質問主意書

第116回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一二号

広島県呉湾における米軍弾薬保管計画に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成元年十二月十六日

林 紀子   


       参議院議長 土屋 義彦 殿


   広島県呉湾における米軍弾薬保管計画に関する質問主意書

 本年十月、広島県呉湾に、米軍の弾薬を保管する計画が明るみに出た。米軍の計画は、来年一月に二万トン級の弾薬輸送船がドック入りする間、弾薬を秋月弾薬庫などには搬入せずに、台船に分散して海上に仮保管するというものである。さらに、米軍は、仮保管後も、同じ海域に、恒久的に弾薬を保管する方針であると報道されている。保管予定の海域は、当初秋月弾薬庫の沖合一・四キロメートル、呉市中央桟橋から四・三キロメートルのA1、A2と呼ばれる船舶を停泊させるための錨地(直径約八百メートル)としていた。その後米軍の「専用水域」で行おうとしている。
 錨地とされている海域は定期便だけでも毎日百十便、五トン以上の貨物船と漁船を含めると一日約二百隻の船舶が輻湊する呉港の表玄関である。またこの一帯は、江田島、音戸、大柿、呉など八つの漁協の操業海域となっており、底引き、投げ網、たこつぼ漁が盛んで、特に冬場はカレイ、コチ、メバルなどの大事な漁場でもある。このような海域に、弾薬を保管することは、国民の生命を脅かすとともに、また漁民の生活にも大きな影響を与えるものであり、地元から強い反対の声が上がっている。
 米国防総省の「一九八八会計年度事業建設計画」によると、秋月、広、川上の三つの弾薬庫を管轄する米陸軍秋月弾薬廠指令部が「太平洋における緊急展開軍のため事前に集積する輸送船の弾薬を格納準備している」ことが明記されている。今回明らかになった米軍の弾薬海上保管計画は、この米国防総省の計画の具体化であり、秋月、広、川上弾薬庫に加えて、船による海上の実質的な「弾薬庫新設」であり、断じて容認できるものではない。
 よって、以下の点について質問する。

一 弾薬輸送船がドック入りする間の弾薬を海上に仮保管するとの申入れは、いつ、米軍のどの機関から、日本側のどの機関に対して、いかなる内容でなされたのか。申入れの性格が公式であるか非公式であるかにかかわらず明らかにされたい。

二 ドック入りする米軍艦船の、艦名、所属部隊、また、積載されている弾薬の種類、弾薬量を明らかにされたい。

三 広島県内の秋月弾薬廠の三カ所の弾薬庫は、本州最大の弾薬庫であり、実に十二万トンもの貯蔵能力を誇っている。今回の輸送船のドック入りに際して、米軍はなぜこの弾薬庫を使用しないのか。その理由を明らかにされたい。

四 第六管区海上保安部は「安全面から望ましくない」ということで、計画の変更を米軍側に申し入れると報道されているが、申入れはしたのか。申し入れたとすれば、いつ、だれが、米軍のどの機関に対して、どの様な内容で行ったのか。

五 これまで日本の海域で、海上での武器弾薬及び車両等の保管が、提供地域内、あるいは地域外で過去行われたことがあったのか。また、現在行われている所があるか。あれば、海域名、保管された武器弾薬の種類、保管の方法、期間をすべて明らかにされたい。

六 米軍は、将来的にも輸送船が入港する都度、呉湾海上での弾薬保管をする計画だと言われているが、そういう申入れがあったのか。

七 仮に輸送船が入港する都度、海上保管する計画だとすれば、実質的な海上弾薬庫計画であり、「一時的な措置」などではなく、「弾薬庫の新設」に当たり、さらに保管が提供施設区域外で行われるとすれば、新たな「施設提供」になるのではないか。政府の見解を明らかにされたい。

八 提供区域外での弾薬保管計画であるならば、日米合同委員会での合意が行われるはずである。合意が行われているとすれば、いつの合同委員会で、いかなる合意がなされているのか明らかにされたい。

九 米陸軍秋月弾薬廠は、地元住民を始め自治体などの強い反対に会い、提供水域内に保管場所を変更し、提供水域で地位協定第三条の措置をとると言われているが、「専用水域」は、いずれも航路や漁場に隣接しており、弾薬保管の危険性はA1、A2の錨地での保管計画となんら変わらない。まして同協定第三条第三項では「合衆国軍隊が使用している施設及び区域における作業は、公共の安全に妥当な考慮を払って行われなければならない」とされている。政府は、何をもって「公共の安全」が確保されていると判断するのか、その基準を示されたい。

十 今回明らかになった弾薬備畜計画とは別に、米陸軍秋月弾薬廠では、米太平洋空軍(司令部ハワイ)が、有事の際に予想される空輸能力の不足をカバーするため、米本国から作戦地域へ前方展開する空軍増援部隊に必要な弾薬を事前備畜していると言われているが、政府は承知しているか。武器弾薬の種類、量などについて明らかにされたい。

十一 外務省は十二月六日広島県知事が申し入れた際に、A1、A2の錨地での保管計画はないとの米軍回答を提示したそうであるが、その五日後には米軍の「専用水域」での保管計画が明らかにされているのであり、政府として責任ある事実関係の調査を行うとともに、速やかに公表すべきであると考えるが、どうか。

十二 米軍の「太平洋における緊急展開軍のため事前に集積する輸送船の弾薬を格納準備」するという任務に呼応して、秋月弾薬庫は次々と強化されている。隣接する音戸町の団地内の土地二千八百平方メートルに米軍将校用住宅を日本の“思いやり予算”で建設するとの計画が明らかになるとともに、広弾薬庫では、八八年六月、呉市当局の知らない間に米軍が弾薬揚陸用突堤の整備工事を進めていることが発覚し、さらに今年に入って「浮き桟橋」(延長九十メートル、幅二十四メートル)を新設するなど、従来の輸送能力は三倍以上にも拡大している。また、川上弾薬庫では、八八米会計年度で二十一基、八九米会計年度で二十基の、核兵器を含む高性能弾薬の貯蔵可能な覆土式弾薬庫の建設が進められている。
 今回明るみに出た弾薬の海上保管計画も、こうした基地機能強化の一環であることは明らかである。しかも、住民の安全を著しく脅かすものである。このような計画は政府として断固拒否し、米軍に撤回させるべきであり、また今後もこのような計画がされないよう政府としての考えを表明すべきであると考えるが、どうか。

  右質問する。