質問主意書

第107回国会(臨時会)

質問主意書


質問第五号

知床の国有林における自然保護等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十一年十月八日

木本 平八郎   


       参議院議長 藤田 正明 殿


   知床の国有林における自然保護等に関する質問主意書

 現在北海道・知床の国有林において、シマフクロウ、クマゲラなどの貴重な野鳥保護の見地から、国有林の間伐に反対する住民運動が展開され、また逗子市池子弾薬庫跡地の米軍住宅建設についても、オオタカ、オジロワシ、その他野鳥などの自然保護の立場から市長リコール等住民運動が熾烈をきわめているが、以下の解決策について政府の見解を伺いたい。

一 知床の国有林間伐について、自然保護団体が要求している野鳥等の保護は、林野庁間伐計画でも充分達成可能であり、林野庁本来の使命である山林の若返り活性化を果たすためには、現在計画程度の間伐は最低限必要であると林野庁その他関係機関は説明している。また伐採計画は、アセスメント公聴会、現地調査、生態系研究、将来予測など完璧に近いプロセスなり手続を経て、準備が進められており、同時に地元住民や自然保護団体に対する説明や説得も充分行われている。しかしながら、問題は住民感情に対する対応である。感情に対してはいくら理論的に説明しても納得は得られない。しかし、このまま事態が進めば住民の納得を得られないまま伐採強行という事態になることは明らかである。因みに林野庁の対応や手続は法的に瑕疵はなく、逆にこの手続を停止して計画を撤回する理論的根拠はない。もとより、林野庁は山林を保護育成することが目的であつて原生林や自然放置材のまま荒廃させることは目的に反する。ところがシマフクロウやクマゲラなどは棲息上空洞をもつた巨木、古木、老樹の類が必要である。こういう樹木のある森林は荒廃林である。林野庁と自然保護団体の立場を端的に表現すれば、自然保護団体は山林の荒廃化を求め、林野庁は荒廃化に反対の立場に立つているといえる。また林野庁は国有林野事業特別会計で独立採算性をとつており、毎年ある程度の木々を伐採し、材木売却による財源獲保が必要である。山林の活性化、木材価値の点からも成熱木の伐採は当然である。したがつて、林野庁に知床国有林の間伐をやめさせるには、林業予算の補償が必要になつてくる。
 以上のように考えるが政府の見解を伺いたい。

二 逗子市池子弾薬庫跡地に米軍住宅を建設する件については、再三にわたる住民の反対運動、民主主義的手続による再三のリコール運動にもかかわらず、防衛施設庁は既定方針どおり計画を進めており、環境アセスメント公聴会、生態系調査など規則と手続法にのつとり、完全なプロセスを踏んでいる。多分このままでは、今後『事前手続完了』、『建設工事の強行着工』、『住民の反対・実力行使』などに突き進んでいくことは想像するに難くない。今までは幸い住民側が政治家、政治団体、政党などの介入を拒否してきたので不祥事を発生させずにすんだが、今後はアジテーターの介入などがあるやも知れず、この面への配慮が重要になつてくる。本件も住民の自然保護に対する感情と防衛施設庁の理論的見地が対立しているもので、これは如何に理論的に説得しようとしても住民の納得を得るのは難しい。そこで住民の納得を得られないまま、防衛施設庁の都合だけで住宅建設を着工すると住民の実力行使的な反対行動だけでなく、米軍住宅が開設された後も、米軍家族と住民の間にトラブルが続発し、果てはかつて中南米諸国で発生したようなグリン(緑色の米軍制服)ゴー(帰れ)運動のような米軍排斥も起こるかも知れず、そうなれば日米の国民感情を刺激し、安保条約及び日米共同防衛体制にまで問題を広げる結果にもなり兼ねない。第一、かかる国内問題に罪のない米軍家族を巻き込むことは遺憾である。
 右に対する政府の見解を伺いたい。

三 知床国有林伐採と逗子池子米軍住宅建設の二件は、いずれも担当行政官庁としては、仮に住民の主張を理解し、要求を容れようとしても、当該官庁がおかれている立場と使命上からはよほどの理由付けがない限り体面上も後退は難しい。そこで提案だが、かかる自然保護問題については、担当官庁本来の森林間伐や米軍住宅建設業務と切り離して、環境保全費用として自然保護予算を計上してはどうか。具体的には知床の場合は、当該国有林を野生動物の保護を目的として荒廃化を認める代わり、それに見合う国有林野事業特別会計の不足分を一般会計から環境保全予算として支出する。また池子の米軍住宅は、根岸の米軍住宅や民有地などに分散建設を行い、それに伴う追加費用、すなわち集会所や共同施設を重複して造るなどの経費は池子の環境保全経費として別途支出する。こういう増加費用の支出は、国家財政逼迫の折から困難も多いだろうが、環境保全の重要性を勘案すれば必要やむを得ない支出と考える。ぜひ政府全体として一考を要すると考えるが政府の見解を伺いたい。また、かかる環境費用を別途配慮する等の措置は、個々の官公庁の権限を超えるので、内閣が大局的見地から判断し裁定、予算配分等を行わなければ解決できないと考えるがどうか。

  右質問する。