質問主意書

第118回国会(特別会)

質問主意書


質問第三号

アイヌの人々の生活と権利の保障等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二年五月二十五日

小笠原 貞子   
高崎 裕子   


       参議院議長 土屋 義彦 殿


   アイヌの人々の生活と権利の保障等に関する質問主意書

 今日、北海道内に住むアイヌの人々の数は北海道庁の調査によれば二万数千人となっている。その多くは、明治以来の、民族的権利を無視した強制同化政策により、今なお過酷な生活を強いられ、筆舌に尽くし難い様々な差別を受けている。
 私達は、アイヌの人々の権利の保障と、一切の差別の一掃及び生活安定のための特別の対策を政府の責任において、とるべきであると主張してきた。その立場から、一九八〇年、一九八三年、一九八六年の三回、いくつかの問題について質問してきた。
 今回改めて、以下の点について質問する。

一 「旧土人保護法」に代わる新しい法律の制定について

 アイヌの人々の要求解決の上で何よりもまず明確にしなければならないのは、戦後の現憲法下の今日でもなおアイヌの人々が差別と過酷な生活に苦しみ、さまざまな権利を奪われている状態が放置されてきたことである。
 この状態を抜本的に改めるには、国の責任を明確にし、生活の安定・向上、民族的文化の保護、教育向上などの諸権利を保障する「アイヌ新法」を制定することが急務である。
 北海道ウタリ協会は一九八四年に「アイヌ民族に関する法律(案)」を発表し、さまざまな運動を展開してきた。また、北海道議会では知事の諮問機関である「ウタリ問題懇話会」の答申が出され、これに基づいて同議会は全党派の賛成で「アイヌ新法の早期実現を求める要望意見書」を採択した。道内の多くの自治体も同様の要望意見書を採択している。
 こうした中で政府は昨年十二月四日、北海道ウタリ対策関係省庁連絡会議の下に関係九省庁からなるアイヌ新法問題についての「検討委員会」を設置した。

(1) この「検討委員会」では、新法の制定を目標とすべきであるが、検討委員会の設置の目的と役割を明確にしていただきたい。
(2) 検討委員会が設置され、既に、半年になろうとしている。この間どのような検討がいつどのようなテーマで行われたのか、明らかにされたい。
(3) また今後、検討委員会としての取組をどう進めようとしているのか。具体的に伺いたい。
 当然、北海道、関係団体、専門家等からの意見聴取があると思われるが、当事者である「北海道ウタリ協会」から早急に意見を聴取する必要があると思うが、いつ頃聴取しようとしているのか明らかにされたい。
(4) そもそも「アイヌ新法制定」については、六年前にウタリ協会が、また北海道も約二年前に発表し、政府も国会で「関係省庁に真剣に検討させている」と繰り返し述べている。すでに検討のスタートは切られており、いたずらに検討委員会を長引かせるのではなく、関係者の要望に沿い、精力的に検討をすべきである。その立場からいつごろまでに検討結果をまとめる積もりか、明確にされたい。

二 アイヌの人々の政治参加の道を拡大するためのアイヌ代表の参加する中央審議会の設置について

 明治以来の日本政府の強制同化政策のために、アイヌ問題が重大な問題であるにもかかわらず、それを取り上げ検討する機関が国にも北海道にも何一つ設置されてこなかった。戦後の現憲法下でも政府はアイヌの人々の存在を事実上無視し、真剣な対策を検討することさえしてこなかった。
 こうした状況の下で、北海道ウタリ協会が強く求めている「アイヌ新法」制定を含むアイヌ問題を全般的に審議、検討する国の機関としての「アイヌ問題中央審議会」(仮称)の設置や、新法制定とアイヌの人々の生活と権利を保障するため、アイヌ問題を専門的に担当する大臣の明確化と、関係部局の設置を前向きに検討すべきであると考えるがどうか。

