質問主意書

第132回国会(常会)

質問主意書


質問第六号

防衛庁・自衛隊における秘密に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成七年二月二十八日

翫 正敏   


       参議院議長 原 文兵衛 殿


   防衛庁・自衛隊における秘密に関する質問主意書

 防衛庁・自衛隊においては数多くの秘密が存在し、かつ、それら秘密の公開・開示について他省庁と比べて極めて消極的であることは従来から批判されているところである。また、これら秘密の中には、秘密保全に関する訓令(昭和三三年訓令第一〇二号)(以下「訓令」という。)に基づく「秘密」に指定されていないにもかかわらず公開・開示されないものが多数あり、防衛庁・自衛隊の秘密主義の温床となっていると言わざるを得ない。私の個人的な経験でも、事故報告に関する達(昭和三三年陸上自衛隊達第三〇-一〇号)の別紙二~四の開示を防衛庁政府委員室を通じて要求したところ断られたが、その後の調査で、これが陸上自衛隊公報第一二七九号に既に掲載され、その掲載号は国立国会図書館法第二四条に基づき国立国会図書館に納入されていたという事実があった。
 したがって、防衛庁・自衛隊における秘密の指定及びその公開・開示には極めて恣意が働いていると考えざるを得ず、政府の見解を明らかにするために以下質問する。なお質問での便宜上、自衛隊法第五九条で定める「秘密」を法律秘、訓令に基づき指定された「秘密」は「訓令秘」、「秘密」に指定されていないにもかかわらず、公開・開示されないものを「対国民秘」と以下区別する。

一 秘密の要件について

1 いわゆる「外務省公電漏洩事件」における東京地検論告求刑では、国家公務員法第一〇〇条第一項及び第一〇九条第一二号でいう「秘密」とは当該官庁で適式な秘密指定がなされたものであることを前提としている。このことは逆に「秘密」としての保護するに値すると認められるには、最低限当該官庁の適式な秘密指定を必要とすると考えられる。
 よって法律秘についても適式な秘密指定が最低限の要件であると考えられるが、政府の見解はどうか。
2 もし政府が法律秘において通式な秘密指定を必要としないとするなら、その理由を明らかにされたい。
3 また、前掲東京地検論告求刑では、国家公務員法第一〇〇条第一項及び第一〇九条第一二号でいう「秘密」は、原則として指定秘をもって足りるが、実質的にすでに秘密性を失っているもの、欠いているものは除外される、としているが、法律秘においても同様か。

二 法律秘、訓令秘、対国民秘の関連について

1 訓令秘は全て法律秘に該当するのか。
2 対国民秘の中には法律秘に該当しないものが存在するのか。
3 過去の政府答弁では、訓令秘に指定されないものの中にも法律秘に該当するものがあるとの見解をとっているが、隊員は訓令秘に指定されていないにもかかわらずそれが法律秘であることをどのような手段で認知することができるのか。
4 防衛庁においては、法律秘に該当するものを全て訓令秘に指定し、厳重に保全すべきものと考えるが、それがなされない理由を明らかにされたい。
5 防衛庁において、訓令秘に指定されていないにもかかわらず法律秘に該当するものに関し、それが法律秘に該当すると判断するのは誰であるのか、明らかにされたい。
6 自衛隊には、訓令では存在しないはずの「注意」及び「部内限り」なる取扱区分が存在するが、これは何を根拠に指定されるのか、またこれらに指定された文書にはいかなる保全義務が生じるのか明らかにされたい。

三 国会議員への秘密の非開示について

 国会議員は、国民の代表として行政機構の活動が適性であるか監視することを国民より負託されている。したがって、防衛庁・自衛隊に関する情報についても広く知る必要があると考えるが、防衛秘密を前にして防衛庁・自衛隊の活動内容はブラック・ボックスと化している。一般に公開できない秘密でも、国会審議に資するため、国会議員に対して防衛庁は積極的に開示を図るべきと考えるが、現状では防衛庁は開示をかたくなに拒否している。
 よって国会議員への秘密の非開示の理由について、以下明らかにされたい。

