質問主意書

第112回国会(常会)

質問主意書


質問第五号

農産物自由化問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十三年二月二十五日

村沢 牧   


       参議院議長 藤田 正明 殿


   農産物自由化問題に関する質問主意書

 農業は、人間の生存にとつて最も基礎的な物資である食糧を国民に安定的に供給する産業としての役割りの他に、農村地域における農林業の生産活動を継続することにより、緑豊かな自然環境の維持、洪水調整等の公益的機能をも担つており、さらに、自然とのふれあいの場として、国民生活にとつて必須のものである。
 しかるに、農業の現状をみると、最近の激しい円高によつて農業者の努力にもかかわらず、農産物の内外価格差は拡大し、他方、長期にわたるコメを始めとする主要な農産物の過剰、消費の伸び悩み、農産物価格の低迷等によつて大幅な生産調整を余儀なくされている。しかも、我が国の穀物自給率は、三十パーセント程度に過ぎず、先進工業国の中でも際だつて低い。
 このように農業の取り巻く情勢は極めて厳しい中にあつて、諸外国からする農産物の自由化に対する圧力は日々強まつている。これに対して、政府は、日本農業を守るため毅然たる態度を内外に明らかにすべきである。
 かかる見地に立つて、以下質問する。

一 ガット裁定品目の一括受諾について

 政府は、去る二月二日のガット理事会において、パネルによる裁定に対して、乳製品及びでん粉の二品目の代償交渉によつて解決するとしながらも、パインなど八品目の自由化を行うこととした。

1 昨年十二月のガット総会で、政府は十品目の自由化を求める対日勧告案を引き伸ばし実質的に拒否しながら、本年二月のガット理事会では、一転して乳製品及びでん粉を除く八品目についての自由化を受諾したが、いかなる理由で方針を変更したのか明らかにされたい。
2 ガット総会から二月の理事会までの間、米国をはじめ諸外国等に対して、我が国の主張への理解を得るため、いかなる働きかけを行つたのか明らかにされたい。
3 ガット総会の直後、一括受諾を示唆し、また竹下総理が一月に訪米した際に「きちんと対応する」と発言するなど政府の言動は、最初の拒否は国内農民の反対運動向けの単なるジェスチュアーにすぎなかつたのではないかと思わせるものがある。二月の理事会においては諸外国のなかからもパネルの判断に疑問が呈されるなど状況が変化していたにもかかわらず、政府は、何ゆえ毅然たる態度をとらなかつたのか、その理由を明らかにされたい。
4 政府は、先のガット理事会の席上で「乳製品とでん粉の自由化は極めて困難である」と表明したが、その場合の乳製品の範囲を明らかにされたい。
5 今回自由化を受け入れた品目の中に、ぶどう糖が入つているが、ぶどう糖はでん粉を加工するとつくれるため、現在でん粉需要量のうち約六割に相当する百四十七万トンが、ぶどう糖、水あめ、異性化糖に振り向けられているのが実態である。「ぶどう糖、乳糖等」を自由化すれば、いくらでん粉の数量制限を存続させても尻抜けになつてしまう。でん糖の輸入数量制限を守るためにも、「ぶどう糖、乳糖等」を自由化すべきではないと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
6 牛肉調製品には、生肉に近いものも含まれており、これが自由化されれば外食産業などを中心に国産牛肉と競合するおそれがある。牛肉調整品と牛肉そのものの区別は何を基準とするのか。牛肉調整品についても自由化を行うべきではないと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

二 ガット不公平裁定の是正について

 今回のガットの裁定は、これまで輸入数量制限の一般的禁止の例外と考えられていた国家貿易品目についても、これを認めず、農漁産品の定義においても、トマト加工品のように過去のガットの判断と正反対の判断をするなど、これまでのガット上の慣習を無視した不当かつ矛盾したものである。もし、この裁定が判例化されれば、牛肉・オレンジ交渉等今後の農産物交渉に及ぼす影響が極めて大きいものがある。

1 政府は、今回のパネル裁定に対しいかなる見解を持ち、また今後いかなる対応をする方針なのか。
2 米国は、ウェーバーにより十四品目もの農産物の輸入制限を行つており、このなかには日本に自由化を求めているものが四品目も入つている。またECも課徴金制度により実質上農産物の輸入制限を行うなど、各国とも自国の農業を保護するためにガット上の例外措置によつて認められた輸入制限品目が存在する。こうしたなかで世界最大の農産物純輸入国である我が国だけに自由化を迫る米国の態度は身勝手極まりないものである。政府は、このような米国の態度にどのような認識を持つているのか、また、今後いかなる対応をする方針なのか明らかにされたい。