三 アイヌの人々の子弟の教育対策について

 北海道民生部の「北海道ウタリ福祉対策」(八八・二)によれば、「生活保護の受給率は、ウタリ居住市町村全体が二一・九パーミリであるのに対して、アイヌの人々の受給率は六〇・九パーミリと高い比率を示している」。アイヌの人々の二三・一%は「ひどい差別を経験した」としており、六一・二%は差別が「現在でもある」と答えている(「北海道ウタリ生活実態報告書」(八六・二))。
 また、家庭の生活苦が子供の進学にも悪影響を与えている。それは、アイヌの人々の子弟の高校進学率が七八・四%(全道平均は九四・〇%)、大学進学率が八・一%(同二七・四%)と、一般に比べて大きな格差があることでも明白である。
 これらアイヌの人々の子弟の進学率を高めることは急がれる課題である。しかし、現在北海道ウタリ福祉対策事業で給付・貸付される入学支度金は高校で二二、六六〇円、大学で三六、〇五〇円であり、余りにも少なすぎる。

(1) 私立高校に入学する場合、入学金等で実際には約四〇万円、私立大学の場合は約八〇万円と言われている。入学支度金の額を現状に合うように大幅に引き上げるべきと思うがどうか。
(2) また現在の支給時期が八月であり、余りにも実態とかけ離れている。支給時期を実態に合うよう改善すべきであると思うがどうか。
(3) また北海道が独自に実施している専修学校等の進学に対する入学支度金及び就学資金について、国の補助対象となっていない。専修学校についても高校・大学と同様速やかに、補助対象にすべきであるがどうか。

四 緊急な国民的課題としてのアイヌ語とアイヌ文化の保護について

 現在のアイヌ問題の中でアイヌ語とアイヌ文化を保護することは、急を要する特別な国民的課題である。
 アイヌの人々は歴史的に独自の言語と文化をつくりあげてきたが、明治以来の強制同化政策と差別のもとでその継承・発展が危機にさらされている。アイヌ語について言えば、アイヌの人々は長年にわたって日本語の使用を強制されてきたために、アイヌ語を話す機会が奪われてきた。しかもそうした状態が二代、三代と続いてきたために、多くのアイヌの人々は今日ではアイヌ語を解し話すこと自体ができなくなっている。
 また世界的叙事詩と言われているユーカラについてもその伝承者はいずれも古老であり、時期を失すれば消滅してしまう危険がある。
 北海道ウタリ協会ではアイヌ民族文化祭の開催、アイヌ語教室の開設をするなど、多くの共感を得ながらアイヌ文化の継承・発展のための取組を進めている。
 以下の点について、政府の見解を明らかにされたい。

(1) ユーカラの伝承者からテープに収めるなどの保存措置をテンポを早めて行うべきであるがどうか。
(2) 現在行われているアイヌ語教室の増設・助成の拡大を図るべきであるがどうか。
(3) 未指定の古式舞踊の調査を速やかに実施すべきであるが、今後の調査計画について、地域名を含め具体的にお答えいただきたい。
 同時に調査を踏まえ、直ちに重要無形民族文化財に指定すべきであるがどうか。
(4) アイヌ語とアイヌ文化を守り、発展させるため、国立の「アイヌ民族文化研究所(仮称)」「アイヌ文化伝承の森(仮称)」などの建設や、教育テレビに「アイヌ文化の時間」(仮称)を設け、アイヌ語を始めアイヌの人々の優れた文化や芸能が正しく継承発展されるように検討すべきと思うがどうか。

五 就職差別の解消と公共機関での就労対策について

 アイヌの人々は、就職差別などにより仕事は極めて不安定で、建設業を中心とする臨時雇用・日雇いが多く、共通して低収入である。北海道庁の調査によっても、「このままでは暮らしていけない」「食べるのに精一杯」という世帯が四六・三%と極めて劣悪な状態にある。
 したがって、就職差別の解消と安定した就職の斡旋のため、特別の体制をとること、とりわけ官公庁への登用や保健婦・ホームヘルパーの採用などについて努力すべきであると思うがどうか。

六 「旧土人給与地」の実態調査について

 石狩管内浜益村のアイヌの人々の「給与地」について、その所有者、境界等をめぐり現地でトラブルが生じている。
 したがって、浜益村など北海道の給与地について政府の責任で実態調査を進め、トラブルの解消に努めるべきと思うがどうか。

七 アイヌの人々の千島列島への慰霊墓参について

 かつて千島列島に居住し樺太千島交換条約で強制移住させられたアイヌの人々を慰霊するため、北海道ウタリ協会を始め関係者の間から、千島列島への墓参を実現したいとの動きが出ている。政府は責任をもって実現に向け努力すべきと思うが、見解を伺いたい。

  右質問する。