質問主意書

第126回国会(常会)

質問主意書


質問第二号

参議院選挙区選出議員定数配分規定に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成五年三月十日

猪熊 重二   


       参議院議長 原 文兵衛 殿


   参議院選挙区選出議員定数配分規定に関する質問主意書

第一点 参議院議員選挙法(昭和二十二年二月二十四日法律第十一号)制定時における地方区(現行公職選挙法における選挙区に相当)選出議員の定数配分規定について

一 問題の所在

1 右法律制定時における国会の審議及びその後の右法律改正に関する内閣所掌の審議機関における審議において、地方区(選挙区)選出議員定数規定に関し、行政府は、次のごとき見解を表明している。

(1) 昭和二十一年十二月十九日、衆議院本会議における国務大臣大村精一君の提案理由説明「その中一五〇人を地方選出議員とし、各選挙区において選挙すべき議員の数は、最近の人口調査の結果に基きまして、各都道府県の人口に比例して、最低二人最高八人の間において、半数交代を可能ならしめるが為それぞれ偶数となるように定めることとし残りの一〇〇人を全国選出議員と定めたのであります。」
(2) 昭和三十八年五月二十九日、第二次選挙制度審議会第二委員会における幹事(自治省選挙局選挙課長)中村啓一君の発言
 「参議院議員の地方区選出議員の配当につきましては、参議院議員選挙法が制定される当時においても相当な議論があり、配当のやり方についても何案かつくられたわけでございますが、結局議員定数で全国人口を割りまして、議員一人当たり人口を出しまして、その議員一人当たり人口で各都道府県の人口を割って配当基数をきめる案に落着いたようでございます。そしてその配当基数が奇数になった場合には、端数切り上げ、偶数になった場合、端数切り捨ての計算方法によって配当したわけでございます。」
(3) 第六次選挙制度審議会(昭和四十四年5四十五年)において、政府が同審議会委員に配付した「参議院議員選挙法制定当時の地方区選出議員の定数配分に関する調」と題する参考資料における記述
 「説明
甲案について
 本案は、参議院制度制定当時、地方区選出議員の定数配分について種々考えられた案のうち、各都道府県の人口の割合によって、配当議員数を算定した案である。即ち昭和二十一年四月二十六日現在の人口調査による人口に基づいて、配当議員総数を一五〇人とした場合の議員一人当たり人口(四八七、四一七人となる)を算出し、この議員一人当たり人口をもって都道府県の人口を除して得た数(配当基数)より(1)第一案は、各府県の配当基数が二以下の場合は二人を四、六又は八以上の場合はそれぞれ四、六又は八人を配当し、残余の定数は配当基数の端数の大きなものからそれぞれ二人を配当する方法により算定したものである。」(なお、右説明は、右記述に引き続き、甲案の第二案ないし第四案及び乙案の第一案ないし第三案につきそれぞれ説明記述しているが、同法制定当時における地方区定数配分が甲案第一案によったものであることは明らかである)

2 右行政府の見解によれば、参議院議員選挙法制定当時、地方区選出議員の定数配分規定が、人口比例配分をその原則としていたことは明白である。

二 政府に対する質問

1 政府は、右の(1)ないし(3)の発言ないし記述の存在を承知しているか。
2 右(1)ないし(3)の発言ないし記述によれば、“参議院議員選挙法制定当時において、参議院地方区(現選挙区)選出議員の定数配分規定が、各選挙区の人口に比例して全議席を各都道府県に、最大剰余法の配分基数に基いて配分するものであった”ことが明らかであると思うが、政府の所見はいかん。
3 仮に、政府が、右2と別異の見解を有するのであれば、その見解の要旨並びに右2の見解を否定しかつ別異の見解をとる根拠いかん。

第二点 最高裁判所判決における、参議院議員選挙法制定時における地方区選出議員の定数配分規定に関する認定の誤りについて

一 問題の所在

1 最高裁判所大法廷は、昭和五十八年四月二十七日、選挙無効請求上告事件において、参議院地方区(現選挙区)選出議員定数規定に関し、判決理由において次のように判示している。

