質問主意書

第132回国会(常会)

質問主意書


質問第二九号

小田急小田原線(世田谷代田駅~喜多見駅間)連続立体交差事業及び複々線化事業に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成七年六月十五日

上田 耕一郎   


       参議院議長 原 文兵衛 殿


   小田急小田原線(世田谷代田駅~喜多見駅間)連続立体交差事業及び複々線化事業に関する質問主意書

 都市高速鉄道第九号線小田急小田原線(世田谷代田駅~喜多見駅間)連続立体交差事業及び複々線化事業(以下「本事業」という。)は、東京都世田谷区内の住宅地に高さ十二メートル、四線幅二十メートルの高架鉄道を建造する計画であり、騒音公害、日照被害、地震災害などの問題で、沿線住民の不安と怒りが高まっている。周辺の住環境や町並みに重大な影響を及ぼす事業については、地元自治体や住民の意向を十分踏まえて実施すべきものであるにもかかわらず、事業主体である東京都は住民の反対や建設的な地下方式の提案を無視して、高架方式で事業を強行しようとしている。本事業は建設大臣の認可にかかるものであり、かつ五十嵐元建設大臣や野坂建設大臣も東京都に対して住民とよく協議すべきであると表明した重要問題でもあり、東京都の問題として見過ごすことはできない。
 よって、以下質問する。

一、本事業にかかる連続立体交差事業調査について

 本事業の問題は、高架方式とすべきか、地下方式とすべきかが最大の焦点である。しかるに本事業にかかる連続立体交差事業調査では、その比較検討が十分行われたとは到底みとめられない。

1 建設省が定めた「連続立体交差事業調査要綱」(以下「調査要綱」という。)によれば、同調査は関係機関と十分調整して行うこととされている。東北沢駅~喜多見駅間の小田急線連続立体交差事業調査について、国は詳細な報告を受けているとのことだが、事後に報告を受けただけか、それとも国の機関は調査の実施にあたって東京都との調整にかかわっていたのか。かかわっていたとすれば、その機関、部署はどこか。また、どのような調整をしたか。
2 国は、右調査の報告書等を受領していないとのことだが、現在でもそうか。
3 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「補助金適正化法」という。)第十四条は、「補助事業者等は、各省各庁の長の定めるところにより、補助事業等が完了したとき(中略)は、補助事業等の成果を記載した補助事業等実績報告書に各省各庁の長の定める書類を添えて各省各庁の長に報告しなければならない。」と定め、第十五条は国がこれらの書類を審査することを定めている。この規定はこれらの書類を国に提出することを求めていると考えられるが、どうか。
4 前記調査は国の補助事業であるが、右規定に基づく補助事業等実績報告書は国に提出されていないのか。提出されていないのであれば、なぜそれを放置したか。提出されているとすれば、いつ、どの機関、部署が受領したか。また各省各庁の長の定める書類として添付されていた書類は何か。
5 調査要綱は、「調査における一部作業の鉄道事業者への委託は必要最小限とし」と明記しているが、その目的はなにか。本事業にかかる調査は、まるまる鉄道事業者への委託で実施されているが、これは調査要綱の趣旨に反するのではないか。国は、鉄道事業者に全面的に調査を委託することを了承し、あるいは承知して黙認していたのか。そうであるとすれば、なぜ調査要綱に反する調査方法を了承あるいは黙認したのか。
6 調査要綱は、「比較案を数案作成し、比較評価を行うものとする」としている。本事業調査においては、二線二層シールドの地下方式は比較評価していないが、調査の調整に当たった国の機関はそれを承知していたのか。また了承したのか。二線二層シールドの地下方式を比較評価しない調査は、調査要綱の趣旨を十分満たしていないと考えるが、どうか。理由も含めて見解を明らかにされたい。
7 右調査は東北沢駅~喜多見駅間を対象としたものであるが、東北沢・梅が丘間については引き続き検討を要する区間とし、梅が丘・喜多見間の構造形式の比較検討は東北沢・梅が丘間の構造形式とは無関係に行っている。本事業は連続立体交差事業と複々線化事業を一体で行うものであり、東北沢・梅が丘間もあわせて実施しなければ効果が十分発揮されない事業である。高架形式と地下形式の比較検討においては、接続する区間の形式が極めて重要な要素となるのではないか。当然連続する区間の構造形式をどうするかを視野において比較検討すべきものではないか。
8 東北沢・梅が丘間については現在の都市計画では地表式となっているが、東京都はその区間についても都市計画を変更して連続立体交差事業を実施する意向を公式に表明している。特に下北沢駅付近については高架形式は難しい問題があることを都議会での答弁で認めており、用地買収も行われておらず、地下形式となる可能性が強い。右調査報告書は、「3-1連続立体交差方式の設計」中の「2)構造形式の評価」で、環七・環八間について四案、環八・喜多見間について二案の比較検討の結果を記載し、梅が丘・祖師ケ谷大蔵間は高架形式が適切であると結論している。しかしここで高架以外の比較案について指摘されている問題点は、東北沢・梅が丘間も含めて二線二層シールドの地下方式とすればすべて解消されると考えるが、どうか。

