質問主意書

第134回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一号

村山内閣の基本姿勢に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成七年十月二十六日

田 英夫   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   村山内閣の基本姿勢に関する質問主意書

 申すまでもなく本年は我が国が太平洋戦争に敗れた一九四五年から数えて、戦後五十年という、節目の年にあたっている。
 私は単に数字の上で節目の年だというだけでなく、政治、経済、社会の全般から、我が国の将来を決する大きな問題が噴出しているという点において、正に節目の年だと考えるものである。
 天皇主権を定めた大日本帝国憲法と無責任な軍国主義の下で戦われた戦争に、国の内外の出来事に関する正確な情報を与えられず、半ば耳目を奪われて動員された私たちの反省は日本国憲法の国民主権、平和主義、基本的人権の尊重の三大理念に集約され、それが大筋において戦後五十年の「平和と民主主義」を支えてきたかに見えるが、最近における国会の形がい化、閣議の形がい化と一対をなすものとしての「官僚による政治」の弊害の顕在化には目をおおいたくなるものがある。
 国民主権の大原則が、タテマエではなく、実質的に我が国の日々の国政の上で、実際に貫徹しているか否かを深く反省するところから、政治におけるリーダーシップの方向性をはっきりさせることが何よりも大切ではないであろうか。
 民主政治の根幹をなすものは、賢明な国民の存在である。主権者である国民に対して、国政に関する情報が十分公開されることによって、国民の判断を誤らせることがないようにするシステムが十分確立し、それが正常に機能しているか否か、現実に国民の委任を受けて権力を行使する者の行動に透明性が確保され、その者が国民に対して責任を負う意識と制度が十全に確立し、それが正常に機能しているか否か等々が、今まさに「政治不信」「官僚不信」の根底にある諸問題を解決していくにあたって、まっさきに問われなければならない事項ではないであろうか。
 政治家の側に公選された者としての責任の自覚とその理念と政策を現実政治の場で実践する力量が不足する場合、重要な意思決定が事実上、官僚の手でおこなわれ、議院内閣制を実質あるものとする省庁の長としての、あるいは閣議のメンバーとしての国務大臣(政治家)の存在さえも極めて影がうすいものになりがちである。
 私は中島義雄氏(大蔵省の元主計局次長)に代表される大蔵官僚の腐敗は、公選された存在ではない大蔵官僚が、予算編成権、徴税権、財政運営権等々の権力を事実上長期にわたって独占してきたことにともなう必然的腐敗であり、「行政各部を指揮監督する」(憲法第七十二条)内閣総理大臣の権限が、その人事権の行使をふくめ、村山富市首相によって、正常に行使されてこなかったところに、真の原因と責任があると考えるものである。
 以上の観点から、以下、具体的ないくつかの事案に即して、村山内閣の基本姿勢に関する疑問点について質問する。

一、政府答弁書を決定する閣議のあり方について

1 国会法第七十四条によって提出された質問主意書の全文は村山内閣の国務大臣に対し、それに対する政府答弁書を決定する閣議の、何日前までに、配付されるのが通例であるかを明らかにされたい。
2 事務当局の官僚らが作成した政府答弁書案全文はそれをもって村山内閣総理大臣の答弁とするか否かを決する閣議の、何日前までに、国務大臣に配付されるのが通例であるかを明らかにされたい。
3 前二項に関し質問主意書および政府答弁書案の閣僚に対する周知のあり方を定めた規程等があればその全文を明らかにされたい。
4 私は村山内閣の国務大臣が官僚の作成した政府答弁書案の内容を事前に知らされないままに、閣議で形式的承認を与えてしまうようなことがあるとすれば、それは国会の軽視、閣議の形がい化の典型であると判断するので、議員が提出する質問主意書も、これに対する政府答弁書案も、ともに、閣議の、少なくとも三日以上前に、閣議に出席する者全員に配付され、その内容について、予め、実質的に理解をする時間的余裕が与えられ、必要があれば国務大臣としての意見を述べる機会が政府答弁書議決規程(仮称)の制定等の形で、明確に保証されるべきであると考えるがこの点に関する村山首相の政治家としての見解を明らかにされたい。

