質問主意書

第134回国会(臨時会)

質問主意書


質問第四号

村山内閣の基本姿勢に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成七年十一月二十九日

田 英夫   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   村山内閣の基本姿勢に関する再質問主意書

 私が本院における「質問第一号」として平成七年十月二十六日に提出した「村山内閣の基本姿勢に関する質問主意書」(以下においては「本件質問書」という)に対し、村山富市内閣総理大臣は同年十一月十四日に答弁書(以下においては「本件答弁書」という)を本院議長に送付した。
 国会法第七十五条第二項の規定によれば、内閣は質問主意書を受け取った日から七日以内の答弁が義務づけられているのに対し、本件答弁書は、十分日時をかけて作成された経緯に照し、私は誠実で内容のある村山内閣の答弁を期待していたのであるが、その期待は大きく裏切られ、(1)本件答弁書作成過程における、本件質問書の不当な分断の疑い(2)故意になされた疑いの強い答弁もれ(3)内容が全くない不誠実な答弁等々そこにあらわれた著しい国会軽視を容認することは到底出来ないので、再度の質問をする。
 私の質問は、国務大臣として、国会に対して連帯して責任を負うことを日本国憲法第六十六条第三項の規定により、義務づけられている村山内閣の、全ての国務大臣に対してなされた質問である。
 戦後五十年の節目の年にあたり、私の歴史認識と現状認識を示して、村山内閣として今は国の内外において破綻した「官僚による政治」から、公選された政治家が国民に対する責任を明確にした、真の民主政治を実現する方向性を積極的に打ち出すことを強く希望するものである。本件質問書の冒頭の文言を改めて以下に引用する。
 申すまでもなく本年は我が国が太平洋戦争に敗れた一九四五年から数えて、戦後五十年という、節目の年にあたっている。
 私は単に数字の上で節目の年だというだけでなく、政治、経済、社会の全般から、我が国の将来を決する大きな問題が噴出しているという点において、正に節目の年だと考えるものである。
 天皇主権を定めた大日本帝国憲法と無責任な軍国主義の下で戦われた戦争に、国の内外の出来事に関する正確な情報を与えられず、半ば耳目を奪われて動員された私たちの反省は日本国憲法の国民主権、平和主義、基本的人権の尊重の三大理念に集約され、それが大筋において戦後五十年の「平和と民主主義」を支えてきたかに見えるが、最近における国会の形がい化、閣議の形がい化と一対をなすものとしての「官僚による政治」の弊害の顕在化には目をおおいたくなるものがある。
 国民主権の大原則が、タテマエではなく、実質的に我が国の日々の国政の上で、実際に貫徹しているか否かを深く反省するところから、政治におけるリーダーシップの方向性をはっきりさせることが何よりも大切ではないであろうか。
 民主政治の根幹をなすものは、賢明な国民の存在である。主権者である国民に対して、国政に関する情報が十分公開されることによって、国民の判断を誤らせることがないようにするシステムが十分確立し、それが正常に機能しているか否か、現実に国民の委任を受けて権力を行使する者の行動に透明性が確保され、その者が国民に対して責任を負う意識と制度が十全に確立し、それが正常に機能しているか否か等々が、今まさに「政治不信」「官僚不信」の根底にある諸問題を解決していくにあたって、まっさきに問われなければならない事項ではないであろうか。
