質問主意書

第125回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一一号

大韓航空機事件の真相究明に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成四年十二月十日

梶原 敬義   


       参議院議長 原 文兵衛 殿


   大韓航空機事件の真相究明に関する質問主意書

 一九八三年九月一日の大韓航空〇〇七便の事件は、当時、レーガン・米大統領が「世界史の転換点」と呼んだほどの大事件であり、本院も、本会議において、全会一致で真相究明決議をしている事件である。
 本年一〇月一四日、エリツィン・ロシア共和国大統領は、韓国及び米国代表に対して右大韓航空機事件に関する文書を手渡し、翌一五日、コズイレフ同国外相は、犠牲者を出した関係国の立会いの下に、国際民間航空機関(以下、ICAOと記す)所在国たるカナダの大使に同文書を手渡し、我が国も同日、カナダ大使より同文書を入手したとのことである。そこで、同文書に関して以下の質問をする。

一 政府が本年一〇月一五日に受領した大韓航空機事件に関する文書(以下、公表資料と記す)の不明瞭な点について

1 公表資料は一〇種類になるが、例えばそのうち、故アンドロポフ書記長あての二通の報告書には署名者のタイプ文字だけで各人のサインがなされていない。
 さらに一九八三年一一月付けの報告書には故グロムイコ外相のタイプ文字までもが×印で消されている。
 また、一九八三年一二月付けの報告書には、手書きの加筆がなされているとともに、前記のグロムイコ外相の氏名の位置が空白になっている。
 このような体裁の文書では、各文書の作成者、作成年月日が「不明」と言わざるを得ず、その記載内容について、だれが責任を負っているのかが明らかにされる必要がある。政府は、ロシア政府に対して、各文書の作成者、作成年月日に関する証明を求める意思があるか。(ある場合には、いつ、だれが、どのようにして請求するかを、また、否の場合にはその理由を、明らかにされたい。)
2 公表されたコックピット・ボイス・レコーダー(以下、CVRと記す)の解読データはすべて手書きの上、ロシア語表記となっている。かつ、未解読部分が多数(不明瞭部分が二三箇所、空白部分が七六箇所)にわたっている。とりわけ、録音言語をそのまま忠実に原語で表記されたものでなければ、事実関係の確認ができない。解読作業の過程では、当然録音言語の音声を忠実に解読し、そのまま表記した文書が作成され、存在するはずである。政府は、ロシア政府に対し、記録された原語を忠実に表記した文書を請求する意思があるか。(ある場合には、いつ、だれが、どのようにして請求するかを、否の場合にはその理由を、明らかにされたい。)
3 公表されたデジタル・フライト・データ・レコーダー(以下DFDRと記す)の解析データは「大韓航空機B747-200Bデジタル飛行記録装置DFDRの磁気テープに記録された情報の分析に関する証明書」と題する目録的な証明書だけで、解析データそのものが全く公表されていない。また、公表資料最後の飛行経路図は、解析データをそのままプロットしたものではなく、かつ、航跡の誤差範囲が二度(撃墜地点では南北に二〇〇キロメートルにも及ぶ)というずさんなものである。政府は、改めてロシア政府に対し、DFDRの解析データそのものを請求する意思があるか。(ある場合には、いつ、だれが、どのようにして請求するかを、否の場合にはその理由を、明らかにされたい。)
4 公表資料のCVR、DFDRに関する文書を見る限り、旧ソ連で調査にかかわった関係諸機関の解読・解析能力を疑わざるを得ず、ロシア政府に対してオリジナル、または複製テープの公開を強く要求するとともに、事件関係国である日本としてもロシア政府に対し、同テープの引渡しを請求すべきと考えるが、政府にその意思があるか。(ある場合には、いつ、だれが、どのようにして請求するかを、否の場合にはその理由を、明らかにされたい。)

二 公表資料のCVR解読記録について

1 テープ経過時間八分三〇秒部分の〇〇七便からの発信として、「господин дирeктор」と記された部分がある。この部分を英語に翻訳すると、「Mr.Director」となるが、外務省の翻訳では、同部分を「機長」と訳している。右和訳に間違いはないか。
2 テープ経過時間の二九分三八秒の〇〇七便からの発信として、「Попытka выхода в афир, сpыв тангенты」と記された一文がある。外務省訳では、同部分を「これから管制圏を出る、出た」と訳したものと、「大空に出る試み、?が機能しない。(訳注:この部分翻訳困難)」の訳と、二通りあるが、正しい和訳はどのようになるのか。(なお、私がロシア語の専門家らの協力によって得た、右部分の和訳の結論は、「送信しようと試みる。通話用押しボタンが機能しない」であるが、この私の見解に対する政府の見解いかん。)
3 公表資料八番目の専門家グループの結論には、「侵犯航空機の撃墜時間は事実上一致し、サハリン時間九月一日六時二四分五六秒(モスクワ時間八月三一日二二時二四分五六秒)である」と述べた後に、二台のレコーダーが停止したのは「飛行機撃墜から一分四二秒後であった」となっている。
 そこで、モスクワ時間の二二時二四分五六秒に、一分四二秒を加算すると、レコーダー停止時刻は同二二時二六分三八秒となる。ところが、CVR記録の二番目の資料では、テープ終了時刻がモスクワ時間で二二時二六分〇八秒となっており、公表資料そのものに三〇秒という時間のズレがある。また、CVR記録の二番目の資料のテープ経過時間とその左わきに手書きされたモスクワ時刻とが、一致しない部分がある。このように時間軸が不正確な公表資料では、事実関係を検証するためには不十分である。どの時間が正確な時間なのかをロシア政府に問いただすべきであると考えるが、政府にその意思があるか。(ある場合には、いつ、だれが、どのようにしてただすかを、否の場合にはその理由を、明らかにされたい。)
4 大韓航空〇〇七便に関する東京国際対空通信局の交信記録に記載された関係者の発信時刻と、公表資料二番目のCVR記録の関係者の発信時刻が一致しないが、どちらの時刻が正しいのか。

