質問主意書

第120回国会(常会)

質問主意書


質問第一一号

歯科の初診料、再診料に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三年二月七日

沓脱 タケ子   


       参議院議長 土屋 義彦 殿


   歯科の初診料、再診料に関する質問主意書

 人口の高齢化が進む中で、「生涯自分の歯で食事がしたい」「健康で美しい歯を保ちたい」という国民の歯科医療要求はますます強いものになっており、社会保障としての公的医療保険制度は、このような高まる国民の歯科医療要求に応えることが望まれている。
 しかし昨年四月の診療報酬点数表の改定は、歯科では名目上げ幅一・四%、薬価、材料基準の引下げにより実質一 %という極めて低い上げ幅の中で、医科(甲乙表)では五点ずつ引き上げられたいわゆる初診料・再診料(初診時基本診療料・再診時基本診療料)が据え置かれた。
 いま歯科保険医療機関の経営状態を見るなら、中医協で実施した医療経済実態調査でも、第六回調査(一九八七年)と第七回調査(一九八九年)を比較すると、個人立歯科診療所一施設当たりの収入は、保険診療で〇・九八%減少し、自由診療を含めた医業収入全体も〇・九七%減少している。八七年から八八年にかけての実質賃金指数の上昇率三・四%、消費者物価指数の上昇率〇・七%を勘案するなら、歯科医療機関の経営状態が悪化していることは明白である。
 このような経営状態の下で、歯科衛生士など従業員の労働条件の改善が立ち後れていることは、日本歯科衛生士会、日本歯科技工士会の調査からも明らかになっている。このような中で歯科技工士にいたっては将来に展望が持てず、他の業種に転職する技工士が増え、歯科医療の存立に関わる事態が進行している。従業員の確保と労働条件の改善を図るためには、少なくとも物価・人件費の上昇に見合った改定が必要である。
 従って、本来、歯科診療報酬の大幅な改善が望まれるところであるが、当面の緊急措置として、今次改定で歯科のみ据え置きとなった初診料・再診料の引上げが必要と思われることから、以下の点について質問する。

一 歯科診療報酬において、昨年四月より引き上げられた点数及び新設された点数の合計一三八〇九点の内、一一五三〇点、実に八三%が専門学会から問題視され、ほとんど臨床では使われていないスルフォン樹脂床義歯関連に当てられ、本来、歯科医療の向上にとって必要な基礎的診療行為の改善はなおざりにされた。
 スルフォン樹脂床義歯は、一九八一年にポリサルフォン樹脂床義歯という名称で、保険給付外になっている金属床義歯に代わるものとして、突如通常のレジン床義歯の二倍という高点数で保険に導入された。しかし導入の当初より様々な問題点が指摘されており、義歯など補綴学の専門学会である日本補綴歯科学会から「金属床義歯に匹敵するものではなく、床用材料として臨床的に問題がある」(一九九〇年一〇月二五日、日本補綴歯科学会から日本歯科医師会に宛てた意見書)と指摘もされ、事実、大学教育において実習教育に用いている大学はひとつもない。そして保険適用されて九年たってもほとんど請求されておらず(『社会医療行為別調査』によると、総義歯でレジン床義歯に対して一九八七年は四・七%、一九八八年は〇%である)、厚生省自身も一九八五年の改定では一旦点数を下げているものである。
 学問的にも専門学会から批判があり、臨床的にもほとんど使われていないスルフォン樹脂床義歯になぜ厚生省が固執するのか、また、そのようなものをなぜ実質一 %という限られた上げ幅の中で大幅に引き上げたのか、不可解というほかない。この二点についてその理由を明らかにされたい。

二 厚生省は一%という限られた改定財源を理由に、歯科診療報酬の初診料・再診料据え置きを合理化してきた。しかし、初診料・再診料を五点ずつ引き上げるのに必要な額は、歯科医療費で約一%であり、今回の改定幅に等しい。もちろん、今回改定ではごく僅かの項目ではあるがスルフォン関連以外の引上げもあり、初診料・再診料を各五点引き上げれば他の項目の引上げは困難となろう。しかし、スルフォン樹脂床義歯の異常とも思われる引上げがなければ、一%の枠内でも基本診療料などの基礎的診療行為の改善を優先できたことは明らかである。日本補綴歯科学会の先の意見書でも「基本となる診療行為の見直しは最優先されるべき」と指摘しており、なぜ、基礎的医療行為の改善を優先しなかったのか、その理由を明らかにされたい。

三 歯科診療報酬点数表では、基本診療料の性格として、医科甲表と同様「初診の際、再診の際及び入院診療の際に行われる診察行為又は入院サービスの費用のほかに、通常初診若しくは再診の際又は入院の際に行われる簡単な診療行為の費用も一括して支払う」(昭和三三年六月三〇日、厚生省告示第一七七号)としている。
 診察行為は「患者に対する各種の療養指導、指示行為を包括的に含むもの」(『社会保険医療事務提要』厚生省保険局医療課編)とされている。厚生省は近年インフォームド・コンセントの必要性を強調しているが、これを重視する立場に立つなら基本診療料をそれに見合って改善すべきである。
 また「簡単な診療行為」について歯科では、簡単な検査、投薬の際の処方料、皮下筋肉内及び静脈内注射の注射手技料、消炎、鎮痛を目的とする理学療法料、口腔軟組織の処置、簡単な外科後処置、口角びらんの処置、簡単な歯石除去、有床義歯の監視等、日常診療において頻度の高い多数の行為の費用が含まれている。これらの診療行為には当然ながら人件費、治療材料費が必要であり、本来、物価、人件費の上昇に見合って引き上げられるべきである。医科の甲表では初診時基本診療料は過去六年間に四回合計五〇点、再診時基本診療料は過去四年間に二回合計七点引き上げており、この間歯科のみ据え置いてきたことは不合理な歯科医療軽視といわざるを得ない。
 以上の点から、昨年四月改定での歯科の初診料・再診料の据え置きは、合理性を欠いたことは明白である。日本歯科医師会も昨年一一月二九日に、厚生大臣に対し緊急是正の要望を提出しており、緊急是正は歯科界全体の切実な要望である。
 従って、早急に歯科診療報酬点数表の初診料・再診料(初診時基本診療料・再診時基本診療料)を、少なくとも医科での引上げと同じく、それぞれ五点ずつ引き上げるべきと考える。この点どうか。

  右質問する。