質問主意書

第114回国会(常会)

質問主意書


質問第一三号

日米防衛特許協定等に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成元年五月十七日

丸谷 金保   


       参議院議長 土屋 義彦 殿


   日米防衛特許協定等に関する再質問主意書

 八十九年三月三日に提出した私の質問主意書に対して同月二十八日に政府の答弁書を受け取った。それに基づいて、重ねて政府の見解を問うため、以下、質問する。

一 「防衛目的のためにする特許権及び技術上の知識の交流を容易にするための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」(以下「日米防衛特許協定」と略称)について

(一) 私の質問主意書「一の(三)の1」に対する政府答弁書「一の(三)の1について」により、協定出願される「技術上の知識」には「MDA秘密保護法」によって秘密保護されるものと、「国家公務員法」によって秘密保護されるものとがあることが明白となった。しかし、協定出願の内容を知らない特許庁にその区別はできない。その区別ができるのは米国防総省から別途、協定出願の内容を知らされる防衛庁のしかるべき機関しかないことになるが、その機関は、一体どのような法的根拠に基づいて設置された、どのような機関なのか。
(二) 同じ協定出願でありながら、程度の異なる二つの秘密保護法規で区別することについて、混乱が起きないのか。
(三) 千九百五十六年五月十九日衆議院外務委員会の下田条約局長答弁によれば「防衛以外の目的の技術上の知識の交流はその協定の目的ではない」「この協定は技術の導入協定ではなく保護協定である」と説明している。国家公務員法の守秘義務条項だけで、秘密保護される協定出願のうちの「技術上の知識」を、日本政府が企業に委託して研究を行うことができないことは明らかである。したがって、政府答弁書「一の(三)の4について」が、「協定出願の対象たる発明は、我が国政府の使用に供されるものである」と、あたかも日本政府の使用に何の制約もないように答弁しているのは間違いではないのか。
(四) 政府答弁書「一の(三)の2について」は「防衛秘密に該当する協定出願の対象たる発明とは関係なくされた発明に関しては、当該協定出願の対象たる発明を公にすることと同じになるものであっても、秘密保護法の適用はない」といっているが、それは分かり切ったことであり、答弁になっていない。質問は、「協定出願とは無関係の発明をする日本人が、いちいち犯罪容疑の対象とされることは不穏当ではないか」と聞いているのである。
 参考までにいえば、千九百五十六年五月十六日衆議院外務委員会において林防衛局長は「米国の発明と無関係に日本で発明したかどうかということはあらゆる資料を集めて認定する」「犯罪の構成要件の問題であるから第一次的には捜査当局、最終的には裁判所が決定する」と答弁している。また「対米武器技術供与に関する交換公文」締結交渉で、防衛庁側責任者だった木下元装備局長は「日米防衛特許協定」を活性化させた米国側のねらいについて次のように述べている。
 「近年、日本の技術水準が著しく向上した結果、防衛関係の装備品の生産とは何のかかわりもない企業が開発した汎用技術のなかで、アメリカの軍事用の秘密発明と同じような水準と内容のものが出てくる可能性が強まり、いわゆる無関係発明の脅威が現実化することとなった。そこでアメリカ政府は、いままで眠っていた秘密の発明の特許出願に関する特許例規定をよび醒まし、特許による陣取りを活用して、自らにとって重要な軍事用の発明を守ろうと考えたものと思われる」(木下博生著「アメリカは日本に何を求めているか-ハイテクと安全保障」百三十一ページ)。
 日本の捜査当局の無関係発明者に対する捜査は、このような米国のねらいを代行することになり、日本の科学技術の平和的な発展を阻害することになるのではないのか。

