質問主意書

第116回国会(臨時会)

答弁書


第百十六回国会答弁書第一四号

内閣参質一一六第一四号

  平成二年一月三十日

内閣総理大臣 海部 俊樹   


       参議院議長 土屋 義彦 殿

参議院議員上田耕一郎君提出長良川河口堰建設に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員上田耕一郎君提出長良川河口堰建設に関する質問に対する答弁書

一の1について

 水道用水及び工業用水の需要の見通しは妥当であったと考えている。

一の2及び3について

 将来における工業用水の需要の増加に備え、水源を確保するため、長良川河口堰の水源は必要であると考えている。

一の4について

 将来における安定的な水の供給を行うには、名古屋市において現在予定している水源の確保が必要と考えている。

一の5について

 木曽川水系では、近年の少雨傾向等により、昭和四十八年度、五十二年度、五十三年度、五十四年度、五十七年度、五十八年度、五十九年度、六十一年度及び六十二年度と頻繁に水不足に見舞われて取水制限が行われ、社会的な影響が生じている実態にある。
 水は国民生活上不可欠であって、経済・産業・文化等各般の活動を支える重要かつ基本的な資源である。我が国三大都市圏の一つである名古屋圏が、二十一世紀に向けて、第四次全国総合開発計画(昭和六十二年六月三十日閣議決定)に示されるように「世界的な産業技術中枢圏域」として発展していくためには、安定的な水供給の確保が不可欠の条件である。
 都市用水の需要は、一般的に、経済社会の発展に応じて着実に増大していくものである。ダム、河口堰等の水資源開発施設の建設は長期間を要するのが通例であることから、水資源開発は、長期的見通しに基づき先行的かつ着実に進めていく必要がある。
 長良川河口堰は、名古屋圏の発展のために不可欠な水資源を確保するためにも必要な施設であり、緊急に建設する必要がある。

一の6について

 工業用水道事業は一般に、長期的な工業用水の需要見通しに基づき、企業立地に先立って整備される事業であり、あらかじめ特定の企業から給水の申込みを受けて建設に着手するという性格の事業ではない。特に工業用水道の専用施設整備に先立って水源の開発を行っている長良川河口堰建設事業の場合、現時点で個別の利水企業及び契約水量は決められていないと承知している。

二の1について

 昭和四十年代半ばから昭和六十年代初めまでの間に、長良川下流部の計画高水位以下の河道の容積は、地盤沈下、河道のしゅんせつ、砂利採取等により、約千四百万立方メートル増大しているが、計画高水流量毎秒七千五百立方メートルの洪水を安全に流下させるためには、今後更に約千五百万立方メートルのしゅんせつ等が必要である。
 長良川における「昭和三大洪水」として、昭和三十四年九月、三十五年八月及び三十六年六月の洪水があり、これらの洪水において実際に河道を流下した洪水の最大流量は、岐阜市の忠節地点において、それぞれ毎秒約五千六百立方メートル、毎秒約六千七百立方メートル及び毎秒約六千三百立方メートルと推定されている。これらの洪水では、水防活動により長良川下流部においては結果的に破堤は免れたものの、河口の潮位等の状況によっては、更に危険な状態になったと考えられる。
 また、昭和五十一年九月の洪水では、岐阜県安八郡安八町において破堤したが、忠節地点における最大流量は「昭和三大洪水」時と同程度の毎秒約六千四百立方メートルと推定されている。
 これらのことからも分かるように、改修途上における現時点においては、河道を安全に流下し得る最大の流量は、一義的に定まるものではない。

二の2について

 長良川河口堰は、河川管理施設等構造令(昭和五十一年政令第百九十九号)に基づき、流木等による閉塞等により洪水の流下を妨げることのないような安全な構造としている。

二の3について

 長良川河口堰は、伊勢湾台風の時のような異常な高潮や津波が生じた場合にはゲートが全開されるので、高潮や津波が生じた場合に被害を増大させるおそれはない。

二の4について

 御指摘の建設省の河川砂防技術基準(案)においては、「堰の計画湛水位は、原則として高水敷高より五十センチメートル低い高さ及び堤内地盤高より高くしないものとする。ただし、盛土等適切な措置を講じた場合はこの限りでない。」としている。長良川河口堰は、ブランケット工等の措置を講ずることとしており、これに何ら反するものではない。

二の5について

 ブランケット工は河川水の浸透を軽減し、承水路、暗渠排水管等は堤内地の地表部の湿潤化等を防止する機能を有するものであり、これらを一体のものとして漏水対策の効果を発揮させることとしている。

三の1について

 三重県桑名郡長島町(以下「長島町」という。)における稲作被害は、内陸部よりも土壌の塩分濃度の高い河川の堤防に近い区域に多く発生している。このことから長島町における塩害は、地盤沈下等による河床低下に伴う河道の塩水遡上、堤内地の地下水への塩分浸透、そして土壌の塩分濃度の上昇という一連の現象の結果として発生しているものと考えられる。
 なお、伊勢湾台風以前の稲作被害については、三重県の調査により、昭和二十二年から昭和三十一年までの間において相当程度の被害の発生が確認されていると承知している。