三 国内対策について

 政府がガット勧告を受け入れた八品目の多くは、地域特産物であつて、当該地域農業においては不可欠な作目であり、地域経済に占めるウェイトも大きい。またパインのようにわずかばかりの平地を米軍基地に接収され、その上、酸性土壌のために他の作物に転換することが、不可能な特殊性を持つたものがある。
 こうした事情にかんがみて、政府は自由化にあたつては、これら自由化八品目の存続を可能とするため十分な国内対策を講ずる必要があると考える。

1 乳製品及びでん粉については、今後とも自由化の対象としない方針を堅持すべきであると考えるが、政府の決意はどうか。
2 自由化をした場合の八品目の個別の影響をどのように予測しているのか、また、その対策をどう講じていくのか。
3 激変緩和措置として、関税の引上げ、関税割当制度、輸入課徴金制度等の国境措置が考えられるが、政府は、今回の自由化に基づいて、どのような国境措置を講ずるつもりなのか。
4 転作奨励金などの補助金の増額、内外価格差を補てんするための不足払制度の導入、基盤整備や機械化による生産性向上対策などの生産者対策には多額の予算が必要となるが、来年度予算には自由化対策のための予算措置が講じられていない。今後いかなる財政措置を講じるつもりなのか。
5 今回の自由化で八品目は大きな影響を受けるが、畑作農業について、その生産を強化するための対策と他作物への転換方針を明らかにされたい。
6 これらの国内対策を講じ、それが一定の成果を上げた後でなければ、自由化すべきではないと考えるが、自由化するとすれば何年後にどのような形で行うつもりなのか。

四 国会決議と政府の対応について

 政府は国権の最高機関である国会の決議を尊重すべきであるのに、農産物市場開放問題について、国会決議を軽視しているのは許せない。

1 そこで政府は、国会決議というものをどのように理解しているのか基本的な認識を明らかにされたい。
2 政府は、今回のガット裁定受諾と食糧自給力強化に関する決議(第九十一回国会参議院本会議 昭和五十五年四月二十三日)、農畜水産物の輸入自由化反対に関する決議(第九十六回国会参議院農林水産委員会 昭和五十七年五月十三日)、農林水産物の市場開放問題に関する決議(第百二回国会参議院農林水産委員会 昭和六十年五月三十日)、農畜産物十二品目の市場開放問題に関する決議(第百十一回国会参議院農林水産委員会 昭和六十二年十二月九日)等の国会決議をどのように理解して対処してきたのか明らかにされたい。
3 今後、農畜産物交渉において、国会決議の趣旨をどのような形で反映させるつもりなのか政府の決意を明らかにされたい。

五 牛肉・オレンジ交渉について

1 近年、我が国の農産物生産がいずれも過剰基調で推移するなか、牛肉については、ここ二十年来、おおむね国内生産量を上回る消費志向を示しており、我が国農業生産の重要な柱として位置づけられている。また、我が国肉用牛生産は、酪農と並んで、国民の食生活向上のために不可欠なものであり、今後における農業発展の中核として、地力の増強、農山村の振興等に重要な役割りを果たすことが期待されている。このため、牛肉生産振興に向けて各種施策の充実が進められているところである。
 一方、輸入についても、昭和五十九年の日米交渉の結果及びその後の経過を踏まえ、毎年六千九百トンの輸入枠拡大、さらにその前倒しを行い、可能な限りの努力を行つているところである。また、国内における流通改善対策も着実に行われており、対外的にも評価されて然るべきものだと思われる。
 このような情勢の中で、国内の牛肉生産体制をより強化し、国民に対する安定的な供給体制を確立するためには、今後とも、国内需要のうち国内生産で不足する分を輸入割当制度の下で計画的に輸入していくとの方針を堅持し、大幅な輸入枠拡大・輸入自由化要求には、絶対に応ずるべきではないと思われる。この点についての政府の見解を明らかにされたい。
2 また、今後の日米交渉に当たつては、我が国が昭和六十一年の時点で牛肉を国家貿易品目としてガットに通告している点及び米国の食肉輸入法が牛肉の輸入規制を予定しており、米国は少なくともこれをてこにして、自主規制を相手国に求めるといつた形での実質的な輸入規制を行つている点が論議されて然るべきと思われるが、この点についての政府の見解を明らかにされたい。
3 昭和五十九年の日米交渉の結果、オレンジ輸入枠は毎年一万一千トンずつ、オレンジジュース輸入枠は毎年五百トンずつそれぞれ増加されることとなり、また、グレープフルーツジュースは、昭和六十一年四月に自由化されるに至つている。その後、これら果実・果汁の輸入は、円高の影響もあつて増加を続け、国内のかんきつ・果汁消費量の減少傾向とともに、オレンジ等と競合関係にある我が国のかんきつ類価格の低迷に、影響を与えるところとなつている。
 一方、国内生産の状況に目を転じれば、政府の施策により昭和五十四年以降、みかん作の晩かん類等への転換政策が実施され、生産農家はこの対応に苦慮しているところであり、四年前の日米合意は、これら農家にさらに大きな犠牲を強いる結果となつている。この点、政府の責任は重大である。
 今後、これ以上の市場開放が行われたならば、現在、生産過剰対策として果汁向け転用が行われているうんしゆうみかんと輸入オレンジが真正面から競合することとなるが、一般に、かんきつ類は、その作物としての特性から他作物への急激な転換が困難であり、そもそも経営規模の小さいこれら生産農家とこれを基幹作物としている地域の経済に、壊滅的な打撃を与えることとなろう。さらに、オレンジ生果の輸入拡大は、生食用のみかんと競合するばかりでなく、ぶどう、リンゴ、なし、いちご、すいかなど、いわゆるデザート・おやつになりそうなすべての果実と競合し、その生産者に大きな影響を及ぼすことは必至である。
 したがつて、昭和六十三年度以降においても、オレンジ輸入自由化は絶対認められないことと思うが、政府の見解を明らかにされたい。

