質問主意書

第104回国会(常会)

答弁書


答弁書第四号

内閣参質一〇四第四号

  昭和六十一年二月七日

内閣総理大臣 中曽根 康弘   


       参議院議長 木村 睦男 殿

参議院議員寺田熊雄君提出四国ドック株式会社の労使紛争に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員寺田熊雄君提出四国ドック株式会社の労使紛争に関する質問に対する答弁書

一について

 四国ドック株式会社(以下「会社」という。)においては、昭和六十年一月以来、総評全日本造船機械労働組合四国ドック分会(以下「分会」という。)との間で、団体交渉の方法等に関し労使紛争が生じており、同年四月五日、分会から、会社を被申立人として、香川県地方労働委員会(以下「香川地労委」という。)に対し不当労働行為救済の申立てが行われ、現在、香川地労委に係属している。また、分会は、同年十一月二十七日及び同年十二月十八日、高松地方裁判所に対し会社を被告として労働時間内の団体交渉の応諾等を求めて訴えを提起する等しており、現在、同裁判所に係属している。

二について

 個別具体的な使用者の行為が不当労働行為に当たるか否かについては、労働委員会等の権限ある機関で判断されるものであるが、一般に、使用者の労働組合又は労働者に対する行為が労働組合を嫌悪し、その弱体化を意図する等不当労働行為意思を決定的動機とする場合には、不当労働行為が成立するものと考えられる。
 なお、同一企業内に複数の労働組合が併存する場合の不当労働行為の成否に関し、最高裁判所の近時の判決では、「以上のように、複数組合併存下においては、使用者に各組合との対応に関して平等取扱い、中立義務が課せられているとしても、各組合の組織力、交渉力に応じた合理的、合目的的な対応をすることが右義務に反するものとみなさるべきではない。したがつて、以上の諸点を十分考慮に入れたうえで不当労働行為の成否を判定しなければならないものであるが、団体交渉の場面においてみるならば、合理的、合目的的な取引活動とみられうべき使用者の態度であつても、当該交渉事項については既に当該組合に対する団結権の否認ないし同組合に対する嫌悪の意図が決定的動機となつて行われた行為があり、当該団体交渉がそのような既成事実を維持するために形式的に行われているものと認められる特段の事情がある場合には、右団体交渉の結果としてとられている使用者の行為についても労組法七条三号の不当労働行為が成立するものと解するのが相当である。」との判断を示している(日産自動車事件 昭和五三年(行ツ)第四〇号 昭和六十年四月二十三日第三小法廷判決)。
 また複数の労働組合が同一企業に併存し、前提条件を拒否した労働組合に対する一時金の支給について最高裁判所が判断した例として、日本メールオーダー事件(昭和五〇年(行ツ)七七号、七八号 昭和五十九年五月二十九日第三小法廷判決)があると承知している。

三について

 政府としては、健全な労使関係の育成のため、労使関係法規の周知徹底等労使に対する啓発指導に努めてきている。また、個別具体的な労使間の紛争については適切な解決が図られるよう三者構成の労働委員会が設置されているところであり、今後とも、労働委員会がその趣旨に沿つて十分機能していくよう配意してまいりたい。

四について

 会社においては、昭和五十八年十月から土曜日を休日とする週休二日制が実施され、この際一日の所定労働時間を七時間五分から八時間に、休憩時間を四十五分から六十分に、拘束時間を七時間五十分から九時間に変更したと聞いている。
 また、年間の所定労働時間数については、従来千九百八十三時間二十分を原則としつつ、昭和五十五年度から昭和五十七年度までの毎年度の臨時の措置として休日を一日増加させ、千九百七十六時間十五分としていたのを、昭和五十八年五月以降は、原則の千九百八十三時間二十分にしたものであり、同年十月からの週休二日制の実施と引換えに、年間の所定労働時間数を増加させたことはないと聞いている。

五について

 始業時刻の約五分前から音楽放送による体操を実施しているが、不参加者に対して不利益処分を行つていないこと等から自由参加のものであると承知している。

六について

 一般に、労働時間とは、使用者の指揮監督下にある時間をいい、使用者の明示の指揮がなくても黙示の指揮の下に行われている限り、労働時間に該当する。
 会社の休憩時間内の準備作業等については、所轄の労働基準監督署において、労働時間の管理について改善するよう、会社に対し指導を行つたところである。

