質問主意書

第120回国会(常会)

答弁書


答弁書第三一号

内閣参質一二〇第三一号

  平成三年六月十一日

内閣総理大臣 海部 俊樹   


       参議院議長 土屋 義彦 殿

参議院議員清水澄子君提出我が国の河川行政の閉鎖的体質が招いた長良川河口堰に係る諸問題に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員清水澄子君提出我が国の河川行政の閉鎖的体質が招いた長良川河口堰に係る諸問題に関する質問に対する答弁書

一の1の(1)について

 「木曾川水系における水資源開発基本計画」(昭和四十八年総理府告示第九号。以下「木曾川水系水資源開発基本計画」という。)の対象地域において、木曾川水系に係る平成三年五月現在の水道用水、工業用水及び農業用水の許可水利権(県知事許可に係るものを除く。以下同じ。)に基づく最大取水量は、岐阜県毎秒八十二・一立方メートル、愛知県(名古屋市を除く。)毎秒百一・四立方メートル、三重県毎秒七・五立方メートル及び名古屋市毎秒十六・〇立方メートルである。
 また、水利使用者からの取水量報告によると、木曾川水系における水道用水、工業用水及び農業用水の許可水利権に係る昭和四十年、五十年、六十年及び平成二年における最大使用水量の実績は、次のとおりである。

図 表

一の1の(2)について

 木曾川水系水資源開発基本計画の水需要の見通しは、水資源開発促進法(昭和三十六年法律第二百十七号。以下「促進法」という。)に基づき、必要な手続を経て決定したものであり、妥当性を欠くものであったとは考えていない。
 したがって、長良川河口堰は、妥当な水需要の見通しに基づいた計画によるものである。

一の2の(1)について

 御指摘の数値は、「岐阜県水資源長期水需給計画」(昭和五十八年九月)、「愛知県二十一世紀計画」(平成元年三月)、「第2次三重県長期総合計画」(昭和五十八年三月)等(以下「各県計画等」という。)に基づいて集計したものである。

一の2の(2)について

 木曾川水系水資源開発基本計画の対象地域における平成二年度末の下水道普及率は、約三十九パーセントであり、同地域内における下水道の高度処理については、一日約四千立方メートルの処理を行っていると承知している。
 また、平成三年度を初年度として策定することとされている第七次下水道整備五箇年計画においては、総投資額十六兆五千億円をもって下水道の整備を行う方針であり、同計画に基づき、同地域における下水道の整備を促進するとともに、高度処理についても地方公共団体の意向を踏まえつつ適切に実施されるよう指導していくこととしている。

一の2の(3)について

 長良川河口堰は、妥当な水需要予測に基づく計画によるものであり、各県計画等における水需要予測に基づいて集計したものが御指摘の「長良川河口堰について」において示した水需要予測である。

一の3について

 長良川河口堰によって開発される水資源に係る水利使用については、現在までに河川法(昭和三十九年法律第百六十七号)第二十三条の許可を受けているものはない。
 なお、水利使用の許可に当たっては、河川法の規定に基づき、既存の水利権に係る水利使用に支障を生じないよう調整が図られることとなる。

一の4について

 長良川河口堰に係る取水地点については、現在、具体的には定まっていない。

一の5について

 長良川河口堰に設置することとしている魚道においては、あゆの遡上期にはおおむね毎秒十一立方メートル、それ以外の期間にはおおむね毎秒四立方メートルの水量を放流することとしている。

一の6について

 昭和四十年四月に建設大臣が決定した木曾川水系工事実施基本計画では、流水の正常な機能を維持するために必要な流量は、木曾川については、今渡地点において毎秒百立方メートルであり、揖斐川及び長良川については、調査、検討の上決定することとしている。

二の1の(1)について

 長良川下流部の治水対策に必要なしゅんせつ量は、昭和三十八年の時点では約千三百万立方メートルと計画していたが、昭和四十七年の時点では昭和三十八年の時点において揖斐川に計上していた揖斐川・長良川合流点より下流の河口部におけるしゅんせつを長良川に計上替えしたこと及びしゅんせつ範囲の変更等によって、約三千二百万立方メートルと計画した。その後のしゅんせつの実施等により、平成元年度以降必要なしゅんせつ量は、約千五百万立方メートルとなっている。