二、大蔵官僚に対する国民の不信感について

 報道によれば、大蔵官僚の中に、官僚が官僚を接待するいわゆる「官官接待」を受けたり、また、親族でもない第三者から、正当な理由のない金品の贈与を受けたり、官庁の部屋や電話を私的に使用し、自分の公職上の人脈やそれに基づく影響力を利用して私的な事業を営んだりする者が相当数存在するようであるが、これは主権者である国民によって公選された者ではない者に、異常に大きな権力が国民に対する適正な緊張関係を欠いた状態のまま、実質的に長期にわたって集中したことによる必然的な腐敗現象であり、現在、国の内外において顕著な大蔵行政の全般的破綻と大蔵官僚の傲り・腐敗とはメダルの表裏の関係にあると思われるのでこの際、内閣の責任において、徹底的な真相の究明と綱紀の粛正をおこなうべきであると考え、以下の疑問点を質問する。

1 大蔵官僚による都銀、地銀、第二地銀に対する不明瞭な問題行動に関し、以下の事項を明らかにされたい。

イ 一九九五年三月期決算現在の現職の銀行役員の内、大蔵省出身者九十五人、日銀出身者六十四人の氏名および退職年月日、退職時の職名および退職後に就職した銀行名、現職名および銀行役員就任年月日
ロ 日銀が本年九月上旬実施した公定歩合引下げ後、一月間を経過した後においてもなお融資相手に対する短期プライムレートの引下げをおこなわなかった銀行名
ハ 大蔵省職員が、大和銀行の井口俊英行員(当時)が藤田頭取にあてた犯行告白の手紙(本年七月二十一日受取)の写しを同行関係者より受領した日時、場所(所在地と施設名)
ニ 西村吉正銀行局長が、井口俊英行員(当時)が大和銀行に対し、一千億円以上の違法な損失を与えていた事実を、最初に同行側から通知された日時、場所(所在地と施設名)
ホ 大蔵省銀行局職員で、本年中に、大和銀行関係者より、一人・一回一千円を越える酒食の接待を受けた者の氏名、職名とその日時、場所(所在地と施設名)
ヘ 大蔵大臣が西村吉正局長以下の銀行局幹部を更迭しない理由

2 村山首相はこの際、権力集中の弊害顕著な大蔵省の所管事務を予算編成、徴税、金融、財務に四分割し、例えば予算編成は内閣総理大臣の直轄とし、他の三部門は国税省(主税局、関税局をふくむ)、金融省(銀行局、証券局、国際金融局をふくむ)、財務省(理財局その他)として、各々国務大臣をその長にあてる等、大蔵省の分割を筆頭とする思い切った行政各部の組織改革のリーダーシップをとるべきであると考えるが村山首相の政治家としての大所高所に立って見解を明らかにされたい。

三、大韓航空機事件の真相究明を求めた国会決議について

 官僚が主権者である国民に対して情報を開示せず、自分たちの判断で情報を独占したり、情報を操作することは民主国家においては許されないことである。
 一九八三年九月一日の大韓航空〇〇七便の撃墜事件は日本人乗客二十七人をふくむ二百六十九人の乗客乗員がサハリン近辺で死亡した事件であるが同機が五時間以上にわたり、当時米ソ両国の軍事的緊張の高まっていた、カムチャツカ半島、オホーツク海、サハリンといったソ連領空に、なぜ大幅な航路逸脱をして侵入してしまったのか、政府はその原因を明らかにすべしとの声は、事件直後に我が国の衆参両院の本会議において、全会一致で議決された国会決議にも十分反映されている。
 しかしながら、政府は、国会および国民に対し、政府の責任において、右事件に関する報告を全くしていないので、疑問点について、質問する。

1 本件国会決議を受けて、政府部内において、本件真相究明にかんする職務を担当してきたのは、何省、何局、何課であるか、事件直後から、今日に至る間の主管官庁を明らかにされたい。
2 ICAO(国際民間航空機関)が一九八三年十二月および一九九三年六月に各公表した報告書をICAOにおいて採択した際、右に賛成した我が国の代表者の氏名、ICAOにおける役職名、我が国における役職名を明らかにされたい。
3 細川内閣は平成五年八月二十七日付答弁書において、ICAO報告書の日本語訳文を国会に提出すべしとの私の要求に対し、訳文をつけることは「調査の内容を独自に解釈して発表する」ことになるから、との理屈にならぬ理屈をつけて拒否したが、村山内閣は日本の国会における公用語は日本語であるからICAO報告書の正文は英文であることを明確にことわった上で日本語の訳文を参考資料として国会に提出するべきであって、日本の国会議員に英文を英文のままで考えよと要求する態度は許し難い国会軽視であると思うが村山首相の見解を明らかにされたい。
4 我が国はICAOに対し、一九八三年一月一日以降一九九四年十二月三十一日に至る間、毎年いくらの費用をどのような支払名目において支払ったか、また、我が国の政府職員でICAOに就職していた者の人数を各年末毎に明らかにされたい。
5 一九八三年十二月の報告書および一九九三年六月の報告書を作成した際のICAOの委員会の長および事務局幹部職員(課長以上)の職名、氏名および組織図を明らかにされたい。
6 一九九三年六月のICAO報告書を作成することに関与したICAOの職員等の能力、経験に疑問があるので、以下の者の氏名、年齢、国籍、略歴等を明らかにされたい。