 政治家の側に公選された者としての責任の自覚とその理念と政策を現実政治の場で実践する力量が不足する場合、重要な意思決定が事実上、官僚の手でおこなわれ、議院内閣制を実質あるものとする省庁の長としての、あるいは閣議のメンバーとしての国務大臣(政治家)の存在さえも極めて影がうすいものになりがちである。
 私は中島義雄氏(大蔵省の元主計局次長)に代表される大蔵官僚の腐敗は、公選された存在ではない大蔵官僚が、予算編成権、徴税権、財政運営権等々の権力を事実上長期にわたって独占してきたことにともなう必然的腐敗であり、「行政各部を指揮監督する」(憲法第七十二条)内閣総理大臣の権限が、その人事権の行使をふくめ、村山富市首相によって、正常に行使されてこなかったところに、真の原因と責任があると考えるものである。
 私は本件質問書において、以上のような全ての私の質問の根底にある私自身の歴史認識及び現状認識を明らかにし、全ての質問に共通する質問全体の目的・趣旨を明確にした上でその後に個々の具体的質問をおこなっているのである。従って内閣による答弁の準備は以上の私の質問の趣旨にあたる部分(以下においては「趣旨部分」という)を個々の質問にあたる部分と一体のものとして受け止めることからスタートしない限り、個々の質問に対する答弁も的を射た答弁にならないことは当然のことである。
 巨視的に見て、国民に対して全く無責任な「軍部による政治」は一九四五年の敗戦によって終わった。そして今、戦後五十年の節目の年にあたり、主権者である国民、その代表者である国会に対して、事実上無責任な「大蔵省による政治」に終止符を打たなければならない。
 私はかつて軍部の中にも、当時一流の「秀才たち」が多数いたし、今日、大蔵官僚の中に、一流のいわゆる「秀才たち」が集められ、個人的には優秀な人物も少なくない事実を率直に認めた上で、国民に対して責任を負わない、匿名の「秀才たち」による政治には大胆にピリオドを打つ決意を共有することを国権の最高機関である国会に席をおく一員として村山内閣の閣僚の皆さんに呼びかけるものである。
 それにかえて、それがいかに多くの困難をともなう事業であろうとも国民・国会に対して連帯して責任を負うことが憲法上も明文の規定をもつ「内閣による政治」を名目だけでなく、実質あるものにしなければならない。
 日本の国政のあり方が、戦前のそれとは比較にならない程、世界の政治、経済に対して、大きな影響力を有するに至った事実を考えるならば、今日、後世の批判に耐える政治のしくみを確立することの責任は、国際社会に対する責任の見地からも重かつ大である。
 国の内外激動の時代を常に国民の福利と世界平和の実現を座標軸としてのりきり、あわせて来るべき二十一世紀を準備する国政のあり方を共に真剣に考える立場から、以下の、村山内閣の全ての国務大臣にあてた質問をする。
 私の以下の質問における「関係国務大臣」には、国会に対して連帯責任を負う、国務大臣が全て、該当するのであって、以上明らかにした私の質問の趣旨と、切り離した形で、個々の質問に対する官僚的答弁を準備することは絶対に許されない。
 以上の趣旨において、以下の質問をする。
 なお、この質問に対する村山内閣総理大臣の答弁に、万一、本件答弁書のように、多くの答弁もれ等があった時は、今国会の会期中に、再々質問をおこなう必要があるので、仮に何らかの理由により七日以内の答弁が困難である場合においても、来る十二月十五日までの会期を考慮し、遅くとも来る十二月十二日までに答弁書を本院議長あてに送付されたい。

