質問主意書

第108回国会(常会)

質問主意書


質問第一号

税制改革に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十一年十二月二十九日

黒柳 明   


       参議院議長 藤田 正明 殿


   税制改革に関する質問主意書

 シャウプ税制以来三十六年ぶりといわれる税制の抜本的改革が先に発表され、その実現に向けて準備がなされているが、その内容は国民生活に重大な影響をおよぼすと同時に総理が同日選で公約した内容と相反するものもあるので以下質問する。

一 今改革のねらいは国民の重税感、不公平感の解消が中心であつたにもかかわらず、クロヨンを始めとする不公平税制の是正にはほとんど手が触れられていない。むしろ利子課税の総合課税化放棄にもみられるように公平の原則が放棄されている。今改革で公平の原則が貫かれたと思うかどうか。政府の見解を伺いたい。

二 今改革は、国民の所得の平準化を主な理由として「広く薄く課税」するとの方針で行われている。所得税率のうち、最高税率の引下げや、利子所得の一律分離課税導入にもみられるように高所得者、すなわち金持ち優遇の改革であり、このことは税制に与えられている所得再分配機能を著しく歪めるものといわざるを得ないがどうか。

三 米国の税制改革は五年間を一つのくぎりとして、その期間を通じた各年度ごとの増減税規模が公開されているが、わが国の場合、増減税の総額は明示されてはいるものの単年度ごとの規模が不明確である。これでは増減税の単なる数字合わせに終わる可能性があり、国民の前に政策意図がフェアに公開提示されたことにはならないと思うがどうか。

四 税制改革による増減税効果については、財政当局の試算では、法人税減税をも含めて、各世代で減税が増税を上回るとしているが、法人税減税効果が国民に還元される点には不確定要素が多く、むしろ年収六百万円以下では実質的増税を強いられるとの試算もなされている。そのため財政当局がいうほどの減税効果が生ずるとは思われず、必ずしも中堅サラリーマンを中心とした税負担軽減につながるとはいいきれないが、どう考えているのか。

五 今改革はレベニューニュートラル(歳入中立)の原則を貫いたといわれるものの、そのねらいが増税、増収にあることはマル優廃止や、売上税導入が改革の中心であることからも明白である。これにより個人消費は縮小し民間活力がそがれ、その結果内外から要請されている内需拡大にまさに反することになると思うが、この点どう考えているのか。

六 所得税の課税最低限引上げは見送られているが、マル優制度廃止や売上税導入がなされるならば低所得者層は実質的に増税を強いられ、特に課税最低限以下の人たちは増税だけになる。この点について政府はどのように認識しているのか。

七 所得税の最高税率適用者数は全納税者中極めて限られており、その所得も勤労性所得以外のものとみられる。今改革で所得税の最高税率を引き下げるとしているが、その場合には、資産性所得の課税強化と見合いで行うべきであると思うがどうか。また利子課税に対する一律分離課税はその原則とは逆行するといわざるを得ないがどう認識しているか。

八 サラリーマンに必要経費の実額控除選択の途をひらいてはいるが、実額控除を選択した場合は給与所得控除は一切認められず、実額控除の対象となる必要経費も極めて限定的である。これではせつかく申告納税の途をひらいても実額控除を選択する人は限られ、制度創設の意義が生かされないと考えるが政府の認識はどうか。

九 給与所得者と事業所得者等の所得捕捉格差を含めた是正が求められているが、今回創設が予定されている配偶者特別控除制度だけでは根本的な解決策にはつながらず、みなし法人課税の事業主報酬や、専従者給与への給与所得控除の限定適用を含めた、より実効ある是正策をとるべきであると思うがどうか。

十 利子課税については少額貯蓄非課税制度を廃止し、一律分離課税を導入することはまさに大資産家優遇の措置といわざるを得ない。国民の間に定着したマル優制度は限度額管理を徹底することにより今後とも存続させ、課税貯蓄については、総合課税化の徹底を図ることにより公平の原則を貫くべきであると考えるがどうか。

十一 有価証券譲渡益については、その課税対象を拡大することとしているが、同じ資産性所得である利子所得に一律分離課税が行われているのに反して、有価証券譲渡益には原則課税が今日の時点では行われていないことは片手落ちと指摘せざるを得ないが、どうか。

十二 土地譲渡所得税については、土地供給促進の観点の名のもとに昭和六十四年度までに譲渡した土地等については、長期保有の期間を五年超としている。しかしこれによつて土地の供給が促進されるという保証はなく、むしろ土地を持たない者との間で不公平が拡大する可能性がある。土地供給促進の根拠を示すとともに、不公平拡大の是非についてどう考えるか。

十三 今回法人税率については基本的には、三年間で段階的に引き下げることとしているが、その一方、繰入率が実体とかけはなれている貸倒引当金や、利用法人割合が低く保全措置もない退職給与引当金、さらには各種準備金の見直しには手も付けられておらず、法人税の課税ベース拡大については不十分であると思うがどうか。

十四 今回導入を強行しようとしている売上税は、どんなに非課税取引や非課税業者をもうけてみても総理が導入しないと国民に約束してきた大型間接税にほかならず、その導入はまさに公約違反といわざるを得ない。公約の厳守をもとめるとともに、公約違反でないとするならば明確なる根拠を国民の前に明らかにするべきであるがどうか。

十五 仮に売上税の導入が行われた場合にはヨーロッパ各国の例を見るまでもなく、その時々の社会、経済情勢に応じて税率の引上げが容易に行われる可能性がある。当初は五%の税率とされているが、将来ともにこの五%を守つていくという保証はあるのかどうか。政府の見解を明らかにされたい。

十六 売上税導入にあたつて中小零細企業の納税事務軽減の名のもとに売上高一億円未満の企業を免税業者としているが、免税業者は税額控除票の発行ができず、それが課税業者との取引上不利になる場合も生ずることが十分に想定されるが、その点はどう考えるか。また課税業者と免税業者の間に一物二価の現象を生じかねないが、税制がこのような現象を引きおこすことは経済活動に対する中立性の観点からも決して好ましいことではない。この現象にはどう対処するのか。

十七 売上税導入は企業側のコストを増大させるのみならず、徴税側の事務量をも増大させ、税務職員の大幅な増員を余儀なくさせることが明らかである。これでは行財政改革に反するといわざるを得ないが、現行職員で売上税導入に対処できるのか。

十八 政府は税制改革案を国会にいつ提出する予定か。またその場合、税制改革の十分な審議確保のためにも、一括法として提出するのではなく、各税目別に立法化すべきであると思うがどうか。

  右質問する。