質問主意書

第140回国会(常会)

質問主意書


質問第一八号

圏央道高尾山トンネル掘削による自然破壊に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成九年六月十八日

上田 耕一郎   
緒方 靖夫   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   圏央道高尾山トンネル掘削による自然破壊に関する質問主意書

 東京都にある高尾山は冷温帯と暖温帯の森林が共存しており、一千六百種をこえる植物、約五千種の昆虫、約百五十種の野鳥が生息している豊かな生態系を残している。また、帰化植物の比率は四・八%と極めて低く、日本の貴重な自然遺産である。環境庁および都は、高尾山を国定公園、都立自然公園に指定し、大部分を特別地域として保護しており、都心近郊にあり気軽に楽しめる豊かな自然として、多くの人に親しまれている。この高尾山に、建設省が首都圏中央連絡自動車道(圏央道)のトンネル建設を発表して以来十三年、豊かな自然を破壊する危険性について多くの危惧の声がよせられてきた。
 圏央道の東京都・埼玉県境~国道二十号線までの区間については、一九八八年に東京都の環境影響評価が行われたが、その後この地域に新たな道路建設が計画されている。さらに、昨年八月には建設省が高尾山トンネルの水平ボーリング調査報告を発表した。それらの中で、一九八八年の環境影響評価と大きく矛盾する事実が明らかになってきている。それにもかかわらず、環境への影響について再検討がおこなわれないまま事業がすすめられていることに、関係住民の不安が急速に高まっている。したがって、圏央道建設が環境に及ぼす影響について、特に環境影響評価法が成立した今日の時点であらためて検討し、その結果に基づいて圏央道の路線計画を再検討することがもとめられており、至急に政府の見解を明らかにする必要がある。
 よって、以下質問する。

一、高尾山トンネルの水平ボーリングの結果について

1、水平ボーリング調査の報告書の水量・水圧試験結果によると、前の沢直下、水平深度三二五・四~三四〇・四メートルの全長十五メートルの調査区間で、孔径七・五センチのボーリング管から毎分四十八リットルの地下水が流出している。家庭の水道の蛇口二本を全開にしたのと同じ水量である。それも、バルブ開放後三十分から一時間の安定した状況での値である。
 この区間の水量・水圧調査は渇水期の二月頃であり、雨水による影響が少なく、前の沢直下の岩盤には大量の地下水が存在することは否定できない。水平ボーリング報告書では「大量の出水の可能性が少ない」としているが、この区間においても同じ判断なのか。そうならば、その根拠を明らかにしていただきたい。
2、同区間の水圧は、一平方センチメートルあたり一・二キログラムとなっている。これは、一平方メートルあたり約十二トンの水圧がかかっていることであり、単純計算でもボーリングから上十二メートルの地下水位が想定できる。この区間は、前の沢から土被り(トンネルの上の土の厚さ)三十メートル前後であり、その土被りの半分近い数値であることからみると、同区間の地下水の水圧、水位は非常に高いと言える。これまでの調査から、同区間の地下水の水位の予測を明らかにしていただきたい。
3、同区間の地質、地下水の調査結果からみた、地下水の「集中湧水量」「恒常湧水量」の予測値と計算式、採用した数値のデータを明らかにしていただきたい。
4、同区間から出水した地下水は、一九八八年の圏央道の東京都環境影響評価で区分した「岩盤深部地下水」「岩盤浅部地下水」「中間層地下水」のどれにあたるのか。そして、この地下水は、どこから浸透し、どこに流出しているのか、その予測を明らかにしていただきたい。
5、建設省は、水平ボーリングの柱状図(建設省土木研究所の作成要領に基づくもの)について、ボーリングの工法等によって誤差が生じているとの理由で、これを公表していない。建設省はかつて垂直ボーリングの柱状図を公表しているが、前の沢地域の地質、地下水の状況を検討する上で、垂直、水平の両方の柱状図を比較することは重要である。トンネル掘削による自然への影響を明らかにするため、工法の違い、誤差の状況も含めて、同要領に基づくボーリング柱状図のデータを公表していただきたい。

二、止水工法について

1、圏央道高尾山トンネルは、セメントミルク注入法による止水工法を想定しているが、土木学会の「トンネル標準示方書[山岳工法編]・同解説」では、この注入工法について「山岳部では、排水工法との併用を行なう場合が多く、水抜きのみでは対処しにくい大量の湧水や砂質地山に対する対策として用いられる。また、注入工法により、ある程度湧水量を軽減させたうえで、水抜きボーリングにより水を抜きながら掘削する場合もある」とのべ、止水工法をとっても地下水の水抜きと併行しておこなうことを通例としている。
 高尾山トンネルでは、水抜き工法を併用するのか、その場合はどの程度の地下水の流出量を想定しているのか。また、これらの予測量の公表をいつおこなうのか。
2、前の沢直下の非常に浅い土被りのトンネル建設予定の岩盤から出た地下水は、岩盤中に孤立してある地下水でなく、沢から浸透した地下水の流れか、岩盤地下水の水脈からという可能性が大きい。水平ボーリング調査でも、この区間の岩盤の割れ目沿いに酸化したと思われる「褐色変色」が報告されており、流動性をもつ地下水であることを裏付けている。
 トンネル完成後、同区間の地下水の排水はどのような方法でおこなうのか。その場合、トンネルからの排水量をどう予測しているのか。また、トンネル建設による同区間の地下水脈の切断や、水脈の変化する可能性をどう検討しているか。とりわけ自然環境への影響を明らかにしていただきたい。

