質問主意書

第132回国会(常会)

質問主意書


質問第三一号

首都圏中央連絡道路(神奈川県境~一般国道二〇号間)建設事業及び八王子都市計画道路三・三・二号線建設事業の環境影響評価に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成七年六月十五日

上田 耕一郎   


       参議院議長 原 文兵衛 殿


   首都圏中央連絡道路(神奈川県境~一般国道二〇号間)建設事業及び八王子都市計画道路三・三・二号線建設事業の環境影響評価に関する質問主意書

 建設省関東地方建設局と東京都は、一九九五年一月、首都圏中央連絡道路(神奈川県境~一般国道二〇号間)建設事業環境影響評価書案及び八王子都市計画道路三・三・二号線(八王子市北野町~南浅川町)建設事業環境影響評価書案を発表した。
 首都圏中央連絡道路都内部分については、一九九〇年に埼玉県境から国道二〇号までの区間について都市計画決定が行われている。ところが、今回の計画は、この既決定の計画を一部大幅に変更し、国道二〇号と圏央道が交わる高尾山南山麓の南浅川に巨大なインターチェンジを新たに建設することとなっている。
 八王子都市計画道路三・三・二号線は、南浅川インターチェンジに端を発して圏央道と都心を結ぶ新たな圏央道アクセス道路で、上下四車線(街路部を含めると六車線)、信号なしの自動車専用道路として、八王子市街、日野市をへて、すでに供用中のいわゆる東八道路に接続することが予定されている。国道二〇号(甲州街道)と並行して都心へのびる、まさに第二甲州街道である。
 高尾山北山麓の裏高尾にはすでに中央自動車道とのジャンクション計画がある。新たに今回の二事業が実行されるならば、高尾山は北と南を巨大なインターチェンジでしめつけられるうえ、南浅川地域では圏央道の高尾山トンネルと城山トンネル、三・三・二号線の浅川トンネルの三つのトンネル出口が集中することとなる。高尾山をとりまく自動車交通量の増大、大気汚染など環境破壊が激烈に進行することは必至である。高尾山をつらぬく無謀なトンネル計画はもちろん、都民のオアシス、自然の宝庫・高尾山を破壊する今回の二つの道路計画事業は中止し、再検討すべきである。
 ところが、今回提出された環境影響評価書案は、現状の環境影響評価制度の持つ根本的な問題点は別としても、二事業が高尾山とその周辺の自然と環境に及ぼす影響を真剣かつ科学的に検討したものとはいいがたい。評価書案説明会の非民主的運営にも住民のきびしい批判が寄せられている。このことは、建設省の今後の道路事業全体にもかかわる問題であり、すみやかに是正されるべきである。よって、以下、今回の二つの環境影響評価書案に関する主な点について質問する。

一、環境影響評価書案説明会の運営について

(1) 本年三月二二日の環境影響評価書案説明会は、二つの評価書案について一括して行われ、整然と行われていたにもかかわらず多くの質問者を残したまま約二時間で一方的に打ち切られた。主催者は打ち切りと同時に控え室に走り込み、内がら鍵をかけるという態度すらとった。
 東京都環境影響評価条例は、説明会の目的は「評価書案の内容を関係地域の住民に周知させるため」(十七条)としている。事前配付の評価書案は膨大なもので、一般の住民は、説明会で説明を聞き、質問しなければとうてい理解することはできない。事業者には、十分時間をかけて、住民の理解を得る義務がある。
 今回のように、住民の質問や再質問にまともに答えず、一方的に説明会を打ち切るやり方では、とうてい評価書案の内容を「周知」したことにはならない。また、二つの評価書案の説明会を一括して行うことは、そもそも無理がある。
 建設省は、評価書案作成者として説明会当日の事態をすみやかに調査し、あらためて住民が納得のいくまで説明会を開催すべきであると考えるが、どうか。

二、自動車保有台数予測と交通量予測について

(1) 両評価書案では、環境影響評価の前提となる自動車保有台数予測を、一九九〇年現況の約五千八百万台を基準に、二〇一〇年で約七千三百万台としている。
 ところが、建設省道路局監修の『道路行政』平成六年度版によれば、自動車保有台数の伸び率は一九九〇年~一九九三年で一〇%であり、年平均で約三%となっている。これから二〇一〇年を推計すると、伸び率年三%の場合で一億四百万台、伸び率年二%としても八千六百万台となる。
 また、一九九五年一月現在の自動車保有台数は約六千五百万台であり、一九八〇年時点の三千七百二十万台から十五年間で二千七百八十万台増、年平均では百八十五万台の増加となっている。ところが、評価書案の予測によれば、今後十五年間(一九九五年から二〇一〇年)の保有台数増は八百万台(六千五百万台が七千三百万台に)、年平均では五十三万台にすぎないこととなる。
 評価書案の自動車保有台数予測における増加見込みがこのように現状の増加実績から急減するのはなぜか、具体的な根拠を示されたい。
(2) 圏央道評価書案では、南浅川の八王子南インター以北の圏央道予測交通量を一日四万三百台とし、一九八八年の圏央道都内部分(国道二〇号以北)建設事業環境影響評価書(以下、「前回評価書」という)の予測より三千台増加するとしている。その根拠は何か。
(3) 圏央道評価書案では、「前回評価書」と比べて大型車混入率予測が減少している(たとえば、朝五時で八一%が七二%に減少など)。その根拠は何か。
(4) 三・三・二号線評価書案では南浅川地点での予測交通量(二〇一〇年)を一日二万千百台としている。この交通量は、圏央道、国道二〇号との関係でどのように出入りするものと見込んでいるのか。その具体的数値を示されたい。また、二事業による国道二〇号の交通量の変化をどのように予測しているのか、具体的数値を示されたい。
(5) 三・三・二号線は、いわゆる東八道路と接続する計画であることが明らかにされている。評価書案の三・三・二号線交通量予測は、東八道路と接続したものとして行っているのかどうか、明らかにされたい。