一、政府答弁書を決定する閣議のあり方について

 本件質問書に対する本件答弁書においては、具体的な質問内容に対して全く答弁がなされていないので、以下、重ねて質問する。

1 国会法第七十四条によって提出された質問主意書の全文は行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う(憲法第六十六条第三項)村山内閣の国務大臣に対し、それに対する政府答弁書を決定する閣議の、何日前までに、配付されるのが通例であるかを明らかにされたい。
2 事務当局の官僚らが作成した政府答弁書案全文はそれをもって村山内閣総理大臣の答弁とするか否かを決する閣議の、何日前までに、国会に対し連帯責任を負う国務大臣に配付されるのが通例であるかを明らかにされたい。
3 前記1及び2に関し質問主意書及び政府答弁書案の閣僚に対する周知のあり方を定めた規程等があればその全文を明らかにされたい。
4 私は村山内閣の国務大臣が官僚の作成した政府答弁書案の内容を事前に知らされないままに、閣議で形式的承認を与えてしまうようなことがあるとすれば、それは国会の軽視、閣議の形がい化の典型であると判断するので、議員が提出する質問主意書も、これに対する政府答弁書案も、ともに、閣議の、少なくとも三日以上前に、閣議に出席する者全員に配付され、その内容について、予め、実質的に理解をする時間的余裕が与えられ、必要があれば国務大臣としての意見を述べる機会が政府答弁書議決規程(仮称)の制定等の形で、明確に保証されるべきであると考えるがこの点に関する村山首相の政治家としての見解を明らかにされたい。
5 政府が私の本件質問書に対する、平成七年十一月十四日付本件答弁書を作成する過程において、本件質問書第三項に対する政府答弁案の作成を担当した細谷龍平外務省経済局国際経済第二課長らの説明によれば(1)趣旨部分(2)第一項(政府答弁書を決定する閣議のあり方について)部分(3)第二項(大蔵官僚に対する国民の不信感について)部分(4)第三項(大韓航空機事件の真相究明を求めた国会決議について)部分がばらばらに分解され個々の政府答弁案の作成にあたる者に対しては本件質問書の全文が示されず、その個々の質問が本件質問書全体の中で、どのように位置づけられているのか、質問の趣旨部分との関係等一切知らされないままに、作業がすすめられた疑いが強いので以下の事項を明らかにされたい。

イ 本件質問書の趣旨部分に関し、関係国務大臣には該当しない国務大臣(以下においては「無関係国務大臣」という)であるとの判断から趣旨部分の配付を受けなかった国務大臣名と氏名
ロ 本件質問書の第一項部分に関し、無関係国務大臣であるとの判断から、第一項部分の配付を受けなかった国務大臣名と氏名
ハ 本件質問書の第二項部分に関し、無関係国務大臣であるとの判断から、第二項部分の配付を受けなかった国務大臣名と氏名
ニ 本件質問書の第三項部分に関し、無関係国務大臣であるとの判断から、第三項部分の配付を受けなかった国務大臣名と氏名
ホ 国会議員が国会法第七十四条によって提出する質問主意書を勝手に分断をし、個別の質問項目ごとに、法律上の根拠を欠如する、「関係国務大臣」などと称する極く一部の国務大臣に限定し、かつ不当にも質問書の細分化した断片を配付する「権限」は村山内閣においては誰(職・氏名)が、いかなる法律上の根拠条文に基づいて行使しているのか。
ヘ 本件質問書に関し、無関係国務大臣との扱いを受けた者は本件答弁書に関する限り、国会に対し国務大臣としての連帯責任は負わないのか。

二、大蔵官僚に対する国民の不信感について

 私が本件質問書において問題にしたのは、大蔵省の職員が自分も公平に費用を負担して他の省庁の職員や民間人と会食したり、清潔で品位のある交遊をしたりすることではない。大蔵省が大きな権力をもっていることが原因で実質的な力関係において下位である他の官庁の職員や大蔵省の監督下にある業界人から、一方的に「接待」を受け、自分の方は全く費用を負担しない行為が、国民の許容する常識的な「交際」の範囲を明らかに逸脱しているケースが多すぎることを問題にしているのである。
 「法令に照らして問題にすべきような事実があったという疑いがないにもかかわらず、職員の会食の状況等について調査を行い、これを公表することは、職員のプライバシー保護の視点から適当ではない」(二の1のホに対する答弁)との答弁は私の質問の趣旨を故意にねじまげ監督官庁(大蔵省銀行局)の高官たちが公務に密接したテーマに関し、現に銀行全体のあり方が国際的な批判にさらされている大和銀行の職員から自らは費用を負担することなく、一方的に酒食の接待を受けた事実に関する調査を拒み、かつ、調査をしていないのであるから、正確には事実関係は不明であるにもかかわらず、「法令に照らして問題にすべきような事実があったという疑いがない」と断定し、国民の怒りの声に謙虚に耳を傾け、公僕としてのモラルにより歯止めをかけることさえも拒んでいるのである。村山内閣の下においては、法律にさえ違反しなければ何をやっても「職員のプライバシー」として保護に価するというのであるか。本件答弁書からは、村山内閣の誠意ある反省の意思が全くうかがえないので、重ねて以下の質問をする。