イ 〇〇七便のDFDR(フライト・レコーダー)の分析を直接担当した技術者
ロ 〇〇七便のVOR(ボイス・レコーダー)の分析を直接担当した技術者
ハ 右VORの中に出てくる韓国語の会話をICAO報告書にある英語に翻訳した者

7 右DFDR、VORの分析作業には、日・米・露・韓の四ヵ国政府の代表がオブザーバーの資格で立会ったとのことであるが以下の事項を明らかにされたい。

イ 右DFDRの分析、VORの分析にそれぞれオブザーバーが立会った日時、場所(所在地と施設名)
ロ 右DFDRの分析、VORの分析にそれぞれオブザーバーとして立会った右四ヵ国代表の人数、氏名、職名、略歴

8 右DFDR、VORの分析作業および一九九三年六月の報告書の作成のためにICAOが支払った費用の総額と日・米・露・韓の各国が分担した金額を明らかにされたい。
9 右DFDR、VORの分析作業のためにICAOに対し、施設または機材を提供した国があれば個別に有償・無償の別をふくめてその内容を明らかにされたい。
10 右に関し、調査団が作成した中間報告書(一九九三年三月十一日作成)および最終報告書追補(一九九三年六月八日作成)の内容を全文明らかにされたい。
11 政府は本件事件当時、米空軍には、大韓航空〇〇七便が侵入した空域に立入る全ての航空機に関する監視と通報義務を定めた米空軍規則ANR/AAC60の1の3のCの(2)(一九八二年二月二日付)が存在した事実をいつ知ったかを明らかにされたい。
12 一九八三年十二月のICAO報告書に対し、ICAO航空委員会は一九九四年に異議を唱える委員長報告を出しているが、一九九三年六月のICAO報告に対し、ICAO航空委員会はいかなる検討をしたのか、また検討をしなかったとしたら、その理由を明らかにされたい。
13 事件当時、米国政府の国務長官として、米国政府を代表して本件事件に関する声明を出すなどの活躍をしたジョージ・シュルツ氏はその著書(Turmoil and Triumph)の中で、一九八三年九月一日十一時四十五分(世界標準時)に、国務省で「日本の情報機関」が作成した報告書を見せられた事実を証言しているが、右証言は当時、日本政府が国内において公表していた事実と矛盾するので、以下の疑問点を明らかにされたい。

イ 稚内基地のソ連要撃機の交信傍受テープを日本側が米側に交付したのは非公式のものをふくめて、一番最初のケースは、誰が誰に対し、いつ、渡したものか。
ロ シュルツ氏が著書で明らかにした時間内に「日本の情報機関」が報告書を作成したのか。
ハ 自衛隊の末端機関から、(矢崎防衛局長、中曽根首相の個別の許可を得ることなしに)直接、自動的に米側に情報が伝達されるシステムはなかったのか。

14 一九八三年九月四日付ワシントン・ポスト紙によると、大韓航空〇〇七便に搭乗していたラリー・マクドナルド下院議員のアシスタント、フレデリック・スミス氏は同年同月一日午前一時頃(現地時間)、米国国防総省において、日本からファックス送信された、ソ連要撃機の交信傍受記録を、読んで聞かされた事実を明らかにしているがこれは当時、日本政府が国内において公表していた事実と矛盾するので、以下の疑問点を明らかにされたい。

イ 日本側が米側に、ソ連要撃機の交信傍受記録(文書)をファックス送信した事実はあるか。
ロ 右交信傍受記録(文書)を日本側が米側に交付したのは非公式のものをふくめて一番最初のケースは誰が誰に対し、いつ渡したものか。

  右質問する。