質問主意書

第113回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一五号

刑事施設法案、留置施設法案に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十三年十月十八日

千葉 景子   


       参議院議長 土屋 義彦 殿


   刑事施設法案、留置施設法案に関する質問主意書

 本年七月二十日から同二十二日にかけてジュネーブで開かれた国連人権専門委員会において、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下、「国際人権B規約」という。)の実施状況に関する第二回日本政府報告書が審議された。多くの委員から様々な分野の人権問題について多くの質問が出されたが、特に被拘禁者をめぐる同規約第七条、第九条等の質問においては深刻な懸念が表明されるに至つている。
 よつて、以下の点について質問する。

一 刑事施設法案、留置施設法案の立案に当たり、国際人権B規約と両法案の整合性について検討が行われたか。

二 一の検討の結果、国際人権B規約の要求を充足するため、両法案に盛り込まれた条項はあるか。あるとすれば具体的にどの部分か。

三 検討するに際して、国際人権B規約の解釈につき、いかなる資料を参照したか。あれば具体的に提示されたい。

四 留置施設法案及び刑事施設法案は、国際人権B規約第七条並びに第二条に違反するのではないか。以下の点について、政府の見解を示されたい。

1 国連人権専門委員会は、国際人権B規約に関する「一般的な性格を有する意見」No. 7(General Comments No. 7)で以下のように述べている。
 『委員会は第四条第一項に想定されている公の緊急事態においてさえ、本規定第七条が第四条第二項により効力を停止されないものであることを想起する。その目的は、個人の身体の完全性(integrity)と尊厳を保護することにある。委員会は本条の実施のためにはそのような取扱い若しくは刑罰を禁止したり又はそれを犯罪としたりすることでは十分でないことに留意する。たいていの国は、拷問又はその類似の慣行の場合に適用される刑法規定を有する。それにもかかわらず、そのような事件は発生するゆえ、規約第二条と結合されて読まれる第七条により、国は何らかの監視機関を通じて実効的な保護を確立しなければならないのである。虐待の苦情は権限ある機関により効果的に調査されなければならない。有罪と認定された人には責任が負わされなければならないし、申立てられた被害者自身、補償を得る権利を含む、自由に利用できる実効的な救済措置を有さなければならない。監視を実効的にならしめうる措置のうちには、接触を断つ拘禁(detention incommunicado)を禁止し、捜査を害することなく、医者、弁護士及び家族構成員のような者が被拘禁者に会う(access)ことを認める規定、被拘禁者が公的に認められた場所で拘禁されること及びその氏名と拘禁場所が親戚のような関係者に利用可能な中央の登録簿に記載されることを要求する規定、第七条に反する拷問その他の取扱いを通じて得られた自白又はその他の証拠を裁判で非許容とする規定、そして、法執行職員がそのような取扱いを適用しないような訓練や教育の措置、が含められる。』
 留置施設法案では、取調べ等に伴う処遇上の不服については、第三十七条の留置業務管理者に対する苦情の申出、第三十八条の警察本部長に対する苦情の申出があるにすぎず、虐待のあつた場合、『監視機関を通じての実効的な保護』は確保されていないのではないか。ちなみに、本年七月に行われた人権専門委員会の日本政府報告書審査において、日本の代用監獄においては、拷問等を効果的に防止する制度的かつ実効的保障が存在しないのではないかという懸念が複数の委員より表明されている。
2 ところで、この点に関しては、現在国連総会第六委員会で審議されている「あらゆる形態の拘禁・拘留下にある人々を保護するための準則」草案第三十二条では、審査機関ないし救済機関への申立てを認めるばかりではなく、これら機関で有効な救済が認められなかつた場合には、さらに裁判所等への救済申立てを権利として保障しているが、この点をどのように考えるか。
3 受刑者が懲罰として閉居罰を科された場合、一般的に面会・通信が禁止されるが、これは、上記「一般的な性格を有する意見」のうち『接触を断つ拘禁(detention incommunicado)』にあたるのではないか。
4 警察職員、刑務施設の職員の教育、訓練に当たつて、次に掲げる国連総会決議等の文書は、周知徹底するような措置を採つているか。採られているとするならば具体的に指摘されたい。

(1) 世界人権宣言
(2) 国際人権B規約
(3) 被拘禁者処遇最低基準規則
(4) 「刑務・矯正施設職員の選任及び研修」に関する決議
(5) 法執行官行動綱領
(6) 医学倫理原則
(7) 拷問等禁止宣言
(8) 少年司法運営に関する最低基準規則
(9) 拷問及びその他の残虐、非人道的または屈辱的な取扱いまたは刑罰の禁止条約

五 刑事施設法案第百一条、並びに留置施設法案第三十三条は、国語に通じない被拘禁者等又はその相手方との面会・通信にあたり、通訳・翻訳の費用を被拘禁者等に負担させることができるとしているが、これらの規定は、国際人権B規約第十七条により外国人被拘禁者等にも保障されている権利を侵害し、同規約第二条の無差別の権利保障原則に反するのではないか(人権専門委員会「一般的な性格を有する意見」No. 15、16参照)。

  右質問する。