1 日銀が実施する公定歩合の引下げは、市中金利の引下げに結びついてこそ、年金生活者をはじめとする預金金利の引下げに苦しむ人々の大きな不利益との比較においても一定の限度で、国民の同意が得られるのである。
 銀行の短期プライムレートは市中金利の水準を端的に示す指標であり、多数の国民の不利益を押して、日銀が実施した公定歩合引下げの政策効果が実際にどのように現れているかを調査し、実態を把握しておくことはこれにともなう多数の国民の苦痛を考えるならば大蔵省として当然の責務である。
 プライムレート決定権が民間の個々の銀行にあるという事実と、公定歩合引下げの政策効果が短期プライムレートの上にどのように反映しているかを敏速かつ的確に調査し、それを金融行政の上に、正しくフィードバックさせることが金融当局にとって、特に今日のような不況下においては、いかに大事であるかという事実とは、相互に何ら矛盾するものではない。
 本年九月上旬に日銀が実施した公定歩合の引下げ後、一カ月を経過後においても短期プライムレートの引下げを実施しなかった銀行数、同二カ月を経過後においても短期プライムレートの引下げを実施しなかった銀行数を、至急調査の上、都銀、長信銀、信託銀、地銀、第二地銀の別に明らかにされたい。
2 本年七月十七日に井口俊英大和銀行ニューヨーク支店行員(当時)が同行頭取あてに送付し、同行が同月二十一日に受取ったワープロでびっしり打たれた四十枚の犯行を詳細に告白した書状の件で、同月二十八日に同行が井口行員のもとに、書状の内容等を確認する目的で派遣した、安井健二副頭取(国際担当)と前ニューヨーク支店長の職にあった山路弘行常務取締役の両名からの報告を受け、井口行員からの書状の内容が全て事実であることを同行首脳部が確認した後の日であることが明らかな、同年八月八日に、西村吉正銀行局長が同行藤田頭取(当時)と会食した際及びそれ以後の事実経過に対し、日本国民からはもとより、国際的な批判の声があがっているので、以下の事項をそれぞれ個別に明らかにされたい。

イ 本年八月八日の会合は、大和銀行側の誰(職・氏名)から、銀行局側の誰(職・氏名)に対して、いつ、どのような趣旨の会合として、申込みがなされたものか。また右会合を仲介した政治家はいるのか。
ロ 右八月八日の会合は何時から、何時まで、どこで、誰々が出席して実施されたものか。
ハ 西村局長ら銀行局幹部は、右会合の申込みを受けた際、大和銀行側に対し、事件に関する説明資料を持参して大蔵省の庁舎内に出頭するように要求しなかった理由は何か。
ニ 七月下旬、ニューヨーク支店に安井、山路両役員を派遣した大和銀行側から同行のニューヨーク支店における調査等に基づく井口俊英行員からの告白の書状に記載された一千一百億円に上る不正取引による同行の損失の事実に関する詳細な報告を一時間以上にわたって受けた際、西村銀行局長が「この時期はちょっとまずいなぁ」と発言したというのは事実であるか。
 かりに右の銀行局長の発言が事実でないとすると、一時間以上にわたった右会合における双方のやりとりの要旨を明らかにされたい。
 なお、本件答弁書では「多額の損失を生じさせた旨の行員の告白の手紙を受け取ったが、真偽のほどが明らかでないので、事態の把握に努め、状況がわかり次第報告したい」との説明を大和銀行側がおこなったとの、全く信じ難い答弁がなされているが、わざわざ大和銀行内の施設に会合の場所を設定し、一時間以上にもわたって、頭取から、銀行局長が直接説明を受けた内容が、五分間もかければ終わってしまう程度の右のような無内容かつ簡単な報告であったとは国民は誰ひとりとして信じていないので、大蔵官僚に対する不信感をこれ以上、拡大させる前にこの際、内閣の責任において、関係者に対する事情聴取を実施し、責任ある報告を国会に対して、明らかにされたい。
ホ 八月八日当日、大蔵省側が井口行員からの告白の書状(写)の提出を求めなかった理由は、その必要がないほど、大和銀行側の説明が詳細なものであり、かつ、同日の会合の席上、右書状そのものを見せられ、内容を承知したからではなかったのか。
 かりにそうでないとすると、大蔵省が大和銀行に対し、右告白の書状(写)の提出をその後、五十日以上もの間、求めなかった理由を明らかにされたい。
ヘ 事件の大きさを一つとっても、ただちに大蔵大臣に対し事件の概略を一報すべき事案であるにもかかわらず西村銀行局長が八月八日に大和銀行頭取から受けた本件犯行に関する詳細な報告を一カ月以上も経過した九月十四日に至るまで、大蔵次官、大蔵大臣ら上司に全く報告しなかった理由を明らかにされたい。

