質問主意書

第126回国会(常会)

質問主意書


質問第一八号

「国際先住民年」にあたりアイヌの人々の生活と権利の保障等を求める質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成五年六月十八日

高崎 裕子   


       参議院議長 原 文兵衛 殿


   「国際先住民年」にあたりアイヌの人々の生活と権利の保障等を求める質問主意書

 国連が一九九〇年の第四五回総会で今年の一九九三年を「世界の先住民の国際年」と決定した。
 この「国際先住民年」を迎え、北海道に古くから居住しているアイヌの人々についての関心が高まっている。
 我が党は、早くからアイヌの人々の生活と権利の保障、民族的文化の保存・継承のため国の責任を明確にした新しい法律の制定を求めてきた。
 国際先住民年を迎えた今年こそ政府として、アイヌの生活と権利の保障、民族的文化の保存・継承のためもっと積極的諸対策を講ずべきとの立場から、以下質問する。

一、「国際先住民年」の具体的取組について

 我が党は、国連の決定した「国際先住民年」を支持するとともに、この「国際先住民年」に当たって、北海道に早くから住んでいたアイヌの人々の生活と権利の保障、民族的文化の保存・継承のため「アイヌ新法」の一日も早い制定が必要であるとの立場を明らかにしてきた。
 以上の立場から、平成三年十二月十日、高崎裕子と小笠原貞子前参議院議員は質問主意書を提出した。政府は同年十二月二十七日の答弁書で「国際先住民年は、世界の先住民の人々が直面している人権、環境、開発、教育、健康等の分野における諸問題の解決のための国際的協力を推進する上で有意義なものと考える。政府としては、『国際先住民年』の目的及び国際連合の関連決議等を踏まえ、我が国としていかなる対応をするかについて、今後検討していくこととしている。」と述べている。そして今年の「国際先住民年」を迎えたのである。

(1) 政府はこの答弁の趣旨に沿って具体的にどのような取組をしたか明らかにされたい。
(2) 北海道は、国際先住民年関連事業費として今年度五千万円の予算を計上しているが、政府として取り組もうとしている「国際先住民年」の関連予算と事業名を明らかにされたい。
(3) 国連が発行している「国際先住民年のポスター」の日本語版を作り国民にもっとPRすべきと思うがどうか。
(4) 北海道ウタリ協会では、アイヌの歴史や現状を紹介するビデオを作成している。このようなことは、ウタリ協会にだけ任せるのではなく政府の責任で作成すべきものである。この際、ウタリ協会が作成したビデオを全国の博物館や図書館に備え付けるとともに、一般市民に対する啓蒙活動にも利用出来るようにすべきと思うがどうか。
(5) 国際先住民年を取り組むに当たりその当事者である北海道ウタリ協会の代表から意見を聴取すべきと思うがどうか。

二、「旧土人保護法」にかわる新しい法律の制定について

 我が党の小笠原貞子前参議院議員が質問主意書でアイヌ新法の制定を求めてから十三年になる。また、北海道の「ウタリ問題懇話会」がアイヌ新法の答申を出し、道議会では全会一致でアイヌ新法の早期制定を求め五年が過ぎた。政府が「アイヌ民族に関する新法問題について」検討を始めてから三年半を経過した。政府の検討委員会が昨年ウタリ協会から二回意見聴取しているが、関係者の間から政府は一体何をやっているのかとのいら立ちの声が出ている。

(1) 検討委員会での現時点での検討内容と、今後の見通しを明らかにされたい。
(2) 北海道議会を初め道内の八十自治体から超党派で「アイヌ新法の早期制定を求める要望意見書」が採択され政府に届いているはずだが、これらの意見書に対し、どのように認識しているか明らかにされたい。
(3) 検討委員会は「アイヌ新法」制定の立場に立って検討作業を進めるべきと思うが、その見解を明らかにされたい。

三、当面する生活上の切実な要求の解決について

(1) アイヌの子弟の進学率の向上について

 入学支度金・修学資金を大幅に引き上げるとともに、北海道が独自に実施している高等学校通学費補助事業に対し政府としても援助すべきと思うがどうか。

(2) 特に北海道における私立高校の入学一時金は、平成四年度の場合平均で十九万円を超えているが、現在の入学支度金は僅か二二、六六〇円で十年間も据え置かれている。入学支度金を現状に合うように大幅に引き上げるべきと思うがどうか。
(3) 生活相談員、職業相談員等の活動を強化するため報酬の引上げと、活動費の増額を図ること。
(4) 不安定な就労状況にあるアイヌの雇用労働者の就業の拡大を図るため、機動職業訓練の科目内容について検討し、新しい訓練科目を加えること。
(5) 機動職業訓練の人員枠の拡大や、訓練期間の延長などアイヌの人の現状に合ったように改善すること。

四、アイヌ語とアイヌ文化の伝承・保存について

 アイヌの人々は、歴史的に独自の言語と文化を作り上げてきたが明治以来の強制同化政策と差別の下で、その継承が危機にさらされている。
 アイヌ語についていえば、日常会話を自由に話すことができるのはごく少数の古老たちだけである。
 北海道ではアイヌ民族文化祭の開催や、アイヌ語教室の開設などアイヌ語やアイヌ文化の継承に取り組んでいる。
 政府は前記の質問主意書への答弁で「アイヌの民俗文化財の保存・伝承活動については、その充実について努めてまいりたい。」と答えている。
 強制同化政策を採ってきた政府が責任をもってアイヌ語とアイヌ文化を守るための抜本的対策を講じなければならない。

(1) 国際先住民年を記念して国立の「アイヌ文化伝承博物館」などの建設や、様々な形態でアイヌの人々の優れた文化や芸能が正しく継承・発展されるようにすべきと思うがどうか。
(2) アイヌについての正しい理解を広める一助として、また国際先住民年記念事業として国立劇場を初め全国の主要都市で、アイヌの民族的文化や芸能を披露するための特別展を開催すべきと思うがどうか。
(3) ユーカラの伝承者の後継者養成の措置として国の責任でユーカラ伝承者講座(仮称)を開くべきと思うがどうか。
(4) 政府は、一九八四年をアイヌの歌と踊りを「重要無形民俗文化財」に指定したが、その後の「古式舞踊」についての調査を終了していると思うが、調査結果を踏まえ「重要無形民俗文化財」の指定の拡大を進めるべきと思うがどうか。

五、アイヌに関する正しい教育の実施について

 高校の社会科教科書にアイヌに関する記述が少ないことが問題となり、一九九三年三月二十五日の北海道議会で北海道教育委員会も「教科書の記述内容は断片的で部分的である」ことを認めている。
 教科書にアイヌの記述を増やすと同時に、どのように正確に教えるかが重要である。
 北海道教育大学岩見沢分校では、昨年度からアイヌ語やアイヌ文化に関する講座を設けていたが、今年度からは「小学社会」の講座の一部に、アイヌの人の非常勤講師による講義を導入しアイヌについての学習の充実を図るとしている。

(1) 北海道教育大学岩見沢分校のこのような取組を、どのように認識しているか明らかにされたい。
(2) 北海道教育委員会ではこの北海道教育大学岩見沢分校で実施するアイヌの講座に、現職教員の受講希望者を受講できるようにしたいとしている。
 教員希望者に対するアイヌの講座を、政府の責任で他の教員養成大学でも開校出来るようにすべきと思うがどうか。

  右質問する。