1 訓令第五条に定める「機密」及び「極秘」は、同条によれば「その漏えいが国の安全又は利益に」損害を与えるおそれがあるものとしているが、これらは国会議員に対して開示することでも「国の安全又は利益に」損害を与えるおそれがあると政府は考えているのか。
2 訓令第五条に定める「秘」を国会議員に対し開示するにより、いかなる損害が生じると政府は考えているのか。
3 対国民秘を国会議員に対し開示することにより、いかなる損害が生じると政府は考えているのか。
4 対国民秘を国会議員に対し開示するか否かを判断するのは誰か、明らかにされたい。
5 部隊の精強性、部隊の運用等自衛隊の能力及び行動要領にかかわることを理由として、自衛隊の情報について国会議員への開示が拒否されることが多々ある。一方、自衛隊の教育機関には、我が国と軍事同盟条約を結んでいない諸国からの軍人を留学生として受け入れ、自衛隊の能力及び行動要領にかかわる事項を教育している。自衛隊において、諸外国の軍人には教えられる事項が、なぜ自国の国会議員には教えられないのか、その理由を明らかにされたい。

四 秘密の公開・開示基準について

1 大韓航空機撃墜事件

 大韓航空機撃墜事件(一九八三年九月一日)に関し、後藤田官房長官(当時)は九月六日の緊急記者会見において、ソ連機が大韓航空機を撃墜した際の交信記録を公表した。この交信記録は本来は訓令秘にされていたものと考えられる。
 よって、以下の点につきそれぞれ明らかにされたい。

(1) この交信記録は、訓令第五条に定めるどの秘密区分に指定されていたのか。
(2) その秘密区分に指定した者は誰か。
(3) 秘密に指定されたのはいつか、またそれが解除されたのはいつか。
(4) 秘密が解除された理由は何か。
(5) 矢崎防衛庁防衛局長(当時)の九月六日の記者会見によれば、当時自衛隊が収集した交信記録は約五〇分間で、公開された交信記録は、当時自衛隊が収集したものの一部であるとしている。しかしながら、秘密保全に関する訓令を見る限り指定された秘密事項の部分解除に関する規定がない。全体の交信記録が訓令秘に指定されていたなら、いかなる取決めに従って公開された交信記録のみの秘密指定が解除されたのか。

2 領空侵犯の公表

 我が国に対する領空侵犯はその事実全てが公表されてきたものと見られていたが、新聞報道によって「『これまでにも領空侵犯で公表していないケースはある』(野津研二・運用課長)と、公表された数字と事実との間に差がある」(『読売新聞』 一九九四年四月二二日)ことが明らかにされた。
 よって、以下の点につきそれぞれ明らかにされたい。

(1) 我が国に対する領空侵犯の事実は、法律秘、訓令秘、対国民秘のいずれかに該当するものなのか。
(2) この事実を公表するか否かを判断する決定権者は誰か。
(3) この事実を公表するか否かを判断する明文上の基準は存在するのか。

3 多用途支援機の機種選定評価作業

 防衛庁は一九九五年度に導入する計画の多用途支援機の選定作業の一環として、庁外の有識者の意見を聞くため三名に委嘱し、会合を開いている。その会合において防衛庁はこれら有識者に対し、訓令秘に指定された文書をいくつか提示している。
 よって、以下の点につきそれぞれ明らかにされたい。

(1) 訓令第二九条第一項は、防衛庁以外の者に秘密に指定された文書を伝える場合には「その秘密区分を指定した者又はその職務上の上級者の許可を受けなければならない」と定めているが、この会合における三名の有識者への伝達を許可した者は誰か。
(2) 訓令第二九条第四項は、伝達の相手方が政府機関以外の者である時には訓令第二六条及び第二七条の規定を準用すること、即ち(一)相手について厳密な調査を行い、秘密の保全上支障がないことを確認する、(二)秘密の漏えい等の危険を防止するため、契約条項に秘密の保全に関する規定を設ける等必要な措置を講じる、の二点を定めているが、この会合の三名の有識者に対してもこれら条項が適用されたのか。

4 事故報告に関する達の別紙二~四

 私は防衛庁政府委員室を通じて、事故報告に関する達の別紙二~四の全文につき開示を請求したところ、主管課である人事一課から正式に提出拒否の回答を受けた。しかしながらこれは、陸上自衛隊公報第一二七九号に全文掲載されているものであり、かつ、同公報は既に国立国会図書館法第二四条に基づいて国立国会図書館に納入されていた。
 よって、以下の点につきそれぞれ明らかにされたい。

(1) 既に公開された文書の開示を拒否する決定を下すということは、防衛庁において、国会議員に対する情報の開示に関する明確な基準が存在しない証左と考えるが、明文上の基準が存在するのか否か。
(2) なぜ防衛庁は、既に公開された文書の開示を拒否する判断をしたのか。
(3) 現在防衛庁においては事故報告に関する達の別紙二~四については、公開・開示の扱いをどうしているのか。
(4) 今後こうした過ちを繰り返さないために、具体的な善後策が防衛庁において取られたのか。

  右質問する。