質問主意書

第140回国会(常会)

質問主意書


質問第三号

浜岡原子力発電所の耐震性に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成九年四月十六日

山口 哲夫   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   浜岡原子力発電所の耐震性に関する質問主意書

 切迫している「東海地震」の震源域の真ん中に、中部電力(株)の四基の浜岡原子力発電所がある。「東海地震」は浜岡原子力発電所にとって、ほぼ直下の巨大地震となり、震度七の地震動となると地震の専門家が指摘している。
 原子炉内でウランを核分裂させて発電する原子力発電所は、膨大な放射能を内蔵する原子炉の健全性を守るために、あらゆる設備が完璧な耐震性を有していなければならない。地震によって、たとえ数ミリの亀裂が入ることも許されない。また、放射性物質は莫大な崩壊熱を発するから、発電中も、原子炉停止後も、常に水で冷却しなければならない。水を通すすべての配管にも、絶対的な健全性が要求される。
 総合的に考えた浜岡原子力発電所四基の耐震性について質問する。

一 「破砕帯が活断層ではない」との仮定について

 通商産業省資源エネルギー庁は、「原子力発電所は、活断層の上には造らない」としているが、浜岡原子力発電所の敷地にあるA破砕帯やH断層について、同原子力発電所二号炉増設許可申請書の参考資料中にある「浜岡原子力地点基礎岩盤の地質に就いて」(一九七一年三月、電力中央研究所顧問 田中治雄)によると、浜岡原発の地盤について、次のように述べている(重要部分のみ抜き書きした)。
 「福島(原子力)地点には殆ど存在しなかった断層または破砕帯が当所には存在する。
 これらの破砕帯は、地層で剪断作用が働いた結果生じたもので、その様相は破砕層に三~五cm程度の粘土が存在し、中央部の岩石が破砕または著しく亀裂に富むといった状態である。
 年代測定から、A破砕帯は七九八〇±一六五年前より今日にいたるまでは活動していないことが判明した。七九八〇±一六五年という数字は、断層の活動性が全く消滅していると判断するには、必ずしも十分に長い年月を示すものであるとも言いがたいが、それ以外の資料の得難い今日においては過去の事実が将来も続くという仮定に立って、浜岡地点の破砕層は原子炉の有効稼働年月内においては活動する確率は極めて低いと判定する事ができる。」
 ここで、A破砕帯が七九八〇±一六五年前以前の第四紀後期にも活動しなかったことを説明しているわけではないから、この説明をもって、A破砕帯が活断層ではないと断言することはできない。 A破砕帯を活断層としなかったのは、「過去の事実が将来も続くという仮定に立って」いるからに過ぎない。「絶対壊れてはならない原発」が、このような「仮定」の上で設置許可されていることの意味は重大である。この「仮定」が間違っていたら、「東海地震」によってA破砕帯が再活動し、浜岡原子力発電所が破壊される可能性は高いのではないか。

二 「活断層がない」と断定することの困難性について

 通商産業省資源エネルギー庁は、活断層の調査は、「文献・露頭・試掘坑・ボーリング・弾性波調査」で分かるとしている。
 一般的に地表に地震断層が現れるのは、マグニチュード六・五以上の地震とされているが、例えば、秋田仙北地震(M七・一)、北美濃地震(M七・〇)、紀伊半島南東部地震(M七・〇)、宮城県北部地震(M七・〇)、姉川地震(M六・八)、西埼玉地震(M六・九)、長野県西部地震(M六・八)など(『活断層』 松田時彦)のように、マグニチュード六・五以上の地震でも、地震断層の現れない場合があり、地下数十キロメートルにある活断層を発見することはできない。従って、浜岡原子力発電所の敷地直下に活断層がないと断言できないのではないか。

三 相良層の岩質について

 通商産業省資源エネルギー庁は、浜岡原子力発電所の基礎岩盤の相良層は、「健全で固い岩盤である」としているが、浜岡原子力発電所三号炉増設申請書には、相良層の弾性波速度は、平均値で、Vpが泥岩で二・〇km/秒、砂岩で一・六km/秒、Vsが泥岩で一・〇km/秒、砂岩で〇・八km/秒となっている。この数字は基礎の岩盤が軟岩であることを示しており、岩石を地質工学的に分類した場合、とても「健全で固い」とはいえないのではないか。前述の田中氏も「浜岡原子力地点基礎岩盤の地質に就いて」の中で「基礎の岩盤の岩質は、硬岩ではない。基礎にコンクリートを打設するにあたって、基礎の岩石類は風化しやすいので、掘削によって新しい岩盤面が出されたならば日時を置かずに打設するか、若し止むを得ず日時が経過するような場合には、濡れむしろあるいはシートなどによって含水比が減少しないよう養生することが必要である。」と述べている。

