質問主意書

第126回国会(常会)

質問主意書


質問第六号

高等学校における交通安全教育に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成五年五月六日

中村 鋭一   


       参議院議長 原 文兵衛 殿


   高等学校における交通安全教育に関する質問主意書

 昭和六十三年は、年間の交通事故死者数が一万人を超え、「第二次交通戦争」などと呼ばれるなど、交通事故防止対策の重要性が社会的にも認識された年であった。
 私は、昭和五十年代より、国会議員として交通事故防止対策の推進につき関心を持ち、議会内においても政府の姿勢をただしてきたところである。ことに、恒久的な交通安全を実現するためには、交通の担い手たる運転者及び運転者予備軍に対して充実した交通安全教育を実施することが不可欠であるという認識から、高等学校における交通安全教育につき関心を持ち、昭和六十年五月には、内閣に対し「高等学校における交通安全教育に関する質問主意書」を提出して、その姿勢をただした。
 そこで、そうした内容も踏まえながら、今回、改めて高等学校における交通安全教育について、質問をしたい。
 まず、現在の我が国における交通事故の状況を概観してみると、私が前回質問をした昭和六十年以降、交通事故死者は、九千二百六十一名(昭和六十年)から一万千四百五十一名(平成四年)と、一貫して増加傾向を続けている。そのうち、二輪車(自動二輪車及び原付)乗車中の死者は、二千三百四十名(昭和六十年)から二千五百五十九名(昭和六十三年)と、これまた増加傾向を示してきていた。
 こうした状況を踏まえ、政府の交通対策本部においては平成元年七月十一日に「二輪車の事故防止に関する総合対策について」(以下「総合対策」と略す。)を決定し、関係各省庁を挙げて二輪車の事故防止策を実施するよう求めたところである。その努力もあってか、二輪車による交通事故死者数は、二千五百七十五名(平成元年)、二千四百九十二名(同二年)、二千百八十六名(同三年)と減少傾向を示したが、平成四年にいたって二千三百三十二名と、再び増加の傾向を示しているのは気になるところである。
 いうまでもなく、総合対策は、「第1 交通安全意識の高揚のための広報啓発活動の推進」「第2 二輪車運転者等の交通安全教育の推進」「第3 二輪車運転者の組織化の推進」など八本の施策を掲げ、その施策の推進につき、国の各関係行政機関、地方公共団体、関係団体等の密接な連携を求めたものであった。
 ことに、「第2 二輪車運転者等の交通安全教育の推進」の項では、「運転免許制度の充実」「運転者教育の充実」などに分類して極めて具体的な施策を挙げているが、このうち「学校における交通安全教育の充実」で、高等学校における交通安全教育の充実にも触れ、具体的な方向性を示している点は、若者に対する交通安全意識の醸成が今後の交通安全にとって不可欠な要因になると考えられるところから、大きく評価できるものと考えているところである。
 そこで、こうした高校生等の若者に対する交通安全教育のさらなる推進を図る意味において、以下の点につき質問する。

一 平成元年、高等学校学習指導要領が改訂され、「保健」の指導内容として「交通安全」が加わったが、そのことについては総合対策においても「高校生等に対する交通安全教育の充実」の項において言及されているところである。同学習指導要領は、平成六年度に完全実施を予定していると聞いているが、こうした「交通安全」に関する授業を実施する上での教科書、指導教員養成等の準備がどのように進んでいるのか、具体的にお答えいただきたい。

