質問主意書

第123回国会(常会)

質問主意書


質問第一一号

保育所の経営と運営に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成四年三月十二日

上田 耕一郎   


       参議院議長 長田 裕二 殿


   保育所の経営と運営に関する質問主意書

 子どもと働く女性の権利を守る上で大きな役割を担っている保育所は、中曽根内閣以来の臨調行政改革のもとで、公立・私立を問わずその運営を根本から脅かされている。特に国庫負担率が十分の八から十分の五に大幅に削減された影響は甚大である。異常な地価暴騰、定員割れの深刻化などは、困難に一層拍車をかけている。
 憲法、児童福祉法によって、国民の保育に関して公的に保障する制度が確立したものの、今日の保育所が置かれている現状は、この原則に大きく反するものと言わざるをえない。
 事態の根本的解決のためには、臨調行政改革の中止、「保育に欠ける児童」を極めて狭く限定している保育所入所基準の見直し、最低基準や措置費の抜本的見直しを含む実効ある福祉人材確保法の確立、子どもの全面的発達の権利と行政の責任などを定めた「子どもの権利条約」の批准などが必要である。
 同時に、当面緊急に解決が求められている問題も数多くある。以下、保育所の運営の現状に即して質問する。

一 受持ち定数の改善について

1 保母の受持ち児童定数は、児童福祉法第四十五条に基づく「児童福祉施設最低基準」によって、二歳未満児は児童六人について保母一人以上、三歳児は二十人に一人以上、四、五歳児は三十人に一人以上と定められている。しかしこれらは三十年前より改善されずに今日に至っている。保母の受持ち児童定数をこのように定めた根拠は何か。
2 最低基準については、保育現場の実情に合っていないとして保育関係者や父母から改善を求める声が強くあがっている。政府は八九年度より、乳児指定保育所については「児童三人に保母一人」とする一定の改善を行っているが、一歳児の場合も月齢によって発達の差が大きく、六人に一人の基準では発達段階に合ったきめ細かな保育を保障することは非常に困難である。発達の程度の違う児童をこのように多数受持つ保母の間でも慢性疲労と職業病が広がり、健康破壊が進んでいる。
 児童数の減少に伴い定員割れが大きな問題となっている今こそ、保育関係者らが求めているように、少なくとも零歳~一歳児は児童三人に保母一人以上、二歳児は児童五人に保母一人以上、三歳児は十人に一人以上、四、五歳児は二十人に一人以上とすべきであり、実態を調査した上で早急に基準の見直しに取り組むべきと考えるが、どうか。

二 人材確保対策について

1 一般保母の措置費人件費は、平均勤続年数に基づいて短大卒六年目の国家公務員の賃金格付とされている。この水準が、他職種と比べても低い保母の賃金水準を根本的に規定しており、一方では「勤続年数が伸びるほど人件費財源がなくなる」ためにベテラン保母が働き続けられない事態が生まれている。民間給与等改善費も、上限のある平均的加算のため限度があるだけでなく、保育所の場合は「四ランク、最高は十年以上」と他の福祉施設に比べても低く抑えられている。保育学校卒業生の中でも民間企業への就職が増大している事態がある。以上を踏まえ、少なくとも保母の措置費人件費格付及び民間給与等改善費の抜本的改善が必要と考えるが、どうか。
2 九〇年人事院勧告で国家公務員の初任給が格上げされ、在職者についてもそれに伴う昇給期間短縮が行われた。しかし、国家公務員の賃金格付に対応して算定されている保育所など社会福祉施設職員の人件費措置費格付の改定は、全く行われていない。そのため、保母や調理員の措置費人件費上の扱いは、人事院勧告以前のそれに比べ実質格下げとなっている。例えば保育所一般保母は、短大卒六年目(勤続五年)の勤続実態を基礎に行政職一表二級三号俸に位置付けられているが、四月一日時点で同号俸の国家公務員は、昇給短縮によって年度途中で四号俸に昇給する。また、このまま保母の人件費措置費格付が据え置かれるなら、一九九五年には、保母の措置費人件費の額は、その時点の短大卒五年目の国家公務員の給与額と等しくなる。実質上の「格下げ」となることは明らかである。調理員の措置費人件費についても同様である。
 福祉人材確保が叫ばれ、そのための待遇改善が強く求められているなかで、政府が現行の措置費積算方法に基づいて当然とるべき措置をとらず、保母や調理員の措置費人件費を実質格下げすることは許されない。直ちに、必要な改善措置をとるべきと考えるが、どうか。
3 アレルギー児童の問題が深刻化しているが、保育所の調理員は、アトピー食の研究・実践を始め、児童の健康を守り成長をはぐくむ上で極めて貴重な役割を果たしている。老人、障害者施設における調理員も同様である。こうした今日的な調理員の役割を正当に評価し、待遇改善の一環として特殊業務手当を支給すべきと考えるが、どうか。さらに、措置費において、保育所の規模に応じて調理員の増員を図ることが必要と考えるが、どうか。
4 多様な保育が要求されている今日、それを保障する上で臨時職員の役割は欠かせないものとなっている。しかし、現在の非常勤保母の措置費は、日額五千三百四十円、時給六百七十円にすぎず、調理員にいたっては日額四千二百円で、東京・大阪の地域最低賃金四千五百七十円をも下回っている。抜本的に改善すべきと考えるが、どうか。

