質問主意書

第128回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一号

中国残留婦人の永住帰国の実現に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成五年十月四日

吉川 春子   
林 紀子   
高崎 裕子   
西山 登紀子   


       参議院議長 原 文兵衛 殿


   中国残留婦人の永住帰国の実現に関する質問主意書

 去る九月八日、中国残留婦人一二人が受け入れ先のないまま帰国し、成田空港で一夜を明かし翌朝駆けつけた厚生省の担当者によってとりあえず所沢市にある中国帰国孤児定着促進センターに身を寄せるとの措置がとられた。
 彼女達は日本人であり、日本のパスポートを持っており、日本に永住帰国したいとの強い希望を持っている。しかし、政府は永住帰国については、身元引受人あるいは特別身元引受人のない場合は帰国旅費の支給や、帰国援助を行わない方針であるため、彼女達にとって永住帰国は著しく困難である。今回の事件はこうした政府の態度に業をにやした婦人達が強行手段にでたものである。
 彼女達の悲劇は日本の中国大陸侵略政策の一環として行われた満州開拓に端を発する。一九三六年(昭和一一年)廣田内閣は、満州開拓を十大重要国策の一として位置づけて閣議決定し、「二十カ年に一百万戸、五百万人、全満州人口の一割に達するとの大移民計画を策定した。」(「長野県満州開拓史」編集・発行 長野県開拓自興会満州開拓史刊行会)
 吉川春子議員は一九九一年(平成三年)内閣委員会で「国策に沿って満州に行った人々の数」について質問したが、これに対して竹中外務大臣官房審議官は民間資料を引用して「終戦直前の時点で開拓団の関係が十六万七千人くらい、義勇団の関係、これは成人にいたらない青少年を中心としたグループが五万八千人、合計で二十二万五千人」と答弁している。
 しかし、別の資料では合計二七万人とも言われており(「満州開拓団史」)、政府はこの件に関する資料をほとんど持っていないし如何なる調査もしていない。この開拓団員が全国で最も多い長野県では独自調査を行い、派遣した県民三万三七四一人の名簿を作り、死亡、不明、未帰還、帰還など個々の人々の調査を行い「長野県満州開拓史」として出版したが、名簿だけで一〇七五ページに及ぶ。そのうち再び故郷の土を踏めなかった人は五一%にのぼっている。
 前出の内閣委員会で坂本官房長官は満蒙開拓団について、本人達の意志以上に「国策として開拓団を送ろうという政府の姿勢に呼応した」ものであるとの認識を示した。政府の戦争遂行策の犠牲となって、中国に五〇年間も生活する事を余儀なくされたこれらの婦人達(その多くは年老いている)の労苦を思い、政府は一日も早く希望者全員の受け入れを行うべきである。以下具体的に質問する。

一、政府の戦争責任の認識について

1 細川総理は就任直後の記者会見で「あの戦争は侵略戦争であった」と発言した。前述したが坂本官房長官は吉川議員の質問に対し、「満州開拓団の土地の問題とか入植の仕方とか、時の政府の方針とか…それは当然今日の事態においては充分反省をいたさなければならない」と答弁している。満蒙開拓団の派遣は、日本の中国大陸侵略政策の一環であった事を認めるか。
2 同じ内閣委員会で吉川議員の行った満蒙開拓団の派遣人数、亡くなった方の数、「満州」で「開拓」・「占有」した土地面積等に関する質問に対して坂本官房長官は、「調査が不十分であなた(吉川議員のこと)に答弁するような準備がないようだ。この問題について勉強させてもらう」と答弁された。内閣として勉強されたその結果について明らかにされたい。

二、「中国残留婦人」に関する施策の基本的考え方について

1 政府は昭和五九年三月一七日に中国政府と「中国残留日本人孤児問題の解決に関する日中間の協議について」との文書を取り交わし、永住帰国については、その(4)で、「日本政府は、孤児が希望する場合には、在日親族の有無にかかわらず、その同伴する中国の家族とともに日本への永住を受け入れる」との方針で対処してきた。しかし他方、「中国残留婦人」と呼ばれる人々については「中国残留孤児」と区別した対応を行ってきた。
 即ち、戦争で中国大陸に取り残された人々を日本敗戦の一九四五年時点の年齢で分けて、一三才以上であった人々を「中国残留婦人」と呼び、一三才未満の人々を「中国残留孤児」としている。そして「中国残留婦人」については、本人の「自由意志」で中国大陸に留まった人々としている。
 しかし、この区別は、合理的根拠のない不当なものである。何故なら、戦争の混乱の中で年はもゆかない、しかも女性が「自由意志」を働かせる余地などあるわけがない。極限状態の中で生き残るため、家族のため中国に留まらざるを得なかったのである。
 政府は、当時これらの女性達が一三才に達していた事をもって「自由意志」で中国に留まったのだとの考えをやめるべきと考えるがどうか。
2 また、帰国支援等の政府の施策において、「残留婦人」・「残留孤児」という区別を設けず、永住帰国希望者は全員を受け入れて、日本に定住できるよう万全の対策を行うべきだと考えるがどうか。

三、具体的な永住帰国、定住促進対策について

 政府は「残留婦人」について一時帰国(里帰り)の旅費等の援助、永住帰国の特別身元引受人の斡旋、帰国援助金の支出等の施策を行ってきたが、今回の強行帰国にも見られるように、数千人の中国残留者の帰国問題の全面解決にはほど遠いと言わなくてはならない。すでに半世紀を過ぎようとしており関係者の高齢化も進んでいる現在、この問題を早急に解決するために以下の点に具体的に答えられたい。

1 政府は独自の調査によって現在一八〇〇人の中国残留婦人が現地にいるとしているが、おそらく中国残留日本人はそれに留まらないと思われる。引き続き調査を行い、「残留婦人」・「残留孤児」の発見に努めるべきと考えるがどうか。
2 政府は、これらの女性達について永住帰国に関する意向調査を行っているというが、その内容及び調査の結果、そしてその結果をふまえてどのように対応する方針か、明らかにされたい。
3 日本に永住帰国するためには現在は、身元引受人、特別身元引受人がないと帰国旅費、帰国援助が受けられない仕組みになっているが、身元引受人等を探す事は大変困難である場合が多い。身元引受人がなくも婦人達を永住帰国させるよう制度を改めるべきと考えるがどうか。
4 先般帰国した一二名の女性達について現在、永住帰国の支援はどうなっているのか。見通しはついたのか。
5 永住帰国が出来ないか、あるいは希望しない人々についても一時帰国制度を現状の十年に一度ではなく、原則として三年から五年に一度は行えるよう制度を改善すべきと考えるがどうか。

  右質問する。