質問主意書

第114回国会(常会)

質問主意書


質問第一〇号

京都府丹後半島における国営農地開発事業等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成元年五月一日

佐藤 昭夫   


       参議院議長 土屋 義彦 殿


   京都府丹後半島における国営農地開発事業等に関する質問主意書

 農地造成や水田の区画整理、農道の整備、灌漑・排水施設の建設など、農地の整備を進める国営農地開発事業は、農業生産の発展にとって重要な役割を持っている。
 京都府の最北部、日本海に面した丹後半島の一市六町(宮津市、峰山町、大宮町、網野町、丹後町、弥栄町、久美浜町)にまたがる丹後地域(東部・西部)の国営農地開発事業は、北海道を除く本州では最大規模のものであり、百七団地、二千百五十二ヘクタールの農地を造成、併せて二百十八ヘクタールの水田を区画整理し、総事業費はおよそ六百五十六億円(千九百八十九年度時点)で、千九百八十三年度から千九百九十五年度完了を目指して事業が進められている。
 しかし、事業着工から五年を経過して、丹後東部地区における農地造成の進捗率は、十一・三%にすぎず、千九百八十九年度の事業ベースで進むならばあと二十年以上もかかることになり、こうした中、最近、造成予定地に「リゾート開発」の名の下にゴルフ場開発計画が取り沙汰される事態となっている。
 政府は、農産物の輸入自由化を一層拡大するなかで、米、麦、大豆を始めとする主要な農産物の行政価格を次々と引き下げ、国営農地開発事業については、今年度より新規着工を中止するとの方針を明らかにした。こうした状況に対し、農民の不安は一層高まっている。
 政府は、今こそわが国の農業を守り、食糧の自給率を向上させるためにも、そして国民の食生活の安全を確保するためにも、コメを始めとする農産物輸入の自由化・枠拡大と農家経営を圧迫し地域農業を混乱させている減反の押し付けは直ちにやめるべきである。また政府は、国営農地開発事業においては、地域農民や関係自治体等の要望に基づいて、事業計画・内容の見直しを行うべきであり、十分な事業量を確保し、基幹的施設や排水路など公共的な部分に対する全面的な国・自治体による負担制度を導入するとともに、地元負担分への低利融資措置等を講じ、さらに、不要・不急部分については計画の中止なども行うべきである。
 そこで、以下、質問する。

一 政府は、今年度より国営農地開発事業の新規着工を取りやめ、農地再編パイロット事業を新たに始めることを明らかにした。
 今回の見直しは、政府がこれまで進めてきた強制転作や農産物の輸入自由化に伴って、国内農産物が過剰になり、営農の見通しが立たないことや、総需要抑制策による同事業の工期の大幅な遅れなどによってコスト高になり、農民負担が大幅に増加していることなどの結果であり、政府の責任は重大であると思うが、その点をどのように認識しているか明らかにされたい。
 また、今回の見直しにより、これまで事業を進めてきた国営農地開発事業は、事業計画等の変更を行うのか、行うとすればどのような方針で既存の事業を進めていくのか、明らかにされたい。

二 丹後地域(東部・西部)の国営農地開発事業について、以下の点につき、政府の見解を明らかにされたい。

(一) 丹後地域の国営農地開発事業について、千九百八十八年度までの進捗状況をみると、その進捗率は東部地区では十一・三%、西部地区では十六・三%で、今年度の事業費ベースで推移するならば、事業の完了までに東部地区では今後二十年以上、西部地区でも十四年以上を必要とし、その結果、工事終了後の償還額は当初計画を大幅に上回り、新たな農民負担を強いる結果となる。
 政府は、地域農民等の関係者や関係自治体の要望に基づいて、必要な事業費の確保を図るべきだが、どうか。
(二) 丹後地域の事業は、土地所有者と営農者が別々という問題を抱えていることから、地主側では十アール当たりの負担額が、当初計画の二倍近くにも達していることへの不安があり、一方、営農者側では畑作物への価格保障もなく、先行きに対する不安が高まっている。このことは、弥栄町のある団地造成に関して実施したアンケート調査結果が、「当初計画どおり実施する」とする地主が十%余り、「規模を縮小して実施する」者が二十八%余り、「開発には不賛成」の者が十五%であったことからも明らかとなっている。
 政府は、地主への事業者負担の軽減を図るとともに、具体的な営農計画を示し、営農に対する指導援助を強化すべきだが、どうか。
 また、入耕者がまだまとまっていない計画区域については、行政による計画の押し付けはやめ、地域農民等の関係者の合意の下に、計画の見直しとともに、入耕者の確保、育成に特別な対策を講ずべきだが、どうか。
(三) 昨年、国営農地開発事業による団地造成工事中に、三津団地(網野町)を始め、俵野(網野町)、新庄(久美浜町)などで土砂流失被害が起こっている。また、造成後においても、鳥取(弥栄町)などの地域で床下浸水などの被害が出ている。今後、団地造成に伴い久美浜町芦原地区その他の下流域でも水害が起こるのではないかと心配されている。
 そこで、団地造成に当たっては、工事中の土砂流失を防止するとともに、造成後における水害を防止するため河川の改修など万全の対策を講ずべきだが、どうか。
 また、団地造成に伴う防災対策は、「兵庫県豊岡測候所で観測した過去三十年間における最大雨量」を基準としているが、これを「現地の過去最大雨量」に改めるべきだと考えるが、どうか。
(四) 既に造成が完了した団地では、共通して排水不良が起こり、特に果樹栽培団地では大きな問題となっている。これは造成工事の際、暗渠排水工事を行わなかった結果である。
 政府は、造成工事の整備基準に暗渠排水工事を当初から加えるべきだと思うが、どうか。また、既に造成を完了した団地についても、暗渠排水工事を実施すべきだが、どうか。
 さらに、網野町俵野団地などは海岸線に極めて近接していることから、風害が強く懸念されている。その他の団地でも多くは山腹を切り開いた高台であり、防風林、防風垣をぜひ取り入れるべきだと考えるが、どうか。
(五) 一昨年六月以降、木子団地(宮津市)の造成においては、宇川支流に大量の土砂が流失した。このため、アユの発育不全と産卵場の破壊をもたらし遡上アユは激減した。
 政府はその責任上、地元漁業協同組合に対し、速やかに被害補償を行うべきだが、どうか。

三 農水省が昨年末に発表した食糧需給表によると、わが国の農産物の自給率はカロリーベースで四十九%と、ついに五割を割った。このことは、政府が昨年二月、農産物十品目のガット裁定に基づく自由化を一括して受け入れ、六月には牛肉・オレンジについて「三年後の完全自由化」を受け入れるなど農産物の輸入自由化・枠拡大を進めてきた結果である。さらに、アメリカ通商代表部は、四月二十八日、千九百八十八年包括通商法「スーパー三百一条」(不公正貿易国への対抗措置強化条項)発動のための基礎資料となる八十九年版「国別貿易障壁報告」を議会に提出したが、わが国についての部分ではコメを初めて独立した項目として扱うなど、アメリカはわが国にコメの市場開放を一層迫ろうとしている。
 政府は、アメリカの圧力に屈してコメの輸入自由化には、絶対に応じるべきではないと考えるが、どうか。また、農産物の輸入自由化・枠拡大をやめ、国内の食糧自給率を向上させるべきだが、どうか。

  右質問する。