三 正規の事務職員配置について

 産休明け保育、夜間・延長保育、一時保育、障害児保育の実施、さらには地域保育事業や保育相談事業の取組など、保育所の役割と機能はますます多様化し、重要なものとなってきている。それに伴い保育所の事務量は、職員の給与計算、社会保険関係の事務処理、その他の一般事務から電話の受け答え、対外折衝、保母の確保などまで著しく増大している。一日四千二百円、年間百四日(週二日五十二週)分の事務員補助費用の範囲のパート事務ではとても処理できる現状にない。同額を上乗せ補助してきた東京都の私立保育所でさえ、増大する事務量を賄いきれず、結果として園長に多大な負担がかかっている。東京都では、九二年度から週四日分に改善している。
 政府は、実態をどのように把握しているか。また、保育所にも速やかに正規事務職員を配置すべきと考えるが、どうか。

四 定員未充足問題について

1 定員割れによる私立保育所の経営困難が社会問題となっており、大都市でその影響が特に深刻である。東京、大阪、愛知、京都、福岡の各都府県では、どの程度の私立保育所に定員割れが発生していると把握しているか、明らかにしていただきたい。
2 保育所は、児童福祉法第三十五条、同法施行規則第三十七条及び同法施行令第十二条の規定によって、措置定員に見合った職員配置が義務付けられている。一方、他の社会福祉関係の収容施設では、おおむね定員に見合った職員配置とされている。保育所がそのように措置されていない理由は何か。また、定員に基づく職員配置とすべきと考えるが、どうか。
3 零歳児保育や育児休業明け保育などに当たっては、途中入所への対応が必要であり、一般に年度当初には定員が充足されないのが当然である。このような実情にかんがみ、幾つかの自治体で既に独自の補助施策が行われているように、乳幼児保育の措置費については「定員払い」とし、安定的な職員配置と運営を保障すべきと考えるが、どうか。

五 大規模な園舎改修・修繕に伴う補助金について

 六〇年代末から七〇年代にかけて、住民要求に基づき次々と建設された私立保育所の多くが、今改築時期を迎えている。しかし、改築及び大規模改修に際しての国の補助金は、鉄筋の場合で一平方メートル当たり十五万八百円にすぎず、平米二十~三十万の実勢単価と著しくかけ離れている。そのため、改修ができず園舎を老朽化するにまかせざるをえない事態や、改修しても多額の借金で園経営が圧迫される事態が生まれている。
 現在の補助単価の算定根拠を明らかにしていただきたい。また、実情にふさわしく単価を大幅に引き上げるべきと考えるが、どうか。

六 暴騰する地代、借地料、更新料について

1 現在、東京都をとってみると、借地の私立保育所が約三百五十あるが、その多くが異常な地価暴騰のもとで経営困難に陥り、保育所として持ちこたえる限界点にあるところも少なくない。「固定資産税値上げにともない、地代が二倍になった」「地代負担が年間五百万円」などの事態も珍しくない。しかし現状は、地代については何ら国から措置されていない。事態の深刻化に対応して、私立保育所園長らが強く求めている借地の保育所に対する地代補助、法人園に土地を貸している民間地主に対する免税措置など、何らかの緊急措置を講じるべきと思うが、どうか。
2 借地の私立保育所のうち少なくない園が更新の時期を迎え、巨額の更新料に苦しんでいる。地価暴騰のもとで数千万円の更新料が必要となり、その負担に耐えかねて廃園となった園もある。政府としての何らかの助成措置を講ずべきと思うが、どうか。
3 政府は八六年、社会福祉法人が国有地を借りて施設を運営している場合でも、その改築に当たっては改築承諾料を取ることができるとの規則改正を行った。保育所の場合、この改正された規則に基づいて改築承諾料を請求した例があれば、保育園名とその後の状況について明らかにしていただきたい。また、国有地を借りている社会福祉法人から国が建替承諾料を徴収する場合、その法的根拠は何か。公益性の高い保育所などについては、優遇措置がとられて当然であり、建替承諾料は取るべきでないと考えるが、どうか。

七 公立保育所をめぐる問題について

自治省は、「平成二年度定員管理調査自治省ヒアリング」において、東京特別区の公立保育園について「時短の関係で何十人も増えたというのは…遺憾だ。時短での増員分は元に戻すよう強く指導してもらいたい」(自治省能率安全推進室メモ)などと公言している。これは、東京特別区が、地域の実情・実態に即しつつ、労使交渉も踏まえて区政を運営していることに対するあからさまな干渉であり、地方自治への侵害である。保育所を始めとする完全週休二日制の地方自治体への早期導入、そのための人員・予算増を含めた条件整備はいよいよ急務である。これらの発言は撤回すべきであると考えるが、どうか。

八 無認可保育所への補助について

1 今日、無認可保育所は、地域に欠くことのできない貴重な存在となっている。政府は、保育に果たしている無認可保育所の役割をどのように認識しているか。
2 無認可保育所へも、国として当然何らかの補助を行うべきと考えるが、どうか。

九 国庫負担率の復元について

 保育所への国庫負担率の削減は、自治体財政及び私立保育所の経営と運営を根底から苦しめている根本問題である。直ちに八割の水準に戻すべきと考えるが、どうか。

  右質問する。