質問主意書

第108回国会(常会)

質問主意書


質問第一五号

日本がさらされている軍事脅威に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十二年四月二日

木本 平八郎   


       参議院議長 藤田 正明 殿


   日本がさらされている軍事脅威に関する再質問主意書

 昭和六十二年三月十七日付け内閣参質一〇八第七号「日本がさらされている軍事脅威に関する質問に対する答弁書」(以下、答弁書という。)について以下質問する。

一 答弁書の三において、政府は「侵略しようとする「意図」は状況いかんによつて変化しやすいものであり、かつ、外部から察知しにくいものであるため、通常、防衛力整備を考える場合には、侵略意図よりも軍事能力に着目すべきである」と述べている。もしそういう観点に立つとすれば、現在日本周辺における最大の軍事大国は米国であり、しかも米国は日本国内に百カ所以上の軍事基地を有して「意図いかんによつては」簡単に日本を制圧できるポジションにある。従つて、日本としては防衛を考える場合、真つ先に米国からの軍事脅威を想定しなければならないはずである。ところが、政府が米国を除外、否、最友好国として軍事脅威の対象から外しているのは、専ら「意図」の計算に基づくからではないのか。もしそうだとするとわが国の防衛力の整備に当たつては、侵攻能力保有国の軍事能力に加えて、意図を考慮にいれるべきであると考えるが政府の見解を示されたい。

二 防衛力の大きさは、平時と有事では大きな差があり、また国際間の緊張の度合いによつても大幅に変更されるべきことは一般的な常識であると思うが、政府は、侵攻能力保有国の軍事脅威の増減によつて、日本の防衛力を増減させる考えを有しているのか、示されたい。

三 軍事費は、少しでも油断すればすぐ増大する性向をもつものであり、常に「軍事費を軽減できないか」とチェックする姿勢が必要である。
 これに関して「我が国に対する差し迫つた脅威が現在あることは考えていない」と答弁書の四でも認めているにもかかわらず、毎年、防衛費予算を棒上げに増額させているのは、どういう根拠に基づくものであるか示されたい。

四 答弁書の七の(1)において、「政府は、(中略)国会における審議に際しては、国家の安全と利益に支障が生じない限り、(後略)」と答弁しているが、防衛力に関して「国家の安全と利益」にまず考えを致し、責任を持つべきは、行政府、立法府の、いずれと政府は考えているか示されたい。
 また答弁書の説明では、行政府が国家の安全と利益に責任を持ち、それに支障のない範囲で立法府に関与させると受け取れるが、そのような解釈に立つているのか政府の見解を問う。

五 答弁書の七の(1)において、「必要な各種資料等もできる限り提出している」とあるが、これが不足しているから更に突つ込んだ説明を求めているのであつて、政府は侵攻能力保有国の静態的な軍事能力についての資料のみで、防衛予算審議に必要かつ十分な資料であると考えているのか見解を示されたい。

六(1) 答弁書の九の(1)について、『「中期防衛力整備計画」の第二年度として、その着実な実施を図ることとし』とあるが、経済・財政状況の芳しくない本年度に、百パーセント着実に実施する必要はないのではないか。また、答弁書の最後において「減額することはできない」と決めつけているが、国民の常識としては、〇・五パーセントならともかく、〇・〇〇五パーセント程度の合理化ができないはずはないと考える。防衛費についていかなる削減の合理化を講じたのか具体例を示されたい。
 (2) 今回の政府の意図は、GNPの一パーセントの枠自体を破ることが目的で、後はなし崩し的に既成事実を作りだし、今後我が国周辺諸国の軍事脅威とは無関係に、どんどん軍事費をエスカレートさせていくことではないかと国民は危惧している。
 防衛は国家の最重要事項であるが、国民にとつてはその経費負担が極めて重い。政府がいかなる根拠をもつてどれだけの経費がかかるかをきちんとした資料をもつて示し、威信と自信をもつて主権者たる国民に、堂々と信任を求める姿勢をとることこそ重要であると考えるが、明確な資料も示さずに「減額することはできない」と断ずる政府の態度では、かえつて国の将来を誤ることになると思うが、政府の見解を伺いたい。

七 政府は答弁書において、文民統制を強調している。しかし、最近は防衛庁全体が制服化し、更に、自民党内閣自体も「永年政権の座にあるため、防衛問題については防衛力強化を信仰的に「是」とする思い込み」により、考え方が制服化していると見受けられ、文民統制の実効が薄れているように思われる。この点政府はどのように自覚しているか、見解を示されたい。

八 国会議員に対する「侵攻能力保有国の脅威」説明には、国家機密であり、全く説明できないとするのでなく、話をしてもよいグレイゾーンが相当あるはずである。また数値なども具体的かつ詳細に示さなくても、概数かつ口頭説明によつても相手を理解させ納得させることは可能なはずである。それにもかかわらず、「国家機密なり」として口頭説明すら拒否することは議会制民主主義に対する不遜な態度としか言いようがない。総じて防衛庁の姿勢は、「国会議員に情報を公開し、理解と納得を求める」誠意と熱意に欠けると思うが、政府の所見を伺いたい。

九 いわゆるスパイ防止法案の再提出がうわさされているが、防衛に関する限り、国家機密の内容と範囲が明示されることが前提で、それを政府の恣意的な決定に委ねることは恐怖政治につながり、極めて危険である。今回の質問主意書を提出するに至る過程における防衛庁の姿勢は正に私の危惧する方向を向いていると感じるが、政府の所見を示されたい。

  右質問する。