3 本年八月八日の会合の席をふくめて、本年中において、大蔵省銀行局の職員で、自分の方は全く費用を負担することなしに、全額大和銀行側の費用負担において大和銀行関係者から一人・一回一万円をこえると推定される高額な酒食の接待又は贈答を受けた者の氏名、職名とその日時、場所(所在地と施設名)を、ただちに調査の上、明らかにされたい。
4 本件答弁書において、村山首相は公選された存在ではない大蔵官僚に、長期にわたってあまりに大きな権力が集中しすぎていることが、大蔵官僚の腐敗を生み、同時に国の内外における大蔵行政の破綻を結果した事実を反省し、大蔵省の事務を数省に分割するべしとの私の意見に対し、「予算編成、徴税、金融等のすべての機能」が大蔵省一省に集中していることが「我が国経済の円滑かつ効率的な運営に必要不可欠である」との反論をおこなっている。しかし、政府機能そのものにも匹敵する権限が一省に集中していることの結果が現に明らかな大蔵官僚のおごり、腐敗と、大蔵行政の破綻である。本年八月八日に大和銀行から、一時間以上もの時間をかけて詳細な報告を受けた大事件に関する情報が、銀行局長から事務次官に報告が届くのに三十七日間も必要とする現在の大蔵省のどこが「円滑かつ効率的」と言えるのか。日本国の憲法第六十五条は「行政権は内閣に属する」と規定し、行政権の行使は内閣においてこそ統一的に行使されるべきことを定めている。
 換言するならば、日本国の政治を議院内閣制の本旨に戻し、清潔で有能な公僕を政府職員の中から、政治のリーダーシップの下で着実に育成していく方向を明確に意識的にめざすべきなのである。
 以上明らかにした私の現状認識と意見に近い見解を持つ国民は、日々増加しつつある。村山内閣総理大臣は政治家として、戦後五十年の節目の年にあたり私が本件質問書において「叩き台」を提案したような大蔵省の分割をふくむ、大胆な行政機構の改革の方向性を明らかにされたい。

