質問主意書

第116回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一一号

常時有人の民生用宇宙基地の詳細設計、開発、運用及び利用における協力に関するアメリカ合衆国政府、欧州宇宙機関の加盟国政府、日本国政府及びカナダ政府の間の協定に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成元年十二月十五日

吉 岡 吉 典   


       参議院議長 土 屋 義 彦 殿


   常時有人の民生用宇宙基地の詳細設計、開発、運用及び利用における協力に関するアメリカ合衆国政府、欧州宇宙機関の加盟国政府、日本国政府及びカナダ政府の間の協定に関する質問主意書

 常時有人の民生用宇宙基地の詳細設計、開発、運用及び利用における協力に関するアメリカ合衆国政府、欧州宇宙機関の加盟国政府、日本国政府及びカナダ政府の間の協定(以下、「宇宙基地協定」という。)は、参考人からの意見聴取も含めて、わずか一日半足らず、八時間十分の審議で第百十四回国会最終日である六月二十二日、参院外務委員会で審議中不当にも強行採決の上、本会議で採決に付され可決成立された。
 同協定は、民生用宇宙基地と言いながら、アメリカ側は、国家安全保障目的のために利用することを前提としたもので、極めて重大な協定であった。
 それゆえ、会期最終段階の一日余の形式的な審議で強行成立させるようなことがあってはならないことをわが党などが強く主張したにもかかわらず、遺憾ながら多くの問題が審議されないまま、自民党によって審議打切り、採決が強行されたのである。
 私自身も、理事会で決定された質問時間を残したままの質疑打切り、強行採決で、最低ただしておきたい問題すら質問する機会を奪われてしまった。
 審議中にも多くの問題点が明らかになりながら、質疑打切りによる強行採決で多くの重大問題が解明されないままに終わったため、重大な疑問点を残したまま発効するに至った。
 よって、以下の質問に対し、政府の明確かつ具体的な回答を求めるものである。

一 スミス・楠本往復書簡について

 リチャード・スミス米国国務省首席次官補代理と楠本祐一日本外務省科学課長の書簡の往復についてである。
 この、宇宙基地協定でのアメリカの「国家安全保障の目的のため」の利用の権利を認める書簡の往復は、国会の審議でも問題になったように極めて重要なものである。
 特に、アメリカが宇宙条約に対し「平和利用」とは「非軍事的利用」ということではなく、「非侵略的利用」という解釈をとっているだけにことさら重要である。

1 この往復書簡は、協定との関係でどのような性格、位置付けを持つものか。国会での答弁もあるが改めて明らかにされたい。また、こういう重要な内容を持つ書簡のやりとりをなぜ日米双方ともこのレベルの者の間で行ったのか。
2 国会答弁では、「協定に書いてあることを確認するという、いわば念のため」とか、「この書簡がなくても九条八項の(b)でもって明らかになっておる」ことだ、といった答弁(遠藤政府委員)があったが、これが政府の正式見解なら、この宇宙基地協定は、国家安全保障目的の利用を協定内容としたものであることを示すものである。
 協定では、宇宙基地が、「平和的」で「民生用」の目的に沿ったものだと明記しながら、その「平和的」とは、国家安全保障目的の利用も含むものであるというのなら、この協定は「平和的」でも、単なる「民生用」だけの宇宙基地でもなく、実際は、「国家安全保障目的」と「民生用」の宇宙基地だということになるが、政府の見解はどうか。
3 書簡にいう「国家安全保障上の目的のため」の利用とは具体的にはどういうことが想定されるか。また、なぜそのことを協定の目的に明記しなかったのか。
4 「国家安全保障目的のため」の宇宙基地の利用は、「民生用」という協定の目的に反しないか。

