質問主意書

第126回国会(常会)

質問主意書


質問第三号

東京電力柏崎刈羽原子力発電所の地盤の安全性並びに事故・火災事件等の通報体制に係る政府の認識と判断の根拠に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成五年三月十二日

稲村 稔夫   


       参議院議長 原 文兵衛 殿


   東京電力柏崎刈羽原子力発電所の地盤の安全性並びに事故・火災事件等の通報体制に係る政府の認識と判断の根拠に関する質問主意書

 東京電力柏崎刈羽原発の立地する地盤の地質的観点からの安全について重大な疑義が生じた。
 また、事故・火災等の通報体制についても、その在り方について国の指導に問題があるのではないか、との疑問があるので、以下質問する。

一 地震等に対して原発立地の安全性を保障する地盤の地質について

 東京電力柏崎刈羽原発の立地については、昨年十二月、敷地直近の砂取場で新潟大学及び地元の研究者等によって「新しい活断層とみなされる断層が発見された」と発表された。このことは地盤にかかわる原発の安全性について重大な警告が発せられたとも言うべきである。しかし、柏崎市等は「今後、理論的、実践的データの積み重ねがあった場合は必要に応じて対処する」としながらも、「国が当該地域における詳細な地質調査を踏まえ安全審査で評価したものだから、市主導の調査はしない」として、国の安全審査に全幅の信頼を置いている。そこで、事実上はその信頼を裏切ることになっているのではないかと懸念しつつ、同原発の立地を許可するに当たり地盤に関して行った政府の安全審査の内容及び新しく発見された活断層についての政府の認識と判断を伺いたい。

1 国の安全審査について

(1) 同原発の直下には、構造性の「基盤と共に安田層(九~十三万年前、第四紀層)を切る断層があるが古いものだから再活動しない」と安全審査に当たって判断したようであるが、以下の点につき明らかにされたい。

ア 何万年以上前であれば再活動しないと判断できるのか。その理論的根拠を示されたい。
イ 立地に影響する地盤について、断層のすべてが直下の断層と同じく古いもので再活動しないと判断した根拠は何か。ボーリング等による調査の密度と、関係ある地盤のすべてにおいて「基盤と安田層を切る断層が上部の層を切っていない」と判断した理由を明らかにされたい。

(2) 敷地内には番神砂層(四万六千年前)と安田層を切る断層があるが「基盤を切っていないことを確認した」としているが、同様な断層が多いことが心配される地域で、十メートル間隔程度のボーリングによるデータのみで「基盤に絶対に変位はない」と判断できるのか。
 もし、そのように判断したとするならば“絶対” と判断できる科学的根拠を明らかにされたい。
(3) 東京電力は、原子炉建屋地点で実施した試掘調査で、存在する直下断層の一部を選定して、上部層との関係を観察した結果、西山層(百七十万年前、第三紀層)にある断層は安田層の下部まで切っているが、それより上層は切っていないという。安全審査ではこの点をどのように審査したのか。

ア 何カ所の試掘調査について審査の対象にしたのか。
イ 西山層にある断層はすべて安田層の下部以下にある、と判断したのはこの試掘調査によるのか、あるいは他にも根拠があるのか。判断した根拠を明らかにされたい。
ウ 椎谷層から第四紀層(安田層、番神砂層)を貫く断層はない、と判断した根拠がこれまで挙げた調査の他の調査結果にもあるとすれば、その調査の内容を明らかにされたい。
 もし無いとすれば、これだけの調査で十分だとする理由を示されたい。

(4) 同地域では原発立地以前の、石油採掘をしていた時代にすでに多くの石油関係の技術者の間で、活断層の存在が懸念されていたという。従って、仮に(1)~(3)について、活断層の存在が確率的に希有であると判断されるとしても、立地申請者には「他に適当な立地を求める努力」を指導するのが、安全の見地からは当然のことであろう。政府の見解を伺いたい。
(5) 敷地周辺における番神砂層と安田層を切っている断層も「敷地内の類似の断層と露頭の観察によれば同様の形状・形態であった」ことから、周辺部も敷地内も同様の断層だと判断したようであるが、露頭の観察から類推することが可能なのか。もし可能だとするならば、基礎となる理論的根拠を挙げられたい。
(6) 調査が科学的に十分な手法とデータによるものでなければ判断を誤るであろうことは言うまでもない。例えば、敷地内ばかりでなく、周辺地域についても入念な調査とデータ収集が必要だと思うが、その他のことも含めて調査手法は十分尽くされていたのかどうか。