三 公表資料のDFDRの解析について

1 公表資料八番目の専門家グループの結論では、「慣性航法システムを自動操縦装置に連結することなしに、恒常的に磁方位二四九度の自動安定航法モードで自動飛行を続けた。(但し、海上での飛行の主要モードは慣性航法システムによる自動操縦であった)」と結論づけている。他方、公表資料七番目のDFDRの「証明書」には、「これらのパラメーターが、大韓航空機の航路、飛行モード及び姿勢に関する有益な情報を含んでいない」としている。
 これは明らかに矛盾している。「飛行モード」を記録したパラメーターの情報を得ずして、飛行中にどのモードが使用されていたかは明らかにできない。この点に関して、政府は、ロシア政府に対して右矛盾が生じた理由などについて問いただす意思があるか。(ある場合には、いつ、だれが、どのようにして問いただすのかを、否の場合にはその理由を、明らかにされたい。)
2 大韓航空〇〇七便のDFDRの記録については、先に述べたとおり、具体的な解析データは全く公表されていないが、撃墜、及び給電停止の事象にかかわる時刻、高度、速度、方位及び三軸の加速度などのデータについて、政府は、ロシア政府に対してその具体的内容を問いただす意思はあるか。(ある場合には、いつ、だれが、どのようにして問いただすのかを、否の場合にはその理由を、明らかにされたい。)
3 DFDRのテープが、韓国政府に引き渡されなかったと報道されているが、政府は、同テープが、現在どの国の、どの機関によって保管されているのかを、ロシア政府に対して問いただす意思があるか。(ある場合には、いつ、だれが、どのようにして問いただすのかを、否の場合にはその理由を、明らかにされたい。)

四 大韓航空〇〇七便の直後を飛行していた大韓航空〇 一五便の朴用萬機長は、週刊誌『サンデー毎日』の一九八七年一月四日・一一日合併号の一三九頁において、「その日は、おかしなことに、お互いの機が冗談ひとつ交わしませんでした」と証言している。
 ところが、今回の公表資料では、CVRテープの経過時間八分二五秒から一三分三四秒までの約五分間に〇〇七便と〇一五便の間で交信が交わされている。その発信回数は、〇〇七便からは一九回、〇一五便からは一五回発信されている。なおかつ、経過時間九分三六秒には、〇〇七便の乗務員からジョークと思われる会話がなされている。明らかに朴用萬機長の前記証言と矛盾している。韓国政府は、この事件の第一当事国としての立場から真相を明らかにする責務を負っている。韓国政府としても、同国国会で朴用萬機長及び同乗乗務員を証人として喚問し、事実関係をただすべきと考えるが、日本政府として、韓国政府に対し、右証人喚問を促す意思があるか。(ある場合には、いつ、だれが、どのようにして促すかを、否の場合にはその理由を、明らかにされたい。)

五 一九八五年七月二一日、当時のランベールICAO事務局長は、「大韓航空機事件の真相を究明する会」理事の武本昌三教授あての手紙のなかで、ICAO加盟国によって新たに事実に基づく多くの情報が提供された場合には事件の再調査も有り得るということを述べている。事件後九年を経た段階で、旧ソ連政府がこれまで秘匿していたCVR及びDFDRという事件の核心に迫る重要な情報がロシア政府の手で公表されるという新たな展開が生じている。私は、日本政府が「ICAOがロシア政府に対してCVRとDFDRの原テープの提供を請求すること、及び事故調査委員会での調査を再開すること」をICAOに対し早急に申し入れるべきであると考えるが、政府にその意思があるか。(ある場合には、いつ、だれが、どのようにして手続きをするかを、否の場合にはその理由を、明らかにされたい。)
 また、ICAOの事故調査委員会は、先に記した大韓航空〇一五便の朴用萬機長及び同乗乗務員の証人喚問をすべきであると考えるが、この点に関する政府のICAOにおける方針を明らかにされたい。

六 本年一二月三日付けの読売新聞夕刊(西部本社発行)「〔モスクワ2日=倉田稔〕エリツィン・ロシア大統領が先月中旬訪韓した際、盧泰愚韓国大統領に手渡した大韓航空機KAL〇〇7便(八三年撃墜)のブラックボックスに飛行記録テープ(FDR)が含まれていなかった問題で、ロシア外務省は二日声明を発表し、事件の最終的な解明のため国際民間航空機関(ICAO)の下で第三者による専門調査委員会を創設するよう提案、第一回会議を今月八日から一〇日までモスクワで開催するよう呼びかけた。声明では、「解明のためのオリジナル資料を会議に提出する」として同委員会にFDRを渡す用意があるとしている」
 政府は、右ロシア外務省声明に対し、積極的に対応する用意があるか。(ある場合には、いつ、だれが、どのように対応するかを、否の場合にはその理由を、明らかにされたい。)

  右質問する。