質問主意書

第122回国会(臨時会)

質問主意書


質問第八号

閣僚の単一民族発言についての見解と「国際先住民年」を迎えるにふさわしいアイヌの人々の生活と権利保障を求める質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三年十二月十日

小笠原 貞子   
高崎 裕子   


       参議院議長 長田 裕二 殿


   閣僚の単一民族発言についての見解と「国際先住民年」を迎えるにふさわしいアイヌの人々の生活と権利保障を求める質問主意書

 今日、北海道を中心に居住しているアイヌの人々は、明治以来の絶対主義的天皇制政府による民族的権利を無視した強制同化政策の下で、また戦後の自民党政府の放置政策の下で、今なお過酷な生活を余儀なくされ、様々な差別を受けている。
 私たちは、憲法の精神に立ってアイヌの人々の権利の保障、一切の差別の一掃、さらに生活安定のための特別対策をとるべきであると主張してきた。
 その立場から、一九八六年の第百七回国会での本会議及び各委員会での我が党議員の質問、一九八〇年以来の質問主意書などで幾つかの問題について取り上げてきた。
 今回改めて、以下の点について質問する。

一 政府は「アイヌ新法」制定に真剣に取り組まないどころか、十一月五日首相官邸で行われた宮澤内閣の閣僚就任会見で、渡辺美智雄副総理兼外相が「日本は単一民族」と発言した。
 この単一民族発言が、アイヌ関係者などから「五年前の中曽根首相の“単一民族国家”発言に対する内外の批判に、真剣に耳を傾けていないことの現れ」とする厳しい批判と抗議の声が高まっている。このようなアイヌの存在を無視する政府の発言は、アイヌの人々の現状を顧りみない無責任性を露呈したものであり、容認することはできない。
 そこで伺うが、渡辺副総理の発言と抗議の声を政府はどのように受けとめているのか明らかにされたい。

二 「旧土人保護法」にかわる新しい法律の制定について

アイヌの人々の生活と権利を守る上で明確にしなければならないのは、現憲法下の今日でも、差別と過酷な生活に苦しみ、様々な権利を奪われている状態が放置されていることである。
 この状態を改めるためには、国の責任を明確にし、生活の安定・向上、民族的文化の継承と発展、保護・保存、教育向上などの諸権利を保障する「アイヌ新法」を制定することが重要である。
 横路北海道知事も「現在において検討が進められている新法の制定を促進します」(『新しい北海道の創造』横路孝弘)と述べている。
 また北海道、道議会、及び道内の六十七自治体より「アイヌ新法の早期実現を求める要請意見書」が政府に届いているはずである。
 政府は平成元年十二月にアイヌ新法の取扱いを検討するため検討委員会を設置している。
これに関連する昨年五月二十五日付けの私たちの質問主意書に対して政府は「検討委員会は、アイヌ新法問題に対する政府としての考え方をまとめることを目的とするものであり……と述べ、また「当面北海道からアイヌ新法問題に対する要望の趣旨、内容等について説明を聴取していく」と答弁している。

(1) 検討委員会が設置されてから二年、この政府答弁から一年以上経過しているが、検討状況がどのようになっているのか明らかにされたい。
(2) この検討委員会には、北海道庁を呼んで意見を聴取しているというが、「当事者であるウタリ協会から意見を聴くべき」との質問に対する答弁で「北海道からの説明聴取の結果等を踏まえ検討することにする。」と述べた。すでに、一年半を経過しているが、ウタリ協会からの意見聴取の見通しをどのように考えているか明らかにされたい。

三 国際先住民年への取組について

 九〇年十二月国連総会は、一九九三年を「世界の先住民のための国際年」(国際先住民年)とする決議を採択した。
 いま、この「国際先住民年」に向けて世界が動き出している。五月末には国連先住民作業部会のエリカ・ダイス議長が来日し「国際先住民年とアイヌ民族」というテーマでシンポジウムが札幌で開かれてもいる。
 この「国際先住民年」は、人権、環境、開発、教育、保健等の分野において、世界の先住民が直面している諸問題の解決のため、国際協力を推進する見地から定められたものである。
 私たちは、この国際先住民年がアイヌの人々を始め国民にとって意義あるものになるようにすべきであると考える。

(1) 国際先住民年の基本的認識をどのように考えているのか明らかにされたい。
(2) また、国際先住民年に向けてどのような事業を実施しようとしているか明らかにされたい。
(3) 北海道で行う国際先住民年に当たっての積極的行事については、国としても支援すべきと考えるが政府の見解を明らかにされたい。

四 アイヌの人々の切実な生活要求の実現について

1 生活・職業・教育相談員へのアイヌの登用と相談員を民生委員の配置基準(一人当たりの世帯数)と同じ基準で配置すること、報酬の引上げ及び相談室の整備(生活館への設置)、事務局の必要経費への助成など相談活動を充実する施策が必要と考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
2 中小企業者の経営・営業を安定させるため特別融資制度(貸付金)、利子補給制度などの創設が必要と考えるが政府の見解を明らかにされたい。
3 子弟の進学率向上のために、高校、大学等への進学率を向上させることは緊急の課題である。北海道知事も「アイヌの人々の生活や福祉の向上を図るため、高校や大学などの修学資金の充実……を推進します」(前掲『新しい北海道の創造』)といっている。しかし、現行制度の入学支度金は極めて不十分である。政府は進学率向上に向けて現在の入学支度金を大幅に引き上げるべきと考える。

(1) 政府はアイヌ子弟の進学率向上のための施策をどうとろうとしているのか明らかにされたい。
(2) 入学支度金・修学資金の支給が八月となり、実態とかけ離れている問題について私が昨年五月その改善を求めたのに対し「改善を図るよう指導したい」と答え、その後若干改善されているが、実態に見合うよう、さらに改善すること。
(3) 現行の入学支度金を大幅に引き上げるべきと考えるが政府の見解を明らかにされたい。
(4) 現行の高等学校通学費補助金を大幅に引き上げるべきと考えるが政府の見解を明らかにされたい。

4 アイヌ文化・アイヌ語などを伝えてきたお年寄りの生活を保障し、アイヌ文化を継承する活動に安心して取り組めるよう、老人年金給付特別事業などの対策をとることが必要と考えるが政府の見解を明らかにされたい。
5 住宅事情改善のために利用するウタリ住宅資金について、現行の制度では二人の保証人が必要なため、保証人を捜せない人は利用できない現状である。借受け時に保証協会の利用を認め希望者が利用しやすいように制度の改善をすべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

五 アイヌ文化の継承活動について

アイヌの民族的共感の根源となる言語を守ることは、その発展を促し、その言語を使用する人々の数を増大させる基本である。重要無形民俗文化財のアイヌ古式舞踊の継承・保存活動を発展させることも軽視されてはならない。これらの取組を発展させるために必要な専門職員を配置すること、費用を助成することが必要と考えるが政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。