質問主意書

第109回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一四号

沖縄駐留米海兵隊の撤去要求等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十二年九月十八日

喜屋武 眞榮   


       参議院議長 藤田 正明 殿


   沖縄駐留米海兵隊の撤去要求等に関する質問主意書

 沖縄の米軍基地が質量ともに、つまり基地機能の点でも、基地件数と面積の点でも、他に例のないほど強大かつ過密なものであることは、私が機会あるたびに申しあげてきたところである。なかでも、沖縄の米海兵隊基地は、アメリカ合衆国東部、大西洋岸のノースカロライナ州、キャンプ・レジューンとアメリカ合衆国西部、太平洋岸のカリフォルニア州、キャンプ・ベンドルトンの二ケ所と沖縄にしかない大規模基地の一つであり、アメリカ合衆国からみれば、海外に唯一の大規模な基地である。
 周知のとおり、米海兵隊は実戦即応部隊である。この実戦即応部隊が沖縄に駐留していることによつて、沖縄県民との間に様々なあつれきを引き起こしている事実は枚挙にいとまがない。

一 そのことは、統計的な事実が何よりも雄弁に物語つているものと思料する。従つて、以下の諸点について質問する。

1 在日米軍の兵員数を陸軍、海軍、空軍、海兵隊に分けて最新の資料に基づいて示されたい。そのうち、沖縄駐留の米軍については、別に示されたい。
2 沖縄駐留の米軍が使用している施設・区域の件数及び面積を陸軍、海軍、空軍、海兵隊に分けて示されたい。なお、それぞれが全体に占める比率も併せて示されたい。
3 沖縄駐留の米軍によつて起こされた演習事故の件数と犯罪の件数を陸軍、海軍、空軍、海兵隊に分けて、復帰後の数字を年次別に示されたい。なお、それぞれが全体に占める比率も併せて示されたい。

二 おそらく、右に示された数字は、海兵隊にとつては余り芳しくない結果となるのではなかろうかと思う。今年に入つてからでも、沖縄県民と米海兵隊のあつれきは少なくない。ハリアー・パッド建設問題、ヘリ・パッド建設問題、前例のない三日間連続の県道一〇四号線越えの砲撃演習等々である。沖縄県民の立場からすれば、沖縄駐留の米海兵隊は、決して好ましい存在ではなく、沖縄県民に平和と安全ではなく、不安と危険をもたらしている存在である。
 そこで、私は、沖縄駐留の米海兵隊は撤収又は大幅に縮小されるべきであると考え、以下の質問をする。

