質問主意書

第125回国会(臨時会)

質問主意書


質問第七号

聴覚障害者対策等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成四年十二月八日

荒木 清寛   


       参議院議長 原 文兵衛 殿


   聴覚障害者対策等に関する質問主意書

 国際障害者年を契機とした国際連合の「国連・障害者の十年」も本年、その最終年を迎えている。我が国においては、この間、昭和五十七年三月には「障害者対策に関する長期計画」が、さらに昭和六十二年六月には「障害者対策に関する長期計画」後期重点施策が策定され、これらに基づいて障害者対策の充実が進められてきたところである。この十年を振り返ってみると、制度的な改正を含め障害者対策は進展しつつあり、すべての障害者の人格の尊厳性の回復と自立を目指す「リハビリテーション」の理念と、障害のあるなしにかかわらず同様に生活し、活動することが重要であるという「ノーマライゼーション」の理念が、国民の中に浸透してきている状況にある。
 しかしながら、障害を持つ人々が障害を持たない人々と同様に、社会のあらゆる分野に参加していくためには、なお残された課題が多い。とりわけ、社会生活の基礎となるコミュニケーションにハンディを持っている聴覚障害者にとって、国際障害者年のテーマである障害者の「完全参加と平等」の実現にはいまだ多くの障壁が残されている。
 以上のような観点から、今後の障害者対策、なかんずく聴覚障害者対策の推進について、以下、具体的に質問する。

一 今後の障害者対策の推進について

1 「国連・障害者の十年」の成果を定着させ、なお一層施策の推進を図っていくためには、今後とも長期的視野に立った政府全体の取組が求められている。
 一方、国連においては、西暦二〇一〇年までに「全員参加の社会」をテーマに長期戦略を採択することが提案されており、また、ESCAP(国際連合アジア・太平洋経済社会委員会)では「アジア太平洋障害者の十年」の決議が採択されている。こうした国際的な動きに対応するためにも、「国連・障害者の十年」以後の障害者対策の基本となる長期計画を早急に策定すべきではないか。新たな長期計画策定に向けての政府の取組、検討状況を示されたい。
2 「障害」、「障害者」についての正しい理解の普及を図ることは、「完全参加と平等」を進めていく上での基礎的要素である。今後とも障害に対する国民の理解を深めるとともに、特に、目に見えない障害と障害者に対する国民の理解と施策の促進を重点的に図る必要があるのではないか。
 また、日常生活、社会生活を含むすべての活動において、障害者の具体的な参加を進めていくためにも、障害者対策の検討の場に障害者とボランティアの代表を加える等障害者の声をできるだけ反映させることが必要ではないか。
3 ノーマライゼーションを進めていく上で、もっとも身近な行政機関である市町村の役割は極めて重要である。特に、平成五年度において措置権の町村への権限移譲が行われ、市町村において施設・在宅サービスが一元的に行われる体制が整うことから、市町村に対する財政支援が求められている。財政措置について、その内容を示されたい。
4 障害者が介護・支援を安心して受けることができるよう自治体・施設職員の確保・待遇改善などを進めるべきであると考えるが、今後の対応策を明らかにされたい。また、社会福祉事業法によって定められる社会福祉事業従事者の確保に関する基本指針の策定状況、それに盛り込まれるべき措置の具体的内容を示されたい。

二 聴覚障害者の現状と見通し

 急速な高齢化の進展に伴い、聴覚障害者の増加が予測される。聴覚障害者の現状、及び今後の見通しを示されたい。
また、本格的高齢社会を目前に、聴覚障害者対策は、これまでにも増して重要性を増すと考えるがどうか。高齢化に着目した新たな対応策をとる必要があるのではないか。

三 聴覚障害者のコミュニケーションの保障について

1 聴覚障害者にとって、コミュニケーションの権利を確保することは最も重要な課題の一つである。しかし、今日ろう学校においては、音声言語による口話法による指導が中核として行われ、手話教育は授業においてほとんど取り入れられていない。聴覚障害者にとって第一言語である手話によるコミュニケーションが図られるよう、ろう学校における手話教育の確立を図り、標準手話の普及促進のための施策を積極的にとる必要があるのではないか。
 また、手話通訳士の養成を計画的に進めるとともに、医療機関、図書館など公的機関への手話通訳士の配置を促進すべきではないか。
2 公共施設において、聴覚障害者が容易に利用できる福祉電話やファックスの設置を進めるべきではないか。
また、聴覚障害者の側からの緊急連絡手段の確保を図るため、ファックスを所有している聴覚障害者、ろう学校、社会福祉施設等と各警察署、駐在所を結ぶファックス一一〇番を全国的に普及させるべきではないか。

四 聴覚障害者への情報の提供について

1 今日、テレビ放送の字幕付き放送及び手話通訳付き放送は増加しつつあるとはいえ、ごく限られており、聴覚障害者が必要とする日常生活における情報の絶対量を満たすにはまだまだ程遠い状況にあると言われている。字幕付き放送及び手話通訳付き放送の実施状況を明らかにされたい。
2 テレビ放送は最大のマスメディアであり、一般テレビ番組への字幕や手話通訳の挿入の推進を図る必要があるのではないか。また、文字放送アダプター内蔵型テレビの普及を図るためメーカーへの義務付け等の措置を講じるとともに、これを日常生活用具給付事業の対象とすべきではないか。
3 平成二年度の身体障害者福祉法の改正によって更生援護施設の一種として位置付けられた聴覚障害者情報提供施設についてその整備状況を示されたい。聴覚障害者への情報手段の拡充という観点から、この施設が速やかに全国的に設置されるべきであると考えるが、聴覚障害者情報提供施設の整備方針を明らかにされたい。

五 政見放送への手話通訳設置について

1 昭和五十八年の公職選挙法の改正に伴い、立会演説会が廃止されたことにより、結果として、聴覚障害者の政見を知る機会が奪われることとなっている。聴覚障害者の参政権を保障するためにも、テレビ政見放送に手話通訳を設置するよう措置すべきではないか。
2 手話通訳の導入が直ちには困難な場合には、手話通訳設置までの当面緊急の措置として、都道府県において政見放送のビデオを貸し出し、ビデオの上映に際して手話通訳をつける等の措置の普及を図るとともに、手話通訳設置経費の国庫補助を実施都道府県のすべてにおいて行うべきではないか。

六 言語聴覚療法士の資格制度化について

 言語聴覚療法士の資格制度化は、政府の「障害者対策に関する長期計画」後期重点施策にも盛り込まれている事項でもあり、長い間その実現が待たれている。計画最終年を迎えた現在、制度化に向けての状況はどのようになっているか。

  右質問する。