二 論議の焦点の一つになった宇宙基地の国家安全保障目的への利用と関連して「非侵略的軍事利用」ということの法的解釈について

1 国会審議の中で、宇宙基地協定に言う「平和的目的」についてのアメリカの主張は、「非侵略的軍事利用」を認めるものであることが明らかにされたが、「非侵略的軍事利用」の定義は何か。
2 「非侵略的軍事利用」は、国連総会での「侵略に関する定義決議」に言うような「軍事利用」を否定するものではあっても、それに触れない「非侵略的」軍事利用ならば、構わない、というものと理解してよいか。
3 そうだとすれば、国際法上は、「侵略的」でなければ、例えば攻撃に対する反撃のための「攻撃的軍事利用」をも排除するものではない、と理解してよいか。
4 「非侵略的」ということは、「非攻撃的」と同義語ではないととってよいか。
5 「平和的利用」についての解釈が各国によって異なり、しかも、協定第九条により、「要素の企図されている利用が平和的目的のためのものであるか否かについては、当該要素を提供している参加主体が決定する」ということになると、宇宙基地協定の目的に言う「平和的目的のために」というのは、単なるまくら言葉、飾り文句としてのあいまいなものでしかないと考えるが、政府はどう考えるか。協定参加国内からそういう疑問は出ていないか。
6 この際、「平和的利用」についての政府の考えを改めて確認しておきたい。
 高野雄一氏は、「平和的利用とか、平和的目的ということで排除されるのは侵略的軍事利用」であるとする議論を「奇妙な政略的論理」と言っている(『教養国際法』九〇ページ)。
 政府は、国際法上、「平和的」利用とは、「軍事的」利用に対置される概念とみているか、「侵略的」利用に対置される概念とみているか。
7 「平和的利用」ということについての国際条約の解釈についてもう一点ただしておきたい。
 この問題の質疑の中で南極条約について、第一条第二項に軍事的目的での使用とは全く関係のない「科学的技術のため又は平和目的のために、軍の要員又は備品を使用することを妨げるものではない」とあることを挙げて、「こういうことはやはり平和的な目的の中に含まれるという解釈になっておる」、「宇宙条約の第四条第二項の立て方もこのところはほとんど同じ立て方になっております」とあたかも、南極条約も宇宙条約もこの点は同じかのような答弁があったが、日本政府の「平和的利用」についての解釈は、こういうものか。
 南極条約は、「平和的目的のみに利用」され、軍事目的はいっさい排除されている。南極条約の「平和的利用」は、あいまいさのないものであったが、政府は、今日、南極条約を含めて、生物兵器の禁止条約その他いろいろな条約の平和的目的には、アメリカが言うように「非侵略的軍事利用」も許容されるという解釈か。
 以上、「民生用」と銘うって日本が参加する宇宙基地の利用にもかかわる重大問題ゆえ疑問の余地のないよう明確にしてもらいたい。

三 アメリカ実験棟での研究について

 次に、特にアメリカ実験棟での研究について審議の中で明らかにされた問題の再確認と併せて、具体的に明らかにしておきたい事実関係について質問する。

1 「理論的にはアメリカ国防省の利用可能性は否定できないところでございます」という遠藤政府委員の答弁(参院外務委員会、六月二十二日)は変わりないと再確認してよいか。
2 アメリカの実験棟で開発した新しい技術などの研究、実験成果や、天体及び地球観測の結果を軍が利用することは許されるという政府答弁(参院外務委員会、六月二十二日)を再確認するか。
3 私の読んだものだけでも、アメリカ国防総省がこの宇宙基地計画に大きい期待と関心を持っていることを示す文書や発言が多数ある。
 ところが、国会で丹波政府委員は、「現在国防省はこの宇宙基地を利用する計画はないということを繰り返しいろんな局面で、あるいは書簡をもって言ってきているところでございまして……」と答弁している(参院外務委員会、六月二十二日)。
 その「いろんな局面で」の発言と書簡は、いつ誰あてのものかを具体的に根拠を挙げて明らかにしてもらいたい。
4 アメリカ実験棟においてであれ、国家安全保障目的での国防総省による「非侵略的軍事利用」を認める宇宙基地計画に参加、協力することは、日本の実験棟においては「軍事利用」は行わないとしても、真の意味での平和的で民生用の宇宙基地計画への参加とはいえず、国会決議にも触れることにならないか。
5 アメリカの「平和利用」についての解釈によれば、アメリカ実験棟でのSDIにかかわる研究、実験は可能だと解すべきと思うが、そう解してよいか。

