質問主意書

第107回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第六号

内閣参質一〇七第六号

  昭和六十一年十一月十四日

内閣総理大臣 中曽根 康弘   


       参議院議長 藤田 正明 殿

参議院議員木本平八郎君提出コメの安定供給と食糧管理制度に関する再質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員木本平八郎君提出コメの安定供給と食糧管理制度に関する再質問に対する答弁書

一について

 我が国の米の価格は、生産者価格ベースで比較すると、外国産の米の五倍から十倍であるが、品質格差、為替レートの変動等から一概に比較することには問題があり、また、消費者価格ベースで比較すると、生産者価格ベースで比較する場合と同様の問題はあるものの、米国における価格の二倍程度である。したがつて、「国際水準の十倍も高い消費者米価」を前提として食糧管理制度について議論することは適切でない。
 なお、食糧管理制度は、国民の主食である米を政府が責任をもつて管理することにより、生産者に対してはその再生産を確保し、また、消費者に対しては安定的にその供給責任を果たし、国民食糧の確保及び国民経済の安定を図るという重要な役割を果たしている。

二について

 西欧先進国の主要消費穀類は麦類であるが、供給熱量の比率でみても日本における米の供給熱量比率(約三割)に比べ総じて小さく、日本人の食生活における米のような主食としての位置付けにはない。また、麦類は、国際貿易量も多く歴史的に国際市場が確立しており、国際貿易商品としての生産がなされているのに対し、米は、その貿易量も小さく国際市場も確立していないことから、タイ、米国等を除き多くの国々では国内自給を基本に生産が行われており、安定的な国際市場を前提とすることはできない。
 このため、我が国においては、必要な時に必要な量を確実に輸入することができないこと、我が国農業が水田稲作農業を基幹として営まれていること等を踏まえ、米については、国内自給の基本方針の下に、投機の対象とされやすいという商品特性等を踏まえて国民への安定供給を図つていくため、食糧管理制度により管理を行つているところである。

三について

 御質問にある消費者米価と国際米価との差毎年二兆円というのは算出の根拠が明らかでないので詳述できないが、米は二についてにおいて述べたとおり国内自給を基本方針とすべき作物であり、需給調整のための国民の負担は、食糧管理特別会計への繰入額(昭和六十一年度予算二千九百六十億円)あるいは食糧管理費(昭和六十一年度予算五千九百六十二億円)でとらえるのが妥当であると考える。したがつて、需給調整のために毎年二兆円もの犠牲を払つていることを前提とした議論は適切でない。

四について

 世界の米の国際市場についてみると、貿易量は小さく輸出国の作況等により大きく左右されることから、一億二千万人もの人口を有する我が国が必要な時に必要な量を輸入できる実態にはない。
 また、このような世界の米の貿易実態を捨象し、仮に平時には輸入に依存することとし、非常事態に陥つた時にのみ統制することとしても、その時には、国内生産を行うための水田の荒廃から短期間には生産力を回復できず、また、仮に、水田の生産力を回復できたとしても生産を行う農業者の確保は図り得ず、国内生産での対応は困難である。
 したがつて、平時から食糧管理制度の下で国内での米の生産力を維持しながら国民への米の安定的な供給を果たしていくことが必要である。

五について

 四についてにおいて述べたように世界の米の貿易実態は一億二千万人もの人口を有する我が国が必要な時に必要な量を輸入できるものではないが、あえて我が国の経済力によつて輸入するとすれば、そもそも世界全体の需給バランスを崩すばかりでなく、米の国際価格を高騰させ、発展途上国を中心とした輸入国の安定的な購入の途を閉ざすことにもなりかねず、国際摩擦を引き起こすおそれがある。
 また、国内生産によらず輸入に依存することとすれば、貴重な国土資源である我が国の水田を有効に利用することなくその荒廃を招くこととなるし、貯水機能等国土保全や自然環境保全上の機能も失われることになる。更に、米に依存している地域の経済・社会に深刻な打撃を与えることとなる。

六について

 米の国際貿易量が極めて小さいのは、そもそも米が歴史的に国際貿易商品として生産されているわけではなく、世界の米生産の九割を占めるアジアの米の大部分が自国民のために生産され、地場消費されるか、又は産地に近い地域で消費されるためである。また、我が国においては国内自給を基本方針としているところである。
 なお、御指摘のタイ、米国等の米の供給余力については根拠が明らかではなく、また、各国の米の供給余力については、水田面積、かんがい施設の状況等から判断される必要があるが、これらを十分踏まえた国際機関等による確たる見通しがあるとは承知していない。

七について

 米の備蓄費用については、現存する施設を用い、既に購入済みの米を備蓄する場合には、その金利及び保管料しか要しないことから、玄米トン当たり年間二万二千円と試算される。しかしながら、二千万トンもの米を備蓄する場合には、新たに膨大な米の保管施設を整備する必要があり、更に、これを主食用としていつでも消費できる状態で保管することは不可能と考えられることから莫大な売買損失を生じるなど国民の負担は非常に大きくなる。
 以上の点にかんがみれば、御指摘の考え方は、政策的に採用できないものである。