二の1の(2)について

 昭和三十八年の時点で、必要なしゅんせつ量を算出するために用いた横断測量成果及び計画横断図は、現在、保管しておらず不明である。
 長良川の計画横断形に係る低水路の河床の高さ(以下「計画河床高」という。)並びに昭和四十五年度及び昭和六十二年度に実施した横断測量による、しゅんせつを計画した範囲内における河床の高さの平均(以下「実測河床高」という。)は、次のとおりである。

図 表

二の1の(3)について

 長良川下流部の基準地点である成戸地点における計画堤防の高さは、TP十・〇七メートル、計画高水位は、TP八・〇七メートルであり、御指摘の三時点とも同じである。
 揖斐川・長良川合流点より下流の河口地点における計画高水位は、昭和三十八年の時点においては、TP二・一メートルと、昭和四十七年の時点においては、TP二・五メートルと計画していた。
 なお、粗度係数は、改修計画には定めていない。

二の1の(4)について

 長良川下流部の計画高水位以下の河道の容積は、しゅんせつ等によりこれまで増大してきたが、計画高水流量毎秒七千五百立方メートルの洪水を安全に流下させるためには、平成元年度以降更に約千五百万立方メートルのしゅんせつが必要である。

二の2の(1)について

 昭和六十二年度に実施した横断測量によれば、長良川下流部において、現在の堤防の強度を考慮に入れないものとして、計画高水位以下の河道の容積で流下し得る最大の流量は、毎秒約六千四百立方メートルである。

二の2の(2)について

 長良川下流部における高潮区間の堤防(以下「高潮堤防」という。)は、天端幅は七メートルで堤防前面には波返工等を設ける構造としている。
 長良川下流部における高潮堤防以外の堤防は、天端幅は七メートルで、法勾配は五十パーセントを基本とし、途中に小段を設ける構造としている。
 なお、河口堰上流においては、平常時に堤内地の地下水位が従前よりも上昇しないよう、ブランケット、承水路等を設置することとしている。

二の2の(3)について

 長良川河口堰は、洪水時及び高潮時にはゲートを全開することとしているので、揖斐川の洪水時及び高潮時の水位に影響を及ぼすおそれはない。
 平成元年度及び平成二年度に実施した揖斐川の横断測量による低水路の河床の高さの平均は、河口から十キロメートルまでの区間は、おおむねTPマイナス三メートルであり、十キロメートルから三十キロメートルまでの区間は、おおむねTPマイナス三メートルからTP〇メートルの範囲である。
 揖斐川下流部における高潮堤防は、天端幅は七メートルで堤防前面に波返工等を設ける構造としている。
 揖斐川下流部における高潮堤防以外の堤防は、天端幅は七メートルで、法勾配は五十パーセントを基本とし、途中に小段を設ける構造としている。

二の2の(4)について

 揖斐川・長良川合流点より下流の河口地点及び木曾川の河口地点における計画高潮位は、運輸省、建設省等関係省庁の職員及び学識経験者を構成員とする伊勢湾等高潮対策協議会において、昭和三十五年二月に決定している。
 木曾川、長良川及び揖斐川(以下「木曽三川」という。)下流部における計画高潮位は、この河口地点における計画高潮位を基に定めている。

二の2の(5)について

 明治二十四年の濃尾地震及び昭和十九年の東南海地震による木曽三川下流部における被害の全容については不明であるが、数箇所で堤防のき裂、沈下等の被害があったとされている。

二の2の(6)について

 御指摘の「堤防危険箇所」の内容が必ずしも明確ではないが、これに相当するものを定めたものはない。
 なお、岐阜県、愛知県及び三重県においては、洪水等に際し、水防上特に注意を要する箇所を水防法(昭和二十四年法律第百九十三号)第七条第一項の規定に基づく水防計画に定めており、木曽三川下流部では、平成二年度の同計画によると合計二百十一箇所となっている。

二の2の(7)について

 現在の木曽三川の改修計画の概要は、次のとおりである。
 計画高水位は、木曾川下流部の基準地点である成戸地点においてはTP九・八六メートル、長良川下流部の基準地点である成戸地点においてはTP八・〇七メートル、揖斐川下流部の基準地点である今尾地点においてはTP七・九六メートルである。
 この基準地点における堤防は、天端幅は七メートルで、法勾配は五十パーセントを基本とし、途中に小段を設ける構造としている。
 揖斐川・長良川合流点より下流の河口地点及び木曾川の河口地点の計画高水位は、TP二・五メートルである。
 なお、粗度係数は、改修計画には定めていない。
 木曽三川における指定区間外の堤防の整備率は、平成元年度末で約五十三パーセントである。