三、トンネル掘削による自然環境等への影響について

1、トンネル掘削によって地下水が流出すれば、これが水源になっている湧水や沢水の水量減少、枯渇につながることは明らかである。また、計画では直径十メートルのトンネルを二本掘ることになっており、たとえ止水工法で地下水流出を最小限にとどめたとしても、地下水脈を切断し、その流れを変え、これまでの湧水や沢水を枯渇させることになる危険性が高い。高尾山の自然を育んでいる湧水や沢水が枯渇すれば、豊かな生態系に重大な影響を及ぼすことは必至である。
 高尾山は国定公園の特別地域に指定されているが、自然保護法の第十七条第三項では、国定公園の特別地域において「土地の形状の変更」「環境庁が指定する植物の採取、損傷」とあわせて「河川、湖沼等の水位又は水量に増減を及ぼさせること」について、都道府県知事の許可事項になっており、自然環境の保全につとめている。トンネル掘削による高尾山の河川、沢水の水量の急減、枯渇させないための対策について、どう検討しているのか。
2、前の沢には高尾山の修験者の修業の場、琵琶滝がある。トンネルは琵琶滝の真下の附近を予定しており、滝が枯渇すれば、修行の場が失われ、千二百年の高尾山の歴史にとっても重大な事態になる。琵琶滝の枯渇の可能性をどうみているか。
 また、前の沢など高尾山の河川を利用している方々への対策は検討しているか。
3、東京都が一九八八年におこなった環境影響評価では、谷部の地下水の水循環系の調査を涸沢上流部をモデルにしておこない、「岩盤深部の地下水と岩盤浅部の地下水及び中間層地下水の連続性が乏しい」と判断し、そこから「トンネル掘削による湧水の減少は少なく、沢水への影響は殆どない」と結論をくだしている。
 しかし、前の沢直下の土被り二十五~三十メートルのトンネル建設における地下水への影響を、標高も違い、水量も違い、その上土被り百数十メートルもある涸沢上流部の調査をあてはめて結論を下すのは、無理なことである。水平ボーリング調査で前の沢直下から大量の地下水が出水した経過をふまえて、この地域において、集中的なボーリング調査など地下水への影響の全面的な調査をおこなうべきであると思うが、いつ、どのような調査を予定しているか。

四、一九八八年の圏央道の東京都環境影響評価との関わりについて

1、同環境影響評価では、圏央道の交通量予測の前提条件として、自動車保有台数の予測を二〇〇〇年で五千八百万台としているが、すでに一九九一年の自動車保有台数は、予測した五千八百万台を上回り、さらに増大しており、圏央道の交通量予測は整合性がなくなってしまった。
 現時点で、圏央道(国道二十号~埼玉県境)の完成目途は何年か、その時点での自動車保有台数及び圏央道の交通量はいくらと予測しているか、明らかにしていただきたい。
2、圏央道の一九八八年の環境影響評価は、圏央道あきる野インターの出入り計画交通量を、一日八千四百台と予測し、周辺環境に与える影響は少ないと評価していた。しかし、一九九七年三月に同インターと中央道八王子インターを直結する新滝山街道が都市計画決定され事業が開始されている。新滝山街道の環境影響評価では、圏央道あきる野インターに接続する同道路の交通量は、一日二万四千台と予測されており、圏央道あきる野インターへの出入り交通量が一九八八年予測を大幅にこえることになるのは疑いない。圏央道あきる野インター周辺は、圏央道の通過交通量もふくめて一日八万台をこえるものとなり、大気汚染、騒音など重大な環境破壊が危惧される。
 新滝山街道建設にともない、圏央道あきる野インターの出入り交通量は一日何台と予測するのか。その際の大型車混入率をどう予測するのか。その結果、大気汚染や騒音に関する環境への影響はどうなるか。その根拠もふくめて明らかにしていただきたい。
3、一九八八年の東京都環境影響評価から八年半経過し、予測をこえる自動車保有台数の増大、新滝山街道や八王子南道路などの圏央道とむすぶあらたな道路計画の具体化、そして高尾山の自然環境を破壊する危険性など、様々な問題がでてきており、関係住民は環境影響評価のやり直しを求めている。道路公害について道路管理者の責任を認定した国道四十三号線の騒音訴訟の最高裁判決や、環境影響評価制度の法制化など、今日、環境を保全すべき事業者の責任はますます重要となっている。こうした状況の変化をふまえて、あらためて圏央道の建設が環境に及ぼす影響について調査すべきだとおもうが、どのような調査を予定または検討しているか。

  右質問する。