三、大韓航空機事件の真相究明を求めた国会決議について

以下の質問は具体的事件の性格上、内閣総理大臣、官房長官、運輸大臣、防衛庁長官、外務大臣らの所管事務に特に関係することは明らかであるが一九八三年九月一日の事件直後に、衆参両院が政府に対し、事件の真相を明らかにすることを求めた国会決議を全会一致で決議し、それ以降、十二年以上の歳月を経過しながら、「大韓航空機事件の真相を究明する会」(瀬谷英行参議院議員ら四名が代表理事)などに参加している右事件の遺族らから、政府の責任において、国会に対し事件に関する調査報告書を提出すべしとの要求を再三、再四にわたって受けながら、政府としての調査を怠たり、全く調査結果を報告せず、全てICAO(国際民間航空機関)の調査に委ねていると称しながら、そのICAOがおこなう調査活動に関しても、東京国際対空通信局が管制業務にあたっていた中で発生した撃墜事件であったにもかかわらず、以下において明らかにするように、〇〇七便のDFDR(フライト・レコーダー)やCVR(ボイス・レコーダー)の分析作業に際しても、米・露・韓の三国が多数の専門家を派遣し、ICAOによる分析作業に積極的に関与する姿勢を示したのに対し、日本政府はひそかに台木一成運輸省航空局調査員一人をパリに派遣したのみであり、かつまた、ICAOが一九八三年及び一九九三年に公表した調査報告書についても、私をふくむ多数の国会議員が仮に政府において、ICAOによる調査報告をもって、右国会決議に対応する報告と位置づけるのであれば、日本政府独自の報告は一切おこなっていないのであるから、日本の国会における公用語である日本語の訳文をきちんとつけて、さらにもし必要があれば、英文が正文であることを明確にことわった上で、ICAO報告書を正式に国会に提出することを要求してきたのに対し、外務省の官僚たちは「訳文を作成することは、調査の内容を独自に解釈し、ICAOによる調査の中立性、一貫性を損なうおそれがある」との、およそ理屈にならぬ理屈をつけて拒否している。
 ことは正に、国会の国政調査権に対し、村山内閣として、どれだけ誠意をもって情報公開をする姿勢を示すかが問われているのである。これほど明確かつ当然の要求に対し、国会軽視の態度を改めないのか否か、村山内閣の全閣僚の所信を明らかにされたい。
 本件答弁書からは官僚による「ことなかれ主義」的な、いいわけにもならない、いいわけしか聞こえてこない。右事件でその尊い生命を理不尽にも奪われた日本人乗客二十七名をふくむ二百六十九名の乗客乗員の犠牲と、事件直後に多くの虚偽の情報による情報操作を受けた日本をふくむ国際世論の損失を想起するならば、真相究明の為の実質的な国際協力に関しては極めて不熱心で、日本国内向けには、ICAOという国際機関の存在を「錦の御旗」にしながらも、「金を出すだけで、しかるべき人を出さない」、その非軍事分野における貧弱な「国際協力」のあり方の反省をふくめて、村山内閣が内閣の責任において、右国会決議に対し、政府としてどう答えるのかを明らかにすべきである。
 以上の観点から、以下の質問をする。

1 村山内閣として本件事件に関する正式な報告を国会に対しておこない、その際、参考資料として、ICAO報告書の日本語訳文を提出するべきであると考えるが、国会決議に応える報告を、いつ、どのような形でおこなう方針であるのか、それとも、このまま何もしないでうやむやのうちに放置する方針であるのか、政府として右国会決議に対してどうするのかを明らかにされたい。
2 政府職員でICAO事務局に勤務していた者の人数は一九八三年にはわずかに一名、一九九三年には三名ということであるが、その者の氏名及び現在に至る略歴を明らかにされたい。
3 一九九三年一月十一日から二十二日までの間、フランスのパリにある同国の事故調査局及び同国の飛行実験センターにおいて、ICAOが実施した大韓航空〇〇七便のDFDR(フライト・レコーダー)及びCVR(ボイス・レコーダー)の分析作業に際し、米国三名、ロシア五名、韓国五名、日本一名のオブザーバーが立ち会ったとのことであるが、以下の事項を明らかにされたい。

イ オブザーバーとして参加した右十四名の者らはICAO職員らが実施した右分析作業を単に観察者(オブザーバー)として観察していただけであるのか、それとも資格はオブザーバーではあるが実質的にはICAO職員らと共に、分析作業そのものに参加したのであるか、右オブザーバーたちの具体的な行為の態様はどうであったのか。
ロ 日本政府はなぜ、台木一成運輸省航空局調査員一名だけという、他国の派遣したオブザーバー陣に比較して、その構成において、見劣りのする、真相究明への熱意が全く認められない「国際協力」の方法を選択したのか。その理由及び台木調査員の略歴を明らかにされたい。
ハ フランス政府が、ICAOに対して無償で提供した同国の施設及び専門家が〇〇七便のDFDR(フライト・レコーダー)及びCVR(ボイス・レコーダー)の分析作業をすすめる上で、実質的に大きな役割を果したのではないかと判断されるが、同国が提供した専門家の人数及びその主要なメンバー数名の氏名及び略歴を明らかにされたい。
ニ 大韓航空は本件事件の被告として米国及び日本の法廷において故意又は故意と同等の重大なる過失責任を問われているのであるから、右被告関係者が重要証拠の解釈に直接関与することには疑問があるが、大韓航空パイロット及び同社技術者は具体的にどんな行為をしたのかを明らかにされたい。またCVR(ボイス・レコーダー)の分析にあたった者のうち、韓国政府及び大韓航空関係者以外の者で韓国語の分る者の氏名、略歴を明らかにされたい。