二 右の「交通安全」に関する授業は、具体的な高等学校における授業としては、年間何時限程度の授業時間を予定しているのか、お答えいただきたい。

三 現在、高等学校における交通安全教育は、特別活動のホームルーム活動等としても位置づけられ、「平成三年度文部省交通安全業務計画」においても、「2.交通安全教育の徹底」の項で「高等学校においては、学習指導要領の改訂を踏まえ、教科「保健体育」並びに特別活動のホームルーム活動、学校行事及び生徒会活動を中心に、学校教育活動全体を通じて、自転車の安全な利用、二輪車・自動車の特性、交通事故の防止、応急処置などについて更に理解を深めさせるとともに、交通社会における良き社会人として必要な交通マナーを身につけさせる」と具体的な教育目標を掲げている。さらに、ここでの教育内容については、文部省体育局監修による「高等学校交通安全指導の手引」(財団法人日本交通安全教育普及協会発行)に記載され、年間六時限、高等学校在学中合計十八時限の教育内容がガイドラインとして示されている。
 そこで、総合対策にいうように、もし高等学校における交通安全教育の充実を図るとするならば、こうした既に設定された教育内容をより徹底して学校現場に普及していくべきであると考えられるが、総合対策が発せられて以降、高等学校教育現場において、かかる教育内容が充実してきているのか否かについて、文部省当局としてどのように把握されているのか、具体的にお答えいただきたい。

四 平成元年に発せられた総合対策を受けて、文部省では平成二年度事業として「高校生二輪車運転教育に関する調査研究」事業をスタートすることに決定したものと聞いている。同調査研究事業は、新聞報道(「日本教育新聞」平成元年九月二十三日付、「毎日新聞」平成元年八月十九日付等)によると、工業高等学校、農業高等学校等、自動車、トラクターの教育を必要とする高等学校の教育課程として、自動車教習所と連携した二輪車運転教育の可否について調査を行い、教育内容、方法について研究するとしている。そのため、まず該当する高等学校にアンケート調査を行い、さらに平成三年度にも実験学校を指定するとしている。
 同調査研究事業については、高等学校における交通安全教育推進の極めて大きな一歩として、私も期待を持って見つめてきたところである。
 そこで、同調査研究事業については、その後どのような結論ないし進展があったのかについて、事実関係を明らかにし、これに対する政府の見解を伺いたい。もし、その後、事業の中止なり進展をみていないということがあるならば、なにゆえに中止なり進展をみていないのか、その理由についてお答えいただきたい。

五 同時に、文部省におかれては、平成二年度交通安全教育調査研究事業として、「高校生に対する交通安全教育について、二輪車に乗車する高校生に対する実技指導を中心とした、その効果的な在り方」について検討することを骨子とした調査研究委員会を設置されたと聞いている。
 そこで、同調査研究事業については、その後どのような結論ないし進展があったのかについて、事実関係を明らかにし、これに対する政府の見解を伺いたい。もし、その後、事業の中止なり進展をみていないということがあるならば、なにゆえに中止なり進展をみていないのか、その理由についてお答えいただきたい。
 また、同調査研究事業というのは、前項で述べた「高校生二輪車運転教育に関する調査研究」事業が移行したものであるのかについてお答えいただきたい。もし移行したものであるとするならば、前項で挙げた調査研究事業が工業高等学校等を対象とした実験校設置など極めて意欲的な内容であったにもかかわらず、そのような意欲的な内容が、本項における調査研究事業の内容から消えてしまった理由についてお答えいただきたい。

六 総合対策では、「高校生等に対する交通安全教育の充実」の項で、「ア.関係機関等との連携による指導の充実」として、「指導に当たっては、地域における関係機関、団体等との連携を強化し、特に、二輪車に乗車する生徒に対しては、実技を含む安全指導を継続的かつ積極的に行う」としている。こうした関係機関等の連携の具体例としては、神奈川県における県警察本部による「ヤングライダースクール」の開催、鹿児島県における県警察本部白バイ隊員によるオートバイ通学高校生に対する指導などの例を聞いている。
 そこで、こうした県警察本部、警察署、あるいは交通安全協会など関係機関・団体等による高校生への交通安全指導が、各県においてどのように行われているのかについて、具体的な県名を挙げ、かつ具体的にどのような指導体制がとられているのかについてお答えいただきたい。

七 前項に関連して、こうした高校生に対する交通安全指導について、福岡県などでは県の予算措置をとり実施していると聞いている。
 そこで、こうした予算措置をとり、高校生に対する交通安全指導を行っている都道府県名と、それぞれの予算額、指導の内容等につき具体的にお答えいただきたい。

