質問主意書

第108回国会(常会)

答弁書


答弁書第一八号

内閣参質一〇八第一八号

  昭和六十二年六月九日

内閣総理大臣臨時代理             
国務大臣 金丸 信   


       参議院議長 藤田 正明 殿

参議院議員木本平八郎君提出税制改革に関する再質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員木本平八郎君提出税制改革に関する再質問に対する答弁書

一について

 いかなる税も究極的には個人に帰着するものとされており、法人税についても、株式の配当、製品価格等を通じて、時間的な長短はあるにせよ、最終的には、株主あるいは消費者といつた個人の負担に帰着するところである。
 税制改革が家計の負担に与える影響については、個々の家計の収入・支出の態様等により異なるところであるが、法人減税を含む政府の税制改革案が全体として平年度において家計の負担に与える影響について一定の仮定の下に試算した結果は、衆議院予算委員会及び参議院予算委員会提出資料(「税制改革の家計の負担に与える影響に関する仮定試算」)として両委員会に提出されているところである。

二について

 政府の税制改革案では、税負担についての給与所得者の重圧感、不公平感に対処するため、中堅の給与所得者層の税負担の軽減を主眼に、個人所得課税について思い切つた軽減・合理化を行うこととし、所得税の税率構造の累進緩和を行い、所得税について十五万円、個人住民税について十二万円の配偶者特別控除を創設するほか、給与所得者の特定支出控除の特例を創設し、みなし法人課税を選択した場合の事業主報酬の額について実質的な限度額を設ける等の措置を講ずることとしたところである。

三について

 政府の税制改革案において創設することとした特定支出控除の特例は、給与所得者が通常その勤務することに伴つて支出を余儀なくされる支出項目のうちその額が相当程度となり、その負担が担税力に相当程度影響を及ぼすと認められる単身赴任者の往復旅費等の特定支出について、そのような支出による給与所得者の負担をしん酌するという趣旨から、このような負担をしん酌する基準として給与所得控除の全額を採用し、その額が給与所得控除額を超える場合には、申告により、その超える部分を控除することができることとしたものである。
 したがつて、この特例は、給与所得控除に上乗せして支出額の全額を控除するといつた性格のものではない。

四について

 単身赴任手当は、生活上の掛り増し支出等を考慮して支給されるいわゆる生活給そのものであり、他方、出張旅費は雇用主の事業遂行上本来雇用主が負担すべき費用を実費弁償として支給しているものである。したがつて、その名称及び支給形態にかかわらず、単身赴任手当について税制上出張旅費と同様に取り扱うべき理由はないと考える。
 なお、政府の税制改革案においては、単身赴任者の留守宅への帰宅のための旅費等の支出を余儀なくされている給与所得者の負担をしん酌する趣旨から特定支出控除の特例制度を創設することとしたところである。

五について

 売上税のような消費一般を原則的に課税対象とする税においては、消費を基準として税負担をみれば比例的なものとなる。したがつて、所得減税の対象とならない低所得者等についても、消費に応じた新たな税負担が生じることは避けられないところである。
 しかし、社会保障が格段に充実し、所得の平準化が進んできている現在、税制に期待されている所得再分配の役割も変化してきており、消費に対して比例的な税制を導入することにより、所得・消費等の間でバランスのとれた望ましい税制を構築し、国民がより幅広く薄く公平に税負担を分かち合うことにより社会共通の費用を賄つていくことが必要であると考えている。
 なお、年金等については、これまでも物価上昇等に応じ、その額の改善を図つてきているところであり、また、雇用保険失業給付については、受給資格者の前職賃金に対応して低額の層ほど高率となるよう配慮された所定の額が支給される等一定の生活を推持するに必要な水準を確保しているものと考えており、今後とも適切に対処してまいりたい。

六について

 政府の税制改革案では、現行の非課税貯蓄制度について、多額の利子が課税ベースから外れて所得種類間の税負担の不公平をもたらしているほか、高額所得者ほどより多くその恩典を受けているという現状にあること等に顧み、少額貯蓄非課税制度及び郵便貯金非課税制度を老人等所得の稼得能力の減退した者に対する利子非課税制度に改組した上、それ以外の利子所得については一定の税率による源泉徴収により他の所得と分離して課税することとしたものであり、これにより実質的な公平が図られるものと考える。
 なお、一般的に非課税貯蓄制度について徹底した限度額管理を行うことは、利子所得の所得者及び発生源がおびただしい数にのぼるといつた事情から、金融機関、税務当局、さらには貯蓄者に対して著しく過大な事務負担を強いることとなるので、政府の税制改革案では、簡素で効率的であり、かつ、金融商品相互間で中立的な課税方式として一律の源泉分離課税に踏み切ることとしたものである。

七について

 御指摘の「預貯金等の元本の継続的な管理が必要」という記述は、政府の税制改革案による少額貯蓄非課税制度及び郵便貯金非課税制度の適用対象者に所得制限を付さないこととした理由を説明したものである。また、その意味するところは、年々変動する所得を非課税貯蓄制度の適用要件とすることは、継続的な非課税限度額の管理を必要とする同制度になじみ難く、効率的かつ適正な限度額管理及びその円滑な実施を困難ならしめることになるということである。
 年齢六十五歳以上の者について政府の税制改革案による少額貯蓄非課税制度及び郵便貯金非課税制度の適用対象者としたのは、老年者控除等老人に係る税制上の措置の適用対象年齢及び老人福祉法による福祉の措置、老齢基礎年金等国の老人福祉に係る諸制度の適用対象年齢等を勘案したものである。
 また、給与所得者の定年退職とか再就職といつた人によつて異なる事情に配意してこれらの非課税貯蓄制度の適用対象者の年齢基準を定めることは困難である。

八について

 現行の非課税貯蓄制度における非課税貯蓄申告書等への生年月日の記載、一定の公的書類による本人確認等の制度は、昭和六十年度の税制改正において、本人確認の厳正化、名寄せの効率化等による非課税貯蓄制度の濫用防止に資するために講じられたものである。
 このような非課税貯蓄制度における本人確認の厳正化等の措置は、昭和六十一年一月一日前に提出された非課税貯蓄申告書に基づき同日以後最初に預入が行われる際にも適用され、いわゆる既往分の貯蓄についても新たな預入があれば本人確認を行うこととされている。
 なお、既往分の貯蓄について、新たな預入の有無にかかわらず一定の時期にあるいはその利子等の支払の際に、本人確認義務を課すことについては、非課税貯蓄制度において元本の継続的な限度額管理を行うには預入時に本人確認を行うことが最も合理的と考えられること及び貯蓄者、金融機関の事務負担等を考慮すれば困難と考える。
 政府の税制改革案では、六についてにおいて述べた理由から、非課税貯蓄制度について、老人等所得の稼得能力の減退した者に対する利子非課税制度に改組した上、それ以外の利子所得については一律の源泉分離課税に踏み切ることとしたものである。