二の2の(8)について

 洪水時及び高潮時には長良川河口堰のゲートを全開すること及び地下水位の上昇を防止するため、ブランケット、承水路等を設置することにより、河口堰が災害の危険性を高めることはない。
 なお、三重県桑名郡長島町及び同県桑名市における堤防については、従来から改修工事を鋭意実施しているところである。

二の2の(9)について

 長島町における長良川の堤防延長のうち、洪水に対して必要な堤防の高さが高潮に対して必要な堤防の高さよりも高い区間は約四割あり、洪水時の水位を低下させることは、治水安全度を高めるために必要である。
 なお、現在の木曽三川における高潮堤防については、従来から改修工事を鋭意実施しているところである。

二の3について

 木曾川水系工事実施基本計画では、長良川の基本高水のピーク流量を、岐阜市の忠節地点において毎秒八千立方メートルとし、このうち上流のダムにより毎秒五百立方メートルを調節して、河道への配分流量を毎秒七千五百立方メートルとしている。
 なお、上流のダムについては、調査、検討の上計画を決定することとしている。

二の4について

 長良川の河床の形状は、将来、累積的に土砂の堆積及び洗掘が発生しないよう計画している。

二の5について

 長良川河口堰は、堰地点の流量、河口の潮位の変動等を勘案してゲート操作を行う可動堰であり、洪水時にはゲートを全開し堰のない場合と同じ状態とすることから、同河口堰によって累積的に土砂等が堆積していくことはない。

三の1の(1)について

 長良川で河道のしゅんせつを実施すると、現在、河口から約十五キロメートル付近で遡上がほぼ止まっている塩水が、河口から約三十キロメートル付近まで遡上することによりこの区間の取水口から河道内の塩水を取水することとなり、約三千ヘクタールの農地のかんがい及び約七十工場への給水が不可能となる。
 さらに、河川水が塩水化すると、地下水も塩水化すること及び土壌の塩分濃度が上昇することにより、将来の土地利用を制約し、住民生活に種々の影響を及ぼすことになる。

三の1の(2)について

 桑名農業共済組合等からの聴き取りによると、木曽三川下流域の愛知県海部郡弥富町、同郡立田村、桑名市、三重県桑名郡多度町、長島町及び同郡木曽岬町において河川沿いを中心として農業塩害被害を受けており、昭和四十年度、五十年度、六十年度及び六十三年度における市町村別被害状況は、別表第一のとおりである。
 被害額については、同組合等では把握していないと承知している。

三の1の(3)について

 長良川においては、治水対策上必要となる大規模なしゅんせつによって、河川から取水した用水が塩水化するとともに、地下水が塩水化すること及び土壌の塩分濃度が上昇することにより、将来の土地利用を制約し、住民生活に種々の影響を及ぼすものと予想される。
 仮に、河口堰によらず塩害防止のためのほかの方法による場合、その費用は現在実施している長良川河口堰建設事業に比べ膨大となる等現実的ではなく、塩害対策としては河口堰の建設が妥当である。
 なお、長良川河口堰の建設は、これらの影響の発生を防止して河道のしゅんせつを可能にするとともに、新規の都市用水を開発するという総合的な見地から実施するものであり、御指摘の塩害対策の観点のみによる比較は適当ではない。

三の2の(1)について

 長良川河口堰の建設は、長良川では治水安全度を早急に高めるためのしゅんせつが必要であり、このしゅんせつにより塩水遡上域が拡大することから、長良川沿川地域で取水している用水の塩水化、地下水の塩水化、土壌の塩分濃度の上昇等を未然に防止するために行うものである。

三の2の(2)について

 長良川河口堰が建設されている地点の地質は、主に砂質土及び粘性土からなる沖積層並びにその下層にあって砂質土、粘性土及び砂れきからなる洪積層により構成されている。
 堰完成後、堰上流の水位は堰下流の水位より通常高く保たれることとなるため、堰地点において堰下流の塩水が地下に浸透し堰上流に遡上することはない。