八 総合対策では、「高校生等に対する交通安全教育の充実」の項で、「イ.規制の在り方を含む総合的な方策の検討」として、「いわゆる「三ない運動」を行っている学校においても、地域の実情に応じて、規制の在り方を含め事故防止のための総合的な方策を検討するなどにより、交通安全教育、指導の積極的な推進を図る」としている。
 そこで、私としては、いわゆる「三ない運動」は、高等学校現場において交通安全教育を推進するについて、消極的な材料としてしか機能していないのではないかと考えているが、その点、文部省当局としては、いわゆる「三ない運動」が学校における交通安全教育の推進に果たしている役割についてどのような評価をしているのか、お答えいただきたい。

九 前項に関連して、神奈川県においては昭和五十五年以来、いわゆる「三ない運動」の一種である「四プラス一ない運動」を実施していたが、平成二年三月に同運動を解消し、高校生の免許取得及びオートバイ乗車を認めたうえで交通安全教育を行う「かながわ新運動」に転換している。こうした転換は、高等学校における交通安全教育推進にとって極めて有意義な措置と考えられるが、その点での文部省の考えをお答えいただきたい。
 さらに、今後、総合対策でうたわれている「高等学校等に対する交通安全教育の充実」に資するため、各都道府県並びに各高等学校現場で行われているいわゆる「三ない運動」について、文部省当局として規制解除等の指導を行う意志があるのかどうか、お答えいただきたい。

十 我が国の交通安全対策は、交通安全対策基本法の規定するところの「交通安全基本計画」にのっとって策定されているところであるが、同基本計画によれば、学校における交通安全教育は、我が国の交通安全の趨勢を左右するものとして重要視されているところである。こうした観点からみるならば、幼稚園から高等学校を通じた一貫した交通安全教育の推進は、我が国の学校教育の中で、恒久的に取り組んでいかなければならない重要課題であると考えられるが、文部省当局の認識としては、前記のとおりと考えてよいのかどうかお答えいただきたい。

十一 前項に関連して、もし高等学校等における交通安全教育が、恒久的に取り組んでいくべき課題だとするならば、当然、その教育内容は高校生等が現在あるいは将来的に取得するであろう運転免許とも関連性を持つものでなければならないと考えられるが、その点について、文部省並びに警察庁当局の認識をお答えいただきたい。

十二 前項に関連して、文部省並びに警察庁当局としては、高等学校を含む学校における交通安全教育の教育内容と、指定自動車教習所における教育内容とに相互関連を持たせた交通安全教育を実施していく考えはないのかどうかお答えいただきたい。
 また、そうした学校における交通安全教育と指定自動車教習所における教育内容の相互関連について、今後、具体的な検討委員会を持つなど、検討を重ねる考えがないのかどうかお答えいただきたい。

十三 前項に関連して、財団法人国際交通安全学会の昭和六十二年度調査報告書「諸外国における交通安全教育の実態に関する調査研究報告書」によると、アメリカ合衆国においては、各高等学校現場において「運転者教育プログラム」が実施され、同プログラムを修了した生徒に対しては、運転免許の年齢制限の緩和及び自動車保険料の優遇が実施されているとのことであるが、こうした諸外国の交通安全教育システムの実情について、政府部内で調査、研究をしたことがあるのかどうかお答えいただきたい。
 もし、調査、研究をしたことがあるとしたら、その内容及び調査結果の評価についてお答えいただきたい。また、もし調査、研究をしたことがないとするならば、今後、そうした諸外国の交通安全教育システムについての調査、研究をする考えがあるかどうかお答えいただきたい。

十四 前項に関連して、同学会の同報告書によれば、アメリカ合衆国においては、高等学校の運転者教育プログラムを修了した生徒に対しては、保険料を低くしている(同報告書百七十六頁)などの措置をとっているとのことである。交通安全教育を受講するに際してのこうした措置は、受講者にとっての受講意欲を高める意味でも極めて有効な方法であると思われるが、こうした方法について、今後、文部省、警察庁、大蔵省当局において検討していく考えがあるかどうかお答えいただきたい。

十五 第十項に関連して、今後、我が国の学校教育の中で交通安全教育を恒久的に実施していくとするならば、その教育に当たる教員養成は不可欠の課題であると考えられるが、大学における教員養成課程において、こうした交通安全教育に関する講座を設置していく考えがあるのかどうかお答えいただきたい。

  右質問する。