質問主意書

第123回国会(常会)

質問主意書


質問第三号

米の市場開放問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成四年一月二十九日

村沢 牧   


       参議院議長 長田 裕二 殿


   米の市場開放問題に関する質問主意書

 我が国農業は、長い歴史の試練を受けながら、国民食糧その他の農産物の供給、資源の有効利用、国土の保全、国内市場の拡大等国民経済の発展と国民生活の安定に寄与してきた。
 さらに、近年、地球的規模における環境問題が国内のみならず国際的な課題となっているが、その中で特に農業の国土・自然環境保全に果たす役割の重要性が新たに認識されている。
 言うまでもなく、各国農業の置かれている状況は実に千差万別であり、我が国の米については、主食であるとともに食文化をも形成してきた。
 しかし、我が国農業の置かれている状況は、国内的には、全水田面積の三割に及ぶ米の生産調整の実施、穀物自給率三十パーセントという先進工業諸国の中でも際立って低い食料自給率、後継者・担い手の不足、耕作放棄地面積の増大等多くの困難な問題に直面している。他方、国際的には、世界最大の農産物純輸入国である我が国において、牛肉・オレンジの輸入自由化等の実施とも相まって、我が国農業・農政の国際化が進展してきたが、現在交渉中のガット・ウルグァイ・ラウンドにおける農業交渉では、国境措置として関税化が議論され、海外からの米の市場開放圧力が高まってきている。
 このように、我が国農業を取り巻く諸情勢は、近年に例を見ないほど厳しい。しかし、ウルグァイ・ラウンド農業交渉が最終局面を迎えている今こそ、政府は、日本農業とりわけ米を守るため、毅然たる態度を内外に明らかにすべきである。国内においても、米の自由化、関税化に反対し、あるいはミニマム・アクセスにも反対する運動が、農民、農業団体だけでなく、労働者団体及び消費者団体においても起こっている。国民の世論調査にもその結果が表れており、また、全国の地方自治体の九割もが米の自由化反対の決議等を行っている。
 かかる見地に立って、以下質問する。

一 米をめぐる内外の状況の認識について

 政府は、我が国農業における米の重要性をどのように認識しているのか。また、米をめぐる内外の状況をどのように把握し、認識しているのか明確にされたい。

二 ダンケル事務局長の農業交渉合意案について

 一九八六年九月、交渉開始が宣言されたガット・ウルグァイ・ラウンドにおいて、我が国は、交渉当初より食料安全保障の観点から、基礎的食料については所要の国内水準を維持するために必要な国境調整措置を講ずることを主張してきた。
 しかるに九一年十二月二十日、ダンケル事務局長から提示された農業交渉合意文書案は、関税以外のすべての国境措置を関税に転換し、転換後の関税を削減するとともに、ミニマム・アクセスを設定する、国内支持を削減するとなっている。
 一方、輸出補助金は撤廃することなく、削減するに過ぎない。このことは、輸出補助金に比し、国境措置の取扱いにバランスを欠いており、なかんずく、合意文書案本文には食料安全保障等が配慮されておらず、例外なき関税化によって我が国の米輸入制限措置についても関税化が求められることになる。
 このような案は、我が国としては絶対に受け入れることのできないものであると考えるが、政府はダンケル合意文書案をどのように評価しているのか。