三の3の(1)について

 御指摘の「潮止め用の潜り堰(または潮止め工)」は想定していない。

三の3の(2)について

 長島町における水稲塩害被害面積の減少については、農業用水の取水地点及び取水方法の変更によるものであるとともに、塩害が発生した水田の休耕及び宅地等への転用並びに長良川河口堰建設事業等による用排水施設の整備という多年の努力によるものであると考える。それにもかかわらず、現在でも水稲の塩害は発生している。長島町は、地下水及び土壌の塩分濃度が依然として高い状況にあり、塩害の発生する危険性を有している。
 なお、高須輪中における水稲の塩害の発生については承知していない。

三の3の(3)について

 長島町及び高須輪中における農業用水の取水地点及び取水方法の変遷は、別表第二及び別表第三のとおりである。

四の1について

 長良川河口堰に係る操作規程は作成されない。
 なお、河川法第十四条の規定による操作規則及び水資源開発公団法(昭和三十六年法律第二百十八号。以下「公団法」という。)第二十二条の規定による施設管理規程は、施設の管理を行おうとする段階で作成するものであり、長良川河口堰については現時点では作成されていない。

四の2について

 長良川河口堰の建設に要する費用は、約千五百億円と見込んでいる。
 事業に着手してから平成二年度末までに執行した額は、工事費約二百九十億円、測量及試験費約六十四億円、用地費及補償費約二百八十八億円、船舶及機械器具費約七億円、営繕費約六億円、事務費等約八十七億円の合計約七百四十一億円である。

四の3について

 長良川河口堰建設事業に係る補償の内容については、被補償者の個人情報等に係るものであるので、公表していない。また、補償額の算定については、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」(昭和三十七年六月二十九日閣議決定)等に基づいて適正に行っていると承知している。
 なお、補償費の配分については、被補償者である団体内部の問題である。

四の4について

 長良川河口堰建設事業に係る手続の主な経緯は、次のとおりである。
 内閣総理大臣が、促進法第三条の規定に基づき、関係行政機関の長に協議し、かつ、関係県知事及び水資源開発審議会の意見を聴いて、閣議の決定を経て、昭和四十年六月、木曾川水系を水資源開発水系として指定し、公示した。
 建設大臣が、河川法第十六条の規定に基づき、河川審議会の意見を聴いて、木曾川水系工事実施基本計画を変更し、昭和四十三年四月から施行した。
 内閣総理大臣が、促進法第四条の規定に基づき、関係行政機関の長に協議し、かつ、関係県知事及び水資源開発審議会の意見を聴いて、閣議の決定を経て、昭和四十三年十月、木曾川水系における水資源開発基本計画を決定し、公示した。
 内閣総理大臣が、水資源開発公団法施行令(昭和三十七年政令第百七十七号)第二十八条第四項の規定に基づき、昭和四十三年十月、長良川河口堰に係る業務に関する主務大臣を建設大臣として公示した。
 建設大臣が、公団法第十九条の規定に基づき、関係行政機関の長に協議するとともに、関係県知事の意見を聴いて事業実施方針を定め、水資源開発公団に指示するとともに、昭和四十七年一月、その概要を公表した。
 内閣総理大臣が、促進法第四条の規定に基づき、関係行政機関の長に協議し、かつ、関係県知事及び水資源開発審議会の意見を聴いて、閣議の決定を経て、昭和四十八年三月、木曾川水系における水資源開発基本計画を変更し、公示した。
 水資源開発公団が、公団法第二十条の規定に基づき、事業実施計画を作成し、関係県知事に協議するとともに、建設大臣に認可申請した。建設大臣は、公団法第五十三条及び第五十六条の規定に基づき、国土庁長官に協議した上で昭和四十八年七月に認可した。
 建設大臣が、公団法第十九条の規定に基づき、関係行政機関の長に協議するとともに、関係県知事の意見を聴いて事業実施方針を変更し、水資源開発公団に指示するとともに、平成元年一月、その概要を公表した。
 水資源開発公団が、公団法第二十条の規定に基づき、事業実施計画を変更し、関係県知事に協議するとともに、建設大臣に認可申請した。建設大臣は、公団法第五十三条及び第五十六条の規定に基づき、国土庁長官に協議した上で平成元年二月に認可した。

別表第一

別表第二 長島町における農業用水の取水地点及び取水方法の変遷 1/2

別表第二 長島町における農業用水の取水地点及び取水方法の変遷 2/2

別表第三 高須輪中における農業用水の取水地点及び取水方法の変遷 1/2

別表第三 高須輪中における農業用水の取水地点及び取水方法の変遷 2/2