八について

 近年、穀物の自給率が低下したのは、高地価、高人件費の我が国においては、畜産物消費の増大に伴つて需要が増加している飼料用穀物の大部分を輸入に依存せざるを得ないこと等によるものである。
 また、現在、水田利用再編対策として米の生産調整を実施しているが、これは消費の減少と生産力の向上により潜在的な需給ギャップが生じているからであり、同対策においては、米の需給均衡化を図るとともに、水田の持つ高い生産力を維持しつつ総合的な国内自給力の維持強化を図ること及び地域農業の再編成を図ることを目的としてきているところであり、生産調整が穀物自給率の低下を招くとは考えていない。
 なお、稲作農業の生産性の向上は、単位面積当たり生産量の向上ばかりでなく、投下労働時間の短縮、物財費等経費の節減等の側面もあり、必ずしも生産調整面積の増加を招くとは考えられない。また、そもそも生産性の向上を図つていくことは、産業として自立し得る稲作農業を確立する上でも必要なことである。

九について

 現在実施している水田利用再編対策においては、水田の持つ高い生産力を維持しつつ、食料自給力の向上を図るという観点から、稲作から他作物への転換を促進してきているところであり、同対策上は休耕を認めてはおらず、これによつて水田が荒廃しているという事実はない。

十について

 食料輸入が途絶するといつた非常事態が長期化した場合には、水田には水稲を、その裏作には可能な限り麦を作付けるなど耕地利用率を最大限に高めるとともに、畑においては甘しょ、馬鈴しょ等熱量効率の高い農産物の増産を図る等により、可能な限り必要な食料を確保するという対応にならざるを得ないと考えている。
 このような対応を前提に試算を行えば、昭和二十年代後半の供給熱量水準である国民一人一日当たり二千キロカロリー程度を国内生産によつて賄うことができると想定している。

十一について

 非常事態が長期化した場合の対応として想定しているのは、熱量効率の高い食料の増産を図るなど国内農業生産体制を転換させていくというものである。
 今後とも食料の相当部分を海外に依存せざるを得ない我が国としては、主要輸出国との相互信頼関係の維持に努め、安定的な食料輸入の確保を図ることが重要であると考えているが、国際紛争等によりそもそも輸入による食料の確保ができないような事態が長期化することは想定し得るところであり、その場合には国内農業生産体制を転換させることにより対応していかざるを得ないものと考えている。

十二について

 米等我が国の風土に適した基本食料を中心とする日本型食生活の定着・促進を図るとともに、生産性の向上を図りつつ、米等の農産物については引き続き完全自給ないし極力国内で自給する体制を確保することを基本として、総合的な食料自給力の維持強化に努めていくこととしている。

十三について

 食料の安定供給を確保することは、国政の基本ともいうべき重要課題であり、そのため、国土を有効利用し、生産性の向上を図りつつ、米等の農産物については引き続き完全自給ないし極力国内で自給する体制を確保することを基本として総合的な食料自給力の維持強化に努めていくこととしている。
 しかしながら、国土資源に制約のある我が国では、飼料用穀物等については、今後とも大部分を輸入に依存せざるを得ないものと考えており、これらについては輸入の安定確保に努めていく考えである。

十四について

 米以外の主な穀物については、世界の貿易量も大きく、また、輸入先の多角化、備蓄等により必要量の確保に努めており、更に、飼料穀物がその大部分を占めることから、不測の事態が生じた場合でも、その及ぼす影響を米の場合と同様に考えるのは適当でない。
 他方、国民の主食であり、かつ、我が国農業の基幹作物である米については、国内で生産可能な米は自給するとの方針の下で、その安定供給を図ることが重要であると考えている。
 なお、米の安定供給さえも確保できないこととなれば、国民の食料確保に対する不安は大きくなるものと考える。

十五について

 米と他作目との収益性を、十アール当たりで比較すると一般に米の方が高い一方、一日(八時間)当たりで比較すると必ずしも他作目が不利でない状況となつており、必ずしも米価と穀物自給率が結び付いているとは考えていない。

十六について

 食糧管理制度は、国民の主食である米を政府が責任をもつて管理し、その需給及び価格の調整と流通の規制を行うことによつて、生産者に対しては再生産を確保し、また、消費者に対しては家計の安定を図るという重要な役割を果たしており、このような制度の基本は維持する必要があり、この制度の下での財政負担は国民の主食である米の安定供給に必要な経費とみることができると考えている。
 なお、本制度については、これまでも事情の変化に即応して自主流通制度の創設(昭和四十四年)、予約限度数量制度の創設(昭和四十六年)等を行うとともに、昭和五十六年には過不足両様の事態を念頭に置いた制度にするという考え方の下に食糧管理法(昭和十七年法律第四十号)の改正を行い、更に昭和六十年には流通段階における各種活動の活性化、合理化を図るための流通改善措置を講ずるなど、必要な見直しを行つてきており、今後とも国民各界各層の理解と協力が得られるよう事情の変化に即応して必要な運営面での改善を積極的に図つてまいりたい。