三、大気汚染について

(1) 両評価書案は、大気汚染の予測にプリューム・パフモデルを用いている。しかし、予測手法については、建設省自身が『沿道地域住居環境整備に関する総合技術の開発』(一九八八年)で、山や谷、峡谷部分をふくむ「地形などが複雑な箇所」では「風洞実験が有力な手法となる」と述べており、東京都の「環境影響評価制度の手引き」でも、「大気拡散式による予測計算」は「複雑な地形などの場合に適用することは難し」く、この場合「『模型実験』または『野外拡散実験』を行って複雑地形の影響を把握する」としている。説明会で建設省担当者自身が述べたように、山間地である南浅川と起伏に富む三・三・二号線予定地域が「複雑な地形」であることは明らかである。したがって今回の環境影響評価にプリューム・パフモデルを使うことは不適切であると考えるが、どうか。
(2) 標高差が大きい丘陵地、低地あるいは山谷地形では、秋季から春季にかけて長時間接地逆転層が発生することが明らかとなっており、地元市民団体と研究者による発煙実験でも実証されている。「前回評価書」に対しても、都知事が、「計画路線周辺地域での接地逆転層の発生については、出現頻度や強度等を把握するとともに予測との関係を明らかにすること」との意見を提出している。ところが、今回の両評価書案では、高濃度大気汚染が出現しかねないこの接地逆転層の発生そのものが調査・予測の対象にされていない。
 建設省は当該地域の逆転層発生についてどう認識しているのか、また、都知事意見にもかかわらず、逆転層問題について調査・評価しなかったのはなぜか、明らかにされたい。

四、騒音について

(1) 三・三・二号線評価書案では、計画路線が橋梁で町田街道と交差する館ケ丘(評価書案一四一ページの調査地点(8))の騒音予測は朝・昼・夕・夜とも環境基準を下回るとしている。一方で評価書案は、騒音の現況について、館ケ丘のやや北側に位置する町田街道沿いの騒音調査地点(狭間町一七三七)で、朝・昼・夕・夜とも要請限度すら上回っているとしている。これでは、三・三・二号線ができて騒音が減少することとなるが、その根拠を示されたい。
(2) 両評価書案の騒音予測は、地上一・二メートルで行われているが、圏央道南浅川インターをはじめ両計画路線には橋梁部分が多いうえ、高台の団地に接した部分も多く、より高い地点での騒音予測が必要である。東京都環境保全局が中央自動車道三鷹付近で行った騒音の現況調査によれば、地上一・二メートルでは朝五五、昼五五、夕五四、夜五二ホンであるが、地上一三・三メートルではそれぞれ七〇、七〇、七〇、六八ホンとなっている。前回評価書の案(一六〇ページ)では、地上五メートル以上では基準をこえるとの南浅川などのデータも示されている。今回の両事業でも高所の騒音調査予測を行うべきと考えるが、どうか。実施したのであれば、結果を明らかにされたい。

五、残土処理について

 圏央道、三・三・二号線の二つの計画は、トンネル部分が多く、実施された場合大量の残土発生が予想される。しかし、いずれの評価書案にも残土問題の検討が行われていない。それぞれの事業で発生が予測される残土量、拠出予定ルート、使用車両台数、処分予定地などについて明らかにされたい。

六、圏央道の国道二〇号以北部分の環境影響評価再実施について

 今回の二事業は、新たなインターチェンジとアクセス道路建設という点で、九〇年に都市計画決定された圏央道都内部分(埼玉県境~国道二〇号間)の大幅な計画変更となっている。評価の前提となる自動車保有台数予測(前回評価書案では二〇〇〇年で五千八百万台)は、すでに現時点で七百万台もの超過となり、今回の評価書案では予測を大幅変更せざるをえなくなっている。
 したがって圏央道都内部分(埼玉県境~国道二〇号間)の環境影響評価をやり直すべきと考えるが、どうか。

  右質問する。