質問主意書

第140回国会(常会)

質問主意書


質問第五号

労働災害による重度障害者死亡後の遺族補償年金の支給に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成九年四月二十二日

渡辺 四郎   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   労働災害による重度障害者死亡後の遺族補償年金の支給に関する質問主意書

 労働災害により一級や二級の重度の障害等級の年金を受給している者が亡くなった場合、その亡くなった原因、死因がいわばその障害の直接原因によらなかった場合には現在遺族補償年金の対象にならないが、永年介護をしてきた遺族、特に配偶者にとってこれは極めて切実な問題である。
 その一例として、昭和三十三年十月取材中事故で重傷を負い、「頭蓋骨骨折、脳挫滅創」症状固定の治癒認定を受け昭和三十五年五月九州労災病院を退院、在宅療養中小倉労働基準監督署長から第一級障害補償年金支給通知を受領、今日まで約四十年近く在宅療養を続けている被災者のケースを取り上げたい。
 被災者の日常生活は、被災当初から家族の一〇〇%介護・看護の中での闘病を余儀なくされている。そのため、家族(配偶者)は、被災者と二十四時間一体の生活を送らなければならない。被災者は、被災当時幼子二人を抱える四人家族で厳しくかつ苦しい生活を強いられる中、自分が死亡した場合の家族の生活の行く末を案じ、被災者が勤務していた朝日新聞西部本社を通じて、「被災者が仮に死亡した場合の遺族補償年金の受給の有無について」小倉労働基準監督署に対し質問を行った。その回答文書は、昭和三十八年三月二十七日付小倉労働基準監督署長「小倉基監収第三九二号」により質問者の朝日新聞西部本社に送付された。
 「第一級障害補償年金受給者の遺族補償について」と題する回答文書の主旨は、「障害補償年金受給者死亡後業務上の負傷または疾病を直接の原因として密接な因果関係があるときは、再発として取り扱い遺族補償給付支給の対象になる。」というものであり、これを政府の「公式見解」と理解してきた。この回答については、脳挫傷治癒認定後症状再発悪化を認定された前例はなく、また、九大病院北村教授は、本件脳挫傷は九大病院で開頭手術後九州労災病院で治療後治癒認定を受けており、症状の再発悪化やそれが原因で死に至ることはまず考えられないという見解である等当初から疑問があったところである。しかるに、平成八年七月一日発行の中央経済社「最新労災保険法」(井上浩著)によると、「重度障害者死亡」の欄で『障害者が死亡すると遺族には年金は支給されない。業務上死亡に該当しないからである。それまで障害に対する年金を受けることができたのは、業務上の負傷や疾病が療養の結果なおった後に障害が残ったからである。その「なおった」はずの負傷や疾病が原因で死亡するはずはないので、当然のこととして業務上の死亡に該当しない。』と記述されている。この見解によれば、被災者のような第一級障害補償年金受給者が死亡した場合には遺族に遺族補償年金が支給されないこととなり、「公式見解」と異なるため、以下質問したい。

一 前述の朝日新聞西部本社宛回答の昭和三十八年三月二十七日付小倉労働基準監督署長「小倉基監収第三九二号」による「公式見解」については、類似のケースについて現在もなお同様の取り扱いとなっていると考えてよいか。

二 障害補償年金の受給者が死亡し、それが業務上の負傷または疾病を直接の原因として密接な因果関係があると認められさえすれば、被災者のように障害補償年金を長期間受給している者であっても、遺族補償給付支給の対象となると考えてよいか。

三 二により取り扱われる場合とは、どのような場合か。本件のような脳挫滅創の場合について具体的に例をあげて説明されたい。

四 既述の「最新労災保険法」の記述内容を前提とすると、昭和三十八年三月二十七日付小倉労働基準監督署長の回答は、本件被災者の場合においても、あたかも遺族補償年金が支給されるかのような印象を与える等軽率のそしりを免れない。被災者の介護一筋に約四十年間障害と闘い、不安と苦悩の中で生活を共に送ってきた配偶者家族を思うとその心情は察して余りあるものがある。永年介護に専念してきた被災者の遺族に報いる救済策はどうなっているか。労働省として、有効な救済策をとる責務があると考えるが、見解を伺いたい。

  右質問する。