三 国会決議と政府の対応について

 政府は国権の最高機関である国会の決議を尊重すべきであるのに、これまでたびたび国会決議軽視の態度がうかがえるのは納得できない。

1 国会決議に対する政府の基本的認識を明らかにされたい。
2 言うまでもなく、衆参両院において、これまで繰り返し決議を行ってきている。すなわち、本院本会議においては、「食糧自給力強化に関する決議」(第九十一回国会 昭和五十五年四月二十三日)、「米の需給安定に関する決議」(第百一回国会 昭和五十九年七月二十日)、「米の自由化反対に関する決議」(第百十三回国会 昭和六十三年九月二十一日)が三度にわたり行われている。特に、本院においては、「米の完全自給」を明記している。
 また、本院農林水産委員会においても、「農畜水産物の輸入自由化反対に関する決議」(第九十六回国会 昭和五十七年五月十三日)、「農林水産物の市場開放問題に関する決議」(第百二回国会 昭和六十年五月三十日)がいずれも全会一致で行われている。
 なお、同様の決議が衆議院の本会議及び農林水産委員会で行われているところである。
 さらに、本院農林水産委員会では、農業を取り巻く厳しい内外の諸情勢下において、我が国の農業の振興と国民食生活の安定のため、米の完全自給方針の堅持、食料自給率の引上げ、中山間地域農業の振興等六項目にわたる「農業政策の拡充に関する決議」(第百十六回国会 平成元年十一月十七日)を全会一致で行っている。
 そこで、ウルグァイ・ラウンド農業交渉に当たり、政府は、これら国会決議をどのように理解し、対処してきたのか明らかにされたい。
3 本院の決議は、米の完全自給方針の堅持を明記している。完全自給とは、部分自由化をも認めない趣旨であることは、これまでの国会論議で明らかにされている。
 歴代総理及び農林水産大臣は、国会の審議を通じて、本院の米の完全自給を求める決議を尊重することを明言してきたが、この考えに変わりはないのか明らかにされたい。
4 最終局面を迎えているウルグァイ・ラウンド農業交渉において、今後、国会決議の趣旨をどのような形で反映させるつもりなのか政府の決意を明らかにされたい。
5 牛肉・オレンジ交渉では、結局、政府は国会決議に反する対応をとった。米の市場開放問題についても、政府が同様の対応をとるならば、その責任は厳しく問われねばならない。仮にそうなったとき、具体的にどのような形で責任を取るつもりなのか明らかにされたい。

四 米の国内自給の政府の基本的方針について

 歴代内閣総理大臣は、米の食料安全保障や米の重要性を主張して、米は国会決議を踏まえ、今後とも国内生産で自給するという基本方針で対処すると述べている。
 さらに、前内閣の海部総理も、施政方針、所信及びそれらの答弁の中で、我が国農業の基幹である米については、米及び稲作の格別の重要性にかんがみ、国会における決議などの趣旨を体し、国内産で自給するとの基本的方針で対処する旨、表明している。
 しかし、宮澤総理は、第百二十三回国会の施政方針演説において、米については、これまでの基本方針のもと、相互の協力による解決に向けて、最大限の努力を傾注すると述べるにとどまり、米についての方針が明瞭にされておらず、このため、柔軟に対応するのではないかと危惧する声が伝えられている。
 そこで、歴代総理のように、米についての基本方針と決意を明確にすることを求める。
 また、総理は、この問題について、毅然たる態度をとり、我が国の立場を堂々と主張して、我が国の将来の方針を誤ることなく今後とも臨むべきであると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

五 米の関税化に対する我が国の対応について

 ダンケル事務局長の農業交渉合意案によれば、我が国の米輸入制限措置についても関税化が求められることになるが、これに対し関税化を拒否すべきである。

1 関税化は、当初高関税が維持できたとしても、徐々に関税率の引下げを求められ、将来的には、極めて低い水準までに引き下げられてしまう可能性が大きい。そして、このような完全自由化に追い込まれた場合、例えば米政策研究会の予測によると米供給量の六十四パーセントが輸入米に置き換わり、我が国の米生産は壊滅的打撃を受けるものとされている。また、仮に高関税を長期にわたり維持できたとしても、関税化は、高額の輸出補助金や為替相場及び国際価格の変動の前には無力であり、輸入の拡大を食い止めることは困難である。
 このように、関税化は、自由化そのものであり、我が国農業・農村を守り、また食料安全保障を確保し、国土を保全していくためには、阻止することが絶対に必要である。
 したがって、政府は、米の関税化を拒否するという方針をどこまでも貫き通さなければならないと思うが、この点に関する政府の方針と決意について明らかにされたい。
2 米の関税化は、食糧管理制度による現行の米輸入制限措置と両立し得ないことは、本院農林水産委員会で食糧庁長官も言明しているところである。そのため、関税化するためには食糧管理法の改正が必要である。しかしながら、全会一致で成立した米自由化反対の国会決議と相反する内容を持つ食糧管理法の改正が国会で成立することはあり得ないであろうし、宮澤総理も、日本社会党の申入れに対し、関税化を受け入れるためには食管法の改正が必要であるが、国会の勢力からみても食管法の改正は困難であり、国内法を改正することができないものを受け入れるわけにはいかないと言明している。
 したがって、諸外国の圧力によって、米の関税化を約束しても、それを実行することは極めて困難であり、このような状況の中で関税化の受入れを表明することは、かえって国際的な非難を浴びかねないが、この点についての政府の認識を明らかにされたい。
 あわせて、食管法の根幹に係るような重要問題を政令改正などによって糊塗するようなことをしてはならないが、明確な方針を表明されたい。

