質問主意書

第108回国会(常会)

答弁書


答弁書第一号

内閣参質一〇八第一号

  昭和六十二年一月二十日

内閣総理大臣 中曽根 康弘   


       参議院議長 藤田 正明 殿

参議院議員黒柳明君提出税制改革に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員黒柳明君提出税制改革に関する質問に対する答弁書

一について

 今回の税制改革は、中堅所得者層の負担軽減を中心とした個人所得課税の軽減・合理化、法人課税の見直し、間接税制度の改革及び非課税貯蓄制度の見直しを大きな柱としつつ、税制全般にわたる見直しを行つたものである。
 この改革は、「公平」、「公正」、「簡素」、「選択」並びに「活力」の基本理念に立脚しつつ望ましい税制の確立を図るものであり、「公平の原則」は貫かれている。

二について

 今回の税制改革は、我が国における所得分布の平準化、消費態様の多様化といつた状況に対応して、特定の人たちや特定の分野に偏つた税負担を求める現行税制を改めることにより課税ベースの拡大を図るとともに、薄く公平に税負担を求めるために行おうとするものである。
 なお、我が国の所得税と個人住民税とを合わせた最高税率は、引下げ後でも、先進諸国の中で最も高い水準にあり、我が国の所得税は、国際的にみても下に軽く上に重いものとなつている。
 また、利子所得については、現行の非課税貯蓄制度について高額所得者ほどより多くその恩典を受けているという現状にあることからみて、一定の税率により他の所得と分離して課税することにより、高額所得者に対して相当の税負担を求めることになる。
 以上のことから、今回の税制改革がいわゆる金持ち優遇となり、税制の所得再分配機能をゆがめるものであるとは考えていない。

三について

 今回の税制改革については、政府としては、「昭和六十二年度税制改正の要綱」(昭和六十二年一月十六日閣議決定)において、各項目ごとの実施年度を明らかにするとともに、初年度のほか平年度の増減収額を明らかにしているところである。

四について

 税制改革が家計の負担に与える影響については、就職、結婚から退職までの生涯の各段階ごとの収入や支出の態様に応じて家計のゆとりが変化するという点に着目して税負担の変化を考えることが重要である。
 このような観点から検討すると、今回の税制改革により、働き盛りで収入が比較的高いものの教育、住宅等の支出がかさみ、あまりゆとりのない中堅層を中心に負担が軽減されるものと考える。
 また、いかなる税も究極的には個人に帰着するものとされており、税制改革の家計負担への影響を考えるに当たつては、法人減税の影響も考慮に入れる必要がある。
 なお、我が国における法人の実態をみると、個人形態の企業と実質的に変わらない中小法人が大半を占めていることが一つの特色となつている。

五について

 今回の税制改革全体としてみると、個人所得課税の累進緩和や法人課税の実効税率の引下げ等は、勤労意欲、事業意欲等に好ましい影響を与え、経済の活力を高めるものと考える。
 なお、昭和六十二年度税制改正においては、個人所得減税及び法人課税の税率引下げは年度当初から行われ、一方、売上税の導入や利子課税の見直しは年度後半において実施されることとなつている。この場合、所得税等の軽減額の半分程度に相当するものは、資産に関連する課税の一層の適正化等の見地から土地取引に係る登録免許税を引き上げ、有価証券取引税を見直すこと等により対処することとしている。

六について

 今回の税制改革に当たつては、真に手をさしのべるべき人々に対しては所要の配慮を払うこととしている。例えば、老年者控除を二倍に引き上げるとともに、利子課税の見直しにおいては、老人、母子家庭、障害者等に対し現行の少額貯蓄非課税制度及び郵便貯金非課税制度を維持することとし、売上税においては、飲食料品、社会保険診療、学校教育、住宅等国民生活に密接に関連する分野を非課税とするなど、適切な措置を講ずることとしている。

七について

 今回の税制改革における所得税の最高税率の引下げは、その水準が高すぎる場合には勤労意欲や事業意欲等に好ましくない影響を与えることが懸念されるため、社会の活力を維持増大する等の見地から実施するものである。なお、引下げ後でも、我が国の所得税と個人住民税とを合わせた最高税率は先進諸国の中で最も高い水準にある。
 他方、この改革では、高額資産家ほどより多く恩典を受けている現行の非課税貯蓄制度を改めて高額資産家に相当の負担を求めるほか、有価証券譲渡益課税について、その課税対象を大幅に拡大することとしている。
 また、利子所得について一定の税率による源泉徴収により他の所得と分離して課税する方式は、利子所得の発生の大量性、その元本である金融商品の多様性、浮動性といつた特異性に適合した課税方式であり、かつ、簡素、中立、効率といつた要請にも応える適切な課税方式であると考える。