(1) 「地方選出議員の各選挙区ごとの議員定数を定めた本件参議院議員定数配分規定は、…略…参議院議員選挙法(昭和二二年法律第一一号)別表の定めをそのまま維持したものであって、その制定経過に徴すれば、憲法が参議院議員は三年ごとにその半数を改選すべきものとしていることに応じて、各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることとなるように配慮し、総定数一五二人のうち最小限の二人を四七の各選挙区に配分した上、残余の五八人については人口を基準とする各都道府県の大小に応じ、これに比例する形で二人ないし六人の偶数の定数を付加配分したものであることが明らかである。」
(2) 「参議院議員を全国選出議員と地方選出議員とに分かち、…略…後者については、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえうることに照らし、これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものであると解することができる。」

2 最高裁判所は、右判決以降、

(イ) 第一小法廷判決 昭和六十一年三月二十七日
(ロ) 第一小法廷判決 昭和六十二年九月二十四日
(ハ) 第二小法廷判決 昭和六十三年十月二十一日

の各判決において、右の大法廷判決判示の右(1)(2)の事実認定ないし法律解釈を踏襲して判示し、現在、この見解は判例として確定したものとなっている。
3 しかし、参議院議員選挙法制定時における地方区選出議員の定数配分規定は、前記第一点において述べたとおり、「各都道府県の人口に比例して、最低二人最高八人の間において、半数交代を可能ならしめるが為それぞれ偶数となるように定めることとし」たのである(人口比例原則の採用)。
従って、右最高裁判決における、

(1)の判示は、明らかに定数配分にかかる制定時の事実認定を誤り、その結果として、定数配分規定を誤って認定したもの、
(2)の判示は、右(1)の事実誤認・法令解釈の誤りを前提とした誤った法令(定数配分規定)解釈である、

と言わざるを得ない。

二 政府に対する質問

1 政府は、右最高裁判決判示(1)の事実認定ないし法令解釈及び同(2)の法令解釈をどのように評価するか。
2 仮に、政府が、右最高裁判決判示(1)ないし(2)を正当な事実ないし法令認定と評価するのであるとすれば、

(イ) 政府が正当と判断した根拠ないし理由。
(ロ) 政府は、前記第一点に述べた従前の行政府見解と右判示(1)及び(2)の見解との異同につき、いかなる見解を有しているのか。

第三点 第八次選挙制度審議会の平成二年七月三十一日付「参議院議員の選挙制度の改革及び政党に対する公的助成案についての答申」の内容の相当性について

一 問題の所在

1 選挙制度審議会は、右答申において、参議院選挙区選挙における選挙区別定数の再配分に関連して、次のように答申している。

(イ) 選挙区選挙は、都道府県代表的な性格を有している。
(ロ) 定数配分の方法は、各都道府県に二人の定数を割り振ったうえ、残りの定数を人口比例により各都道府県に割り振る。その具体的方法は、残りの定数を二人を単位として最大剰余法により各都道府県に割り振る。

2 しかし、右答申の内容は、次の諸点において相当性を欠く見解であると思料される。

(一) 第一、右ののについて(都道府県代表的性格)

(1) 参議院議員選挙法制定当時において、地方区(選挙区)選挙に対し、地域代表的性格を付与すべきか否かが論議された経緯は存するが、都道府県代表的性格を付与すべきか否かが論議されたことはない。
 答申に言う「都道府県代表」という概念は、その意義のとり方により「選挙区代表」・「地域代表」という概念と、類似点を有してはいるが、しかし、それらは、それぞれ別個・異質な概念と言うべきである。すなわち、地域代表という概念は、広く解釈すれば「選挙区代表」概念に近接しては行くが、しかし、行政単位として確定している「各都道府県代表」という概念とは明確に別異である。
 しかるに、答申は、制定時に論議された「地域代表」という概念を、その後全く論議されたことのない「都道府県代表」という概念に安易に転換しているものと言わざるを得ない。
(2) そうとすれば、答申においては、いつ、いかなる事由、またいかなる法的手続を経由して選挙区選挙が都道府県代表的性格を帯びるに至ったかにつき合理的説明をなすべきである。しかるに、何の説明もないままに右の法理を自明のものとして主張している答申は、不相当と言わざるを得ない。
(3) 地方区(選挙区)選挙において、選挙区が都道府県単位となっているということは、選挙の区域が単に都道府県を単位として定められているということ以上に何ら格別の意味をもつものとは考えられない。なぜなら、