2 刈羽村寺尾地内における新しい断層の発見についての政府の判断について新潟大学の地質学者をはじめとする地元研究団体が、柏崎刈羽原発と同様の後谷・宮川背斜上の原子炉直近の(敷地の北東六百メートル)刈羽村寺尾地内の砂取場で、基盤から安田層、番神砂層を貫く断層を発見した。この新しい事実に対する政府の認識を伺いたい。

(1) これまで私は数度にわたって柏崎・巻原発設置反対新潟県民共闘会議代表と通産省資源エネルギー庁との話合いに立ち会ってきたが、共闘会議側が同地内で「露頭で断層を見つけたので調査すべきである」との申入れを行い、同庁はこれに対して「調査したが、活断層でなく地滑りによってできたものだとする東京電力の判断に間違いはない」と繰り返し答弁していた。

ア 同庁は調査をしたというが、ボーリングないしは試掘調査もしないでどうしてそのように判断できたのか。
イ さらに同庁は、地元研究団体が試掘によって「三層を貫く断層が発見された」という時点以降の調査要求に対しては「論文が発表されたら検討する」趣旨の答弁をしているが、なぜ現地調査より論文の検討が先になるのか。
ウ 安全性の観点からすれば「疑わしきはまず調査する」との姿勢が肝要なはずである。試掘された現場を直ちに調査するという姿勢がとれない理由を明らかにされたい。

(2) 同一の場所を東京電力も調査し、「椎谷層の断層は古い時代のものであり、番神砂層と安田層の断層は地滑りによるものだ」と主張しているが、地元研究団体の調査によれば、番神砂層から基盤の椎谷層を貫く断層であるとの結果が出ている。政府はこの事実をどのように判断しているか。
(3) この断層の調査結果に関して、東京電力と地元研究団体との相違点について、その後、政府が独自の立場で現地を確かめているか。確かめたとすればその調査を行った専門家名と調査結果について、独自の調査をしていないとすればその理由を明らかにし、次の項目について政府の認識と判断を示されたい。

ア 東京電力によれば「断層の変位は安田層中のピート層で百二十センチメートル、椎谷層の泥岩層を基準とすれば八十センチメートル程度で、変位は上部の安田層が大きい」としているが、地元研究団体では「断層の変位は安田層中のピート層で百二十センチメートル、椎谷層の火山灰層を基準とすれば百四十五センチメートル程度で変位に累積性がみられる」としている。事実はどうなっているか。
イ 東京電力は「椎谷層中の断層は癒着した面なし断層である」としているが、地元研究団体の調査結果は「断層付近の幅一・五メートル区間は固い椎谷層が破砕されている」となっている。事実はどうなっているか。
ウ 椎谷層中の基準となる層を一致させて変位を確認してみたか。
エ 私自身も現地へ行ってみたが、椎谷層の破砕されている状況を現認している。現地調査をすれば破砕帯の有無や、面なし断層かどうか等一目瞭然だったと思うが見解を伺いたい。

(4) 寺尾で発見された断層の評価は原発の設置許可の前提にかかわるものである。
 原子力発電所は岩盤に設置された剛構造の建築物である。従って、岩盤が動くことを前提にはしていないと思うがどうか。もしも、基礎地盤に変動があった場合に原子炉の健全性が保たれ得るか。
(5) 柏崎刈羽原発の周辺地区で頻発する地震と類似の地震で直下の断層が活動することが危惧される。プレートの潜り込みを原因とする太平洋側の地震と異なり、日本海側の地震は全く思いもかけなかった所にも起きることを、昨年末の中魚沼郡津南町の地震が警告している。地震と直下断層の活動について安全審査は検討していないのではないか。