二 FSXの共同開発問題

(一) 八十九年四月二十九日の「松永大使発ベーカー国務長官宛書簡」「ベーカー国務長官発松永大使宛書簡」「口頭のやりとり」文書について、新たに質問する。

1 松永書簡によれば、その(3)にかかげたレーダー、電子戦装置(ECM)、慣性基準装置及びミッション・コンピューター・ハードウェアなど四つの技術を始め、「米側が入手することを希望する全ての技術」を日本側は米側に移転することを約束しており、日本側が米側に移転すべき技術を選択する権利を持っていないことは明白である。逆にベーカー書簡によれば、米国側が日本に移転すべき技術の選択権を確保していることは明白である。
 これは、はなはだしく不平等な取決めではないのか。
2 松永書簡は、その(3)の四つの技術を、米側のアクセスから除外している。ところがべーカー書簡はその四つの技術に対して、米側は「十分なアクセスを有し、且つ、これを取得するオプションを有する」といっている。この食い違いは一体どういうことなのか。
 さらにベーカー書簡はその「四つの技術のいかなるものについても、その開発にとって米国の技術の使用が本質的なものである場合には、了解覚書で確立された手続により決定されるところにより、本質的に開発されたものとみなされる」といっている。これは一体どういうことを意味しているのか。米国が所有権を持つという意味ではないのか。「了解覚書」に即して説明されたい。
3 ミッション・コントロール・コンピューターを開発するためのソースコードに対する日本のアクセスの条件となる「了解覚書の条件」とはどんな条件なのか。そのソースコードは「著作権法」によって受け入れるのか、それとも「日米防衛特許協定」によって受け入れるのか。
4 ベーカー書簡はFSX計画が「日米安保体制の目指すところの北西太平洋の平和と安全に対し重大な貢献をなすことを確信している」といっている。それはFSXが、歴代内閣の憲法解釈に基づく公約である「専守防衛」に違反する、北西太平洋における集団的自衛権行使のための兵器であることをわざわざ確認したものではないのか。
5 「口頭のやりとり」の2で、米国生産の品目が「安定的に且つ適正な価格で供給される」よう念を押しているが、適正な価格は何を基準に定めるのか。
6 ベーカー書簡は、「今回の書簡の往復において提示されたクラリフィケーションにより、我々は米国内の要件に従い、米議会に対する通告を取り進めることとなろう」といっており、その通り米議会に通告し、審議・承認を求めた。
 日本政府も当然、日本国内の要件に従い、日本の国会の審議・承認を求めるべきである。千九百七十四年二月二十日衆議院外務委員会において大平外相が示した政府統一見解によれば、(1)新たな国内立法を要する国際約束、(2)新たな財政支出の義務を負う国際約束、(3)国家間の基本的な関係を規定する国際約束は国会に提出して審議・承認を求めなければならないとされている。FSX共同開発・生産の費用は全額日本が負担するのであり、当然、(2)に基づいて国会に提出して審議・承認を求めるのが当然ではないのか。もし国会の承認を求めないとすれば、それは、国会及び国民主権を無視するものであると断じざるを得ないが、どうか。

(二) 政府答弁書「一の(四)の6について」は、対米武器技術供与は「外為法」及びその関係法令によって実施されるので、「国内法の整備がなされていないというのは当たらない」といっている。しかし、千九百八十一年十一月十日に政府がまとめ、同年十二月に米国に対して説明した「対米武器輸出について-基本的考え方」によれば、対米武器輸出を「外為法」による武器技術輸出規制の枠外として認めるかどうかを決める基準となるのは、日米安保条約第三条に定める目的に合致し、米国の武力を維持・発展させるのに役立つかどうか、ということだけである。そのような判断を下すことができるのは、日本政府ではなく米国政府であるから、この基準は、米国政府の思うがままということにほかならない。「国内法の整備がなされている」などと言い張るのは、詭弁にすぎないのではないのか。
(三) 政府答弁書「一の(四)の9について」は、質問のような日米間の取決めはないことを認めている。これでは、日本側は対米武器技術供与した技術の行方を監視することができないのではないのか。つまり、対米供与した武器技術を米国が第三国へ出すことについて、事前協議でたとえノーといったとしても、監視することは不可能ではないのか。以上のことから、この問題では、すでにイエスの密約をしているのではないのか。

三 「日本科学技術協力協定」に関連して

(一) 政府答弁書「二の(一)について」は「サイド・レター」で国防指定を受け、この協定による協力活動から外された「情報及び機材の取り扱い」については、一概に論じられないと答えている。しかし、米国がそれを米国の武力の維持・発展に役立つものだから、武器技術供与のルートにのせて対米供与せよと要求する場合、唯一の国内法である「外為法」による輸出規制の枠外として対米供与しなければならないのが日本政府の立場である。「一概には論じられない」などという言い逃れは、米国に対して通用しないのではないのか。
(二) 政府答弁書「二の(二)について」は、グレイゾーン情報が何を指すのか分からないといっているが、既に八十八年十月中旬には、米国側が「グレイ・リテラチャー」と呼ぶ文献の提供を要求していることが報道されたし(八十八年十月十八日「朝日新聞」)、また八十九年一月の高級諮問協議会では米国側は「ジェネリック・テクノロジー」という分野の日本の研究を米国に対して開放することを要求し、日本側はそのねらいをつかみかねて困惑していることが報道されている(八十九年四月十七日「朝日新聞」)。以上のことを踏まえ、グレイゾーン情報に関する前の質問に対し、誠実に答えられたい。

四 「日米欧加常時有人宇宙基地協力協定」に関連して

(一) 米国がこの宇宙基地を軍事利用する権利を持つことを日本が承認した「交換書簡」を、単なる参考資料として国会に提出しているのは問題である。当然、審議採決案件として国会に提出すべきではないのか。
(二) 政府答弁「三の(二)について」によれば、日本の領土から離れたこの宇宙基地の利用については、日本政府は宇宙の平和利用に関する国会決議に拘束されないことになるのか。
(三) 政府答弁書「三の(三)及び(四)について」は「日本実験棟の利用が平和目的のためのものであるかないかは、我が国が決定する」という。しかし、千九百八十六年九月九日「SDI研究計画に関する内閣官房長官談話」は米国のSDI研究を「我が国の平和国家としての立場に合致するものと考える」といっている。そのような判断からすれば、米国が日本実験棟のうち米国が使用権を持つ部分をSDI研究に使いたいと申し入れて来た場合、拒否できないのではないのか。さらに、この宇宙基地でSDI日米共同研究をしようといわれても拒否できないのではないのか。

  右質問する。