1 周知のとおり、いわゆる米海兵隊は、海兵隊空地任務部隊、MAGTF(Marine Air Ground Task Force)と呼ばれ、その規模によつて、MAU(Marine Amphibious Unit)、MAB(Marine Amphibious Brigade)、MAF(Marine Amphibious Force)に分類され、MAUは大隊戦闘団とも呼ぶべき兵員数千五百人ないし二千五百人の小規模の部隊であり、MABは、海兵水陸両用戦旅団とも呼ぶべき兵員数一万五千人の中規模の部隊であり、MAFは、海兵水陸両用戦軍とも呼ぶべき兵員数四万八千人の大規模な部隊であつて、この各部隊は、それぞれ十五日間、三十日間、六十日間の継戦能力を持つとされている。
 ところで、政府は、沖縄駐留の米海兵隊が、上記のMAF規模のものであつて、米国以外の海外には沖縄にしか駐留していないという事実を承知しているのか、明確に答弁されたい。
2 私は、米海兵隊が沖縄にこのように大規模に駐留しているのは、歴史的な背景があつてのことであるが、今や、このような大規模駐留の必要性も合理性もなくなつたものと考える。まず、その歴史的背景とは、去る大戦末期の米軍による沖縄占領、サンフランシスコ条約に基づく米国の軍政、朝鮮戦争、ベトナム戦争等との係わりである。
 ところで、朝鮮戦争、ベトナム戦争とも深く係わつた沖縄基地の米海兵隊であるが、これらの戦争も、今や遠い過去のものとなつており、日本及び極東に大規模な米海兵隊基地が存在しなければならない理由はなくなつたものと考えるが、この点に関する政府の見解はどうか。
3 また、米国は沖縄を軍事占領した後、サンフランシスコ条約によつて、沖縄に対する施政権を行使する権利を与えられるや前後二十七年間に及ぶ軍政を敷いて、沖縄を事実上、米国の準領土的な感覚で統治してきた。そのことが、海外唯一の海兵隊基地を沖縄に設置せしめた理由の一つであると考えられる。しかし、沖縄が日本に復帰して十五年後の今日では、いわゆる嘉手納ラプコンと呼ばれる沖縄での米軍の航空管制権と共に「米軍統治時代の遺物」となつたものと理解されるが、この点に関して政府の見解はどうか。
4 もちろん、米国は、その戦略的理由によつて、沖縄に大規模な海兵隊基地を常設する必要性があるものと主張するであろうが、日本政府は自らの判断によつて、その必要性の有無を検討すべきことは論をまたない。
 私見では、沖縄駐留の米海兵隊は毎年、韓国軍との共同軍事演習(チームスピリット)を大規模に繰り広げているが、それは朝鮮半島及び日本を含む極東に、殊更に軍事的な緊張をもたらし、むしろ「日本及び極東の平和と安全」にとつては、マイナスの作用をしているものと考える。この点に関して、政府の見解はどうか。
5 昨年六月二十五日付の朝日新聞の報道によれば、ケリー米海兵隊司令官は、同年二月二十六日の米下院歳出委員会国防小委員会の秘密聴聞会で、沖縄駐留の米海兵隊が「韓国駐留の米軍を除けば、西太平洋での有事の際に緊急対処できる唯一の地上部隊である」と述べて、沖縄の米海兵隊基地存続の重要性を強調している。しかし、これは、沖縄に海外唯一のMAF規模の海兵隊を常駐させる根拠にはならない。現に、米国は、地中海の第六艦隊には一個MAU、大西洋とカリブ海には、それぞれ一個MAUが間欠的に、そして、西太平洋には一個MAUが常時展開、インド洋には一個MAUが定期的に派遣されるという程度の部隊配備をしているのであつて、何も沖縄にだけ、一個MAF規模の海兵隊を常置させなければならないという根拠はないと言わざるを得ない。この点に関して、政府の見解はどうか。
6 また、ケリー米海兵隊司令官は、沖縄駐留の海兵隊を動かせない要因として、(1)米本土などに移せば膨大な施設費などが必要、(2)日本政府が部隊の駐留費用として拠出している年間一億九千万ドル(約三百二十億円)を失うという経済的理由を挙げている。
 これは、沖縄県民が米海兵隊の駐留によつて、絶えず生命、財産、人権の侵害と自然破壊の危険にさらされている現状を考えるとき、大きな説得力を持つ論拠とは言い難い。この点について、政府の見解はどうか。

三 私は、前述のような諸々の理由によつて、沖縄駐留の米海兵隊は、日本及び極東の平和と安全にとつて不可欠なものではなく、速やかに撤去されるべきものであると考える。よつて、この点に関する政府の見解を示されたい。

四 即時に全部隊の撤去が困難であるとしても、その規模を段階的に縮小し、MAFからMABへ、MABからMAUにと漸減させることは可能であると考える。漸減した部隊はハワイあたりの米国領へ移駐させればよい。そもそも、ハワイの第一海兵旅団が、沖縄の第三海兵両用戦部隊の麾下にあること自体本末転倒であつて、むしろ現在と逆の関係に持つて行くべきである。政府は、沖縄駐留の米海兵隊の規模の縮小を要求する考えはあるのか、その見解を示されたい。
 以上の質問に対しては、各項目に添つて順次誠意ある答弁をされたい。

  右質問する。