質問主意書

第107回国会(臨時会)

質問主意書


質問第三号

国営中海干拓事業の助言者会議見解に対する農林水産省の意見書に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十一年十月三日

吉岡 吉典   


       参議院議長 藤田 正明 殿


   国営中海干拓事業の助言者会議見解に対する農林水産省の意見書に関する質問主意書

 国営中海干拓事業は、すでに六百二十二億円が投入され、事業着手から二十三年が経過している。この事業が当初目的とした水田・酪農の営農計画は、その後の社会、経済情勢の変化に伴い破綻している。干拓地の分譲価格は、10アール当たり百六十万円(昭和六十三年度完成見込みの試算)といわれてきたが、工期がさらに延びるところから三百万円になるという試算もおこなわれている。こうした状況により、干拓地での営農見通しがたてられず模索中であるにもかかわらず、中海干拓事業がおしすすめられている。
 また、中海干拓事業による中海・宍道湖の淡水化がすすめられれば、水質が悪化するということを科学者が指摘している。さらに、淡水化すれば、全国のシジミ生産の六五%を占めるヤマトシジミの絶滅をはじめ、宍道湖七珍など汽水性魚介類が絶滅し、漁業者のみならず、食文化、飲食店や旅館、水産加工業者の営業、つり、観光、文化など、広範囲にわたつて重大な打撃を与えることが予測されている。そのため、中海・宍道湖周辺人口の六割以上の人びとが淡水化に反対している。
 しかるに、農林水産省は、昭和五十九年八月に「淡水湖化は湖の現状程度の水質をほぼ維持しながら進めて行くことが可能であろう」との「中間報告」を発表し、あくまで淡水化をすすめようとしている。
 島根、鳥取両県が、この「中間報告」の検討を委嘱した助言者会議は、本年二月に「見解」を答申した。その中で「中間報告」の問題点を十項目あげ、淡水化すれば水質が悪化する可能性と調査・研究の不十分さを指摘した。この助言者会議見解に対し、農林水産省は八月六日、「中間報告書の水質予測はおおむね妥当である」との「助言者会議見解に対する意見について」を発表した。
 以上のような経過にもとづき、農林水産省の「助言者会議見解に対する意見について」および宍道湖・中海淡水湖化に伴う水管理及び生態変化に関する研究委員会の「助言者会議見解に対する意見」(以下、意見書という。)に関し質問する。

一 意見書の性格について

1 今回の意見書は、昭和六十一年三月五日衆院農水委員会で中林佳子委員の質疑に対して、佐竹農水省構造改善局長が答弁されている「統一した見解」にあたるのかどうか。
2 「統一した見解」にあたるとすれば、当時、佐竹局長は「報告をまとめられた先生方と助言者会議の先生方と直接御議論いただいて科学的に決着がつく問題かと思う」と述べていたが、助言者会議の委員との議論を経たうえでまとめられたものかどうか。
3 そうでないとすれば、改めて双方の議論を踏まえたうえで「統一した見解」を出すことが国会答弁の趣旨であると考えるがどうか。

二 意見書の内容について

1 助言者会議見解は「水質変化予測に対して生態系がどのように変わるかなどの検討が不十分である」と指摘している。これに対して意見書は「言葉どおりにおいてはまさにその通りである」と述べている。生態系変化とその水質におよぼす影響が未解明のままおこなわれている水質予測は、正確さを欠くのではないか。
2 意見書は、淡水化すれば「汽水状態の時より湖水の滞留時間は長くなる」こと、夏期には、CODが汽水状態より高くなることを認めたが、湖水の滞留時間の増大は水質悪化の要因になるのではないか。
3 渇水年の水質予測値について、助言者会議の指摘をうけて解析をやりなおし、水質予測値を改めているが、その予測は全層平均値しか公表されていない。より正確に判断するためには、時期別、水域別、水層別の最小値、最大値による解析結果を公表すべきではないか。
4 助言者会議見解は「淡水化後において下層に発生する微弱密度流による継続的な水質浄化効果を中間報告書で評価しているほど期待するのは無理がある」と指摘している。これに対し、意見書は「中浦水門の除塩施設の効果の把握を含め塩分濃度を一定程度まで低下させた状態で実証的に微弱密度流の調査・研究が必要である」と述べ、検証しなければ水質浄化効果は分からないとしている。したがつて、「中間報告」で、微弱密度流による水質浄化効果を断定的に記述しているが、これはまちがいではないか。
5 助言者会議見解は、「中間報告」では中海への逆流海水による栄養塩類の持ち出し効果は小さいとされているが、現状での海水による水質浄化効果はかなりあり、海水によるリンの持ち出し量は約四〇%で、水門操作後はこの作用がなくなると指摘した。これに対し意見書は、水量計算モデルによる計算では二八%、水質予測シミュレーションの収支計算によれば三九%であつたと助言者会議見解をほぼ認め、「中間報告」の海水によるリンの持ち出し量約一六%という数値を大幅に訂正した。
 このことは「中間報告」で述べている潮汐による水質浄化効果は「比較的に小さい」という評価を訂正したとうけとめてよいか。
6 淡水化後のアオコ発生予測について、助言者会議見解は、「現時点でも淡水化後の宍道湖・中海におけるアオコ発生予測は可能である」と指摘している。これに対し意見書は、「局所的、局時的には可視的なアオコ発生がありうることは否定しない」としながらも「アオコ発生予測を的確に行うためには、塩分濃度を一定程度まで下げた状態で、必要なデータを収集する等の調査・研究を行うことが必要である」と述べ、淡水湖化の過程でなければ予測できないとしている。水質に影響を及ぼすアオコ発生予測をめぐつて、両者の見解はまつ向から対立している。
 この点について、

(1) 淡水化すればアオコが発生する可能性があることは認めたとうけとつてよいか。
(2) アオコが発生すれば水質悪化の要因になると思うがどうか。
(3) アオコの発生が予測されても淡水化試行に入るのか。
(4) 助言者会議の委員であつた研究者からも直接意見を聴くべきだと思うがどうか。

7 生物関係について意見書は、助言者会議見解の指摘をほぼ全面的に認めているが、汽水性魚介類の絶滅について「所要の漁業補償を行つている」と漁業補償で片付けようとしている。
 しかし、宍道湖七珍をはじめとする汽水性魚介類の絶滅は、漁業の全滅だけでなく、食文化、飲食店や旅館、つり、観光、文化、芸術など広範囲に重大な影響を与え、漁業補償でことたりるような問題ではない。この影響をどのように考えているのか。
8 助言者会議見解は、「鳥類にたいする影響を調査する必要がある」と指摘している。これに対し意見書は、「鳥類については、中間報告では触れられていないが、影響調査を今後行うことは一般的にいつて望ましいことである」と一般論にとどまつている。
 中海・宍道湖は野鳥の宝庫であり、八束町以南の中海は野鳥の保護区に指定されている。宍道湖一帯で確認されている鳥類は三七科一六八種、中海は二〇〇種である。
 コハクチョウ、天然記念物のマガン、ヒシクイの集団渡来の南限であり、キンクロハジロのわが国への渡来数の四分の一が宍道湖だとされている。こうした貴重な地域であり、鳥類への影響を調査すべきだと思うがどうか。

  右質問する。