二、都市計画事業の認可について

1 本事業の都市計画事業認可に関して、六月八日の参議院建設委員会における私の質問に対し、建設省の近藤茂夫都市局長は、都市計画に適合し、事業施行期間が適当であるという判断で事務的にも認可したが、その前提として知事の直接の意向を確認して進めたという趣旨の答弁をした。都市計画事業の認可に当たっては、当該事業の計画が適法であるか否かという以外に、総合的に妥当であるかどうかという判断はないのか。
2 本事業は、住宅地に高さ十二メートル、四線幅二十メートルの高架鉄道を五・六キロメートルにわたって建造する計画であり、住宅の窓近くに十輌編成の列車が一日八百本~千本も走ることとなれば住環境の重大な悪化を招くことは必至である。そのため五十嵐元建設大臣は、認可申請翌日の昨年四月二十日、周辺住民に対して申請を凍結し認可はしないと表明した。ところがそのわずか一か月後に、後任の森本建設大臣が、周辺住民に対して何ら説明することなく突然事業を認可した。これは建設省の最高責任者の言明を一方的に翻したことであり、許されない背信行為である。
 この一か月で建設大臣の判断が百八十度転換した以上、当然その間に、騒音、振動、日照、眺望など本事業による周辺住民の生活に対する影響や、住民が提起している二線二層シールドの地下方式との比較などについて十分な調査検討を行って建設大臣としての責任ある判断を下したはずだが、いかなる調査検討を行ったのか。またそれらについてどのような理由でどう判断を下したのか。それとも、前任大臣が凍結を言明した事業について、特段の独自調査もしないまま認可したのか。
3 都市計画法第六十条及び同法施行規則第四十七条によれば、都市計画事業の認可申請には事業地を表示する図面を添付することが義務づけられており、同条で準用する同法第十四条第二項によって、右事業地の表示は「土地に関し権利を有する者が自己の権利に係る土地がこれらの区域に含まれるかどうかを容易に判断することができるものでなければならない。」と定められている。同法施行規則第四十七条は、事業地を表示する図面は「縮尺二千五百分の一以上の実測平面図」(当分の間三千分の一以上)によって収用部分等を図示することとされている。しかし、いまだに事業地の測量は行われていない。
 本事業の認可申請には、縮尺二千五百分の一または三千分の一以上の実測平面図によって事業地を表示する図面は添付されていたのか。その図面は測量法に従った測量に基づいて作成されたものか。そうでないとすれば当該認可申請は都市計画法第六十一条の認可の基準に適合しないと思われるが、なぜ認可したのか。

三、事業費の算定について

 東京都は、高架方式の事業費は千九百億円、二線二層シールドの地下方式の事業費は三千億円とし、高架方式の方が二線二層シールドの地下方式よりも事業費が安いことを高架方式採用の最大の理由としている。
 かつて国は、千九百億円の内訳や三千億円の試算の根拠は承知していないと国会に答弁した。補助金適正化法第六条第一項は、補助金の交付決定に当たっては「補助事業等の目的及び内容が適正であるかどうか、金額の算定に誤りがないかどうか等を調査」することを義務づけ、同法施行令で関連書類を明示している。したがって、本事業に対する補助金の交付決定に当たって、国は、高架方式による事業が適正であるかどうかを調査する義務がある。事業費の算定は高架方式採用の重要な要素であり、その内訳や算定根拠について国は調査する責任があるのであって、東京都の算定だから国は承知しないということではすまされない。

1 国は、本事業に対する補助金の交付決定に当たって、本事業の目的・内容が適正であるかどうかについていかなる調査をしたのか。その際、高架方式を採用することが二線二層シールドの地下方式を採用するよりも適正であるかどうかについても調査して、高架方式の本事業を補助金を交付すべきものと認めたのか。そうであれば、そう認めた理由を明らかにされたい。
2 高架方式の事業費千九百億円について、「都市における道路と鉄道との連続立体交差化に関する協定」(以下「建運協定」という。)第六条第一項に記載されている費用の別毎に、及び同条第二項の事業費の区分毎に、その金額を明らかにされたい。未確定であれば現段階の試算を示されたい。
3 右金額のそれぞれについて、国、東京都、世田谷区、鉄道事業者がそれぞれいくら負担することになるのか。算定根拠を含めて現段階での試算を明らかにされたい。また、千九百億円の外に今後鉄道事業者が負担する当該区間の線増にかかる費用があるのか。あればあわせてその費用の種類とそれぞれの金額を明らかにされたい。
4 当該区間について、本事業にかかる土地の取得費で千九百億円に含まれていない部分があると聞くが、その金額はいくらか。その費用は建運協定に基づく負担額算定の対象となるか。なるとすれば、誰がいくら負担することになるのか。
5 事業費の比較検討に当たっては、右費用も含め本事業にかかる費用の総額で検討するのが妥当であると考えるが、どうか。
6 東京都は、二線二層シールドの地下方式の場合、事業費は約三千億円になると主張しているが、これは梅が丘・世田谷代田間で地上にでることを前提としているのか。そうであるとすれば、梅が丘以東まで二線二層シールドの地下方式で連続するとした場合に、世田谷代田駅~喜多見駅間の二線二層シールドの地下方式の事業費はいくらになると見込まれるか。
7 右三千億円について、建運協定第六条第一項に記載されている費用の別ごとに、及び同条第二項の事業費の区分ごとに、その金額を明らかにされたい。未算定であるとすれば、なぜ三千億円と見込まれているのか、その算定根拠を明らかにされたい。
8 右各項目のいずれかについて、もし国は承知していないという事項があるとすれば、補助金適正化法第六条で定められた調査義務を果たしていないと考えるが、どうか。