四 一・二号炉と三・四号炉の耐震設計の違いについて

 中部電力浜岡原子力発電所一・二号炉設置許可申請書によると、過去に、「浜岡にはさしたる被害がなかった」とし、「繰り返す地震」として想定したのは、震源距離六五km先で起きたマグニチュード八・二の遠州灘沖地震である。二号炉設置許可申請参考資料によると、その地震を基に推定した最大加速度は、金井式で一四〇~二二〇ガル、強震記録からの関係式で二八五ガルなどとなり、安全を考え三〇〇ガルと決めたとある。そして、特に重要な施設については、三〇〇ガルの一・五倍の四五〇ガルとし、岩盤の揺れは地表では二~三倍に増幅されるから、福井地震で最大加速度が六〇〇ガルだったことと比べ、十分余裕があるので、「浜岡原子力発電所は地震に安全」としている。
 ところが、一九七六年八月、「東海地震説」が発表された後に電調審で承認された三号炉と四号炉の増設許可申請書によると、想定された地震は、マグニチュード八・四の安政東海地震とこれから起きるとされたマグニチュード八・〇の「東海地震」であった。周辺で考慮する活断層等については、長さ三二km、マグニチュード七・三、震央距離二〇kmの石花海(せのうみ)の断層を、さらに、南海トラフ沿いのマグニチュード八・五の地震とマグニチュード六・五の直下地震も考慮することになっている。そして、過去に起きた被害地震の文献にある転倒墓石の調査などから推定した最大加速度の平均を三七〇ガルとし、安全余裕を見て四五〇ガルをマグニチュード八クラスの地震に対する最大の加速度とし、増幅率は一・一倍、特に重要な施設については六〇〇ガルとしている。
 このように一・二号炉と三・四号炉では想定した地震がまったく違っており、震度階でいうと、それぞれ震度四ないしは五と震度七と非常に違っている。
 そうであるならば、一・二号炉は老朽化が進んでいることもあり、震度七となる「東海地震」には絶対に耐えられないのではないか。
 三・四号炉についても、耐えられる地震は、増幅率一・一倍で単純計算すると六六〇ガルとなり、阪神・淡路大震災で地表で観測された最高の数値八三三ガルと比べると、やはり、「東海地震」が阪神・淡路大震災と同規模のものであるとすれば、それによって破壊されるおそれが充分にあるのではないか。

五 直下地震における水平動と上下動の比について

 現在、日本の原子力発電所の耐震設計は、地震の水平動/上下動の比は一/二分の一であるという前提の下で行われている。
 浜岡原子力発電所は「東海地震」の震源域の真ん中にあるので、「東海地震」が起きれば、震度七の上下動の大きな直下地震に襲われることは、広く専門家の認めているところである。
 直下地震の上下動が大きいことは、阪神・淡路大震災でも明らかである。強震計が設置されていて分かった所だけでも、水平動/上下動の比が、明石市で三九七ガル/三一九ガル、神戸市中央区で五三〇ガル/三四四ガル、宝塚市で六九四ガル/四一〇ガル、大阪市東淀川区で二〇四ガル/一八八ガル、神戸市灘区で五一一ガル/四九五ガル、尼崎市で二九四ガル/三二四ガルなど、岩盤上でのはじめてのデータといわれる神戸大学では、三〇五ガル/四四五ガルであった(科学技術庁調査)。これらの数値は、一/二分の一をはるかに超えており、上下動の方が高かったものさえある。
 建築研究所が行った「地盤と原子炉建屋の動的相互作用の評価に関する研究(一九九〇年度~一九九五年度)」中の「四.建屋の上下動応答評価に関連する基礎的研究」の項では、「建築物内の機器に対して地震時に上下動が悪影響を及ぼす場合があることが分かってきた。震源域に近づくと水平動と上下動とは同程度、場合によっては上下動の方が上回ることもある。(観測記録による)解析例が少ないために、水平動に比べると上下動については解明すべき点が多く残っているのが現状である」としており、現在、原子力発電所の水平動/上下動の比が一/二分の一となっているのは、非常に問題であることが分かる。従って、浜岡原子力発電所が、「東海地震」で破壊されるおそれは充分あるのではないか。

