質問主意書

第118回国会(特別会)

質問主意書


質問第八号

都市高速道路中央環状新宿線の建設事業及び環状六号線の拡幅工事に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二年六月二十六日

上田 耕一郎   


       参議院議長 土屋 義彦 殿


   都市高速道路中央環状新宿線の建設事業及び環状六号線の拡幅工事に関する質問主意書

 都市高速道路中央環状新宿線の建設事業(目黒区青葉台~豊島区南長崎間)は、七月十三日の東京都都市計画地方審議会に都市計画案が提出されようとしている。同計画は、いまだに構造についての結論を得られていない豊島区内の部分を切り離した欠陥道路計画であり、都心部の長大な地下高速道路という例のない構造でありながら、環境影響評価も住民や学者の批判にもまともにこたえるものとなっていない。また、環状六号線の拡幅は大幅に交通量の増大をもたらすにもかかわらず、環境影響評価の対象とされていない。このまま両計画が推進されるならば、周辺の居住環境を著しく悪化させるおそれがあり、また重大な災害が発生する危険がある。よって両計画案は白紙撤回し、民主的に検討を尽くすべきであると考えるが、以下質問する。

一 構造検討区間との関係等について

1 本都市高速道路の計画は、豊島区内の構造検討区間も同時に供用開始することを前提としているが、同区間を高架構造とすることについては、同区議会が反対を決議している。また首都高速道路公団が同区議会に提出した「高松付近本線潜り込みの計画(検討)」では、高架構造である原案以外は実現困難または不可としている。同区間の問題が解決しなければ、当該道路は高速道路の接続を欠き、池袋南出口付近で著しい交通渋滞を招くことになる。
 構造検討区間について、高架構造としないで建設する見込みはあるのか。
2 構造検討区間についての決着がつかないまま、本計画区間の事業認可はすべきではないと思うが、どうか。

二 環状六号線拡幅工事の環境影響評価について

1 高速道路建設と同時に施工される環状六号線の拡幅工事は、既に都市計画決定済であるとの理由で環境影響評価の対象とされていないが、同拡幅が環境に与える影響は大きいのではないか。環境に与える影響が小さいというのであれば、その具体的根拠を示されたい。
2 環境影響評価の本来の趣旨からすれば、自動車交通量の大幅な増加など環境に影響を及ぼす要因に大きな変化がある場合には、現行の環境影響評価の実施要綱では義務付けられていない場合であっても、環境影響評価を実施すべきではないか。

三 予測交通量について

1 本都市高速道路建設事業の環境影響評価は、東京都の環境管理計画の達成を前提としているが、予測交通量も同計画に述べられている交通流の抑制を前提としているのか。
2 一九九五年と二〇〇〇年の配分交通量の推定は、その間の道路網の整備により、一般道路から高速道路への転換利用、一般道路相互間の分散利用が図られるため、一般道路の交通量は減少する区間もあるとされている。例えば、環状六号線の補助第七一号線~同七四号線の間や放射第五号線の交通量は、並行する高速道路の交通量を加えても、一九九五年より二〇〇〇年の方が減少すると推定されている。
 いったい減少した交通量はどこにどのくらい分散されるのか、具体的に明らかにされたい。
3 一九九五年と二〇〇〇年について、関係区及びその隣接区の予測発生・集中量、OD表、自動車OD表を明らかにされたい。