六 オレンジ輸入と果樹農業振興特別措置法について

 果樹農業振興特別措置法第五条は、外国産の果実または果実製品の輸入によつて、国内産の特定果実等の生産等に重大な支障を与えまたは与える恐れがある場合において、所要の措置では、その事態を克服することが困難であると認められる時は、当該外国産の果実等の輸入に関し必要な措置等を講ずるものとする旨定めたものであり、国会において、与野党一致で挿入されたものである。
 ところで、先に述べたみかん生産の現状を考えると、まさに今、本条による措置発動が必要な事態に至つていると言えよう。そこで、政府は、果樹農業振興特別措置法第五条によつて政府に課された義務をどのように果たしていこうとしているのか、明らかにされたい。また、併せて、現行法制上、オレンジの自由化を政府が行うことは困難と思うが、この点について確認したい。

七 コメの輸入について

1 コメは、消費が伸び悩みの状況にあるものの、依然として国民の主食であり、我が国農業の基幹作物となつている。また、最近公表された総理府の世論調査によれば、国民の約七割がコメなどの基本食料を自給することに賛成しているとの結果になつている。
 近年、我が国においては、生産性の向上による単収の増加、四年連続の豊作等により、需給が大幅に緩和しており、本年度より、水田農業確立対策として、新たに七十七万ヘクタールの転作が実施されているところである。本年も、農業者、関係団体等の努力により、転作目標面積を超えた実績になると伝えられるものの、昨年の生産者米価引下げとあいまつて、農家にとつてはもはや限界に近い負担を強いられる状況に至つている。そのような中、一昨年の全米精米業者協会の提訴をきつかけに、米国は我が国に対しコメの市場開放を迫つており、新ラウンドでの話し合いによるほか、二国間協議を要求するなどの行動に及んでいる。
 しかし、我が国のコメは、ガットにおいて国家貿易品目として認められ、条約上のルールに則つて輸入制限が行われているところであり、そもそも、我が国農業者ひいては国民全体が被る打撃を考えれば、輸入自由化など到底考えられないはずである。
 したがつて、我が国は、コメの輸入自由化を絶対に行わないとの方針を堅持すべきものと思われるが、政府の見解を明らかにされたい。
2 ところで、このコメ輸入自由化問題に関連して、昭和五十九年七月二十日の参議院本会議において、「米の需給安定に関する決議」が行われており、その決議によれば、「国内生産による完全自給の方針を堅持すること」とされている。そして、ここに言う「完全自給」とは、現在行つている加工用米の輸入を除いては、将来にわたつておよそコメと名のつくものは、一切輸入しない、また、このような事態に至らないよう国内外の政策を展開すべしという趣旨であるが、この国会の意志に対する政府の方針と決意はいかなるものであるか明らかにされたい。

八 輸入食品の安全性について

 グルメブームや円高の影響、また農産物の輸入自由化の強行により、今後も輸入食品の増加が予想される。しかし、これら輸入食品の安全性については、先に全国農業協同組合中央会が発表した「収穫後に使用される農薬ポストハーベストに関する研究」や昨年のオーストラリア産牛肉の残留農薬問題でも明らかなように、外国においては、農薬の残留基準値や使用方法に問題のあるものも多く、健康面での影響が懸念される。

1 現在輸入食品の安全性については、厚生省がチェックしているが、その陣容や予算は、業務量の増大に比べて貧弱である。また、アクション・プログラム等の実施によつて、輸入手続きや検査が簡略化されてしまつているが、このような体制で、国民の生命と健康が守られるのか、政府の見解を明らかにされたい。
2 外国での農薬の使用状況及び輸送中や保管中に防腐剤や病虫害防止用として使用されている農薬等の使用状況を、政府は、どのように把握しているのか。
3 現在、ポストハーベスト使用について、どのような形で規制しているのか、また、農薬取締法においてポストハーベストをどのように位置づけているのか。
4 輸入食品については、安全性において問題があるものが存在することからも、多くを頼ることは、国民の生命と健康を守る面からも問題があると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。