四、関連事業について

 本事業に関連して、駅前広場の創設や交差道路の新設・拡幅等の関連事業が予定されており、大規模な土地区画整理事業や都市再開発事業がおこなわれるのではないかと危惧されている。駅前広場の創設や交差道路の新設・拡幅等はどのような事業手法で行われる予定か。本事業に関連して、どの地域でいかなる面的整備事業が検討されているか。予想事業費の金額や想定事業面積も含めてその全容を具体的に明らかにされたい。

五、事業の委託について

1 都市計画法第五十九条は、一定の要件を満たす場合には、民間事業者等が知事の認可を受けて都市計画事業を行うことを認めているが、建運協定では、連続立体交差化に関する都市計画事業の施行者は都道府県又は政令指定都市に限っている。その理由、目的は何か。
2 本事業の事業主体は東京都であるが、東京都は本事業の施行を全面的に小田急電鉄株式会社に委託し、同会社が事実上の施行主体となっている。こうしたやり方は、都市計画法及び建運協定の規定を骨抜きにするおそれがあると考えるが、どうか。
3 東京都は委託の理由について、小田急電鉄株式会社の線増事業と一体の事業であるから差し支えないと主張していると聞くが、政府も同じ見解か。建運協定で事業者を都道府県、政令指定都市に限定した理由との関係も含めて明らかにされたい。
4 東京都は本事業の委託契約を随意契約で締結している。地方自治法第二百三十四条は、「随意契約(中略)は、政令で定める場合に限り、これによることができる。」と定めている。当該委託契約は、政令のどの条項に該当するか。また、その条項を適用することが適切であるとする理由はなにか。
5 政府は、一定額以上の契約については内外無差別の一般競争入札によることとし、地方公共団体に対してもその旨勧奨する「行動計画」を閣議決定している。本事業にともなう工事契約は、それに該当するものが多いと思われるが、前記委託契約によって工事の発注者は小田急電鉄株式会社となる。この場合は「行動計画」の対象外か。
6 こうした事業の委託契約方式が多用されれば、「行動計画」に支障をきたすおそれはないか。また一定額以上の契約を議会の議決事項としている地方自治法第九十六条第一項第五号の法目的が阻害されることになるおそれがあるのではないか。

六、耐震安全性について

1 本事業の構造物の耐震設計において準拠している耐震基準の名称及びその策定年月を示されたい。
2 右基準に基づく耐震設計で600ガル以上の地震動に耐えられるか。どの程度の強さの地震動にまで耐えられる設計となっているか。
3 土木学会が五月二十三日に発表した「土木構造物の耐震基準等に関する提言」は、土木構造物が保有すべき耐震性能は、その構造物の重要度を考慮して決定すべきだと提言している。本事業で建設される高架鉄道は、高い耐震性能を有する重要な構造物として位置づけられるべきであると考えるが、どうか。
4 鉄道施設の耐震基準については鉄道施設耐震構造検討委員会で検討しており、これまでの基準に基づいて建設された構造物については、必要な耐震診断と補強を行うことを政府はたびたび言明している。耐震基準が新たに設定された場合は、それが要求する耐震性能を確保するための措置をどうするのか。
5 建設後耐震補強をするとすれば、当初から新たな耐震基準に従って建設するよりさらに高くつくおそれはないか。
6 運輸省は、阪神大震災で被害を受けた鉄道施設については、従来の耐震基準ではなく今回と同程度の地震にも耐え得る構造として復旧するよう指示している。「鉄道復旧構造物の設計に関する特別仕様」に基づく場合、従来の仕様に比べて、高架鉄道施設の建設費は平均どのくらい高くなるか。
7 新たに要求される耐震性能を確保するためには、事業費が増加することが予想される。事業費についての地下方式との比較の前提が崩れると考えるが、どうか。
8 運輸省の澤田技術参事官は、本年五月十二日の衆議院交通安全特別委員会において、すでに建設にかかっている整備新幹線の耐震対策について、建設中に行っておいた方が効率的と思われることは対策を講ずる旨の答弁をしている。小田急線の高架化事業はまだ本格的な工事が始まっていないのだから、従来の耐震基準で工事を進めて後から補強するというのは適当ではないと思うが、どうか。従来の基準に基づく設計は再検討すべきであると考えるが、どうか。

  右質問する。