a 選挙区選出参議院議員を含めて、すべての国会議員は憲法上「全国民を代表する議員」(憲法第四三条)であって、都道府県を代表する議員ではあり得ないのであるし、
b さらに、「都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえうる」(前記大法廷判決)としても、我が国における都道府県は、欧米における独立州などとは異なり、独立した政治権力の主体(ないし国家権力の分身)ではないのであるから、これを代表するなどということは法理論的に成り立たないと考えられる(国政の権力は、国民の代表者がこれを行使する・憲法前文)、からである。

(4) 確かに、都道府県を選挙の区域として定める場合、各都道府県に対し選挙されるべき議員の最少の定数が割り振られなければならない(仮に、最少の定数も割り振られない選挙区を認めた場合、当該選挙区の選挙民の選挙権が全面否定されたこととなり、これは憲法に違反する)。そして参議院議員の半数改選が憲法の要請であることからすれば、一般的には、割り振られるべき最少の人数は二人とならざるを得ない。しかし、このように各都道府県から最少二人の議員が選出されることとなるということは、都道府県を選挙の区域の単位(選挙区)と定めたことの結果であって、それ以上に、選挙区から選出される議員に都道府県代表としての性格が付与されたことを意味するものではない。

(二) 第二、右の(ロ)(二人割り振り・残余最大剰余法割り振り)について

(1) 右の配分方法は、前記(イ)の誤った認識(都道府県代表性)に立脚した結果として、自動的に誤って導き出されたものであり(なぜなら、答申は、右のを述べる以外に、各都道府県にまず二人を割り振るべき合理的根拠を何ら説示していないのであるから)、不相当と言うべきである。
 さらに、前述のとおり、各都道府県が選挙の地域・単位であるということ(都道府県を選挙区とするということ)と、各都道府県にまず(人口的配慮を何らすることなく)二人を割り振るということとは、全く別個・無関係のことであることを看過したものと言うべきである。
(2) 答申により算出(ただし、平成二年人口基準による)された選挙区間の格差は、最小・最大格差が鳥取対東京=一対四・八一であり、四人区間の格差が鹿児島対北海道=一対三・一五になる。
 かかる格差を当然のこととする答申の考え方は、「選挙権の平等の原則は、単に選挙人の資格における差別を禁止するにとどまらず、選挙権の内容の平等、すなわち議員の選出における各選挙人の投票の有する価値の平等をも要求するものと解する」(前記大法廷判決)という憲法第一四条の規定に対し何らの考慮を払わない不当な見解と断ぜざるを得ない。

3 右のとおり、選挙制度審議会の答申内容(イ)及び(ロ)は種々の誤りを含む不相当な見解と言わざるを得ない。

二 政府に対する質問

1 政府は、選挙制度審議会の前記答申(イ)の及び(ロ)に対し、それぞれどのような所見を有しているか。
2 仮に政府の見解が右答申の(イ)と同旨であるとするならば、政府が、右のように考えることの法制度上ないし法規上の根拠は何か。
3 仮に政府の見解が、右答申(ロ)と同旨であるとするならば、政府が、各都道府県にまず二人を配分すべきであるとすることの法制度上ないし法規上の根拠は何か。
 また、この見解と第一点に述べた法制定時の行政府の見解との異同につき、どのように説明するのか。
 さらに、右(ロ)のごとく定数を定めた場合の、前記最高裁判決のいう「投票価値の平等の原則」との整合性をどのように考えるのか。

  右質問する。