七について

 団体交渉実施の時間帯に関する最近の実情について、政府は、統計的把握を行つていない。
 また、団体交渉の方法等については、本来、労使当事者が自主的に決定すべき事柄であり、政府としてとかくの見解を申し述べる立場にはないが、労使双方の話合いの中から円滑なルール作りが行われるよう期待している。

八について

1 労働組合が当事者として、労働委員会の調査、審問等の手続に参加するに際し、その組合員を何名出席させるかについては、使用者との関係においては当該労働組合が自主的に決定するものであることは当然のことと考えるが、一般に労働者は就業時間内は使用者の指揮監督の下に労働に従事すべき義務を負うものであるから、委員会手続への参加が就業時間内に行われる場合には、労働組合が一方的に決定し得るものではないと考えている。
2 分会は、会社に対し、昭和六十年五月七日、組合用務承認願を提出し、組合員四人を同月八日香川地労委に出頭させるため、就業時間内の組合用務として承認するよう求めた。これに対し、会社は、三人以内であれば承認する旨等を回答したが、同月八日、組合員四人は、会社の承認を得ないまま香川地労委に審問前の調査のため出頭した。会社は、同月九日付けで「無許可の職場離脱について(警告・通告)」と題する文書を分会に送付するとともに、当該組合員四人に対して皆勤手当を就業規則の規定に基づき支給しなかつたと聞いている。
 また、同年六月から同年十二月まで六回、分会は、香川地労委へその組合員を出頭させるため会社に対して組合用務承認願を提出したが、会社は、その承認願の受理を拒否し、同年七月二十三日以降当該承認を得ないで就労しなかつた組合員に対して、その日の職場復帰を拒否したと聞いている。
 いずれにしても、この問題は、労使間において自主的に解決すべきものと考えている。

九について

 昭和六十年九月に行われた就業規則の変更については、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合である全国造船重機械労働組合連合会四国ドック労働組合の意見を聴取の上、実施されたと承知している。

十について

 分会所属組合員である会社の従業員が、昭和六十年九月二十日会社を定年退職した際、会社は、分会との間で昭和六十年の賃金改定についての合意がなされていないため、昭和五十九年十二月七日に会社と分会が締結した労働協約に基づく賃金で計算を行つた上、昭和六十年九月二十一日に同人に退職金を支給し、同人の離職証明書についても当該賃金に基づいて記載したと聞いている。
 なお、会社は、分会との間で昭和六十年の賃金改定についての合意がなされれば、遅滞なく、同人に対しその差額を追加支給する予定であると聞いている。

十一について

 会社は、昭和五十九年十二月七日に分会との間で締結した複数の労働協約について、昭和六十年十月四日及び同年十一月六日、分会に対し、更新を行わない旨通告し、これらの労働協約において定められた組合事務所の貸与等の便宜供与に係る条項は、すべて同年十二月六日をもつて失効したと聞いている。
 なお、会社は、会社内に併存する他の労働組合である全国造船重機械労働組合連合会四国ドック労働組合に対しては、会社と同組合とが締結した労働協約に基づき、現在も、組合事務所の貸与等の便宜供与を与えていると聞いている。

十二について

 会社は、昭和六十年一月二十五日に分会の役員五人が行つた行為が会社の就業規則に定める懲戒事由に該当するとして、当該五人を同年四月一日から同月五日までの間出勤停止処分にしたと聞いている。

十三について

 現行の不当労働行為制度を導入した昭和二十四年の労働組合法の改正は、それまでの制度においては不当労働行為について労働委員会は使用者の処罰を請求し得ても、例えば解雇そのものに対する救済については、被解雇者自身が民事訴訟をもつて解雇無効等の裁判を求めなければならず、金銭的時間的余裕をもたない労働者にとつて救済に欠けるところがあつたことから、労働委員会の原状回復命令等労働者及び労働組合の権利の回復のための迅速な処分手続を定めることにより、不当労働行為の防止及び是正のための有効適切な措置を講ずることとしたものである。政府としては、現行の不当労働行為制度が、その趣旨に沿つた機能を十分果たしてきていると考えているが、今後とも不当労働行為制度が一層円滑に機能するよう配意してまいりたい。

十四について

 政府は、従来から関係機関を通じ、労使に対して必要な助言等を行つてきたところであるが、今後とも必要に応じ労使の話合いを促進する措置を講ずる等労使関係の安定のために努力してまいりたい。