六 食糧管理法の堅持について

 食糧管理法は、制定以来、国民食糧の確保と国民経済の安定を図るため、米の全量管理、二重価格制、流通ルートの特定、輸出入の許可制等を主な柱として、運営されてきた。万一、食糧管理法を廃止して、米を自由流通させる場合には、価格が乱高下し、現在のように食べたいだけの米を一定の価格で買うことは不可能になると言われている。すなわち、米を自由流通させた場合には、新米の出回り期には供給量が豊富であるが、徐々に品薄となり、七、八月の端境期には不足して、価格が高騰することになろうし、また、米が貯蔵しやすい物資であるため、買占め、売惜しみという投機の対象になり、大正時代に起きた米騒動を再来させる危険性があると言える。また、災害の多発しやすい我が国の稲作においては、しばしば大きな需給の不均衡が生まれることは昨今でも見られるところである。
 このような事情を考えると、食糧管理法堅持が極めて重要であることは、いくら強調しても、強調し過ぎることはないのである。そこで、食糧管理法に関して、次のことを伺いたい。

1 歴代総理及び農林水産大臣は、食糧管理法を堅持することを国会で表明しており、そのことは政府・自民党の公約でもある。米の関税化・自由化は、食管法の根幹にふれる問題である。そこで、政府はいかなる決意を持って、食糧管理法を堅持していく方針であるか。
2 政府は、米を安定的に供給するため、十分な数量の政府米を買い入れ、備蓄すべきではないか。
3 政府は、農家が米を再生産できるような、生産者米価を決定すべきではないか。
4 平成二年産米から「自主流通米価格形成の場」での取引が開始されたが、今後も、農家に不安を抱かせることがないよう、上場回数、上場数量、値幅制限等について、十分に配慮していく方針であるか。
5 政府米は、米の消費拡大を図るため、米飯学校給食の普及等に更に強力に取り組むべきではないか。

七 米問題の二国間協議について

 米問題については、二国間協議の対象にせず、ウルグァイ・ラウンド交渉の場で協議することが、日米の了解事項であり、政府の方針であった。今後ともこの方針に変更はないか伺いたい。

八 関税化容認発言の撤回について

 最近閣僚の一人が、「包括的関税化の受入れ」「六百パーセントの高率関税なら日本の米には影響がない」などの見解を繰り返し表明している。このことは、国会決議を踏みにじるだけでなく、ガット農業交渉における我が国政府の主張と提案に真っ向から反するものであり、閣内不統一であって断じて容認できない。よって政府に対し、閣僚による関税化容認の発言を撤回させることを強く要求し、政府の統一見解を求める。
 内外に対し、我が国政府が揺るぎない姿勢を明確に示さず、事態を放置するならば、ウルグァイ・ラウンドにおいて、否応なしに例外なき関税化、ミニマム・アクセスが導入されてしまう。仮にそのような事態に至れば、我が国農業は壊滅的な打撃を受け、主食たる米さえ供給できなくなるのは必至である。
 このような事態を招来せず、二十一世紀に向けての我が国農業の明るい将来展望を切り開くため、ここに質問主意書を提出するものである。
 以上の質問は緊急を要するので、国会法第七十五条の規定を尊重し、早急に答弁することを求める。

  右質問する。