ア もし、検討していたならばその内容を明らかにされたい。
イ また、もし検討が不要だとしているならばその根拠を明らかにされたい。

(6) 右はもし、(2)~(3)のように地元研究団体の調査結果が事実として明白になったとしたら、柏崎刈羽原発の設置許可の前提を覆すような重要事項になるはずだから、次の対応を急ぐべきだと思うがどうか。

ア まず、現場を専門家が詳しく調査すべきである。
イ この場合、一人の専門家あるいは特定の立場だけの専門家のみによる調査ではなく、数人の専門家による慎重かつ丁寧な現地調査を行い、調査結果をすり合わせる等の客観的解明の努力が重要であると思うがどうか。
ウ その調査で、地元研究団体の調査結果と一致する事実が明白になれば安全審査をやり直す必要になるがどうするか。

二 事故や火災発生時における原子力発電所からの通報連絡について

 本年二月十三日深夜に東京電力柏崎刈羽原発の水処理建屋の配電盤火災が発生したが、この時の地元消防署並びに自治体への通報連絡が非常に遅かった。防災体制上問題だと思うので、次の項目について政府の掌握している事実経過と、これに対する政府の判断及び指導について伺いたい。

1 次の事件について、通報連絡がどのように行われたか、各事件ごとに事実経過を明らかにされたい。

(1) 事件について

ア 一九八九年一月六日の東京電力福島第二原発三号炉における再循環ポンプ破損事故。
イ 一九九一年二月九日の関西電力美浜原発二号炉におけるECCS(緊急炉心冷却装置)作動事故。
ウ 一九九二年九月二十九日の東京電力福島第一原発二号炉におけるECCS作動事故。
エ 本年二月十三日の東京電力柏崎刈羽原発における水処理建屋の火災。
オ その他、最近における原発敷地内建物又は原発関係建物の火災があれば、その際の通報連絡。

(2) 通報連絡の事実経過について

ア 国への通報連絡(第一報)は発生時から何分後に行われたか。発生時刻と国が通報を受け取った時刻。
イ 県への通報連絡(第一報)は発生時から何分後に行われたか。県が通報を受け取った時刻。
ウ 地元市町村への通報連絡(第一報)は発生時から何分後に行われたか。市町村が通報を受け取った時刻。
エ マスコミには、いつどのように発表されたか。

2 一九九一年二月二十一日、柏崎刈羽原発では、二号炉がスクラム(緊急停止)した時と九二年五月二十七日、やはり二号炉が落雷手動停止した際には、地元市村には第一報が事件発生後三十分程度で通報連絡されている。にもかかわらず、今回はなぜこんなに大幅に通報が遅れたのか。
 自治体への通報の遅れは、国への連絡が優先するためではないかとも言われているが、事実か。通報連絡について政府はいかなる指導をしているのか。
3 前記二件の通報については、第一報が運転部門の担当者によって行われており、落雷による手動停止の際は第三報から広報課が行っている。この場合は自治体が落雷から手動停止に至る経過を判断し得る情報が提供されたことになり、防災上望ましい通報体制だったといえよう。そこで、今回の自治体への通報の遅れについて、政府がどのように考えているか、その認識を伺いたい。

(1) 当該原発の総務部や広報部が通報連絡の担当となっているため、運転部門との連絡や、通報の仕方等についての調整に時間を要して遅れたのではないか。
(2) 国及び地元自治体への連絡体制については、電力会社独自のものなのか、あるいは国の指導による体制が作られているものなのか。何らかの行政指導が行われているとするならばその内容を明らかにされたい。

4 特に火災時の通報連絡について

(1) 今回の柏崎刈羽原発の火災の原因は何だったのか。原因調査はどこが行っているのか。
(2) 同火災発生時における地元消防署への通報の大幅な遅れは「消化に夢中で失念していた」という言い訳では済まされまい。消防法違反であると思うが政府の判断はどうか。
(3) この消防署への通報の大幅な遅れに対して

ア 原発監督、防災担当のそれぞれの立場からどのように考えているか。
イ 電力会社の対応の問題点を洗い出し、火災通報連絡体制について改善を勧告指導する必要があると考えるがどうか。

  右質問する。