質問主意書

第113回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二〇号

アイヌ民族の処遇に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十三年十二月二十日

猪熊 重二   


       参議院議長 土屋 義彦 殿


   アイヌ民族の処遇に関する質問主意書

 アイヌ民族の集団的居住地域である北海道日高支庁沙流郡平取町に建設予定の「沙流川総合開発事業に基づく二風谷ダム・平取ダム工事」に関し、事業主体である国に対し、その基本方針等につき以下のとおり質問する。

第一点 先住民族・少数民族に対する国の基本法制について

一 問題の所在

1 日本国憲法は、他の近代民主国家の憲法と異なり、「先住民族」「少数民族」に関し、何ら特別の規定を設けていない。
2 しかし、憲法上右に関する明文の規定が存在しない場合であつても、日本国憲法の下において、先住民族・少数民族は、

(1) 憲法第十四条が、「国民は、人種により政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」旨を規定している趣旨からすれば、当然に、政治的・経済的・社会的関係すなわち人間生活におけるすべての関係において、多数民族に比して実質的に何ら不利益を受けるべきものではないこと、
(2) 憲法第十三条が、「すべて国民は、個人として尊重される。幸福追求に対する国民の権利については、国政の上で、最大の尊重を必要とする」旨を規定している趣旨からすれば、当然に少数者としての地位にあるものとしての特殊性において、国政の上で最大限に尊重されるべきものであること、

は明らかというべきである。

3 また、日本国が批准した国際人権規約B規約第二十七条が、「少数民族に属する者は、その集団の他の構成員とともに、自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない」旨を規定している趣旨からすれば、少数民族は、多数民族と全く同質の少数者としての権利の確立が認められているというべきである。
4 右の憲法及び国際人権規約B規約の規定によれば、先住民族・少数民族は、少数者としての文化・宗教・言語・習俗その他人間生活のすべての側面において、多数者による多数決原理によつて奪うことのできない本然的・根源的権利、すなわち、先住民族・少数民族としての固有・独自の基本的天賦の人権を保有しているものと認められなければならない。

二 政府に対する質問

1 政府は、先住民族・少数民族が、国民の多数を占める多数民族による多数決原理によつても排除し得ないところの、固有・独自の文化・宗教・言語・習俗を保有する憲法上の権利を保有していることを承認するか。
2 政府は、先住民族・少数民族の右に記すような諸権利を実質的に保障するために、多数民族に比し、合理的理由がある限り、「有利」に処遇することが憲法上許容されると考えるか。

第二点 二風谷ダム・平取ダム建設国営事業について

一 問題の所在

1 国は、北海道沙流川流域の総合開発事業として、右の二つの多目的ダムの建設を予定し、現在、建設工事が進展している。
2 しかし、右沙流川流域は、徳川時代より何百年も以前から、アイヌ民族が自己の生存する場として支配してきた山岳・土地・河川である。
 日本国政府は、明治十年、一片の通達(北海道地券発行条例)により、右アイヌ民族の支配領域を、無主の土地と一方的に認定し、法規上日本国の国有地となしてしまつた。
3 しかし、右国有地宣言によつても、アイヌ民族は、民族として地上から消滅したわけではない。それ以降百何十年間にわたり、アイヌ民族は、先住民族・少数民族として、多数民族により迫害弾圧されつつも、民族としての文化・宗教・習俗・言語を保持しつつ現在に至つている。
4 従つて、二風谷ダム・平取ダムの建設に際しては、先住民族・少数民族としてのアイヌ民族の、文化・宗教・習俗に対する深甚の配慮がなされるべきものと考えられる。

二 政府に対する質問

1 政府は、二風谷ダム・平取ダムの建設を含む沙流川流域総合開発事業の「計画・決定・実施」の各段階において、先住民族・少数民族としてのアイヌ民族に対し、多数民族に対する一般的民意確認手続以上に、特別に配慮した手続を執つてきたか否か。

(1) もし、執つたとするならば、その具体的内容。
(2) もし、執らなかつたとするならば、執る必要性を認めなかつた合理的理由。

2 現時点において、右総合開発事業の今後の推進の適否ないし事業変更の当否につき、先住民族・少数民族としてのアイヌ民族の意見を聴取する必要性について、どのように考えるか。

(1) もし、必要性ありと判断するのであれば、今後執るべき具体的方策について。
(2) もし、必要性なしと判断するのであれば、その合理的理由。

  右質問する。