質問主意書

第108回国会(常会)

質問主意書


質問第一〇号

酪農・畜産農家の経営の擁護及び畜産物の国民への安定供給に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十二年三月二十三日

下田 京子   


       参議院議長 藤田 正明 殿


   酪農・畜産農家の経営の擁護及び畜産物の国民への安定供給に関する質問主意書

 政府は、昭和六十二年度の畜産物価格等の決定に当たり、円高による飼料値下がりなどを口実に、昨年に引き続き加工原料乳保証価格、豚肉安定価格等の大幅引下げを策している。
 昨年一年間をとつただけでも乳用牛飼養農家は三千戸、肉用牛農家が一万一千戸、養豚農家は九千戸も減少するなど飼養戸数の減少は止まるところを知らず、残つた畜産農家もかなりが多額の借金を背負いこまされている。このうえに、価格引下げが強行されるならば、畜産農家の経営危機はいつそう深刻化し、地域経済や農協の経営にも大きな影響を与えずにはおかない。
 さらに政府は、アメリカや財界の要求に従い農畜産物の市場開放を一段と促進しようとしている。こうした方向は、昨年中曽根内閣が対米公約としてまとめた「前川リポート(国際協調のための経済構造調整研究会報告)」やそれをうけた農政審議会報告が国内農畜産業の全面的「合理化」路線を打ち出したことの具体化にほかならない。それは、米作と並んでわが国農業の重要な柱である畜産業を空洞化に追い込み、畜産物の国民への安定供給を根底から損なうものである。
 しかも、生産者価格の引下げは、農民への犠牲を強いる一方で消費者価格の同水準での低下をもたらしてはおらず、乳業・加工メーカー等の利益を増加させるだけとなつている。
 よつて、政府に対し、畜産農民の経営とくらしを守り、消費者に畜産物を安定的に供給する立場から以下について質問する。

一 乳製品等の輸入問題等について

 わが国の酪農家は牛乳“過剰”の口実のもとに、昭和五十四年度より計画生産を強いられ、とりわけ六十一年度は、対前年比で初めてマイナスの七万三千トン(三・一%)減という厳しい生産調整に直面し、六十二年度も引き続き減産を強いられようとしている。
 福島県内においても、昭和六十一年度の生乳出荷目標が前年比四千トン(三・二%)減に抑えられ、目標達成のため、搾つた乳を子牛に飲ませたり(全乳哺育)、成牛を屠殺するなど苦悩にみちた対応を迫られている。規模拡大した直後に減産を強いられ、借金が返済できなくなるという実態が各地でみられる。
 その一方で、乳製品の輸入は、生乳換算量で六十年度二百六十三万三千トンと国内生産量の三十五・四%に達しており、生産調整が始まつた五十四年の輸入量二百五十万六千トンと比較して、減るどころか、五%の増加となつている。
 こうした乳製品輸入の拡大は、生産調整にとりくんでいる酪農家の血のにじむような努力に水をさすものであり、これまで築きあげてきたわが国酪農の基盤をほりくずすものといわなければならない。そこでお聞きしたい。

(1) 生乳の減産が回避できるよう、調整食用脂、ココア調整品等の偽装乳製品も含め、乳製品の輸入規制を強化し、畜産物輸入は国内で不足する分に限定するルールを確立すべきと考えるが、政府にその用意はあるか。
(2) 乳製品の輸入規制とあわせ、政府が酪農家に生産調整を押しつける前にとりくむべきことは、牛乳の需要拡大である。その点で、学校給食用牛乳の補助単価を五十四年度五円八十銭から六十二年度三円三十銭(二百CC当たり)に引き下げ、そのための国の予算を百七十五億円から百十五億円に削減したことは、まさにそれに逆行するものである。
 学校給食用牛乳補助金の削減をやめるとともに、乳幼児、お年寄り等への牛乳消費拡大のための助成を拡充し、六十年度から打ち切りとした妊産婦牛乳に対する補助を復活すべきと思うが、政府にその考えはないか。
(3) 加工原料用生乳の不足払いの対象となる数量(限度数量)は、六十一年度二百三十万トンであつたが、政府は六十二年度よりチーズ原料用生乳(約二十万トン)を対象から除外し、限度数量を大幅に削減しようとしている。これは、チーズ用生乳の農家手取り価格をキログラム当たり五十三円(現行は八十七円五十七銭)と大幅にダウンさせるものであり、酪農家に生産費をはるかに下回る生産を押しつけるものである。
 国産チーズ振興のためにも国が積極的な援助を行い、それを含めて限度数量を適正に拡大すべきと考えるが、どうか。