四 日本実験棟での問題点について

 次は、日本にとってとりわけ重要な日本実験棟の問題である。

1 日本の実験棟は--各国の実験棟についても同様の問題であるが--言わば日本の領土と同じように完全に日本が管轄権を持っており、日本の法律や日本の国会決議など日本の主張を貫き通すことができるのか。そうだとすれば、それは協定のどの規定で保証されるのか。
2 日本のその管轄権は、日本の実験棟のうち、アメリカに提供し、アメリカが実験に使用する四十六%部分、カナダが使用する三%部分についても完全に貫けることになっているか。言い換えれば、アメリカの日本の実験棟における実験では、アメリカ自身の実験棟での実験と違って完全に日本の許容するテーマ、範囲内での実験、研究しか許されないのか。
3 国会審議で大問題になった日本の実験棟内で、アメリカの実験、研究に提供する四十六%の部分での、SDIに関する実験、研究の問題だが、三塚外相が示した統一見解(参院外務委員会、六月二十二日)によれば、「SDI研究のための粒子ビーム兵器、レーザー兵器、指向性エネルギー兵器などの兵器に専ら係る技術の研究」は拒否するとある。このことは、「兵器に専ら係る技術」の研究以外は、SDIに係る実験、研究であっても日本実験棟内において許すものと解してよいか。
4 日本の実験棟内で実験、研究する日本、アメリカ、カナダは、それぞれ完全に独立した実験、研究を行うか。
 もしそうである場合、各国の実験、研究はお互いにその秘密を確保し得る条件下での実験、研究が保証されるか。お互いの実験、研究は、各国の搭乗員が観察しあえる状況下での研究となるのか。
5 さらに、日本実験棟内での実験、研究においては、日本実験棟での実験、研究を行うアメリカとの共同の実験、研究はあり得るか、将来とも全くないのか。協定ではどうなっているか。
6 4、5の質問と関係することだが、搭乗員の宇宙基地内での生活と活動はどのように行われるか。八人の宇宙基地の搭乗員の生活、活動、特に実験、研究活動は、各国独自に行うのか。八人が集団的に各国の実験棟内にも出入りし、各国の実験、研究についても協力しあって行うことになるのか。

(1) 全員が協力しあい、交代で各国の実験棟をも分担しあうことになると、各国の実験、研究の秘密は守れないことになるではないか。それを前提にしているのか。
(2) また日本の搭乗員は、アメリカの実験棟での「非侵略的軍事利用」の実験、研究に直接協力することにもなるが、そういうことも検討の上、それでも構わないと考えて宇宙基地計画に参加することにしたのか。

7 日米間の了解覚書きによるとNASA及び日本は、それぞれ、自己の利用計画を宇宙基地利用のための運用組織にあらかじめ提出することになっている。ということは、各国の宇宙基地内での実験、研究テーマは事前に公開しあうことになっているのか。
8 日本実験棟の自衛隊の利用は、その実験、研究の成果の汎用的利用も含めてないと断定できるか。

五 研究成果の公開について

 政府は、この宇宙基地での実験、研究によって、地球上ではできない、新素材の開発とか、医薬品の開発など人類に新たな可能性をもたらすような宣伝を盛んに行っている。
 これらが、協定を成立させるための意図的な誇大宣伝かどうかの議論はさておいて、宇宙基地での実験、研究成果が、公開されることが必須の条件である。国会審議では、この問題にかかわる特許問題が重要論点の一つになったが、それは十分解明されないまま質疑打切り、強行採決となった。
 したがって、この問題についても十分納得のいく回答を求める。

