質問主意書

第104回国会(常会)

答弁書


答弁書第一六号

内閣参質一〇四第一六号

  昭和六十一年三月二十日

内閣総理大臣 中曽根 康弘   


       参議院議長 木村 睦男 殿

参議院議員小笠原貞子君提出アイヌの民族的権利の保障等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員小笠原貞子君提出アイヌの民族的権利の保障等に関する質問に対する答弁書

一について

(一) 北海道旧土人保護法の存廃については、現在、北海道に「ウタリ問題懇話会」が設けられ、地元関係者によつて検討が行われているところであり、その検討結果等も尊重しつつ関係省庁においても検討していくことが必要であると考えている。
 また、今日までのウタリ諸対策の実施により、ウタリを取り巻く社会的、経済的環境等は漸次改善されつつあるものと考えているので、新しい法律の制定が必要であるとは考えていない。
(二) ウタリ対策事業は、広範多岐にわたり、関係省庁も多いので、これらの対策の総合的な検討を行うため、関係省庁で協議の結果、「北海道ウタリ対策関係省庁連絡会議」を設置し、関係省庁が連絡を密にして、国の立場からも総合的なウタリ対策を積極的に協力、推進してきたところである。
 また、北海道においては、「北海道ウタリ福祉対策」(第一次計画(昭和四十九年度~昭和五十五年度)、第二次計画(昭和五十六年度~昭和六十二年度))の策定時及び毎年度の国への予算要望時に、ウタリの意見を十分徴していると聞いている。
 このような方法で、今日までウタリ諸対策を実施してきたことにより、ウタリを取り巻く社会的、経済的環境等は漸次改善されつつあるものと考えているので、審議会の設置が必要であるとは考えていない。

二について

(1) アイヌの民俗文化財については、ユーカラ、アイヌの建築技術及び儀礼を記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財として選択し、さらに、アイヌ古式舞踊については重要無形民俗文化財に指定して、その保護を図つているところであり、また、北海道教育委員会等が行う北海道内アイヌ民俗文化財調査及び地域伝承活動並びに映像記録作成等の事業について助成を行い、その保存の充実に努めているところである。
(2) いわゆる人間国宝とは、重要無形文化財の保持者として認定されている者のことであり、この認定は、芸能や工芸技術における高度に練磨された芸術的な伝統技法の保存のために行われる措置であつて、口頭伝承や習俗等については、事柄の性質上該当しないものである。

三について

 昭和五十七年八月、社団法人北海道ウタリ協会から、アイヌに関する教科書の記述について文部大臣あてに抗議書の提出があつたが、教科書の検定は、教科書の記述が客観的で公正なものとなり、かつ、適切な教育的配慮がなされたものとなるようにとの立場から行つているところである。

四について

(1) ウタリ子弟の高等学校、高等専門学校及び大学への進学を奨励するため、進学奨励事業を実施し、その充実に努めてきたところであるが、専修学校について新たに制度を設けることは考えていない。
 ウタリ対策大学進学奨励事業については、昭和五十七年度に見直しを行い、進学奨励費について給付制から貸与制に切り替えたものであり、給付制に戻すことは考えていない。
 進学奨励費の単価については、逐年改善を図つてきたところであり、昭和六十一年度においても、月額高等学校等で国公立学校五百円、私立学校千円の単価増、大学で国公立学校千円、私立学校三千円の単価増をそれぞれ図ることとしている。
(2) アイヌの伝統工芸品類の製作に携わる技能者の養成に係る職業訓練については、これに必要な基礎的技能を習得させることをねらいとして実施されているものであり、現行の訓練期間で足りるものと考える。
(3) 旧失業保険制度における季節労働者に対する給付については、保険原理上、また、給付と負担の公平という見地から、大きな問題であつたが、雇用保険制度においては、このような問題を解決するため、季節労働者の生活実態及び従来の受給実績を勘案して、五十日分の特例一時金制度をとつているものであり、これを再び旧制度におけるような、一般並みの給付を行うように改めることは困難である。