四 大気汚染について

1 本都市高速道路建設事業の環境影響評価は、一九八五年の数値をもとに、都の環境管理計画の達成を前提としてバックグラウンド濃度の予測を行っている。同環境管理計画では、二三区及び周辺五市の区域における一九九〇年度の窒素酸化物の総排出量について、一九八五年より六、五〇〇トン少ない四六、二〇〇トンとすることを目標としている。
 一九八五年度以降各年度の同区域における窒素酸化物の総排出量はいくらか。一九九〇年度の同区域内の総排出量の見込みはどのくらいか。四六、二〇〇トン以下となる見込みがあるか。その根拠も併せて示されたい。
2 同環境管理計画は、一般環境大気測定局は一局を除き都内全域で、自動車排出ガス測定局は五〇%の測定局で、一九九〇年度には二酸化窒素の環境基準を達成するとしている。しかし、環境庁大気保全局の「窒素酸化物対策の新たな中期展望」では、東京都の一般環境での窒素酸化物の環境基準達成目標を一九九三年度に先延ばししている。現に、窒素酸化物濃度は一九八六年度以降年々悪化し、二三区における一九八八年度の二酸化窒素の環境基準達成局は、一般環境大気測定局で二〇局中二局、自動車排出ガス測定局では一つもない。
 一九九〇年度においても、既に四、五月のデータだけで幾つかの測定局の九八%値が環境基準を超えることが確定しており、一般環境大気測定局は一局を除き都内全域で、自動車排出ガス測定局は五〇%の測定局で二酸化窒素の環境基準を達成する見込みはほとんどないと思うがどうか。
3 一九八九年一二月二二日の中央公害対策審議会の答申「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について」では、二〇一〇年頃まで東京の道路沿道では環境基準を達成する見込みがないと指摘している。
 二〇〇〇年時点の二酸化窒素の環境基準の総達成を前提とした予測は、中央公害対策審議会の見解と矛盾しているのではないか。
4 最終評価書では、前記環境庁の「中期展望」と中央公害対策審議会の答申に基づいてバックグラウンド濃度を推定することとするようだが、そのこと自体、住民や学者の指摘にもかかわらず環境管理計画達成という架空の前提に固執して環境影響評価の手続きを進めてきた不当性を証明するものと言わなければならない。
 前提条件を失ったことが既に明白になった環境影響評価は、最終報告書の手直しで済ませるのではなく、改めてやり直すべきではないか。
5 環境影響評価の見解書では、二酸化窒素の年平均値から日平均値の九八%値への変換式の妥当性を主張しているが、実際には年平均値〇・〇三ppm以下でも日平均値の九八%値が〇・〇六ppmを超えることがしばしば起きている。同見解書一二五ページ記載の図四・一・七も、年平均値が〇・〇三ppm未満でも日平均値の九八%値が〇・〇六ppmを超えることがあることを示している。
 予測の年平均値が〇・〇三ppm程度となる地点では、環境基準を超えることとなる可能性もあることは否定し得ないのではないか。
6 環境影響評価書案は、供用開始となる一九九五年には二箇所で二酸化窒素の環境基準を超えると予測しながら二〇〇〇年には環境基準を達成するので影響は小さいという不当な評価を行っている。これ自体科学的前提条件を欠くものであることは右に指摘したが、さらに、東京都環境影響評価審議会の審査意見書に基づいて新たに予測を行った大橋インターチェンジの明かり部に出るトンネル坑口部では、一九九五年だけでなく二〇〇〇年においても二酸化窒素の環境基準を超えることが明らかになった。大橋インターチェンジ周辺は従来からも都内で最も大気汚染のひどい地域である。最悪の状態となる地点の予測評価を隠して環境影響評価を進めてきたわけで、言語道断と言わなければならない。
 将来にわたって環境基準を超えることを予測しながら、そのまま事業計画を推進することが許されるならば、環境基準も環境影響評価制度も根底から崩壊してしまう。環境基準を達成するための対策を検討し、環境影響評価をやり直すべきではないか。
7 一九八四年一一月二七日付け環境庁長官決定「環境影響評価に係る調査、予測、評価のための基本的事項」の6(2)によれば、評価は「公害対策基本法第九条の環境基準が定められている項目にあっては当該基準に照らし、……評価を行うことを基本とする」と定めている。
 環境基準を超える予測をしながら「環境に与える影響は少ない」と評価することは、「基本的事項」に反するのではないか。
8 環境庁長官が定めた「二酸化窒素に係る環境基準について」によれば、「一時間値の一日平均値が〇・〇六ppmを超える地域にあっては、一時間値の一日平均値〇・〇六ppmが達成されるよう努めるものとし、その達成期間は原則として七年以内とする」と明記している。かつ、公害対策基本法第九条第四項は、政府に対して環境基準を確保する努力を義務付けている。
 環境基準改定から七年以上経った時点において、環境基準を超える予測結果が出ている事業をそのまま推進することは、公害対策基本法に規定された政府の努力義務に反するのではないか。
9 環境影響評価では、二酸化窒素の環境基準を超えることを予測しながら、それは周辺の既存道路を走る自動車の影響であって当該事業によるものではないという理由で、環境に与える影響は少ないと評価している。
 仮に環境基準を超える予測値が周辺の既存道路を走る自動車の影響によるものであるとしても、当該事業によってさらに濃度が上乗せされるならば、環境基準の達成を一層困難にすることは明白である。既に環境基準を超えている地域においては、さらに汚染物質の排出を上乗せする事業は環境行政上許されないと思うがどうか。
10 新宿区中落合の路外換気塔については、新宿区議会及び地元住民に対して、実際には路内の相当深い地下に建設すると説明されている。そうであるなら、大気や地下水等に与える影響が異なることが予想されるので、計画案を変更し環境影響評価をやり直すべきではないか。