三の2について

 御指摘の被害面積の減少については、塩害が発生した水田の休耕及び宅地等への転用の結果であるとともに、長良川河口堰建設事業等による用排水施設の整備及びかんがい用水の水源転換という多年の努力によるものと考えるが、それにもかかわらず、現在でも稲作被害は報告されている。長島町は、地下水及び土壌の塩分濃度が依然として高い状況にあり、稲作被害の発生する危険性を有している。
 長良川においては、大規模なしゅんせつによって遡上する塩水の量が増大するため、河口から約三十キロメートル地点より下流の塩分濃度は、現在塩水の遡上している約十五キロメートル地点より下流の長島町付近のそれと同程度のものとなると予測される。高須輪中の大半は、いわゆるゼロメートル地帯で地盤も低く、長島輪中と同様に沖積層で砂質の地層であることから、長島輪中と同様の塩害が、新たに高須輪中の約三十キロメートル地点より下流において発生すると予想される。

三の3について

 長良川においては、治水対策上必要となる大規模なしゅんせつによって、沿川地域の取水の塩水化のほか、土壌の塩分濃度の上昇及び地下水の塩水化が助長され、それが将来の土地利用を制約し、住民生活に種々の影響を及ぼすものと予想される。これらの影響については、御指摘の塩害対策のみによっては解決することができず、河川管理上抜本的な対策を講ずる必要があると考えられる。
 また、長良川河口堰の建設は、これらの影響の発生を防止して河道のしゅんせつを可能にするとともに、新規の都市用水を開発するという総合的な見地から実施するものであり、御指摘の塩害対策の観点のみによる比較は適当ではない。

四の1から3までについて

 長良川河口堰は、堰地点の流量、河口の潮位の変動等を勘案してゲート操作を行うこととしており、塩水遡上のおそれがないときはゲートを全開し堰のない場合と同じ状態とする可動堰であることから、いわゆるヘドロが年々累積していくことは考えられない。
 また、ゲート全開の回数及び総時間については、想定し難い。
 なお、利根川河口堰の上流部においては、ヘドロの明らかな累積傾向は見られない。

四の4について

 河川水中に遊離塩素が存在する可能性は極めて低いことから、長良川河口堰を設置しても、堆積物と遊離塩素とが化合して、河川水中にトリハロメタンが生成される可能性は極めて低いものと考えられる。

四の5について

 伊勢湾には木曽川、揖斐川、庄内川等多数の河川が流入しており、長良川河口堰による新規取水量は、伊勢湾に流入している河川の年間流出量と比較して極めて小さく、さらに当該年間流出量の変動率を勘案すれば、伊勢湾の水質に及ぼす影響はほとんどないものと考えている。

五の1について

 堰の設置されている他の河川の例を見ても、稚あゆの遡上が確認されていること等から、長良川河口堰の建設による流速の低下等は仔あゆの降下に大きな影響を与えないものと考えている。
 なお、あゆの人工種苗生産技術を水資源開発公団と共に専門家の協力を得て開発する等あゆの保護のため必要な対策を講じているところである。

五の2について

 長良川河口堰においては、河岸に沿って群れをなして遡上する稚あゆの特性にかんがみ、左岸及び右岸のいずれにも呼水式魚道及び閘門式魚道を設置するとともに、呼び水により効果的に稚あゆを当該魚道に誘導することから、大部分の稚あゆは遡上すると考えている。
 なお、呼水式魚道を設置している筑後大堰等では、毎年大量のあゆの遡上が確認されている。

五の3について

 一般に、溯河性魚類及び降河性魚類については、塩分濃度の急激な変化による影響は小さいと考えられている。
 さつきますについては、稚あゆ同様河岸に沿って遡上する性質を有し、稚あゆ以上の泳力を有するので、堰に設置された魚道からの遡上が行われ、長良川河口堰の建設は大きな影響を与えないものと考えている。
 なお、さつきますは基本的にあまごの生息する河川には生息すると考えられている。現在までに二十以上の河川においてさつきますが生息していると言われており、長良川、木曽川及び揖斐川においては、昭和五十三年からその漁獲高が統計に挙げられ、それによると漁獲量は年々増加している。

六の1について

 長良川河口堰の建設に要する費用は、現在のところ約千五百億円と見込んでいる。

六の2について

 長良川河口堰の建設に要する費用の負担割合は、事業実施方針上、治水に係る費用を千分の三百七十四、都市用水に係る費用を千分の六百二十六と定めている。
 その内訳は、治水についての国の負担割合は本来千分の二百八十・五であるが、現在は、国の補助金等の整理及び合理化並びに臨時特例等に関する法律(平成元年法律第二十二号)に基づく負担割合の引下げ措置により千分の二百二十四・四としており、残余を岐阜県、愛知県及び三重県が負担している。この措置に伴う地方負担への影響額については適切に地方財政措置を講じている。
 また、都市用水については、工業用水として愛知県千分の百七十七・八、三重県千分の二百三十四・〇、水道用水として愛知県千分の七十九・六、三重県千分の七十九・〇、名古屋市千分の五十五・六の負担割合としている。
 なお、御指摘の三重県分の工業用水の転用に伴う最終的な各地方公共団体の負担割合は、現在のところ未定であるが、事業完了までには確定することとしている。

六の3について

 御指摘の点は、将来的な水需要に備える等のため、三重県の自主的な判断により措置されているものと承知している。

六の4について

 御指摘の長良川河口堰に係る利水コストについては、今後の金利動向が不明であること、導水施設等の専用施設の建設費用が確定していないこと等の理由から算定できない。