六 金井式の問題性について

 原子力発電所を造る時、耐震性の計算式の基本とされている金井式に対し、通商産業省資源エネルギー庁は、「岩盤上における地震動の実験結果に基づいた信頼性の高いもの」としている。しかし、阪神・淡路大震災を踏まえて行われた原子力施設耐震安全検討会の委員である渡部丹氏は、福島原子力発電所の現地で行われた「原発の耐震安全性」フォーラムで、「金井式は不完全なデータに基づく古い式であって、新しい観測結果と合わない。なるべく早く変えた方がいい」と明言している(一九九六年六月)。
 例えば、一九九四年一〇月に起きた北海道東方沖地震はマグニチュード八・一の巨大な地震であり、この地震による震度は、根室五、釧路六、稚内一、旭川二、盛岡四、東京三であった。震源から近い稚内が一なのに、はるか遠い東京が三である。このことは、地震の規模が、マグニチュードや震源距離だけではなく、どのプレートの、どういう深さで起きたか、地盤の善し悪しはどうかなどで決まることを表しており、また、地震の深さがマグニチュードと関係ないことも示している。従って、地震の規模を震源距離とマグニチュードを基にして計算する金井式は、地震の敷地基盤の最大の揺れを正しく表さないことを意味している。
 浜岡原子力発電所がこのような実際と合わない金井式を使って耐震設計がされたことは、浜岡原子力発電所の耐震性に重大な計算違いがあるということであり、巨大な「東海地震」に耐えられないといえるのではないか。

七 マークIタイプの格納容器の危険性について

 浜岡原子力発電所の原子炉は四基ともマークIタイプであり、アメリカ原子力規制委員会が地震で最も弱いとしている原子炉である。同委員会が出した「NUREG-一一五〇」によると、特に、「マークIタイプの格納容器は他のタイプに比べてその容積が小さいので、シビアアクシデントのシナリオの中で炉心溶融と接触する可能性に加え、発生するガスを閉じ込める能力に制限がある。そのため、格納容器が火災や地震で破損する確率が〇・九と高いことを示している」としている。
 浜岡原子力発電所が四基とも、「東海地震」によって、過酷事故を起こす可能性は九〇%もあるといえるのではないか。

八 津波の高さのシミュレーションについて

 通商産業省資源エネルギー庁は、「東海地震」によって、浜岡原子力発電所を襲う津波は、シミュレーションの結果、最大でも五・八mとしている。津波の高さは、地震の大きさ、震源場所、深さ、干潮、満潮の違いなど、余りに不確定事項が多いので、予め計算することはほとんど不可能である。
 津波のシミュレーションに信頼性があるなら、北海道南西沖地震に際して、奥尻島の西岸で厚さが三mの津波が、三〇・六mもの湖上高となったことを右シミュレーションの手法を用いて合理的に説明されたい。

九 地震による同時多発事故の可能性について

 日本の原発が稼働しはじめてから一九九五年までの事故は、報告されただけでも八五三件ある。その中で、地震との関連で注目される事故は、外部電源喪失事故や内部無停電電源停止事故、制御棒関連事故などである。それらの事故の原因が電線やトランスのショートや誤作動、誤信号などによって起こっていることは、地震と重ねて考える時、非常に危険である。
 通商産業省資源エネルギー庁は、原子力発電所の命綱である制御棒の挿入性について、「地震でガタガタ揺れていても、制御棒の挿入性は問題がない」としているが、地震によって内外の電源が喪失すれば、制御棒は挿入できない。
 また、同庁は「安全上重要な配管は、想定されるいかなる地震にも耐える」「小さい枝管のような配管は壊れても安全上問題はない」としている。報告された事故は、単一で起こった事故であったために無事に終息しているが、震度七の「東海地震」で、同時多発的な事故が起きたら、浜岡原子力発電所が四基とも破壊されるおそれが充分あるのではないか。

  右質問する。