質問主意書

第139回国会(臨時会)

答弁書


第百三十九回国会答弁書第三号

内閣参質一三九第三号

  平成九年一月二十四日

内閣総理大臣 橋 本 龍 太 郎   


       参議院議長 斎 藤 十 朗 殿

参議院議員荒木清寛君提出遺伝子組換え食品に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員荒木清寛君提出遺伝子組換え食品に関する質問に対する答弁書

一の1について

 遺伝子組換え技術を応用した食品(以下「遺伝子組換え食品」という。)の輸入量、生産量及び摂取量については、把握していない。
 厚生大臣による「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(平成三年十二月二十六日衛食第百五十三号厚生省生活衛生局長通知。以下「安全性評価指針」という。)との適合確認が行われた遺伝子組換え食品については、既存の食品と同程度の安全性が確保されていると考えていることから、その流通実態を把握することは考えていない。

一の2について

 諸外国における遺伝子組換え食品に対する認可等の制度については、厚生省においては、米国、カナダ、イギリス及び欧州連合(EU)において実施されていることを承知しており、除草剤耐性大豆等を始めとして、米国では二十五品種、カナダでは十七品種、イギリスでは九品種及び欧州連合(EU)では四品種の食品について認可等が行われていると承知している。
 なお、これらの食品の生産量及び使用状況については承知していない。

二の1について

 御指摘の「実質的に同等」の考え方とは、新しい食品の安全性の評価に当たっては、実質的に同等である既存の食品又は食品材料がある場合には、これと新しい食品及び食品成分を比較することで足りるというものである。安全性評価指針においても、この考え方に基づき遺伝子組換え食品が既存の食品又は食品材料と「実質的に同等」であることが判明した場合は、遺伝子組換え技術による影響について安全性の評価を行えば足りることとしている。
 歴史的に、伝統的な方法で改良された農産物は、明らかな有害性が確認されない限り、長い経験を基にして食用に供されてきたところであり、遺伝子組換え食品の安全性を評価するに当たって、この「実質的に同等」という考え方を用いることは合理的であると考えている。また、この考え方は、経済協力開発機構(OECD)、世界保健機関(WHO)及び国連食糧農業機関(FAO)の報告書等においても用いられているところである。したがって、「実質的に同等」という考え方を改める必要はないと考えている。

二の2について

 いわゆる新開発食品とは、食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)第四条の二に規定する「一般に飲食に供されることがなかつた物」を指すものであるが、遺伝子組換え食品については、安全性評価指針に基づき、「既存のものと同等と見なし得る」ことが確認された場合には、これに該当しないものと考えている。また、現行制度において特に問題は生じていないことから、同条を改正し、新たに事前届出を義務付ける必要はないと考えている。
 遺伝子組換え食品は、伝統的な方法で改良された既存の食品又は食品材料と遺伝子が組み換わるという点においては同様であることから、遺伝子組換え食品のみ御指摘のような事前の適合確認を義務付ける必要はないと考えている。

二の3及び4について

 遺伝子組換え技術によって新たに導入された遺伝子及びマーカー遺伝子により、未知の毒性又はアレルゲンが作り出される可能性については、平成五年度の厚生省バイオテクノロジー応用食品等の安全性評価に関する研究班(以下「研究班」という。)において、導入された遺伝子が産生するたんぱく質がアレルゲン又は毒性物質として機能しないこと及び宿主が持つ既知のアレルゲン又は毒性物質が増加しないことが確認されれば、当該食品の遺伝子組換えによる毒性及びアレルギーに関する安全性に対しては、特段の配慮は必要ない旨が報告されているところである。厚生省においては、安全性評価指針により、当該食品の製造業者等がこれらの確認を行うよう指導するとともに、製造業者等の申請に基づき安全性評価指針に沿って評価が行われているかどうかを個別に審査しているところである。
 抗生物質耐性マーカー遺伝子が腸内細菌の抗生物質耐性を広める可能性については、研究班の報告において、植物から微生物へ遺伝子が移行するという知見は得られていないこと、通常、遺伝子により産生されたたんぱく質は消化管において短時間で分解されること等から腸内細菌に与える影響は考えにくいとされているところであり、腸内細菌に抗生物質耐性を広めるとは考えていない。

二の5について

 遺伝子組換え食品については、遺伝子が組み換わるという点においては、伝統的な方法で改良された既存の食品又は食品材料と同様であることから、すべての遺伝子組換え食品について急性毒性、慢性毒性、遺伝毒性等の試験を必須とする必要はないと考えている。
 なお、安全性評価指針に基づき、製造業者等に対し、遺伝子組換え技術により産生された物質の特性により、必要に応じて、これらの毒性試験を実施するよう指導しているところである。

