質問主意書

第116回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二号

日航ジャンボ機御巣鷹山墜落事故に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成元年十月十九日

北村 哲男   


       参議院議長 土屋 義彦 殿


   日航ジャンボ機御巣鷹山墜落事故に関する質問主意書

 千九百八十五年八月十二日午後六時五十六分ごろ群馬県上野村御巣鷹山に日航ジャンボ機JA八一一九号機(以下「事故機」という。)が墜落し、搭乗していた乗客乗員五百二十名が死亡し四名が重傷を負った。
 本件事故は単独機の事故としては世界でも空前の惨事であった。本件事故についてアメリカのボーイング社(以下「ボ社」という。)は、事故機が千九百七十八年六月二日大阪空港でしりもち事故を起こした後、千九百七十八年六月十六日から七月十二日まで日本航空株式会社(以下「日航」という。)羽田整備工場で行われた修理の際の、ボ社から派遣された修理担当職員の修理ミスを認めている。
 また、日航も修理箇所の点検や事故までの整備に手落ちがあったと認めている。更に運輸省航空事故調査委員会の調査報告書でも、ボ社の修理及び日航の領収検査と整備点検の問題点を指摘している。両社は既に八十五%の遺族に対し賠償金の支払いを履行しており、民事訴訟においても明確にその責任を認めている。
 本件事故の遺族六百九十七名は、日航の高木社長、ボ社のシュロンツ社長、当時の山下運輸大臣以下合計十二名を告訴し、飛行機の安全を願う三万三千四百四十一名が同様の人々を告発した。
 更に、千九百八十八年十二月一日、群馬県警特別捜査本部は、ボ社、日航、運輸省の三者の過失が競合して起きた事故であるとして、ボ社関係者四名、日航関係者十二名、運輸省関係者四名、計二十名を刑法第二百十一条の業務上過失致死傷罪の疑いで、前橋地検に書類送検した。
 群馬県警は、ボ社の世界的に例のない初歩的な修理ミスに、日航の整備ミス、運輸省の検査ミスが競合した事故であるとしている。
 この送検を受けて、現在前橋地方検察庁と東京地方検察庁は合同で捜査中であるが、近時右捜査の結果として両地検は告訴・告発された人物はもとより送検された二十名全員について不起訴の方針を検討している旨、再三にわたって報道されている。しかしながらボ社及び日航がその責任を認めているにもかかわらず、このような処理方針が検討されているとすれば、ゆゆしき事態である。
 これでは、今後起こりかねない欠陥飛行機による惨事についても一切刑事責任を追及できないことにならないか。
 日航機墜落事故の惨事を二度と起こしてはならないとの前提で以下質問する。

一 捜査全般について

(一) 捜査の現段階について可能な範囲で説明されたい。
(二) 起訴、不起訴の処分の時期的めどを明らかにされたい。
 刑事訴追の時効が明年八月に迫っていることとの関係で処分の時期をどのように配慮されているのか。

二 ボ社関係について

(一) 本年十月検察官の渡米の際、ボ社修理作業員からの事情聴取は実現したのか。
(二) 渡米の際に収集した資料の標目内容を明らかにされたい。
(三) ボ社作業員からの事情聴取がいまだ実現していないとすれば、検察庁として起訴前の証人調を請求し、嘱託尋問を米司法当局に働きかけるつもりはないのか。
(四) ボ社作業員が国外にいる間は、刑事訴訟法第二百五十五条第一項により公訴時効は停止すると考えてよいか。
(五) ボ社の処分を保留とした上で、捜査を継続し、日航、運輸省関係者の処分をまず早急に行うべきではないのか。
(六) ボ社からの書面の回答の中では修理ミスが本件事故の原因であり、事故と因果関係のあることを認めているのか。

三 日航領収検査関係について

(一) ボ社修理担当者による修理機の領収検査について千九百七十八年当時も領収検査実施基準上不可欠であった「領収検査実施要領」が作成されておらず、所定の協議調整がされていなかったのではないか。なぜそのようなことが起こったのか解明されているのか。
(二) この修理当時には、千九百七十五年十二月十七日に発生したアンカレッジ国際空港での日航の事故機のボ社による修理機の領収検査の際、ボ社の修理に十数カ所の修理ミスがあったことが判明し、領収検査の重要性が明らかになっていたのではないか。

四 日航整備関係について

(一) 本件事故直前の千九百八十四年十一月4H・11-C整備において、事故機の整備にあたったスタッフは、直接担当者を除いてその上司四名は当該機体がボ社による大修理を行った機体と同一のものであることを知っていたのではないか。
(二) この修理機領収からこの事故までの間に修理ミス箇所の発見がなぜできなかったのか。事故機の機体後部が、再三不具合を起こしていたのに、後部圧力隔壁について、特別の点検体制をとらなかったのはなぜか。

  右質問する。