八について

 給与所得者について、特定支出の額が給与所得控除額を超える場合には、申告により、その超える部分を控除することができることとし、申告納税の途をひらくことは、公平感の維持、納税意識の形成の上で意義のあることと考える。

九について

 今回の税制改革では、税負担についての給与所得者の不公平感に対処するため、所得税について十五万円、個人住民税について十二万円の配偶者特別控除を創設するほか、みなし法人課税を選択した場合の事業主報酬の額について制限を設ける等の措置を講ずることとしている。

十について

 今回の税制改革では、現行の非課税貯蓄制度について、多額の利子が課税ベースから外れて所得種類間の税負担の不公平をもたらしているほか、高額所得者ほどより多くその恩典を受けているという現状にあること等に顧み、少額貯蓄非課税制度及び郵便貯金非課税制度を老人等所得の稼得能力の減退した者に対する利子非課税制度に改組した上、それ以外の利子所得については一定の税率による源泉徴収により他の所得と分離して課税することとしたものであり、これにより実質的な公平が図られるものと考える。

十一について

 今回の税制改革においては、利子課税との権衡等を考慮し、有価証券譲渡益課税について、その課税対象を大幅に拡大することとし、「継続的取引」の基準となる売買回数を引き下げる等の措置を講ずることとしている。

十二について

 今回の税制改革においては、個人の事業用資産の買換え等の特例について縮減を行うほか、時限的に、所有期間が五年を超える土地等の譲渡をした場合の譲渡所得を長期譲渡所得とするとともに、所有期間が二年以下である土地等の譲渡をした場合の事業所得等について更に重い税負担を求めることとしているが、これらの土地税制の改正は、全体として、この改革における資産性所得に対する課税の一層の適正化の見地から行うこととしているものである。

十三について

 今回の税制改革では、法人税率を引き下げる一方で、賞与引当金の廃止、受取配当益金不算入制度の見直しを行い、また、中小企業等海外市場開拓準備金等についても積立率の引下げを行い法人税の課税ベースの拡大に努めているところである。
 なお、貸倒引当金や退職給与引当金については、今後とも実態に即した見直しを行つていく所存である。

十四について

 今般創設することとした売上税は、免税点が一億円であり全事業者の約九割が納税義務を免除されることや、飲食料品、社会保険診療、学校教育、住宅、一般の旅客輸送等国民生活に密接に関連する分野が多く非課税とされていることなどかなりの限定性を持つ制度となつており、御指摘は当たらないと考えている。

十五について

 売上税の税率は法定することとしており、これを改正するためには国会の議決が必要であつて、将来税率の引上げが容易に行われるとの御指摘は当たらないと考える。
 なお、ヨーロッパにおける付加価値税の税率の引上げは、そのほとんどが所得税減税等との組合せで行われていると承知している。

十六について

 課税売上高一億円以下の事業者については原則としてその売上げに課税しないが、他面、税額票の発行が認められないこととなる。しかし、事業者の選択により、課税事業者となつて税額票を発行することができることも認めることとしているので、各事業者は取引上有利な方を選択することが可能であると考える。
 また、一物二価が生じかねないとの御指摘については、財貨・サービスの価格の決定は、各事業者ごとに当該財貨等の需給関係等種々の要因を勘案し行われるものであると考える。

十七について

 売上税の導入に当たつては、納税者の事務負担を最小限のものとする観点から、制度の仕組みを極力簡素で我が国の取引慣行になじむものにするとともに、指導、広報を十分に行うこと等により制度の円滑な定着に努めることとしている。
 また、その執行に当たつては、既存の個別消費税の廃止等による要員の活用、事務の合理化、省力化等を図ることによつて極力増員数を圧縮し、簡素かつ効率的な体制で臨むこととしている。

十八について

 税制改革関係の法律案については、現在、作業中であり、成案が得られ次第国会に提出する予定である。
 なお、今回の税制改革については、所得課税の負担軽減、合理化とその財源措置の観点をも含めて、所得、消費、資産等の間で適切な均衡がとれた税体系を構築することを目的とするものであり、したがつて、包括的で整合性のある改革案を一体として構築することが何よりも肝要であると考えている。いずれにせよ、法案の具体的取扱いについては、現在検討を行つているところである。