4 ICAOが作成した(1)一九八三年十二月の最終報告書(2)一九九三年三月十一日の中間報告書(3)一九九三年五月二十八日の最終報告書(4)一九九三年六月八日の最終報告書追補に関し、以下の事項を明らかにされたい。

イ (1)乃至(4)の各報告書に関し、運輸省、防衛庁、外務省において名目上は「仮訳」の形にせよ、事実上日本語訳本を作成しているものはいずれであるか、省庁別に明らかにされたい。
ロ (1)乃至(4)の原書の頁数はA4判で表裏を合わせて、それぞれ全部で何頁であるか、またその本文と付録はそれぞれ何頁であるのかを明らかにされたい。
ハ 一九八三年十二月の最終報告書の作成の頃から翌年の航空委員会委員長報告書の作成の頃までは多数の「ワーキング・ペーパー」が作成公表され、ICAOの中立性を明らかにする為、その内部討論の過程についても国際世論の前に情報を公開する正しい姿勢が認められたのであるが、一九九三年五月二十八日の最終報告書に先立って作成された一九九三年三月十一日の中間報告書についてはなぜか「秘密扱い」になっているとのことであるので、誰が、誰に対して、いつまで、何を、いかなる利益を守ることを目的として、右中間報告書の「秘密扱い」を決定したのかを明らかにされたい。

5 防衛庁は本件事件に関し、多数の記者会見での見解表明に加えて、「昭和五十八年九月一日大韓航空機を要撃したソ連機の交信記録」及び「自衛隊のレーダーデータによる大韓航空機の高度及び速度等」などを公表しているがICAOが一九九三年五月二十八日の最終報告書で明らかにしたサハリン近辺における大韓航空機の航跡、高度、速度と防衛庁が事件直後から一九八五年にかけて公表したそれとの間に、いくつかの重大な相違点が認められる事実に関し、防衛庁がおこなった説明は「誤りであった」と自ら評価しているのか否かを明らかにされたい。
6 旧ソ連と米国が直接国境を接し、特に一九八二年から一九八三年にかけて、軍事的緊張が高まっていたカムチャツカ半島近辺の空域に関し、この地域に侵入する航空機については軍用機であると、民間機であるとを問わず、両国の軍事当局が厳重なる監視下においていたことは周知の事実であるが、米空軍には一九八二年二月二日に制定された米空軍省規則ANR/AAC REGULATION 60-1の3-C-(2)の規定により、大韓航空〇〇七便が侵入した空域に立ち入った、又は立ち入りそうな民間航空機をレーダーで発見した空軍担当者に最も近い米国連邦航空局のフライト・ステーションに対する通報義務が存したことは一九八五年八月三十日付けで米国連邦裁判所に提出された原告運営委員会申立書によっても具体的に引用指摘され、日本国内においても例えば一九九三年九月一日及びその後毎年の「大韓航空機事件の真相を究明する会」の記者会見等においても、米国情報公開法により同会が入手した資料の公表等によって明らかにされているところであるが、防衛庁、運輸省、外務省は右米空軍省規則の規定に関し、いかなる認識を有しているのかをそれぞれ明らかにされたい。
 仮に、右空軍省規則の存在を知らないというのであれば、その怠慢は明らかであるから、至急調査の上、明らかにされたい。

  右質問する。