二の6について

 食品の安全性の確保は、第一義的には製造、輸入等を行う営業者が自らの責任において行うものであり、遺伝子組換え食品の安全性の評価についても、第一義的には製造者又は輸入者において行うべきものであることから、国の機関においては、必要と認められる場合を除き、直接、安全性の評価を行うことは考えていない。
 遺伝子組換え技術については、この技術そのものが危険であるという科学的根拠がないことから、現在、御指摘のような、人体への影響に関する長期的な臨床実験が必要であるとは考えていない。

三の1について

 通常、農作物を栽培する際には、農作物の種類や当該農作物の周辺に生育する雑草に合わせて、幾つかの種類の除草剤が種まきから収穫までに複数回散布されている。これに対し、植物に対して非選択的に作用する除草剤と当該除草剤に耐性を有する農作物を組み合わせて栽培すれば、除草上最も効果的な時期に除草剤を散布することができるため、除草剤の散布量が減少するものと考えられている。
 なお、我が国ではこのような農作物の栽培が行われているとは承知していないが、米国においてこのような栽培を実際に行っている大豆生産農家について民間企業が実施した調査によれば、通常行われている栽培法と比較して、除草剤散布量が二十パーセント程度減少しているという結果が公表されている。

三の2について

 これまでのところ、除草剤耐性作物に対する除草剤の使用によって、それに耐性を持つ雑草が発生し、又は増えたとの報告は確認していない。仮に、このような雑草が発生したとしても、そのような事態が生じ得るのは、当該除草剤が使用されている状況の下においてであるので、必要に応じ除草することが可能であり、これが増える等生態系に大きな影響を及ぼす可能性はないと考えている。

三の3について

 御指摘の事例は、千九百九十六年三月七日号の科学雑誌(ネイチャー誌)に掲載された特定の除草剤に耐性を有する遺伝子組換えなたねとその近縁種の交雑性に関するデンマークの研究者による報告であると思われる。
 一般に「遺伝子の拡散」とは、特定の遺伝子を持つ個体数が増大していくことと考えられるが、当該報告は、遺伝子組換えなたねとその近縁種の交雑によって発生した種間雑種の人為的な選抜及び交配によって除草剤耐性遺伝子が近縁種雑草に移行することを示している例であり、組み換えられた遺伝子が自然交配によって短期間で周囲の生物に拡散する例ではないと考えている。

三の4について

 遺伝子組換えなたねを開発した事業者等が平成七年に我が国において実施した野外試験においては、当該遺伝子組換えなたねの周囲に人為的に近縁種を植え付けた場合において自然交配により種間雑種が発生する可能性は、当該遺伝子組換えなたねからの距離が五メートルの場合にあっては五パーセント、十メートルの場合にあっては〇パーセントであることが認められている。また、実際の栽培においては、ほ場及びその周辺に近縁種が除草されずに生育していることはまれであること、交雑によって種間雑種が発生した場合であっても、当該種間雑種が耐性を有するのは当該除草剤に対してのみであり、他の方法により除草が可能であることを考え併せれば、自然交配による種間雑種の発生を通じ、特定の除草剤に対する耐性をなたねに発現させる遺伝子が拡散することはないものと考えている。

四の1について

 食品衛生法第十一条第一項において、厚生大臣は、公衆衛生の見地から、販売の用に供する食品等に関する表示につき、必要な基準を定めることができるとされている。添加物については、食品の加工又は保存の目的で食品に添加等されるものであること及び一般に一定量を超えて摂取した場合には人の健康を損なうおそれがあることから、表示の基準を定めているものであるが、遺伝子組換え食品については、遺伝子が組み換わるという点において、伝統的な方法で改良された既存の食品又は食品材料と同様であることから、公衆衛生の見地から他の食品と区別して同項に基づく表示の基準を定めることは適切でないと考えている。

四の2について

 農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(昭和二十五年法律第百七十五号)第十九条の八に基づく品質表示基準制度及び「青果物の一般品質表示ガイドライン」(平成三年二月十三日二食流第五千六十三号農林水産省食品流通局長通達)は、いずれも農林物資の品質に関する表示の適正化を図ることを目的としたものであり、単に遺伝子組換えを行ったか否かについては、直ちに品質に結び付くものではないので表示の内容とすることは適切でないと考えている。