二 加工原料乳の保証価格の算定等について

 政府はこれまで酪農民の労働を不当に低く評価することによつて加工原料乳の保証価格を抑えてきた。
 実際、家族労働費の評価に当たつて、牛を管理する飼育労働費については、主要加工原料乳地域ということで全国平均(一時間当たり千五百二十三円)の七十八・五%にすぎない北海道の製造業労働者の平均賃金を、また自給飼料を生産する労働については北海道における農村雇用労賃(同地域の製造業者賃の八十三%-六十一年)を採用している。しかも、簿記の記帳や研修会への出席など企画管理労働についてはまつたく評価していない。

(1) 同じ酪農民の労働でありながら自給飼料生産労働を飼育管理労働とくらべ低く評価しているのはなぜか。酪農における飼料生産を軽視していることのあらわれではないか、また、自給飼料生産を政府が奨励してきたこととも逆行するのではないか。
(2) 最近都府県の中でも加工原料乳の比率が高まつており、北海道の低い生産費を基準として保証価格の算定を行うことは実態にあわない。
 保証価格は、すべての加工原料乳生産者の生産費をもとに、酪農家のどの労働についても全国の製造業者の平均賃金でひとしく評価し、算定すべきである。政府にその用意はあるか。
(3) 福島県内での生乳の出荷価格は、飲用乳(キログラム当たり百十七円)の割合が減少し、加工原料用(同八十七円五十七銭)やその他もつと低価格の生乳が、生産抑制の中で割合を高めてきたため、前年とくらべ八円前後下落しているという。エサが安くなつたからといつて決して経営が改善されているわけではない。
 全国平均でみても、六十二年一月の生乳価格は、対前年比九十二・五%と大幅に低下しているのに、牛乳の小売価格はほとんど下がつていない(六十二年一月の一リットル紙パックの前年同期比で東京区部が九十八・五%、大阪百二・二%)。
 こうしたなかで雪印、明治、森永の大手乳業三社の六十三年三月期の経常利益はそろつて過去最高を更新する見通しだと伝えられている(「日本経済新聞」三月十三日付け)。
 これらの事実は、現在の原料乳価のもとでも消費者価格の引下げが可能であることを示すものである。
 ところが、大手乳業メーカーは、それをしないどころか、飲用向け生乳引取価格の十円以上の引下げを農家に迫つている。
 自らは大もうけしながら、農家からは生乳を買いたたき、消費者には還元しない、こうした不当なやり方を改善するようメーカーを指導すべきと考えるが、どうか。

三 畜産分野への農外資本進出規制について

 農林水産省の調べによれば、畜産分野の農外資本によるインテグレーションは、ブロイラーで全飼養頭羽数の四十八・八%、採卵鶏で五・四%、豚で三・八%、また、農外資本が直接生産に乗り出す企業畜産のシェアは、ブロイラーで十二・二%、採卵鶏で九・五%、豚で四・六%(五十九年九月)となつており、こうした農外資本による畜産分野への進出が、農民的畜産を圧迫している。
 商社や飼料メーカー等による畜産分野への進出・支配を規制し、農家経営に基礎をおいた畜産の振興をはかることが、土地と結びついた畜産を展望するうえでも、地域経済のつりあいのとれた発展や国民への畜産物の安定供給のうえでも、重要と考えるが政府の認識はどうか。
 また、鶏卵生産の分野で農外資本による生産調整を無視したヤミ増羽があとをたたない。その実効ある規制措置を新たに講ずべきと考えるが、どうか。

四 負債対策について

 北海道農務部が行つた調査(六十一年五月)によれば、北海道の酪農家一戸平均の負債額は、三千三十二万円に達し、償還金の元金、利子ともまつたく払えないか、利子の一部しか返済できない農家が調査農家の十七%をしめるなど、依然として負債問題は深刻である。
 福島県内においても、大規模畜産開発(阿武隈開発など)や国の補助事業で規模拡大をすすめた畜産農家で負債問題が深刻化している例が各地にみられる。
 農用地開発事業や構造改善事業など、国の政策、補助事業などと結びついた負債の増大については、制度資金返済の一定期間の棚上げ措置をとるべきであること、また経営難の農家に対して、既借入金の償還期間の延長、利子負担の大幅な軽減等の抜本的な負債対策を強めるべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。