、所掌に係る化学物質の製造業者がその社会的責任を果たせるよう、化学物質の安全性に関する情報等の研究結果を自主的に公開することを促進するための環境整備について現在検討を進めているところである。
 環境庁においては、人の健康を保護する観点から、監督官庁において、必要に応じ、化学物質の製造業者による化学物質の人体への影響に関する研究結果の公開の促進に資する適切な措置をとることが適当と考えている。

六の2について

 エンドクリン問題に関して政府が有する情報については、御指摘の「国民の生命と健康的な生活を守る」という観点から、必要かつ適切な開示に努めてまいりたい。

六の3について

 環境庁においては、御指摘の昨年五月に米国で行われた八か国環境大臣会合の宣言の趣旨を踏まえ、平成八年度に設置した専門家からなる研究班によるエンドクリン問題の状況及び今後の課題等についての調査研究の成果を「外因性内分泌撹乱化学物質問題に関する研究班中間報告書」として平成九年七月に公表したところである。平成十年度においては、内分泌かく乱化学物質による野生生物や人への影響等の調査研究に係る予算を平成十年度政府原案に計上しているところであり、この調査研究の成果についても国民に情報を提供していく考えである。また、これらの調査研究の成果を踏まえ、エンドクリン問題について適切な対応を行っていく考えである。
 政府全体としても、一の1についてで述べたとおり、関係省庁が連携を図りつつエンドクリン問題に関する調査研究等を進めているところであり、内分泌かく乱化学物質による人の健康や生態系への影響を未然に防止する観点から、必要な情報提供を含め、適切に対処してまいりたい。