1 日本実験棟を含めて各国の実験棟での研究成果のパテントは誰に帰属するものかという問題がまず第一の問題である。
 アメリカ側について言えば、アメリカ政府、具体的にはNASAがパテントを所有するという説は事実か。
 日本については、日本政府が所有するのか。
 日本とアメリカ両国について、具体的に示してもらいたい。
2 もし、前項で質問した共同研究ということがあるとすれば、その場合はどうなるのか。
3 民間企業の利用も許すということになっているというが、その場合は、その実験成果の所有権は、民間企業が所有することになるのか。
4 宇宙基地での実験、研究が本当に名目どおり民生用であり、産業、医療などの発展に役立てようというものであるとすれば、研究成果はすべてその目的に沿って利用できるように公開されなければならないが、その確実な保障はあるか。
5 参院外務委員会での参考人の意見聴取の際、参考人からも、研究成果の軍事使用より「一般的な目的で利用される技術というものの研究を行った場合、これを僕が一番問題とするのは、その技術のデータを出さないという方がむしろ問題じゃないか」(龍澤参考人)という指摘があった問題であるが、「非侵略的」とはいえ、軍事利用との関係で、そういう研究成果を公表しないで隠ぺいしてしまうというようなことが起こる可能性は絶対にないという保証があるか。
 ないというなら、その協定上の根拠を示してもらいたい。
6 アメリカの場合は、政府の国会答弁にあるとおり、アメリカ実験棟での発明にせよ、日本実験棟での発明にせよ、特許出願しないことがあり得ることになっている。こうして非公開とされることは、特許制度の本来の趣旨、産業、医療の発展という協定の目的に反しないか。
7 日本について言えば、特許出願についていかなる制約も設けず、完全に自由にすると言い切れるか。
8 国家安全保障目的での米国防総省の利用ということになれば、軍事機密という問題が出てこないか。軍事機密の守秘義務は、アメリカ以外の乗組員や宇宙基地を利用する者にまで及ぶ心配は全くないか。
9 特に八人の宇宙基地搭乗員がアメリカの実験棟での実験、研究を含めて共同、協力するということになれば、アメリカの軍事研究を知ることになり、米国の秘密保護法を適用されることになると思うが、その心配はないのか。
10 日米科学技術協力協定の安全保障条項により、直接軍事とは関係のない基礎的な研究であっても汎用(軍事、非軍事の両用)技術として公開が規制を受けること、「防衛秘密特許協定」に基づく公開の規制などに加えて、宇宙基地での米国との共同研究を通じて、日本人研究者の基礎的な研究分野にまで米国の国防総省による規制が及び、公開の自由が侵される新たな危険が生まれないという保証があるか。

六 宇宙基地の予算問題について

 宇宙基地建設予算は、総額約四兆円、アメリカが二兆九千億円で、日本は三千億円となっている。
 しかし、アメリカ議会で宇宙予算が削減され、多くの新たな事態が論議になっている。

1 報道によると、NASAが、基地定員の半減を含む計画縮小試案を各国に内示していたというが、事実か。(「読売新聞」一九八九年九月二十二日)
2 また、宇宙基地計画が延期されるということはないか。
3 もともと、雑誌『世界』では、この宇宙基地計画についての米国の狙いを「西側同盟の結束を示すと同時に費用を分担し合うことによって米国の負担を軽くするのが狙いです」と指摘していたが(一九八四年四月号)、アメリカの予算削減分が、他の参加国特に日本への予算分担増額要求となってくる可能性はないか。
4 今年四月に再発足した国家宇宙評議会議長でもあるクエール米副大統領は、この九月の来日に先立つ記者会見において、訪日では宇宙開発を巡る日米協力の在り方について日本側関係者と話し合う意向を示し、「日本政府関係者に米国の政策や目標の最新情報を提供したい」と述べていたが、実際にどんな協議が行われたのか。どんな最新情報の提供を受けたのか。それは宇宙基地計画予算削減に伴う政策目標だったのか。

  右質問する。