五 騒音について

1 高架構造物等による反射音については、未解明な点が多く、予測に反映するのは困難であるとしているにもかかわらず、影響が少ないとする根拠は何か。
2 首都高速道路公団は、都市高速五号線の板橋区熊野神社付近~大和町交差点付近の間において、反射音の実験調査を行っているが、その調査結果を明らかにされたい。その結果を本事業の環境影響評価に反映しないのはなぜか、理由を明らかにされたい。
3 環境影響評価の見解は、騒音の予測値が環境基準を超える地点もあるが、一般街路の自動車走行によるものであって、高速道路の寄与分はほとんどないから影響が少ないというに尽きる。一般街路の寄与分は、環状六号線の拡幅による影響が大きいのではないか。
4 予測結果によると、一般街路分の予測値が一九八七年の実測調査値を下回ることになっているが、その要因は何か。予測値の計算方法が実態と合わないことを示すものではないか。
5 騒音に係る環境基準は、原則として中央値を用いることとされているが、特に夜間においては中央値と九〇%レンジの上端値との差が大きい。夜間の睡眠妨害は中央値よりも上端値の被害が重要である。OECDレポート「幹線道路の交通容量」によれば、スイスでは中間値とともに上端値を算入した騒音レベルを用いており、イギリス、アメリカでは実測時間の一〇%が超えている騒音レベルを使用している。
 わが国においても、中央値のみで評価する方式を再検討し、上端値も併せて評価の対象とするべきではないか。

六 トンネル内の安全性その他について

1 トンネル内の大半の区間において二〇〇〇年の推定日交通量は、九一、〇〇〇台~一〇一、〇〇〇台となっている。これは高速三号線、四号線、五号線の現交通量と類似する水準であり、かなりの時間帯で渋滞や低速走行となることが予想される。環境影響評価の見解書では、渋滞の場合一台当たりの排出ガス量は増加するものの交通量が減少するため総排出量は予測に用いた最大排出量と同程度だと述べている。しかし、通過する自動車台数は減るとしても、一定時間内にトンネル内を走行している自動車台数が大幅に増加することは明らかではないか。渋滞の場合も総排出量が変わらないという具体的な算定根拠を明らかにされたい。
2 トンネル内の窒素酸化物の総排出量及び濃度について、平常時、渋滞時それぞれの予測値及びその計算根拠を明らかにされたい。また、渋滞時の換気塔からの排出ガスの濃度についても明らかにされたい。
3 トンネル内で渋滞が発生すれば、自動車の搭乗者は高濃度に汚染された空気に長時間暴露されることになると予想される。高速道路トンネル内において、人の生命と健康を守るための安全基準を定めるべきではないか。
4 長大な地下都市高速道路はこれまで例がなく、渋滞時に火災等が発生すれば重大な惨事になりかねない。東京都環境影響評価審議会の審査意見書でも、トンネル内の安全確保について万全を期すよう求めている。
 首都高速道路は一般の高速道路に比べて事故発生率、渋滞発生率ともに高く、特別の対策を要すると考えられるが、災害発生時の被害、トンネル内全体の交通に及ぼす影響、トンネル内の人の行動等について予測調査をしているか。していないとすれば、早急に実施し、その結果と安全対策、事故対策を明らかにすべきではないか。
5 当該事業により五〇〇万立法メートル以上の残土が発生すると予想されるが、発生量は幾らか。また、残土はどこにどれだけ処分するのか。

  右質問する。